横川良明の演劇コラム「本日は休演日」  vol. 36

Column

最高のバレーボールをありがとう。演劇「ハイキュー!!」音駒高校の引退試合に寄せて

最高のバレーボールをありがとう。演劇「ハイキュー!!」音駒高校の引退試合に寄せて
今月の1本:ハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」‶ゴミ捨て場の決戦″

ライター・横川良明がふれた作品の中から、心に残った1本をチョイス。独断と偏見に基づき、作品の魅力を解説するこのコーナー。
今月はハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」‶ゴミ捨て場の決戦″をピックアップ。ついに赤いユニフォームを脱いだ勇者たちに感謝の気持ちを届けます。

この試合に「敗者」なんていない

この試合に「敗者」なんていない気がした。数十年来のライバルであり、これまで何度も練習試合を重ねながら、公式戦で対戦することがなかった烏野高校と音駒高校。その待ちに待った“もう一回がない試合”の笛の音が高らかに鳴り響いた。

勝敗の行方は、ご存じの通り。でも、一列に並んで応援席に礼をする赤いユニフォームを見て、「敗者」と思った人は少なかったんじゃないかな、と思う。どちらもが死力を尽くして戦い抜いた勇者。猫又監督(大高洋夫)じゃないけれど、「ナイスゲーム」と言葉を発することができない代わりに力いっぱい手を叩いた。待望の‶ゴミ捨て場の決戦″は、そんなふうにして幕を閉じた。

全編にわたって見どころだらけだけど、改めて演劇「ハイキュー!!」の良さを挙げるなら、漫画で印象的だったコマをうまく舞台に変換する力だと思う。孤爪研磨(永田崇人)の鳥かごは影絵を使って再現。持ち前の機動力を封じ込まれていく日向翔陽(醍醐虎汰朗)がサスペンスフルに描かれて、研磨の魔王感が語らずとも伝わってきた。

ここでしっかり追いつめられているからこそ、そんな鳥かごを突き破る日向の“ドンジャンプ”の爽快感が一層際立つ。キャストの熱演もさることながら、自力で活路を切り開いていく烏野高校の攻めの姿勢を和田俊輔の音楽が見事に表現していた。

和田の音楽はもはや演劇「ハイキュー!!」の核になっていて、烏野が太鼓を叩いてお祭りを盛り上げれば、音駒はヒップホップでクールに対抗。その対比が演劇「ハイキュー!!」らしくて面白かった。また、オープニングのキャスト総出演のダンスはさすがの大迫力で、すっかり細胞に染みついている「演劇「ハイキュー!!」を観にきた!」という興奮を条件反射のように甦らせてくれた。

みんなで歴史を“繋いで”、彼らは舞台に立っている

その中で演劇「ハイキュー!!」の醍醐味を改めて感じさせてくれたことが、3つある。1つ目は“省略の妙”だ。演劇「ハイキュー!!」では原作で描かれている試合の模様をすべて忠実に盛り込んでいるわけではない。だけど、観ていて気持ちが途切れないのは、細かい描写を省略しつつも、それを演劇ならではのダイナミックな置き換えでカバーすることで、ドラマそのものの高揚感へと転化させているからだ。

そんな“省略の妙”を最も強く感じたのが、烏野と音駒の選手たちがクロスしながらジャンプスパイクを決めていくシーン。その全身の力を振り絞るような躍動に、見えない試合模様が次々と浮かんでくるようで、心臓がぎゅっと掴まれる。なぜだかこちらまで喉がカラカラになる。キャストたちが本気で戦っているから、演技を超えたスポーツの面白さが観客にも伝わってくるのだ。

2つ目は、“繋ぐ”力だ。原作でも重要なキーワードである“繋ぐ”は、演劇「ハイキュー!!」の精神としてしっかりと継承されている。その象徴となったのが、1幕で流れるこれまでの試合映像だ。そこには、須賀健太ら先代キャストの映像も入っている。目の前で演じているキャストと違うキャストの顔が映る。普通に考えたら、その瞬間、大きな嘘が生まれてしまい、リアリティが一気に崩れ去ってしまう。

だけど、もちろん矛盾を感じた人もいるかもしれないけれど、多くの観客も、そしてキャストたち自身も没入感は失われなかったと思う。それは、彼らが今までの歴史を“繋いで”ここに立っているから。確かに見た目は違うかもしれないけど、宿る魂は同じ。みんなで“繋いで”ひとつの役を演じているから、あの嘘が嘘にならなかった。

正直に言うと、僕は先代へ思い入れが強くて、なかなか新しいキャストによる演劇「ハイキュー!!」を今までと同じ熱量で応援しきれていないところがあったのだけど、この‶ゴミ捨て場の決戦″を経て、やっと今の演劇「ハイキュー!!」を受け入れられるようになった。烏野にとっても、この音駒との戦いは大きいものだったんじゃないかと思う。

あの「たーのしー」が、この試合のすべてを語っていた

そして、3つ目は、“役とキャストの物語が映し鏡になる”楽しさだ。この‶ゴミ捨て場の決戦″は、音駒にとって最後の試合となる。文字通りの“もう一回がない試合”だ。孤爪研磨 役の永田崇人、黒尾鉄朗 役の近藤頌利ら音駒高校のメンバーは一部キャストを除いて4年にわたってこの演劇「ハイキュー!!」に関わり続けてきた。

その彼らが、ついにコートから去る日がくる。それは、応援しているファンはもちろん、演じ続けた彼らにとっても万感の想いだ。このステージが終わったら、もう二度と赤いユニフォームに袖を通すことはない。その事実が、クライマックスが近づくにつれて、どんどん大きくなっていく。

運命のファイナルセット。1点、1点、積み上がるたびに、ゲームセットが迫ってくる。終わらないでほしい。そう願っていたのは、選手だけじゃない。客席にいる観客もきっと同じことを考えていたはずだ。どうか終わらないでほしい。ずっとずっとこの試合を見ていたい。そんな切実な祈りがTDCホールいっぱいに膨らんでいく。

だけど、必ず終わりはやってくる。膨張した想いが破裂するように、最後のボールが床に落ちた。試合終了。“もう一回がない試合”が終わった。だけど、不思議と心は晴れやかで、ほんの少しの寂しさを残しながらも、戦い抜いた両校の汗がキラキラと世界を輝かせていた。

それはきっと、研磨の「たーのしー」のおかげだろう。特別バレーが好きなわけじゃないと言い、練習試合で烏野に勝ってどう思ったかと日向に聞かれても「…別に普通…かなあ…」と答えていた研磨が、思わず口に出した「たーのしー」が、この試合のすべてを語っていた。

あの「たーのしー」はきっと4年かけて演じたからこそ言えた台詞なんじゃないかな、と思う。演じた永田崇人本人の中にも、研磨と過ごした濃厚な日々が何度も何度も甦っていたような気がする。永田崇人の孤爪研磨のシンクロ度は、4年間、研磨を演じてきたからこそで、どの台詞も、ちょっとした仕草も孤爪研磨そのもの。だからこそ、あの何事にも淡々としていた研磨が、ボールに食らいつく姿に瞼が熱くなった。

もちろんそれは永田だけではなく、近藤頌利や山本猛虎 役の川隅美慎、海 信行 役の武子直輝らも同じ。コートに立てば選手が反射的にボールを追うように、体に染みついたDNAが舞台の上にいる彼らを自然とそれぞれのキャラクターとして息づかせていた。もう一度は、もうこない。これが最後。その気迫が、熱を生み、汗となり、苦しい中でそれでも走る力となり、観る人の心を高く高く突き上げる翼となる。

4年間、ほとんどのメンバーが役を替わることなく、演劇「ハイキュー!!」の板の上に立ち続けた音駒高校。原作ファンにとっても、‶烏野、復活!″からずっと応援してきた舞台ファンにとっても、音駒としてあり続けてくれた俳優陣には感謝の気持ちでいっぱいだ。

最高のバレーボールをありがとう。烏野だけじゃない。音駒もまたこの物語の“主役”なんだと改めて噛みしめた。

そして、5年半にわたった演劇「ハイキュー!!」も、来年春の最終公演‶頂の景色・2″をもって終幕を迎える。たくさんの感動をくれた演劇「ハイキュー!!」が最後にどんな頂の景色を見せてくれるのか。涙で脱水症状を起こさないよう十分に水分をとった上で、客席に座る日を待ちたい。

ハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」‶ゴミ捨て場の決戦″

東京公演:2020年10月31日(土)〜11月3日(火・祝)TOKYO DOME CITY HALL
大阪公演:2020年11月7日(土)〜11月15日(日)大阪メルパルクホール
※11月15日(日)は公演中止
宮城公演:2020年11月21日(土)〜11月22日(日)多賀城市民会館 大ホール
福岡公演:2020年11月28日(土)〜11月29日(日)北九州ソレイユホール
東京凱旋公演:2020年12月4日(金)〜12月13日(日)TOKYO DOME CITY HALL


<ハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」
ツインパック‶ゴミ捨て場の決戦″/‶最強の挑戦者(チャレンジャー)″(ゲネプロ版)
Blu-ray&DVD発売

発売日:2021年4月14日(水)
価格:Blu-ray 12,000円(税別)/DVD 11,000円(税別)


原作:古舘春一「ハイキュー!!」(集英社 ジャンプ コミックス刊)
演出・脚本:ウォーリー木下
音楽:和田俊輔

出演:
<烏野高校>
日向翔陽 役:醍醐虎汰朗/
影山飛雄 役:赤名竜之輔/
月島 蛍 役:山本涼介
山口 忠 役:織部典成
田中龍之介 役:鐘ヶ江 洸
西谷 夕 役:北澤優駿
縁下 力 役:中谷優心
木下久志 役:森本将太
澤村大地 役:滝川広大
菅原孝支 役:一ノ瀬 竜
東峰 旭 役:福田侑哉/

<音駒高校>
孤爪研磨 役:永田崇人
黒尾鉄朗 役:近藤頌利
海 信行 役:武子直輝
夜久衛輔 役:後藤健流
山本猛虎 役:川隅美慎
福永招平 役:石上龍成
犬岡 走 役:中村太郎
灰羽リエーフ 役:タホリ玲央
芝山優生 役:木村風太/
猫又育史 役:大高洋夫/

山本あかね 役:重石邑菜
灰羽アリサ 役:楓/

<戸美学園高校>
大将 優 役:福澤 侑/

<烏野高校 OB・OG>
嶋田 誠 役:染川 翔
田中冴子 役:安川里奈/
烏養一繁 役:木村靖司/

<烏野高校 マネージャー>
清水潔子 役:大久保聡美
谷地仁花 役:山本樹里/

<烏野高校 顧問・コーチ>
武田一鉄 役:鎌苅健太
烏養繋心 役:小笠原 健

主催:ハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」製作委員会
(TBS/ネルケプランニング/東宝/集英社/キューブ)

オフィシャルサイト
オフィシャルTwitter(@engeki_haikyu)

©古舘春一/集英社・ハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」製作委員会

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