Interview

クリープハイプの生き方──コロナ禍のバンドの葛藤、そして描く希望とは。4人が見つめる今を語る

クリープハイプの生き方──コロナ禍のバンドの葛藤、そして描く希望とは。4人が見つめる今を語る

2020年、12thシングル「愛す」をはじめ、「およそさん」「幽霊失格」「モノマネ」をリリース、劇場アニメ『どうにかなる日々』のサウンドトラックを手がけるなど作品を発表し続けてきたクリープハイプ。さらに、フロントマンである尾崎世界観は、文芸誌「新潮」2020年12月号に掲載された小説『母影』が第164回芥川賞の候補作になったことでも大きな話題を集めている。しかし、この1年、バンドとしての活動が思うようにできなかったことも事実。彼らはコロナ禍をどんな思いで過ごし、2021年にどんなビジョンを描いているのか……。メンバー4人に今の気持ちを率直に語ってもらった。

取材・文 / 森朋之 撮影 / 関信行


胸ぐらをつかまれて、揺さぶられ続けている

まずは2020年を振り返ってみたいと思います。春に予定していた10周年全国ツアー「僕の喜びの8割以上は僕の悲しみの8割以上は僕の苦しみの8割以上はやっぱりクリープハイプで出来てた」が中止になり、音楽フェスなども軒並み開催ができず、ライブ活動をほとんどできなかったと思いますが、そのなかでも新曲のリリースは続けていましたよね。

尾崎世界観 (新曲の制作は)時間があるところでやってました。最近は、期日を決めて“これをやろう”ということが少なくなっているんです。曲を作るのも、レコーディングをするのも自主的に、自分たちの意志でやっていて。インディーズのときもそんな感じだったんですけど、当時はレコーディングすらできなかったから今は恵まれていると思います。ただ、クリープハイプの場合、それが100パーセントいいというわけでもないから、難しいところではありますね。

クリープハイプ 尾崎世界観 WHAT's IN? tokyoインタビュー

尾崎世界観(vo,g)

実際、自粛期間中はどんな生活でした?

小川幸慈 時間があるからこの機会に勉強しようという気持ちがあって、やってみたりしましたね。

長谷川カオナシ 春の間は、私も基礎に立ち返っていました。ツアーも延期になってしまったし、とにかく何かしないといけないと思っていたんです。でも、何もないことが当たり前の生活になっていくにつれ、特別なことをしようという気持ちは続かなかったですね。そういうなかで、声がどんどん小さくなっていくなというのを感じていました。クリープハイプというバンドは元から尾崎さんが発信して言葉を届けるバンドで、自分自身の発言が何か世間に影響をもたらすわけでもない。そういうことも痛感する時期でした。

小泉 拓 今後の制作の仕方が、データのやりとりになることもあるのかなと考えて、機材を充実させようと買い替えたり、新しい知識を入れてみたりしていましたけど、結局、あんまり身にならなかったですね(苦笑)。

尾崎 やってもやらなくてもいいんだけど、やれたら嬉しいことがやれたということですよね。でも、やっていても虚しさはありますよね。僕もそれをすごく感じていました。曲を作ってみようと思ったけど、本来はなかった時間に、時間があるから作らなきゃと思って作る曲ってどうなのかと考えて。曲が感染したような気がするというか……今の世の中の流れを作品に入れようとすると、それこそ感染した気がして嫌だなと感じていました。

あらためてクリープハイプにとってはどんな1年だったと思います?

小川 10周年のツアーが延期になったときは結構落ち込んでいましたね。すごく力を入れていたライブだし、そこに向けて動いて、気持ちも作っていたので。今もこういう状況ですけど、いつか必ずやりたいと思いながら、次に進みたいと思っています。

長谷川 ツアーに向けて出発したと思ったら、すぐにこういう状況になってしまって。お客さんも楽しみにしてくれていたし、とにかく残念な1年でした。全然動けなかったから、1年留年した感じもあるんですけど、それでも時代は進んでいきますからね。10周年はもうやれない。でも、そこにこだわらず、活動を続ける、生き残り続けるしかないなと思っています。

尾崎 「大変でしたね」と言ってもらえるんですけど、(10周年のツアーが)“なくなった“というのは事実としてそのまま残っていて、やっぱり悔しいですね。

小泉 こういう状況のなかで何ができるだろうとプラスに考えたり、ツアーを“やれなくなった”という事実に落ち込んだりを繰り返していましたね。やる気になって「頑張ろう」と思ったり、「何をやってるんだろう」と思ったり。

その状態は抜けました?

小泉 まだ延長線上にいますね。今年の1月に予定していたライブ(「大丈夫、一つになれないならせめて二つだけでいよう」)も延期になってしまって、そこでまたモードが変わったというか。胸ぐらをつかまれて、揺さぶられ続けている感じですね(笑)。

尾崎 世の中の状況で気持ちも変わりますよね。

従来の活動の流れが全部止まりましたからね。

尾崎 そうなんですよ。曲を作って、レコーディングをして、MVを撮って、その衣装で取材を受けて、たまにテレビに出て。CDがリリースされたらツアーに出て、フェスにも出演して……メジャーデビューして8年くらい、その繰り返しだったので。そんな当たり前の流れがカッコ悪いなと思っていた時期もあって、意図的に違う流れを作ろうとしていたこともあったんですけど、今回の大きな世の中の変化によって、それも全部崩れて。「あの状態も幸せだったんだな」とも思うけど、そういうシステムがなくなっていろんなことを考えながらやっていくなかで、また新しい何かが出来上がるのかもしれないと楽しみな面もあるんです。今の時点ではストレスのほうが大きいですけど。

クリープハイプ 小川幸慈 WHAT's IN? tokyoインタビュー

小川幸慈(g)

まだまだ先が見通せないですからね……。

尾崎 でも、音楽とずっと向き合っていたら、こういう考え方はできなかったと思うんです。

小説を書くことで、音楽に対するスタンスを客観視できるというか。

尾崎 そうですね。本気になりすぎるとサービス精神がなくなっちゃう。あまりにもストイックになるとつまらない。グルテンフリーをやっている人と飲んでも面白くないのと一緒です(笑)。

(笑)。

尾崎 バンドの活動に対しても、ストイックな感じを出したくないんです。“美味しいものは身体に悪い”し、ダサくても、聴いてくれた人に“いいな”と思われるほうが大事だと思うんですよね。音楽に詳しい人に評価されても、特に喜びを感じません。

一貫してますね、そこは。

尾崎 昔からそうですね。中学生、高校生に素直に“いいな”と思ってもらえるほうが嬉しいし、そのためには変に音楽に向き合いすぎないほうがいいと。音楽に向かってマイナスになりそうなエネルギーを他のものに散らすというか。

ペンを持って矢面で戦ってくれていることに感謝

それが小説だったと。『母影』を書いたことは間違いなく、2020年の収穫ですよね。

尾崎 もともとはしっかり音楽活動をやったうえでやろうと思っていたことなんですよ。自分にとっては趣味というか、ご褒美というか。音楽活動は延期になったり中止になったり、状況によっては活動が途絶えてしまうこともあるけど、小説はそうじゃない。今年は“この表現”にかけてみようと思って……誰にも言ってなかったんですけど、「これでひっくり返したい」という気持ちがありました。「このまま何もなかったら、ヤバイな」という焦りもあったので。

シビアな焦りですよね。

尾崎 去年、大事なツアーができなかったことが大きいですね。あんなにお客さんに期待してもらったことはなかったし、チケットも今までで一番買ってもらっていて。周りの人は「またやれるよ」って言うけど、自分たちにはわかるんです。“10周年”というものがあって、あそこまで興味を持ってもらえたって。去年はいろんな人が悔しい思いをしたと思うけど、そのなかでも厳しいほうだと思うんです。だからこそ「このまま音楽にすがるよりも、それ以外のところでどうにか」というのはありましたね。そうやって逃げることも大事ですからね。今までも、やばくなったら逃げて、辞めないでどうにか続けてきたので。

クリープハイプ WHAT's IN? tokyoインタビュー

メンバーは待っている立場だし、音楽にすがるしかなかったと思うんですが。尾崎さんが小説を書くことについては、どう感じていましたか?

長谷川 尾崎さんが私たちのことを気にしてくれていることもわかっていたし、作品(『母影』)のことも聞いていて。私は普段、小説を読まない人間なんですけど、すらすら読めたんですよ。音楽と同じように、“専門家にウケるとかではなくて、素人でもわかる”という表現を小説でもやっているんだなって。音楽だけに打ち込むのではなくて、ペンを持って矢面で戦ってくれていることに感謝しましたね。

小川 尾崎が小説を書いてくれたことで、クリープハイプのフロントマンの頭の中を知ってもらえるのが嬉しくて。そこでチャンスが広がると思うし、音楽活動が難しいときに、別の切り口からクリープハイプの作品に触れる機会を作ってくれたと思っています。

小泉 ミュージシャンの小泉 拓としては何もできないんだけど、クリープハイプの小泉 拓として腹を据えてやろうと思っていましたね。尾崎くんが小説を書いて、そこでバンドに興味を持ってくれた人がいて、その人たちに好きになってもらう努力をするというか。

尾崎 すごくいい接客をする店員さんみたいな感じですか? お店の前でビラを配って「いらっしゃいませ」ってお店に連れてきたら、すごく美味い料理が出てきたみたいな(笑)。

小泉 そうだね(笑)。お客さんに喜んでもらうために自分がやれることはやっていこうと。

音楽を続けていくためにも、小説のかなわなさに向き合っていく

実際、『母影』が芥川賞にノミネートされたことで、クリープハイプを知って、興味を持った人も多いでしょうからね。

尾崎 自分たちから違うところに向かっていく作業をしていくことは大事ですね。あと、自分にとって小説はすごく難しくて、途方もないものだから、いろんなものを受け止めてくれるんですよね。音楽活動ができなくて、逃げ道がないときも。それに、ただ逃げるだけじゃなくて、そのうえで戦えるような難しさも与えてくれる。音楽には自信がある。「できてないじゃん」と言われるかもしれないけど、自分は納得しているし、腹が立って言い返したりもするけど、何か言われてもそんなに気にならない。でも、小説はそうじゃなくて、何か言われたら気になるし、それを吸収してもっと良くしようと思うんですよね。それは自分にとって救いだし、ありがたいものですね。

小説を書くことで、尾崎さんの創作のモチベーションも維持できるし、バンド全体のバランスも取れる。

尾崎 そうですね。音楽を続けていくためにも、小説のそのかなわなさに向き合っていきたいです。メンバー3人は表に出ていないし、一見、活動していないように見えるかもしれないけど、実はそれも大事なんです。僕がひとりで活動をしているように見える、その構図を保つのも難しい……。一歩引いたところで待ってくれているので、本当にありがたいですね。もちろん、音楽とは別のところでちゃんと結果を出さないといけないというプレッシャーもあるんですけど。

でも、小説でしっかり結果を出せたことは、本当に良かったと思います。“自分で書いた小説を批評されたい”という目的も達成できたんじゃないですか?

尾崎 そうですね。1月の終わりに久々に新曲のリハをやったんですけど、「音楽はやりやすいな」と思いましたね。言わずともどんどん形になっていくし、勝手を知ってる安心感もある。そういうことも、小説を書いていなかったらわからなかったかもしれない。ずっと音楽だけをやっていたら、そういう良さにも気づかずに不満ばっかり感じていたと思います。

クリープハイプ WHAT's IN? tokyoインタビュー

“生活が始まった” 。それがこのまま続けばいい

徐々に音楽モードに戻っている?

尾崎 はい。レコーディングも決まっているし、延期になったライブも3月に予定しているので、そのためのリハにも入る予定です。楽曲に関しては、「クリープハイプらしい曲を作りたい」と思っているんですよ、今は。去年の自粛期間中は新しいタイプの曲を作ることが多かったんですけど、最近、クリープハイプのどんなところを求められているのかがわかってきて。速い曲、激しい曲をやっても「丸くなった」と言われて「何なんだ!?」と思っていたんですけど、求められているのは“この感じ”だなというのがなんとなく見えてきたんです。

よく尾崎さんが言っている“いつもキャッチーでありたい”ということにもつながってる?

尾崎 それもあると思います。完全に外から客観的に見るのは無理だし、難しいところもあるけど、頑張って努力を続けたいですね。

クリープハイプ 長谷川カオナシ WHAT's IN? tokyoインタビュー

長谷川カオナシ(b)

新曲の制作が始まったことで、バンドが動き出した実感もあるのでは?

小川 そうですね。4人でスタジオに入って、考えながら作っていくのが一番刺激があるので。“生活が始まったな”という感じです。

尾崎 始まっちゃったか〜(笑)。

小川 (笑)。それがこのまま続けばいいですね。

長谷川 戻ってきた感じもあるけれど、どちらかというと、“始まった”感じがしましたね。去年も尾崎さんが曲を書いてくれて、いくつか制作をしたけれど、小説を書いたあとの1曲目は“4人が再び始まった”という感覚があったというか。もう一度身体に血液が巡るというか……。

尾崎 巡っちゃったか〜(笑)。

小泉 “現場の空気ってこうだよな”と実感しましたね。

尾崎 4人で目を合わせて、こうやって(と親指を立てる)。

小泉 え!?  そんなの1回もないよね(笑)。

一同 あはは(笑)。

小泉 4人で音を出して、反応するときのスピード感だったり。もちろん楽しいだけではないけど、“クリープハイプの現場って、こうだよな”とあらためて感じられて。

制作はこの先も続きそうですか?

尾崎 そうしたいですね。このまま1ヵ月に1曲レコーディングできれば、アルバムも見えてくるので。

メンバー主導で動き出しているのもいいですね。

尾崎 もっと誰かにいろいろと言ってほしいんですけどね。新しいこともやりたいし。たとえば、自分たちの下の世代のミュージシャンにプロデュースしてもらうとか。

長谷川 あ、それは面白いですね。

この先のクリープハイプ、すごく楽しみです。こうやって話を聞いていても、やっぱりタフなバンドだし、揺るがないものがあるんだと思います。

尾崎 揺らぎながら、という感じですけどね。揺るがないためにいろいろと考えて、やってみて、失敗もして。

小川 そうだね(笑)。今は時間もあるし、一曲一曲丁寧に制作ができていて、いい状態で向き合えていると思います。これでライブが増えて、音楽活動が進んでいけばいいんですけどね。

長谷川 去年は内側を見つめることが多かったんですよ。内側というのはファンの皆さん、モバイルサイト(有料会員サイト「太客倶楽部」)の会員の皆さんのことで。ライブができないにも関わらず、ずっと会員でいてくださる方を守ってきたつもりなんですけど、今年はそれだけではなく、外に向かっていかないといけない。

小泉 自粛期間中にいろいろ考えすぎて、逆に考えがシンプルになってきたんですよね。“頑張るぞ、おー!”って。

尾崎 “おー!”ってシンプルだな〜(笑)。

小泉 あまり先のことを見据えても、埒があかないですからね。明日、明後日のことに向き合って、それを積み重ねるしかないのかなと思います。

クリープハイプ 小泉 拓 WHAT's IN? tokyoインタビュー

小泉 拓(ds)

帰る場所がある。旅に出て、ちゃんと帰ってくる

たしかに。最後に聞きたいのですが、今の皆さんにとってクリープハイプはどんな場所ですか?

小川 そうですね……4人で音を出していると「いいバンドだな」と思うし、それを待ってくれている人もいる。そのありがたさをあらためて感じているし、「やっぱりここだよな」と思いますね。

長谷川 今はすごくつらい時期ですけど、ひとりじゃなくて良かったとすごく思っていて。その気持ちをお客さんにも還元していきたいし、バンドにしかない良さを伝えていきたいですね。

小泉 安心感があるんですよね。こういう状況になって、“自分の人生はこのバンドとともにある”と痛感しているし、メンバーがいてくれることで救われているので。

尾崎さんにとっても、戻れる場所があるのは安心感につながっているのでは?

尾崎 本当にそうですね。ミュージシャンが小説を書くことを良く思わない人ももちろんいますけど、帰る場所があるんだから、そう言われてもしょうがないなと実感しています。旅に出て、ちゃんと帰ってくる。やり方はいろいろあると思うけど、自分にはこのやり方が合っていると思うんです。それは自分で見つけたものだし、このまま続けていきたいですね。

クリープハイプ WHAT's IN? tokyoインタビュー

大丈夫、一つになれないならせめて二つだけでいよう

2021年3月3日(水)東京ガーデンシアター
2021年3月11日(木)大阪フェスティバルホール
2021年3月12日(金)大阪フェスティバルホール


■「モノマネ」MV

■「幽霊失格」MV

■「およそさん」MV

■「愛す」MV


クリープハイプ

尾崎世界観(vo,g)、小川幸慈(g)、長谷川カオナシ(b)、小泉 拓(ds)。2001年に尾崎がバンドを結成。2009年に現メンバーとなり、本格的に活動をスタート。2012年にアルバム『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』でメジャーデビュー。2020年は、シングル「愛す」を発売、「幽霊失格」「およそさん」などを配信リリースしたほか、劇場アニメ『どうにかなる日々』の主題歌「モノマネ」と劇伴音楽を担当。春に敢行予定だった10周年全国ツアー「僕の喜びの8割以上は僕の悲しみの8割以上は僕の苦しみの8割以上はやっぱりクリープハイプで出来てた」が全公演中止に。2021年3月には、約1年ぶりとなる有観客ライブ「大丈夫、一つになれないならせめて二つだけでいよう」の開催を予定。また、尾崎世界観による小説、芥川賞候補作『母影』の単行本が、1月29日(金)に発売された。

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