Interview

「賞は監督が獲らせてくれた」──竹原ピストル、俳優として対峙した本木雅弘の凄さを語る〈芝居者篇〉

「賞は監督が獲らせてくれた」──竹原ピストル、俳優として対峙した本木雅弘の凄さを語る〈芝居者篇〉

これまでお世話になった人たちに大きく手を振り、新しいステージへと旅立つ決意を込めたニュー・アルバム『PEACE OUT』をリリースした竹原ピストル。同作にはドラマ『バイプレイヤーズ〜もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら〜』のエンディングテーマである「Forever Young」が収録されている。MVはドラマのメイン監督と脚本を務める松居大悟がディレクションを担当し、竹原がキャストである遠藤憲一、大杉漣、田口トモロヲ、寺島進、松重豊、光石研の前で演奏する場面が収められている。日本アカデミー賞優秀助演男優賞を受賞した映画『永い言い訳』をはじめ、役者としての活動の場を広げている彼は、ベテラン役者たちの前で歌うことで何を感じたのか……。「Forever Young」の話を入り口に、彼の役者業に対する想いを探る。

アルバム『PEACE OUT』インタビューはこちら

取材・文 / 永堀アツオ 撮影 / 関信行


決定的な違いは、歌は揺るぎなく自信があるけど、芝居は「俺で大丈夫なの?」みたいな気持ちがある

「Forever Young」はドラマのエンディングテーマとして書き下ろしたんですか?

厳密には、お話をいただく直前に出来た新曲でしたね。去年の12月に40歳になったんですけど、「40歳かぁ」ってボケーッと思ったときに、ポコッと浮かんだ歌ですね。

竹原さんは自分の年齢についてどう捉えてますか?

30を迎えたときよりも、20歳を迎えたときよりも、平均年齢は延びてるとはいえ、「人生半分きたか」「40年も生きたかぁ」みたいなのはありましたね。それと、今5歳の子供が見る見る成長していくなとまじまじと思って、さすがに俺も老けてきたなぁとか。妙にそういうことを考えたりしました。ここ最近、世話になってたマスターだったりママさんで亡くなられた方も結構いて。そういう……「おい、死ぬなよ!」みたいな切なさもない交ぜになって、「40歳かぁ」っていう感慨があったかもしれないですね。誰とどう出会ってどういう関係性になろうとも、絶対に死に別れるっていう、生き物として超当たり前のことと改めて直面して、「カミさん老けたな」「子供も成長したな」じゃないですけど、この2人ともいつか死に別れるのかと思ったら、なんか、わけのわからない涙が出るみたいな……すごく切なくなって。そういう当たり前のことは大事にしたいなって思うんです。お客さんだってそうじゃないですか。可能性の問題として、もう二度と会わないお客さんというのもひとりは絶対いるんですよ。そう思うと、手抜きしたことはないけど、やっぱり人生かけて一個一個ステージをやらなきゃダメだと。そういう考え方もするようになったかなって思います。いろんなものが作用して、ウルっと泣けてきちゃうような心境にちょっと陥ったことがありましたね。

竹原ピストル

そんな心境の中で「あの頃の君にあって 今の君にないものなんてないさ」っていうフレーズはどんな想いから出てきました?

ひとつパンチラインを出して、そこから膨らませていくっていう書き方が僕は多いんですけど、この曲に関しては、“若くあろうとするな”っていうことだったんですよ。“あの頃の俺のように”っていう過去のデータに縛られちゃうと無理がきて、どんどん精神的に老け込んでいっちゃうんじゃないかということを思って。“その季節の若葉を芽吹かせていけばいいじゃない?”ってことですかね。幹自体を新しくしようとしたって無理で、この幹のまま新しい季節に新しい花を咲かせようよと。そういうふうに生きていこうって自分でも思ったりするし、おこがましいけど、お客さんにもそういうふうに思ってもらえたら、そこに豊かな日々があるんじゃないかなって。

ドラマのエンディング映像やMVではキャストのみなさんと共演してます。不惑と言われる年齢を迎えたばかりの竹原さんが、還暦を超えた役者さんたちの目の前でギター一本で歌うことでどんなことを感じました?

まず、逃げて帰りたかったですよ(笑)。寺島進さんはかつてプロモーションビデオに出てくださったことがあったり、交流もあったりして。そんな寺島さんは言いたい放題なもんだから(笑)、「おめえのプロモーションのために居残りさせられてんだよぉ~」って言われて「ほんとすいません!」って頭を下げたり(笑)。しかも、寺島さんがそうやって突っ込んでくるなか、ほかのみなさんが何もおっしゃらないのがまた怖くって(笑)。「これは初っ端の1テイクで決めなきゃ指詰めることんいなるー!」みたいな気持ちで臨みましたね。

あははははは。

緊張はしましたけど、やっぱりその道一筋でやってきた人たちのたたずまいって、同じ空間にいるだけで、すごく得るものがあるような気がするんです。「なるほど、これが名人のたたずまいか」って、ふと気を抜くと「本物だぁ」ってなっちゃうんですけど、目を凝らすと「同じ人間だ」とも感じるし、いろんなことを思わされるので、あの心境を経験できるって大事だなって思いましたね。もちろんこの現場だけでなく、去年はその道の一線級の人とお会いすることが多くて。一流の芸人さんだったり、映画でお会いしたみなさんだったりとか。そういう経験ができたことはすごく嬉しかったです。

竹原ピストル

この流れで、竹原さんの役者業についても伺いたいなと思うんですが。

急に口数少なくなると思いますけけど(笑)。

(笑)音楽と演技は、竹原さんの中では明確な区別がありますか?

どうだろうなぁ……あるところもあれば、ないところもあるような気がするんですけど……どっちも等しく理屈抜きで夢中になって取り組んでいることではある。そこに垣根はないんです。熱量の違いもないと思います。まったく同じ集中力と……集中力っていう概念もなくなるくらいでやってるつもりではあるんですけど、決定的な違いは、歌は揺るぎなく自信があるけど、芝居はあまりに後手後手であるっていう。そのアンバランスさはあって。つねに「俺で大丈夫なの?」みたいな気持ちがある。そこは大きく違いますよね。

「俺で大丈夫なの?」という不安がある?

僕が役者としてできることはあまりに限られてるので、まずは監督さんが求めていることが自分のできる範囲内のことなのかっていうのを慎重に確認して、そのうえで「いい」っておっしゃってくださるなら、自分も腹を括る、というスタンスなんです。

竹原ピストル

映画には、野狐禅時代の2006年から出演されてきましたけど、これまでを振り返って何か転機になった作品はありましたか?

松本人志監督の『さや侍』は“歌うたい”として呼んでいただいて、実際に歌を歌う役ということもあり、勝手知ったる緊張感の中でやれたところがあったので、この作品はさておくとすると……熊切和嘉監督が最初に「ピストル、映画興味ある?」ってきっかけをくださったので、そこが一番の転機と言えば転機ですね。熊切監督は一緒に釣りに行ったりする仲間で、一緒に酒も呑むし、週3〜4日くらいのペースで会ったりしていたこともあって。僕が役者としてできる範囲を、僕自身よりも把握してくださってる。熊切監督が「今度こういう映画撮るから、この役ピストルやってよ」って言うと、「監督が言ってるんだから、その役、俺できるな」っていう安心感があるんですよ。そういう意味で言うと、『永い言い訳』は、監督とまったくの初対面で、オーディションというのも初めてだったんで、転機とは違うんですけど、すごく新鮮な緊張感がありましたね。監督がどんな方かわからない、西川(美和)さんも僕のできる幅をまだ把握してないだろうという時期の緊張感はすごくて……新鮮と思えるほどの余裕はなかったんですけど(苦笑)。そうやって映画に出るっていうのは初めてでしたね。

その映画『永い言い訳』で、日本アカデミー賞最優秀助演男優賞やキネマ旬報ベスト・テン助演男優賞を受賞したときはどんな心境でした?

謙遜するわけでなく、賞をいただいても、それは監督が獲らせてくれたもの、なんなら、監督が獲った賞だくらいに思ってるんです。役者のお話をいただくときに「俺で大丈夫なのか?」っていうのが大前提としてあるので、『永い言い訳』のときも細かくなんでも監督に質問したんですよ。「このシーンはこうでいいですか?」「これはこういう意味でこのセリフを言ってるんですか?」とか。一挙手一投足を監督に確認してもらって。“役作り”という言葉がありますけど、そんなことは自分にとって相当高等な、レベルの高いお話で。やったこともないし、僕にとっての役作りは、監督がおっしゃってるとおりに動くっていうことなんです。だから、賞がもらえて嬉しい気持ちももちろんあるんですけど、「俺、やったぜ!」というよりは「すごいだろ、うちの監督!」みたいな喜び方ですかね。

役者として認められたみたいな気持ちには……。

ないです、ないです!(笑)。全然ないですよ!

竹原ピストル

(笑)主演の本木雅弘さんは竹原さんにとって、どんな存在でした?

本木さんはもう……こんなひと言で片付けたくないけど、本当にやさしくて。自分の歌を気に入って、評価してくださっていて。歌詞もすごくよく聴いてくださってるんですよ。歌詞を尊重してくれるということは、こちらの感覚を肯定していることにほかならないじゃないですか。それによる安心感がやっぱり大きかったですね。どんなに緊張していようが、どんなに不安になろうとも、同じ空間に本木さんがいるだけで、「大丈夫。俺ここにいていいんだ」っていう安心感があって。アカデミー賞の授賞式に出席するときも、借りてきた猫みたいになってたんですよ。でも、プレゼンターとして同じ会場に本木さんもいらっしゃるって聞いただけで、スポーンって緊張がなくなったんですよね。そういう存在でした。本当に、さんざんお世話になりましたね。

カメラの前で役者として対峙していたときは?

やっぱり一線級の世界的な役者の計り知れないスキルっていうのは、こんなにもすごいものなのかって感じましたね。頑張って立ち向かってないと素になっちゃうくらい、すさまじいものだったと思います。監督も、役者さんそれぞれでアプローチの仕方は違うんだっていうことをよくおっしゃってましたけど、僕に対してのリクエストやアドバイスの仕方と、本木さんと監督のやりとりはまったく別物で。情けない話ですけど、僕ではちょっと理解できないようなやりとりをするんですよ。「何について相談してたんだろう?」と不思議に思いながら「よーいスタート」ってなると、「なるほど! 今の話し合いによって微妙にあの芝居がこう変わったのか!」みたいな。間近で見るお芝居でもって何のやりとりをしていたかという答えが出る。こういうことができる人を“役者”と言うんであって、俺みたいなもんは足りてないって強く思いました、本当に。やっぱ全然違うなって。

そのスキルは身に付けたいと思います?

もちろんですよ! でも身に付けることはできないかもという計り知れなさはありましたけどね。僕、大学2年のときにボクシング部にいて、全日本選手権に出たんです。そこでオリンピック選手とかが普通に戦ってるんですけど、それを見たときの心境と似てますね。「ああいうストレートを打てるようになりたいか?」って聞かれたら、「そりゃなりたいよ!」って答えるけど、「無理だな」とも思うっていうか。だけど、同じ空間で、しかも間近に、世界チャンピオン級の技術、お芝居を見ることができた時間はデカイし、なんらかに絶対作用してくるはずだとは思ってます。

竹原ピストル

具体的にご自身の音楽に作用する部分はあると思います? 

そういう質問はこれまでにも何度かいただいていて、いただくたびに頑張って考えるんですけど、ないと思うんですよね……。もちろん絶対に何か作用してはいるんだろうけど、自覚してる範囲ではないというか。何らかが作用できるほど、柔軟性のあるものじゃないような気がするんです、僕にとってライブすることって。ライブになると、自分が監督で自分が演者じゃないですか。そうなってくると、ライブとはこういうものであって、ああしてこうするのが俺の理想のライブだ、みたいなものは、良くも悪くもあまりにも頑なで。そこに何かが作用する隙間はない。そのくらいのものなんじゃないかなって、最近思ったんです。だから自覚してる範囲では作用はない。でも絶対作用はしてるだろうという、ぼんやりした感じになっちゃいますね、答えとしては。

表現するという意味では、歌も演じることも近い部分があるという方もいますよね。

それは僕も同じだと思ってます。ただ、同じではあるけど、やっぱり自分が揺るぎない自信を持ってるかどうかだと思う。これだったらできる、これしかできねえみたいな。とあるひとつのものが突出してて、それ以外が欠落してるのかわからないけど、そういうものなんですね、俺にとって歌を歌うっていうことは。確固たるもの。何をどう頑張って考えても、何かが作用したとか、そういうことが浮かばない、そんな頑なさがあるもの。

では、演じることに楽しさは感じていますか?

もちろん楽しいですよ。例えば『永い言い訳』の中では、感情のままにワーって号泣したりとか、怒鳴り散らしたりするシーンがありましたけど、普段の自分はたぶん一度もそういうことをしたことがないんですよね。ムカついてワーって暴れるとか、そういった気質の人間ではないので。だけど、役をいただいて、変な言い方ですけど、台本にそう書いてあったら、そうしなきゃいけないじゃないですか。だからそこに至るまでの段取りや気持ちは考えてるけど、いざ「よーいドン!」で怒ったり泣いたりしたときに「あ、俺、怒ったらこうなって、泣くとこうなるんだ」って初めて自分を知るみたいな(笑)。そういう楽しさがあったし、やっぱり何が嬉しくて楽しかったかって、監督にOKをもらったときですよね。

『永い言い訳』で特に印象に残ってるシーンはあります?

僕の場合、どうしても、裏側込みでの印象になっちゃうんですけど、本木さんにお会いする前のイメージってスクリーンの中の遠くて大きい存在だったんですよ。共演させていただいて、本木さんにだったら何でも話せるような感じになったんですけど(笑)……物語の終盤、僕、〈陽一〉がトラックに息子を乗っけて本木さん演じる〈幸夫〉くんとお別れするときに、幸夫が手を振るシーンがあるんですね。そのカットの撮影のときは僕じゃなく、プロのドライバーさんにトラックを運転してもらっていて、そこに向かって本木さんが手を振ってるんですよ。僕は脇から見ていたんですけど、手を振ってからきびすを返してゆっくり歩いていく本木さんの姿を見たときに、「また本木さんがスクリーンの中の人になってしまう!」っていう寂しさでいっぱいになって、涙が溢れたんです。だから、あのシーンを観るたびに横から見ていた画を思い出しちゃうし、本木さんとの思い出も思い出しちゃうし、どうにもうるっときちゃうんですよね。質問の答えになってないですかね(笑)。

(笑)アルバムに収録されている「俺たちはまた旅に出た」のようですね。

そう、俺は俺の旅があるし、本木さんには本木さんの旅がある。わかってるけど、どうしてもさよならしたくなくて、なんでもいいから繋ぎ止める何かが欲しくて、クランクアップ以降、新曲のデモを作ったら誰よりも先に本木さんに送ってるんです(笑)。本木さんもいつもあったかいお返事をくださって。なんか嫌だったんですよね、いなくならないで欲しいというか、スクリーンの向こう側と僕が見てる景色との接点みたいなものを残しておきたくて(笑)。それこそ授賞式や打ち上げでお会いはしてるんですけどね。

じゃあ、本木さんが竹原ピストルの新曲を誰よりも先に聴いてるんですね。

この次のアルバムに入るであろう曲たちももう聴いてもらってます(笑)。

竹原ピストル

あはははは。早いですね!(笑)。映画『永い言い訳』で本木さんや西川監督と出会ったように、これからも新しい監督や俳優さんとの出会いを求めていきたいですか?

怖いですよね……うーん……ほかの監督さんの作品にも挑戦してみたいけど……迷惑かけるわけにはいかないしなぁとか思ってしまうわけで(苦笑)。確実にこれだったらお力になれると思うものに出ていくというのが基本だと思うんですよ。チャレンジ精神みたいなところで出ていって、しくじったらって思うと怖い部分もあるし……でも、やってみたい気持ちはヤマヤマなので、堂々巡りですよね(笑)。

役者業に対する意欲はある?

ありますよ。ちょっとずつ経験を積んで、自分ができる幅をちょっとでも広げて、かつてお世話になった監督さんたちに「ピストル、こんな芝居もできるようになったんだ」っていうところを見せたいなと思ってます。

その恩返しっていう精神が竹原さんのすべての活動の根底にある共通項なんですかね。

そうですね。うん、そうかもしれないですね。

竹原ピストル

1976年、千葉県生まれ。大学生だった1995年にボクシング部の主将を務め、全日本選手権に2度出場。1999年、野狐禅を結成、本格的に音楽活動を始め、2003年にメジャー・デビュー。2009年4月に解散後はソロ・アーティストとして活動。ミュージシャン活動と並行して、役者としての評価も高く、これまでに熊切和嘉監督作品『青春☆金属バット』(2006年/主演)、『フリージア』 (2006年)、『海炭市叙景』(2010年)、松本人志監督作品『さや侍』(2011年)へ出演しているほか、 2016年10 月に公開された西川美和監督作品『永い言い訳』では、第 90 回キネマ旬報ベストテン助演男優賞や第 40 回日本アカデミー賞優秀助演男優賞に選出されるなど、高い評価を受けている。4月5日にアルバム『PEACE OUT』をリリース後、5月7日より〈竹原ピストル 全国弾き語りツアー“PEACE OUT”〉を行う。

オフィシャルサイト

映画『永い言い訳』

映画『永い言い訳』

【原作・脚本・監督】西川美和
【出演】本木雅弘 竹原ピストル 藤田健心 白鳥玉季 堀内敬子 池松壮亮 黒木華 山田真歩 深津絵里
©2016「永い言い訳」製作委員会

オフィシャルサイト

原作本『永い言い訳』

『永い言い訳』 書影
永い言い訳

西川美和 (著)
文藝春秋


Blu-ray&DVD 映画『永い言い訳』
2017年4月21日発売
Blu-ray BCXJ-1054 ¥ 5,200(税別)
DVD BCBJ-4726 ¥3,800円(税別)
【発売・販売元】バンダイビジュアル