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明日海りお&千葉雄大らが絢爛な歌や衣裳で描く血の宿命。少年たちの愛と苦悩が交錯するミュージカル・ゴシック『ポーの一族』上演中

明日海りお&千葉雄大らが絢爛な歌や衣裳で描く血の宿命。少年たちの愛と苦悩が交錯するミュージカル・ゴシック『ポーの一族』上演中

長年舞台化が望まれながらも実現に至らなかった萩尾望都の傑作漫画『ポーの一族』が、初めて舞台で上演されたのは2018年。30年以上にわたって企画を温め続けてきた小池修一郎 脚本・演出のもと、宝塚歌劇団花組によって初演が行われた。主人公・エドガーを演じたのは、トップスターの明日海りお。漫画から抜け出してきたような明日海のエドガーは多くのファンを熱狂させ、各界から最大級の賛辞が送られた。
あれから3年、宝塚を退団した明日海が再びエドガーに挑戦する。新たな伝説として語り継がれるであろう本作の模様を、東京公演ゲネプロの内容をもとにレポートする。

取材・文 / 横川良明 写真 / 岸 隆子(Studio Elenish)


愛と孤独。光と闇。その対比が波となり、観客を飲み込む

孤独な少年と、孤独な少年が、出会い、魂を寄り添わせる。『ポーの一族』が永きにわたって人々の心をとらえ、離さないのは、そんな儚くも美しいテーマに魅入られ、吸い寄せられるからだろう。小池修一郎の脚本・演出によって紡ぎ出されたミュージカル・ゴシック『ポーの一族』は、孤独な魂の共鳴が迫力の生オーケストラと共に壮大な調べとなって観る人の胸の内に木霊する。

ミュージカル・ゴシック『ポーの一族』 WHAT's IN? tokyoレポート

数奇な運命を生きたエドガー(明日海りお)。本作ではそのエドガーの足跡を、原作のエピソードを拾いながら時系列に沿って再構築し、100年を超える叙事詩として編み上げた。
妹・メリーベル(綺咲愛里)と共に森深くに捨てられた幼子のエドガーが、老ハンナ(涼風真世)に拾われるところを序章とし、ポーの一族の儀式を目撃してしまった夜のこと、メリーベルとの別れ、人間たちの襲撃、エヴァンズ家で起きたメリーベルを取り巻く三角関係、兄妹の再会、そしてアランとの出会いまでがスピーディーかつドラマチックに繰り広げられていく。

その中で圧倒されるのが、眩いばかりに華やかな衣裳だ。ゴシックを基本とし、色調を落とした舞台美術と対照的に、衣裳は鮮やかな色彩で目を引く。特に序盤で登場する広場のシーンは、道化の衣裳に身を包んだ大道芸人たちのカラフルな装いと楽しいパフォーマンスが、気持ちを明るくしてくれる。かと思えば、そんな賑やかな日常の風景で演じられるのは、バンパネラとなったエドガーが初めて“食事”をする場面。生活と、殺人。その対比が鮮血のように映える。

一方で、アラン(千葉雄大)と初めて出会うホテルのシーンは、まるで舞踏会のように絢爛だ。貴族たちのコートやドレスにはきらびやかな刺繍が縫いこまれ、袖元のフリルや繊細なレースなど、どれも間近でじっくり眺めたくなるものばかり。そんな極上の衣裳をまとったキャストたちが羽のように跳び、花びらのように舞うだけで、甘い鱗粉を振りかけられた心地になる。

ミュージカル・ゴシック『ポーの一族』 WHAT's IN? tokyoレポート

そうした可憐さとは裏腹に、『ポーの一族』が内包する残酷さもありありと舞台上で甦る。その極地と言えるのが、ポーの一族の館を人間たちが襲う場面だろう。一族の正体が生き血を吸うバンパネラだと知った人間たちは、松明を掲げ、クイを片手に館へ乗り込む。その形相は狂気に憑かれ、魔物のようだ。入り混じる人間たちとバンパネラ。逃げ惑うポーの一族は非力で、どちらが本当の魔物なのかわからない。そんな凄惨な夜が、太田 健の音楽によって、まるで自らの心臓にクイを打ち込まれたような痛みを伴って、観客の胸に伝わってくる。

愛と孤独。極彩色の光と、漆黒の闇。祈りと怒り。対極のモチーフを幾重にも織り込むことで、観る者はその反復するイメージに揺られ、次第に波に飲み込まれていくのだ。

千葉雄大の少年性が、アランの孤独と不安定な心を際立たせる

キャスト陣は、女優たちの健闘が光った。特にシーラを演じた夢咲ねねは、誰もが見とれる絶世の美女という役どころに、説明不要の説得力を持たせていたと思う。その佇まいは、さりげない所作まで気品があり、淑やかな声はまるで水仙のように甘く芳しい。男たちが熱を上げるのもやむなしという聖女のような魅力が全身から放たれていた。

メリーベルを演じた綺咲愛里も少女らしい愛らしさと、どこか悲劇の予感をたたえた演技で観客を魅了した。エドガーとアランの心にいつまでも妖精のような面影を残すメリーベル。メリーベルなくして『ポーの一族』は語れない。その重責に、綺咲愛里は実力でしっかりと応えた。歌声も確かで、今回から新たに追加されたソロ曲では存分に見せ場をつくった。

大老ポー 役の福井晶一、老ハンナ 役の涼風真世らベテラン陣の存在感は言うに及ばず。福井の大老ポーは重厚感があり、場の空気が引き締まる。涼風は老ハンナもさることながら、道化的な役どころでもあるブラヴァツキーが楽しい。怪しいキャラクターを嬉々と演じて、緊張感あるストーリーに一風変わった空気を吹き込んだ。

ミュージカル・ゴシック『ポーの一族』 WHAT's IN? tokyoレポート

注目の千葉雄大演じるアランは、原作以上に少年性が増していたように感じた。身分を鼻にかけた高慢ちきなところも、そこからエドガーになつきメリーベルに心惹かれていく様も、千葉が演じると非常に素直に見えてくる。いい意味で、ひねくれた感じがしないのだ。腰に手を添えた立ち姿は斜に構えているようでむしろ愛らしい。親の決めた結婚に背き、メリーベルに思わずプロポーズしてしまうところは、はちきれそうな恋心だけでなく、その背後に最愛の母の死が近づいていること。名家の子息でありながら彼を本当に案じる人は誰もいないという現実が横たわっていて、アランの抱えた孤独に胸が締めつけられる。千葉雄大の少年性は、アランの持つ不安定さと鏡合わせとなっていた。

明日海りおのエドガーが放つ聖域のような美しさ

そして何と言っても、この作品の最大の見どころは明日海りお演じるエドガーだろう。舞台に降り立った瞬間から、エドガーがこの世にいたと思わせてくれる聖域的な美しさだ。白のブラウスに包まれたその身はシルエットまで優美で、エドガーの誰も寄せつけない高貴なオーラを指先にまでまとっていた。

歌声は豊かな声量に裏打ちされながらも、ダイナミックなだけでなく、感情の揺らめきまで丁寧に音符に乗せていく。永遠の若さを持つ少年でありながら、歌声はどこか妖艶ですらあって。その危険な色香が、発表から50年近く経ってなお多くの人を魅惑の霧で包み込むエドガーそのもののように思える。

ミュージカル・ゴシック『ポーの一族』 WHAT's IN? tokyoレポート

原作のエドガーはどこかミステリアスで悪魔的なイメージが強かったが、物語の前半部分が舞台化されていることもあり、明日海の演じるエドガーは妹思いでまっすぐな部分がより強調されていた。そのぶん、このミュージカル・ゴシック『ポーの一族』はひとりの少年が愛する妹を守るために運命に翻弄されながらも立ち向かう苦悩の物語である、という印象を受けた。

なぜ自分は生きているのか。なぜこんなにも過酷な道を強いられなければならないのか。大老ポーの後継者として、誰よりも濃い血を受けたエドガー。それゆえに道を進めば進むほど、エドガーは孤独になった。その唯一の心の篝火(かがりび)が、幼い頃より命運を共にした妹のメリーベル。一度は妹の幸せのために手を離したが、メリーベル自らの願いを聞き入れるかたちで、一族に迎え入れた。最愛の妹を、バンパネラにしてしまったこと。自分の血のせいでメリーベルが虚弱体質になってしまったこと。その罪が、さらにエドガーを孤独の淵へ追い込んでいく。

息を飲んだのは、終盤、海辺の小屋から始まる悲劇の連鎖の中で、エドガーがクリフォード(中村橋之助)と対峙する場面だ。あの瞬間、苦悩の少年は悪魔に転じた。心を凍らせ、苦悩の二文字を捨てた。真のバンパネラ・エドガー誕生の瞬間を、明日海は冷酷に演じてみせた。

生きる目的を失ったエドガーは、同じく家族との糸を断ち切られたアランの前に現れる。エドガーにとってアランは新たな生きる目的だったのか。それともただの孤独の埋め合わせだったのか。それはわからない。ただ、カーテンが開かれ、その向こうにエドガーが立っているのを見た瞬間、何か救世主が降りてきたような錯覚を覚えた。

事実だけを言えば、アランを闇の世界へ引きずり込む案内人なのかもしれない。けれど、あの瞬間、孤独を抱えたふたりの青年は、初めて互いに救いを見つけたのだと思う。最も大切なものを失ったふたりは、その面影を共有できる者と手を重ねることでしか、永遠の時を生きられなかった。

まだ原作には未消化のエピソードが残っている。ぜひその後のエドガーとアランを見せてほしい。そう願いたくなる、大喝采の舞台化だった。

ミュージカル・ゴシック『ポーの一族』 WHAT's IN? tokyoレポート

ミュージカル・ゴシック『ポーの一族』は、2月17日(水)まで東京国際フォーラム ホールCにて上演。さらに2月23日(火・祝)から2月28日(日)まで御園座にて名古屋公演が上演される。本作は、ライブ配信&ライブビューイングを予定しており、2月13日(土)12:00公演は<エドガーアングルバージョン>、17:00公演は<アランアングルバージョン>と、それぞれの登場場面をエドガー、アランを中心としたカメラ割りで送る特別バージョンも配信される。

豪華な衣裳を細部までじっくり堪能したり、劇場ではなかなか目視できない役者の細かい表情まで味わえるのは映像ならでは。すでに公演を観た人も、まだ観ていない人も、ライブ配信&ライブビューイングだから楽しめるミュージカル・ゴシック『ポーの一族』を満喫してほしい。

ミュージカル・ゴシック『ポーの一族』

2021年1月11日(月・祝)~1月26日(火)梅田芸術劇場メインホール
2021年2月3日(水)~2月17日(水)東京国際フォーラム ホールC
2021年2月23日(火・祝)~2月28日(日)御園座

【STORY】
イギリスの片田舎―森の奥に捨てられた幼い兄妹エドガーとメリーベルは、館に住む老ハンナに拾われ育てられる。老ハンナたちポーの一族は、永遠の時を生きる「バンパネラ」の一族であった。正体を見破った村人に取り囲まれた時、ポーの一族を率いる大老ポーは、存続の危機を救うためエドガーを無理矢理仲間に加えてしまう。こうしてエドガーは、妹メリーベルも一族に加え、ポーツネル男爵とその妻シーラを養父母として長い時を生きることとなる。
時は流れ、4人は新興の港町ブラックプールに姿を現す。男爵とシーラは、港町で診療所を開く医師、ジャン・クリフォードを仲間にしようと目論む。そこでエドガーは、町一番の名家、トワイライト家の跡取りアランと宿命的な出会いを果たすのだった……。

原作:萩尾望都『ポーの一族』(小学館フラワーコミックス)
脚本・演出:小池修一郎(宝塚歌劇団)
企画・制作・主催:梅田芸術劇場
協力:宝塚歌劇団

出演:
エドガー・ポーツネル 役:明日海りお
アラン・トワイライト 役:千葉雄大
フランク・ポーツネル男爵 役:小西遼生
ジャン・クリフォード 役:中村橋之助
シーラ・ポーツネル男爵夫人 役:夢咲ねね
メリーベル 役:綺咲愛里
大老ポー/オルコット大佐 役:福井晶一
老ハンナ/ブラヴァツキー 役:涼風真世
ジェイン 役:能條愛未
レイチェル 役:純矢ちとせ

石川新太、大井新生、加賀谷真聡、鍛治直人、鯨井未呼斗、酒井 航、高橋慈生、新原泰佑、西村清孝、松之木天辺、丸山泰右、武藤 寛、吉田倭大、米澤賢人、伊宮理恵、桂川結衣、木村晶子、多岐川装子、田中なずな、笘篠ひとみ、七瀬りりこ、花岡麻里名、濵平奈津美、蛭薙ありさ、美麗
(男女五十音順)


<ライブ配信>
配信公演:
2021年2月7日(日)12:30公演
2021年2月13日(土)12:00公演<エドガーアングルバージョン>
2021年2月13日(土)17:00公演<アランアングルバージョン>
2021年2月28日(日)12:00公演
料金:4,500円(税込)→「Go To イベント」適用で3,600円
公演パンフレット郵送サービス付6,500円(税込)→「Go To イベント」適用で5,200円 ※数量限定販売
視聴券発売:各回の開演30分後まで購入可能
※アーカイブはございません
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<国内ライブ・ビューイング>
日時:2月28日(日)12:00公演
会場:全国各地の映画館60館
料金:5,500円(全席指定・税込)

<台湾ライブ・ビューイング>
日時:2月28日(日)12:00公演(日本時間)
会場:台湾内の映画館6館
料金:NT$1450

<台湾・香港ライブ配信>
日時:2月28日(日)12:00公演(日本時間)
料金:NT$1,200/HK$335

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オフィシャルサイト
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