映画『光』特集  vol. 2

Interview

水崎綾女が河瀨直美監督作品『光』で挑戦した“役を積む”、“役として生きる”ということ

水崎綾女が河瀨直美監督作品『光』で挑戦した“役を積む”、“役として生きる”ということ

第70回カンヌ国際映画祭コンペティション部門への出品が正式決定するなど、公開前から大きな注目を集めている、河瀨直美監督の最新作『光』で、映画の音声ガイドの仕事をする女性・美佐子を演じているのが水崎綾女。 永瀬正敏演じる弱視のカメラマン・雅哉と出逢い、彼の無愛想な態度に苛立ちながらも心惹かれ、成長しようともがく美佐子を、体当たりで演じ、女優としてピュアな新境地を切り開いている。 これまで主にメジャーのエンタテイメント作品に出演してきた彼女にとって、初の河瀨作品はどのような体験をもたらしたのだろうーー?

取材・文 / 井口啓子 撮影 / 森崎純子
スタイリング / 有本祐輔 ヘアメイク / 宮川智子


撮影前から“役を積む”日々。初めての挑戦でした。

まず、水崎さんが河瀨監督の作品に出られるということ自体、意外でもあったんですが…。

私もそうです。今回はオーディションで決まりました。最初は何故決まったのかが不思議でした。
河瀨さんのことはカンヌ国際映画祭で常連の方、素晴らしい監督とは知っていたんですが、作品や現場について深く知っていたわけではなくて。河瀨さんの映画って芸術的というか、芯をえぐるようなものが多いじゃないですか? でも私自身はハリウッド映画を観ることが多いので、自分とは縁がない世界だと思っていました。

映画「光」より ©2017 “RADIANCE” FILM PARTNERS/KINOSHITA、COMME DES CINEMAS、KUMIE

じゃあ、非常にフラットな状態で河瀨作品にのぞまれたわけですね。

そうですね。出演が決まってからも、そこまでプレッシャーを感じることもなく。それが撮影に入る前に、河瀨監督の『あん』の15分間の映像に音声ガイドをつけてというミッションを出されて。音声ガイドがどういうものかもよくわからないまま、締切まで二日間の宿題が出てきたので、戸惑いましたね…。で、なんとかやって出したら、もうコテンパンに言われて、私も音声ガイドなんてやったこともないし、ダメなのはわかってるんだけど、やっぱり悔しくて悔しくて…。自分のボキャブラリーの少なさに落ち込みながらも、クランクアップの三日前まで毎日音声ガイドを練ってました。

それはすごい。演技プランとかいう前に、いきなり美佐子としての日々がスタートしていたんですね。今回は水崎さんもクランクイン前から奈良の美佐子の部屋で生活をされたと聞きましたが、そういった河瀨組の現場は実際に体験されてみていかがでしたか?

役者としては本当にありがたい現場でした。美佐子が住む部屋に本当に住ませてもらって、音声ガイドもやらせていただいて、しかも順撮り(映画の中の時間軸に沿って撮影を進めてゆく)で…。普通なら作中に登場するものって、美術さんが用意して、ちょっとやってるフリしてください、みたいなことで撮るわけで。ト書きとかも「ここの右の位置に立って歩いてきて、ここで立ち止まって、こっちを見て○○する」みたいに、あらかじめ決められた中でやる、そういうやり方で10年以上やってきてたので、台本に書かれていないことをどれだけ自分のものとして表現できるかという、初めての挑戦でした。

それは、たんに台本通りに演じただけではダメだという?

まず、最初の一週間はまったく台本ナシで、次の一週間からは一日にやるぶんだけもらえるようになりました。だから私、自分が出てないシーンのことはまったく知らないままだったんですよ。完成した作品を見て初めて、あ、雅哉さん(永瀬正敏)こんなことやってたんだ!とか、同じ事務所の大西(信満)さん出てたんだ!とか知った感じで。

それはすごい。映画とか演技に対する根本的な考え方から変えなきゃいけませんね。

そうです。監督に「美佐子として生きなさい」と言われても、それがなかなか体現できなくて、「役として生きるって何だろう?」って考えながらも前に進むしかなくて。

河瀨監督は水崎さんの起用を挑戦だとおっしゃっていて、未知数の化学変化を作品にもたらしてくれることを期待されていたのではないでしょうか。

私は私なりに美佐子として生きる!それだけは誰にも譲らないぞって。監督には、時には0点を出されても、100点を取る気で、とにかく必死でした。

映画「光」より ©2017 “RADIANCE” FILM PARTNERS/KINOSHITA、COMME DES CINEMAS、KUMIE

忘れられない言葉をたくさんいただけた

しかし、台本がなければ美佐子と雅哉がどうなっていくかもわからない、美佐子の感情で動くより他ないですね。フィクションなんだけどある意味、現実そのものというか…。

だから極端にいえば、役づくりしなくていい環境なんですよ。そのまんま生きることが可能な現場って、時間もお金もかかるし、スタッフさんの苦労もあるし、そこに出演させてもらえることって冷静に考えたら、今後の人生でめったに経験できることじゃないなって。
永瀬さんはもともと河瀨監督に近い方式でやってきた役者さんだと思うんですけど、私のこれまでの芝居のアプローチは、泣くシーンの直前まで共演の方と笑ってるようなタイプ。カメラが廻ってない時のコミュニケーションが大事だと考えていたんです。でも、河瀨さんはカメラが廻ってない時もずっと役のままでいろというタイプで、もうすべてが初体験でした。

すべては役者さんが役を積むためとはいえ、かなりプレッシャーはあったのでは。

辛いこともあったし、孤独な役だったけど、幸せでしたよ。私はこれまでセクシーな役とか、アクションで見せるとか、キャラクター的なものが付いてるお話が多くて。それはそれで好きだし、自分の武器だと思ってるんですけど、自分では特にこっち路線って決めてなくても、似たようなオファーばかり頂くような現状もあって。そういう中で私のことをフラットに見て、こういう繊細な芝居をできる機会を与えてくださった監督にはすごく感謝してます。
あと今回、美佐子も私自身もプレッシャーで辛くなっていたときに、藤竜也さんが「大変だね。でも君はちゃんと芯があるから大丈夫だよ。いろいろ考えて、全部忘れちゃえばいいんだよ。」って声を掛けてくださって。すごくラクになったし、今でもふとした時にその言葉が蘇る。本当にすごい方に、忘れられない言葉をたくさんいただけた現場でした。

じゃあ『光』は女優として大きな転機になった?

はい。自分にとってはすごく大きくて、『光』の後に入った現場で「よーいスタート!」があることにびっくりしちゃったり(河瀨作品の現場は「よーいスタート」や「カット」が掛からない)。あ、普通はこうだったって(笑)、しばらくは美佐子が抜けなかったです。
決して派手な映画ではないと思うんですけど、じんわりと心の底に響く作品ですし、ご覧になった方がそれぞれの中で、自分にとっての「光」を見つけてくれたら嬉しいですね。

映画「光」より ©2017 “RADIANCE” FILM PARTNERS/KINOSHITA、COMME DES CINEMAS、KUMIE

水崎綾女衣装:リング・ピアス 共にGICLAT/FINAL WORKS(0466-86-5539)

水崎綾女

2004年にデビュー以来、『俺たちに明日はないッス』(08)、『少年メリケンサック』(09)や『マイ・バック・ページ』(11)など、 映画や舞台(「鴎外の怪談」ヒロイン)への出演も多く、幅広く活躍している。3,000人のオーディションの中から映画『ユダ』の主演に抜擢。この作品で、人生初のヌードと大胆な濡れ場を披露し、女優としての評価を高めた。アクション演技に定評があり、近年では、『赤×ピンク』(14)や、樋口真嗣監督『進撃の巨人』(15)のオリジナルキャラクターのヒアナ役、『HK/変態仮面 アブノーマル・クライシス』、『彼岸島 デラックス』(16)といった大作への出演が相次ぐ。『光』では、成長しようともがくヒロインを演じ新境地をみせている。

映画『光』

5月27日(土)、新宿バルト9、丸の内TOEIほか全国公開

視⼒を失いゆくカメラマンと出逢い、美佐⼦の中の何かが変わりはじめる――
⼈生に迷いながら、単調な⽇々を送っていた美佐⼦(水崎綾女)は、とある仕事をきっかけに、弱視の天才カメラマン・雅哉(永瀬正敏)と出逢う。美佐⼦は雅哉の無愛想な態度に苛⽴ちながらも、彼が撮影した⼣日の写真に⼼を突き動かされ、いつかこの場所に連れて行って欲しいと願うようになる。命よりも大事なカメラを前にしながら、次第に視力を奪われてゆく雅哉。彼と過ごすうちに、美佐⼦の中の何かが変わり始める――。

監督・脚本:河瀨直美
出演:永瀬正敏 水崎綾女

神野三鈴 小市慢太郎 早織 大塚千弘/大西信満 白川和子/藤竜也
製作:木下グループ、COMME DES CINEMAS、組画
製作統括:木下直哉 プロデューサー:澤田正道、武部由実子
撮影:百々新 照明:太田康裕 録音:Roman Dymny
美術:塩川節子 編集:Tina Baz サウンドデザイン:Olivier Goinard
衣装:渡部祥子 ヘアメイク:南辻光宏 ラインプロデューサー:齋藤寛朗
制作担当:越智喜明 助監督:近藤有希
製作:『光』製作委員会 制作プロダクション:組画 制作協力:カズモ
配給:キノフィルムズ/木下グループ 宣伝協力:フリーストーン
©2017 “RADIANCE” FILM PARTNERS/KINOSHITA、COMME DES CINEMAS、KUMIE
オフィシャルサイトhttp://hikari-movie.com

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