まずはデビューシングル「Boogie Back」を聴いてみてほしい。TVアニメ「ドラゴンボール超」4〜6月度エンディングテーマとしてオンエアされているこの曲は、エレクトロ、R&B、J−POPといった多彩なファクターがバランスよく反映されたアッパー・ポップ・チューン。その中心にあるのはもちろん、彼女のボーカルだ。ドラマティックに展開していくメロディラインを正確に捉えながら、「君を追いかけて 胸の鼓動速くなる/刹那に恋した 夢をもう一度」という恋愛の切ない距離感をリアルに描き出す歌からは、シンガーとしての無限のポテンシャルが強く感じられる。自分自身の感情をそのまま吐露するのではなく、楽曲自体としっかり一体化しながら、音楽のなかにある普遍的な魅力を引き出す。彼女の歌には、そんなパワーが確かに宿っていると思う。
井上実優。1997年生まれ、福岡出身の女性シンガー。彼女のシンガーとしてのキャリアが始まったのは、小学校6年生のとき。“唐津ジュニア音楽祭”に出演したことをきっかけに音楽塾ヴォイス(YUI、家入レオなどを輩出した音楽学校)を主宰する西尾芳彦氏に出会い、本格的なレッスンをスタートさせた。中学生の頃からボーカル、作詞・作曲などの経験を重ね、高校入学を機に本格的な曲作りを開始。昨年春に上京し、7月にはデビュー前にも関わらず、日本武道館で行われたイベント「スカパー! Presents 『FULL CHORUS〜音楽は、フルコーラス〜』in 日本武道館」に出演。初めてのステージで壮大なバラード「I will be your love」を見事に歌い上げたことでも話題を集めた。そしてこの春、ついにメジャーデビュー。1stシングル「Boogie Back」は音楽ファン、アニメファン、音楽メディアなど幅広いフィールドで既に大きな注目を集めている。
彼女の最大の魅力は、力強いパワーと的確なピッチを併せ持つボーカルだろう。その場で生まれるニュアンスに流されるのではなく、緻密に練られたメロディラインを正確に奏でることで、楽曲自体の魅力をしっかりと引き出してるのだ。オフィシャルインタビューで彼女は「中途半端な状態で声に出してはダメだと思っています」「自分のものを人に聴いて頂くわけだから、そういう大事なことに関しては」その真摯な姿勢こそが、シンガー・井上実優の本質なのだと思う。“自分らしさ”という曖昧なものに頼るのではなく、ボーカルの技術、表現力を徹底して鍛えることで、音楽そのもののクオリティを上げたい——その真っ当な姿勢は、この先も彼女に多くのものを与えることになるはずだ。
ビジュアル的な表現に優れているのも、彼女の大きな武器だ。渋谷の街中でストリート・シューティングされた「Boogie Back」のミュージックビデオは、彼女のボーカル・シーンと人気モデル“aRek”“アユミ ターンブル”が演じる恋愛ドラマが融合。男女の微妙な距離感をテーマにした楽曲の魅力をリアルに伝えると同時に、現在19歳の彼女の瑞々しい存在感、複雑な葛藤を抱えた内面を描き出すことに成功している(AAA、MISIAなどのMVを手がけてきた中根さや香の手腕にも注目してほしい)。ライブではダンス・パフォーマンスを取り入れている井上。歌唱力だけではなく、“魅せる”ことにも積極的な彼女のスタイルは、映像と音楽の関係がさらに密接になっている現在の潮流をしっかりと捉えていると思う。
デビューシングルのカップリング曲「Slave」は、彼女がフェイバリットに挙げているクリスティーナ・アギレラ、アリアナ・グランデにも通じるR&B系ダンスナンバー。普段からR&B、ファンク、ロックなど幅広い音楽に親しみ、最近はアレサ・フランクリンなどのルーツミュージック、ブルーノ・マーズに代表されるネオ・ソウルに興味があるという彼女の音楽性は、ここから加速度的に広がっていくことになりそうだ。また、「Boogie Back」「Slave」では作詞にも参加。ソングライターとしての活動にも大いに期待したい。
幼少の頃は引っ込み思案で目立たない存在だったという井上実優。音楽と出会い、歌うことによって自らを変え、シンガーとしての本格的なスタートを切った彼女は、ストイックな姿勢に裏打ちされた楽曲によって多くのリスナーを獲得することになるはず。気軽に聴けるBGMではなく——“この声は、世界を黙らす”というキャッチフレーズ通り——聴く者を強く惹き付けることが出来る、圧倒的な才能を持ったシンガーだと思う。
文 / 森朋之
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