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佐藤流司&矢部昌暉&植田圭輔らが“くだらない時代”にドロップキック。朗読劇「私立探偵 濱マイク」-我が人生最悪の時- 上演中

佐藤流司&矢部昌暉&植田圭輔らが“くだらない時代”にドロップキック。朗読劇「私立探偵 濱マイク」-我が人生最悪の時- 上演中

1990年代に人気を博した林 海象監督のハードボイルド映画『私立探偵 濱マイク』シリーズ。その第1弾「我が人生最悪の時 THE MOST TERRIBLE TIME IN MY LIFE」を下敷きにした、朗読劇「私立探偵 濱マイク」-我が人生最悪の時- が、2月17日(水)にヒューリックホール東京にて幕を開けた。
脚本・演出は「方南ぐみ」の主宰を務め、数多くの舞台作品を手がける樫田正剛。佐藤流司が、主演の私立探偵 濱マイクを演じる。また、白タク運転手兼情報屋の星野 光 役にはWキャストで矢部昌暉[DISH//]と志村玲於[SUPER★DRAGON]、濱マイクの妹の茜 役を太田奈緒、ストーリーテラー兼刑事役に秋山真太郎[劇団EXILE]、そして植田圭輔が本作のキーマンとなるヤン 役と、人気俳優陣が結集した。
初日の前に、公開ゲネプロと舞台挨拶が行われたのでレポートしよう。

※公開ゲネプロの星野 光 役は矢部昌暉[DISH//]。

取材・文・撮影(舞台挨拶)/ 竹下力 写真(舞台)/ 曳野若菜


本作は現代人の荒んだ時代を渡り歩くためのバイブル

朗読劇「私立探偵 濱マイク」-我が人生最悪の時- が教えてくれるのは、とてもシンプルなことだった。現実はつねに混乱や矛盾を孕んでいる。それらをどんな方法で排除しようとしたとして、どこかで待ち伏せされ、悪夢となって襲いかかられる。我々は、そんな悪夢をねじ伏せながら現実に立ち向かわないといけない、ということ。困難だらけの時代をいかにサバイブしていくか、そんな問いかけがなされる作品だ。

朗読劇「私立探偵 濱マイク」-我が人生最悪の時- WHAT's IN? tokyoレポート

ストーリーテラーの秋山真太郎が登場。横浜の下町「黄金町」の歴史を淡々と語り始める。
かつて平和だったこの街は、関東大震災と第二次世界大戦時の空襲で様相は変わり、野放図な人間がのさばるようになってしまった。そして1990年代の黄金町も、マフィアやヤクザ、ドラッグの売人などが入り乱れ、誰もコントロールできない無法地帯の暗黒街と化していた。

黄金町にある映画館「横浜日劇」の2階に事務所を構えて私立探偵をしているのは、濱マイク。彼は鑑別所あがりで“狂犬マイク”の異名を持つが、情に厚く正義感が強い人物だ。マイクと同じ鑑別所にいた白タク(個人タクシー)の運転手で情報屋の星野 光(矢部昌暉)とふたり、金欠な故にいつも金の話をしてばかりいる。

マイクの妹で高校生の茜(太田奈緒)は、行き当たりばったりの仕事をしている兄のことが心配で仕方がなく、何かと口を出してくる。聞く耳を持たないマイクだが、この兄想いの妹だけは幸せにしたいと思っている。そんな気持ちだけでヤクザな探偵稼業を続けているようなもの。

朗読劇「私立探偵 濱マイク」-我が人生最悪の時- WHAT's IN? tokyoレポート

ある夜、マイクたちは街でチンピラたちの喧嘩に巻き込まれる。そこで出会ったのが、台湾人の楊(ヤン)海平(植田圭輔)だった。助けた彼に事情を聞くと、日本で消息を絶った兄を探しているという。楊と気が合ったマイクは、人探しを始めることになる。

調査を進めていくと、外国のマフィアと日本のヤクザの影が見え隠れし始める。中山刑事(秋山真太郎)も何かといちゃもんをつけてはこの事件を深追いしないよう圧力をかけてくる。事の重大さに気づき始めたマイクだが、すべては友達になった楊のため。星野と共に真相に迫りながら様々な事件に巻き込まれていく。
そして、マイクたちには悲しい真実が待ち受けていた──。

朗読劇「私立探偵 濱マイク」-我が人生最悪の時- WHAT's IN? tokyoレポート

脚本・演出の樫田正剛は、声が主体となった朗読劇でありながら、原作の旨味を抽出しつつ舞台上に見事に立体化させた。樫田はどんな作品だろうと、シンプルで骨太な作劇が強みだと思うけれど、本作でも彼の手腕が発揮されて、朗読劇の魅力を感じさせるものとなっている。

今作を観ていると朗読劇の魅力は、脚本を手にした俳優の織りなす語りで、ノワールな過去の世界を現世に甦らせることにあるのではないかと思った。結末が脚本に書かれている前提を提示する朗読劇は必然的にノスタルジックで、センチメンタルで、“起こったこと、あるいは起きてしまった過去”をよりリアルに現実のものとして認識させる。過去に置き去りになったモノクロームな“あらかじめ決められてしまった物語”を掬い上げて検証し直すことで、人間の本質が丁寧に浮かび上がってくる。その仕掛けに朗読劇の輝きがあると感じさせてくれた。

なかでも、本作はハードボイルドな“推理モノ”らしく、様々な作品へのオマージュとパロディ、箴言風な言葉と提喩的なシーンのリフレイン、いくつもの伏線が散りばめられて回収されていく。そして事件を見届けたものだけが知ってしまう悲しみに溢れている。観客は、いつか悲しみが立ちはだかるとわかっているからこそ、その向こうに待ち受ける何かに期待してしまう。新しい自分を発見したくなるスウィートな誘惑がある。それこそがハードボイルドの矜持だし、朗読劇と相性が良いのだろう。

朗読劇「私立探偵 濱マイク」-我が人生最悪の時- WHAT's IN? tokyoレポート

また、どの俳優にも見どころがあるところが面白い。とにかく五者五様の生き様が舞台で躍動していた。
ストーリーテラーの秋山真太郎[劇団EXILE]は、語り部として、物語の進行役、つまり司会という重責を務めながら、感情をできるだけ抑えた語り口の台詞回しが素晴らしかった。それ以外にも、中山刑事、マフィアやチンピラまで声色を変え、感情を自在にコントロールしており、八面六臂の活躍で、彼を観ているだけで楽しかった。

朗読劇「私立探偵 濱マイク」-我が人生最悪の時- WHAT's IN? tokyoレポート

太田奈緒が演じた濱 茜の兄への献身的な姿は涙を誘う。感情を全面表に出した声ではないのに、揺るぎない兄への信頼が感じられる静かで決意のこもったトーンの声が良かった。マイクが茜を幸せにしようとしてくれるのがわかっているから、茜も兄に幸せになってほしいと願う、兄弟間で“エネルギー保存の法則”という宇宙的な原理が成立していたと思う。茜の想いが強いほど、マイクの想いも強くなる。マイク 役の佐藤流司の芝居と呼応するように、太田の演技も豊かになって、ふたりの演技が相乗効果を上げながら美しい“兄弟愛”の世界を表出していた。

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星野 光 役の矢部昌暉[DISH//]は、コメディ・リリーフとして活躍。シリアスなシーンの一服の清涼剤として、笑いや脱力を生んでくれる。その結果、物語に緩急が生まれて、緊迫感をさらに増すことに成功していた。また、彼が登場し、何か切迫した事態が巻き起こるんだと観客が理解し始めたとき、物語がクライマックスになる誘導役でもあって、観客を飽きさせないユーモアのある芝居に目を見張った。どんなことがあっても明るくて楽しげな声でポジティブに染め上げ、物語のカタルシスを生み出すことに尽力していた。

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楊(ヤン)海平 役の植田圭輔は、初めて外国人(台湾)の役を演じたそうだが、そんなことは微塵も感じさせないリアルな芝居。日本に来たばかりの外国人特有の日本語の訛りや時には綺麗な発音の台湾語を巧みに使って、日本人とは違う雰囲気を違和感なく発揮。彼の抱えた悲劇的な宿命がひしひし伝わってくる、感情の振れ幅の大きい表情と心の機微で声質を微妙に変える声のグラデーションが素晴らしい。世知辛い世の中でなんとか生きようともがいている様が切々と伝わり胸を打つ。いつものことだけれど圧倒的な芝居力に感嘆する。観ているだけで楽しい俳優は数多くいれど、彼はその中でも確固たる地位を築き、多くの人たちの信頼を獲得していると思う。

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佐藤流司は、どこか諦めきって湿った日本の風土に対して断固として“否”というべく、くだらない現実をドロップキックで蹴飛ばす、男気と優しさ、反抗心を兼ね備えた濱マイクを熱演していた。ノンシャンランとして、決して兄貴肌ではないのに、つねに弱者の味方たろうとする確固とした姿勢が芝居から感じられた。おまけに、肝心なところでちょっとしたドジを踏むハードボイルド作品のお約束も十全と担っていたと思う。低めに抑えつつも包容力のある温かみのある声が魅力的だった。濱マイクは佐藤にとって挑戦的な役であり、当たり役だったと思う。
感動的だったのは、事件の真相に迫って、マフィアがたむろする団地に乗り込み、そこでありもしない聖書を売り込んで仲間の情報を得ようとするシーンだ。殉教者のような“人間愛”が備わった佐藤の芝居に目を見張った。彼の佇まいと声には、現実を知ってしまった悲しさを受け入れながらも、いっさいのシニシズム、いっさいの楽観主義、いっさいの悲観主義を許さない強固な意思が貫徹していた。

朗読劇「私立探偵 濱マイク」-我が人生最悪の時- WHAT's IN? tokyoレポート

現実は無惨で残酷なものだ。楽な生き方なんてどこにもないなら、時代に流されるように生きればいいかもしれない。それでも、困難な現実が襲いかかってきても、野良犬のように吠えて戦い続けるマイクたちの姿を笑うことができるだろうか。観劇後には、我々は地に足をつけて現実の荒野を進んでいく強さを身につけられるはずだ。本作は現代人の荒んだ時代を渡り歩くためのバイブルなのだ。

忘れかけていた大事なことを思い出させてくれる

朗読劇「私立探偵 濱マイク」-我が人生最悪の時- WHAT's IN? tokyoレポート

ゲネプロの前に舞台挨拶が行われ、佐藤流司、矢部昌暉[DISH//]、志村玲於[SUPER★DRAGON]、太田奈緒、秋山真太郎[劇団EXILE]、植田圭輔が登壇し、ひと言ずつコメントした。

朗読劇「私立探偵 濱マイク」-我が人生最悪の時- WHAT's IN? tokyoレポート

濱マイクを演じる佐藤流司は「入り時間ギリギリに会場に入ってバタバタしていたので、歯を磨いてすぐに顔をお見せしている状況です(笑)。口の周りに歯磨き粉がついていないか確認しながらゲネプロに臨みたいと思います」と笑いを誘いながら「ヤンチャでハードボイルドな作品というイメージを持たれる方が多いと思いますが、皆さんの心に響く作品になっています。そして、普段の生活で忘れかけていた大事なことを思い出させてくれる舞台だと思います」とコメント。

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星野 光 役の矢部昌暉[DISH//]は「世の中はまだまだコロナ禍で、我慢が続く状況ですが、本作を観に来てくださるお客様には最高の作品をお届けします。“我が人生最悪の時”というタイトルですが、“我が人生最高の時”と思っていただけるように頑張ります(笑)」と笑いを交えて意気込んだ。

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同じくWキャストで星野 光を演じる志村玲於[SUPER★DRAGON]は「稽古で何回も全編を通しているのですが、毎回最後には感動するので、お客様には喜んで帰っていただけるようなひと時になると思います」と語った。

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濱 茜 役の太田奈緒は「濱マイクというお兄ちゃんの情の熱さや人への温かさを感じさせる素晴らしい作品だと思います」と述べた。

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ストーリーテラーを務める秋山真太郎[劇団EXILE]は「原作の映画の世界観を踏襲しつつ、家族の愛が強調されて、自分のそばにいる人たちを大切にしようという作品です。期待してください」とコメント。

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楊(ヤン)海平を演じる植田圭輔は「個人的には海外の方の役を演じるのは初めてなので、真摯に演じたいです。令和の時代に、このような尖った作品に出演できるのは役者冥利につきます。早く幕が開いてほしいですし、今作は佐藤流司の最高のハマリ役だと思います」と挨拶した。

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公演は2月23日(火・祝)までヒューリックホール東京にて上演。また、2月21日(日)のマチネとソワレ公演が、mu-mo LIVEで配信される。そして、千秋楽の2月23日(火・祝)には、360ChannelでVR舞台映像として配信され、ディレイ配信も行う。詳細は公式サイトをチェックしよう。

朗読劇「私立探偵 濱マイク」-我が人生最悪の時- WHAT's IN? tokyoレポート

朗読劇「私立探偵 濱マイク」-我が人生最悪の時-

2021年2月17日(水)~2月23日(火・祝)ヒューリックホール東京


<ライブ配信 mu-mo LIVE配信>
配信公演:2021年2月21日(日)13:00公演/17:00公演
*13:00回:Wキャスト=志村玲於[SUPER★DRAGON]
*17:00回:Wキャスト=矢部昌暉[DISH//]
●チケット・詳細はこちらから

<ライブ配信 360Channel配信>
配信公演:2021年2月23日(火・祝)12:00公演/16:00公演
*Wキャストはともに志村玲於[SUPER★DRAGON]
●チケット・詳細はこちらから


【STORY】
1990年代。黄金町は横浜最強の暗黒街と呼ばれていた。この街で探偵を生業としてる濱マイクのもとには様々な依頼が飛びこんでくる。この日の依頼は、ひょんなことで知り合った台湾人の楊(ヤン)海平から日本で消息を絶った兄を探して欲しいとのことだ。
人探しはお手のものだ。濱マイクは友人の星野からの情報を元に消息不明となった外国人たちの足取りを探っていくと、そこには外国のマフィアと日本のヤクザ、そして何かにつけマイクに絡んでくる中山刑事が見え隠れしてきた。とてつもなく危険な香りがする。妹の茜は「危険な仕事は辞めて」と懇願するが、誰も彼を止められない。
なぜなら、それが濱マイクだからだ。

原作:林 海象(私立探偵 濱マイク「我が人生最悪の時 THE MOST TERRIBLE TIME IN MY LIFE」)
脚本・演出:樫田正剛[方南ぐみ]

出演:
濱マイク 役:佐藤流司
星野 光 役:矢部昌暉[DISH//]・志村玲於[SUPER★DRAGON](Wキャスト)
濱 茜 役:太田奈緒
ストーリーテラー 役:秋山真太郎[劇団EXILE]
楊(ヤン)海平 役:植田圭輔

公演オフィシャルサイト
オフィシャルTwitter(@HamaMike_r)

©朗読劇「私立探偵 濱マイク」製作実行委員会