Interview

ニッポンの洋楽の立役者たち ラジオDJ 山本さゆりインタビュー ②

ニッポンの洋楽の立役者たち ラジオDJ 山本さゆりインタビュー ②

曲の背景に時代が見えたり、何かを伝えようとする
歌詞のすばらしい魅力を伝えていきたい

70年代から日本の洋楽を牽引したビリー・ジョエルには取材されてましたか?

来日した時に。でも、I don’t care aboutNew YorkっていうTシャツをわざと着て行ったら、すごい嫌な顔されて、失敗したなぁ〜って。会った途端に、「I Care」とか言われて。「ごめん、これはそういう意味じゃないの、私はニューヨークに住んでいたし大好きなんです」って言い訳したんだけど、気分悪くさせて話もかみ合わなくて。センシティヴで真面目な人なんだなぁと思いました。逆に話が合ったのはシンディ・ローパー。彼女は来日した時にレコード会社の会議室にスタッフを集めて、自分はこうしたいとディレクションしたそう。「ハイスクールはダンステリア」という邦題を怒ったって聞いてます。私はすごくいい邦題だと思うんだけどねぇ。おぼえているのは、彼女が「it がある人がすごい」と話していたこと。今、日本でも「持ってる人」とかいうじゃない? それよね。

シカゴの「素直になれなくて」の邦題はチャッピーさんが付けたんですか?

ああ、それね(笑)。当時のワーナーの担当ディレクターさんがシンガー・ソングライター系も担当していて、その対訳の原稿を持って行った時に「ハード・トゥ・セイ・アイム・ソーリーっていうんだけど、このままじゃ全然わからないんだよね」って言うから、「ハード・トゥ・セイ・アイム・ソーリーって、ごめんねっていうのが難しいってことだから、素直になれなくて、でいいんじゃない?」って言って、そのまま決まりました。ほかにもイーグルスの「言い出せなくて」も私が付けたタイトルです。〜〜なくてシリーズね(笑)。この頃は歌詞の対訳をたくさんやらせていただいていて、トム・ウェイツの『異国の出来事』とかスザンヌ・ヴェガの『孤独』もやったけど、難しくてスザンヌには電話して尋ねたこともある。キャロル・ベイヤー・セイガーの『トゥー』も私が翻訳して、「ほほえみをもう一度」とか「恋をしましょう」といった邦題も付けた。でも対訳は1曲千円! ずっと変わらなかった。簡単な曲ならまだしも、時間のかかる曲も千円だからね(笑)。

シカゴ「素直になれなくて」

シカゴ
「素直になれなくて」
’82年発表

歌詞を伝えることは大切ですよね。

今も自分の番組「ミュージック・パーク」(ラジオ日本)では、「ア・ソング・フォー・ユー」というコーナーで歌詞を対訳して伝えています。これまで100曲以上取り上げ、イーグルスの「ならず者」やジョン・クーガーの「スケアクロウ」とか、曲の背景に時代が見えたり、何かを伝えようとするものを取り上げてる。作詞家のダイアン・ウォーレンの作品もいいわよね。それとルパート・ホルムズの詞も大好き。「ヒム」とか「エスケイプ」とか。そうそう、ドン・マクリーンの「ヴィンセント」も! すごい名曲よ。

80年代というと思い出すのは?

’83年からFM 東京(現・TOKYO FM)で「アメリカ音楽地図」という番組を土曜日朝9時に始めました。三菱自動車のミラージュがスポンサーで付いてて、年間の予算が2億円! 年に1回カレッジフットボールの「ミラージュ・ボール」という大会があって、そのための番組だった。3カ月に1度、3〜4週間はアメリカに行って翌年の対戦校、その土地の文化、映画、街の周辺を取材してね。カール・ルイスが’84年のロサンゼルス・オリンピックの少し前、ヒューストン大学の学生さんだった時、大学で練習してるところに取材に行ったの。走る姿を見て、うわっ、サラブレッドの腿みたい! と思った。彼は音楽ジャーナリズムを専攻していて、インタビューで「あなたの好きな曲をラジオDJ 風に紹介してよ」と言ったら、ドナ・サマーの「情熱物語」をかっこ良く紹介してくれたのを覚えてます。ニューオーリンズではミシシッピ川を行き来する蒸気船の音を録ったり。ヒップホップが成長してきた時代だったから、ニューヨークで今は亡きキース・へリングに会って、ヒップホップとは何ぞや? というのもやった。私自身はヒップホップには興味を抱けないままなんだけどね。番組はある意味、2億円をフルに使った文化事業。贅沢で、聴いた人も楽しかったはず。

それ、再放送してほしいですね。

聴いてみたい反面、何言ってんだ? と冷や汗もんだと思うので、怖い(笑)。その後もいろいろな番組をやったけど、日本の文化なのか、「結婚します」と言ったら、それがイコール引退宣言に思われ、番組も雑誌の連載も寿退社みたいに扱われて次々に終わってしまったの。私もそれで「まぁ、いいか」なんて思ってしまったけど、今になるとどっちが良かったんだろう? と思うこともある。今はすばらしい歌の歌詞を伝える5分ぐらいの帯番組がラジオで毎日できたらなぁと思います。やはり歌詞を伝えることは大切だからね。

スザンヌ・ヴェガ「孤独(ひとり」

スザンヌ・ヴェガ
「孤独(ひとり」
’87年発表

キャロル・ベイヤー・セイガー「素直になれなくて」

キャロル・ベイヤー・セイガー
「TOO」
’78年発表

インタビュー・文 / 和田靜香

山本さゆり(やまもと・さゆり)

東京都生まれ。60年代後半から70年代前半にかけてニューヨークに在住。 多感な10代をベトナム反戦、ヒッピー文化真っ盛りのアメリカで過ごす。ラジオDJとして活動する一方で、洋楽の解説や歌詞対訳、翻訳、司会、通訳など多岐にわたって活躍している。