ジャンプ作品「ダークファンタジー」の系譜  vol. 4

Column

『鬼滅の刃』『約ネバ』『呪術廻戦』『チェンソーマン』……新たなる黄金期を告げた10年代のジャンプ「ダークファンタジー」作品と、そのこれから

『鬼滅の刃』『約ネバ』『呪術廻戦』『チェンソーマン』……新たなる黄金期を告げた10年代のジャンプ「ダークファンタジー」作品と、そのこれから

1968年に「少年ジャンプ」として刊行が開始され、1969年より現在の週刊スタイルとなった「週刊少年ジャンプ」における、ダークファンタジー作品の歴史を追っていく本連載。

第一回ではジャンプ作品におけるダークファンタジーの特色としてバトルマンガ的要素が融け合っていることからそれぞれの源流を紐解き、80年代の作品について語ってきました。

車田正美・『ジョジョ』・『BASTARD!!』……青年誌的な攻めの姿勢も見られた、80年代のジャンプ「ダークファンタジー」作品

車田正美・『ジョジョ』・『BASTARD!!』……青年誌的な攻めの姿勢も見られた、80年代のジャンプ「ダークファンタジー」作品

2020.09.19

第二回ではその流れの中から、原作を持った西洋ファンタジーや中華ファンタジーで人気となった作品、また冨樫義博作品とダークファンタジーそのものの魅力を手繰っていきました。

『ダイの大冒険』・『封神演義』・冨樫義博作品……キャラクターの魅力が花開いた、90年代のジャンプ「ダークファンタジー」作品

『ダイの大冒険』・『封神演義』・冨樫義博作品……キャラクターの魅力が花開いた、90年代のジャンプ「ダークファンタジー」作品

2020.10.26

第三回目では、それまでの要素を取り込みながらもそれぞれに独自の要素を取り入れ、00年代から今なお熱狂を生み続け『ジャンプSQ.』創刊の礎ともなった作品を見てきました。

『BLEACH』『マンキン』『Dグレ』『ムヒョロジ』……「ユルさ」や「スタイリッシュさ」が新風を吹き込んだ00年代のジャンプ「ダークファンタジー」作品

『BLEACH』『マンキン』『Dグレ』『ムヒョロジ』……「ユルさ」や「スタイリッシュさ」が新風を吹き込んだ00年代のジャンプ「ダークファンタジー」作品

2020.11.21

最終回となる今回は、ジャンプの新たなる黄金期と言っていい時代を代表する四作品を中心に語っていきます。

文 / 兎来栄寿


はじめに:2010年代のダークファンタジーの「巨人」

2010年代のジャンプのダークファンタジーを語るにあたっては、2009年より連載が開始された『進撃の巨人』について触れねばなりません。

最初はジャンプ編集部にも持ち込まれたものの、「“ジャンプ”(に載っているような作品)を持って来い」と一蹴されたという逸話は有名です。その後、丁度ダークファンタジー系統の作品を多く載せることがひとつのコンセプトとしてあった「別冊少年マガジン」が講談社から創刊される時期だったことは作者・諫山 創の幸運でしょう。『進撃の巨人』はその後、講談社では『金田一少年の事件簿』に次いで二作品目となる累計発行部数一億部を突破する超人気作品となります。当時は売上において圧倒的な一強だった『ONE PIECE』にも迫る勢いで世界的にも人気を博しました。

『進撃の巨人』のルーツとなる作品として諌山がアドベンチャーゲーム『マブラヴ オルタネイティヴ』の名前を挙げているのも特筆すべきことでしょう。それまでのマンガ史の系譜上にはない領域からインスパイアされて生まれた異端児が覇権を握った。この『進撃の巨人』というひとつの大事件によって、ダークファンタジーというジャンルは塗り替えられると共に隆盛を極めていきます。

2010年代後半に大きく花開くジャンプ作品に対しても『進撃の巨人』の影響は甚大でした。2011年から2018年にかけて「週刊ヤングジャンプ」で連載された『東京喰種』や、『チェンソーマン』の藤本タツキの前作『ファイアパンチ』なども含め、「人間が食べられる」というモチーフはひとつのトレンドとなっていきました。人間が被食者になるという状況には、現実では味わい難い恐怖と魅力が存在します。

その辺りも踏まえつつ、各作品を見ていきましょう。

「ジャンプらしさ」と『鬼滅の刃』

私たちは今、リアルタイムでマンガ史における未曾有の重大事を目撃する歴史の証人となっています。単行本が『ONE PIECE』を超える勢いで1年強で約1億冊売れる。劇場版アニメも『千と千尋の神隠し』が築いた興行収入308億円という歴代最高記録を更新。ここまで凄まじい作品はもはや今生では拝めないかもしれないという勢いです。

『鬼滅の刃』がどれだけ素晴らしい要素を持っているかについては、以前の記事でも一端を紹介していますので今回は深くは語りません。

【ネタバレ有】『鬼滅の刃』“最も哀しき鬼”の魅力とは? マンガソムリエと紐解く

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2020.06.15

デビュー作を含む連載前の初期短編を収録した『吾峠呼世晴短編集』を読めば、吾峠呼世晴という作家の本質が見て取れます。正に「ダーク」であり、一見ジャンプ本誌向きではありません。普通であれば「ジャンプSQ.」などで描くことを薦められそうなものです。しかし、この作者をあくまで「週刊少年ジャンプ」で連載させようとしたところにジャンプの凄みがあります。

連載を獲得するため試行錯誤していた吾峠呼世晴に対して、担当編集(当時)の片山氏は『鬼滅の刃』の前身となった『過狩り狩り』という原点作品に立ち返らせたそうです。『ONE PIECE』は「海賊」、『NARUTO』は「忍者」といったように、「歴代のヒット作は、みんなが知っている要素を使って新しいものを創り出している」ということを踏まえて、「吸血鬼」「刀」「大正」というモチーフが抽出されました。
更に、主人公の炭治郎は前身である『鬼殺の流』では脇役であったものの、より「普通の人の目線」から物語を追えるようにと、『鬼滅の刃』では彼が主人公として据えられたことが明らかにされています(※)。結果として、家族を殺された少年の仇討ちというシンプルで明快な設定となりました。

ある程度のグロさのある描写も『進撃の巨人』が人口に膾炙したことでその許容範囲が拡張された感があり、それによって作家性を薄めることなく濃厚なドラマを紡ぐことができた部分もあるでしょう。

なお、吾峠呼世晴は連載第一回でも取り上げた『ジョジョの奇妙な冒険』が好きだそうです。吸血鬼と戦うために“呼吸”の修行によって強くなるところや、人間がたとえ死しても技や想いを継承して戦う様には『ジョジョの奇妙な冒険』のオマージュを感じます。

また、『鬼滅の刃』のシリアスなダークファンタジーとしては極めて異端な部分として、ラストバトルの時ですらも随所で繰り出されるギャグが挙げられますが、『銀魂』完結時のジャンプ巻末コメントで「ジャンプに漫画を送るきっかけは銀魂でした」と語るほどに吾峠呼世晴が『銀魂』の大ファンであることを踏まえると非常に納得がいきます(なお、『銀魂』の立ち上げ編集である大西氏は吾峠呼世晴の新人賞受賞時の担当編集でもあります)。

必殺技の表現や、“柱”や“十二鬼月”といったキャラクター作りも従来のジャンプバトルマンガの設定を踏襲しています。

吾峠呼世晴というそのままではエッジが利きすぎていた原石を、ジャンプの歴史が培ってきた方法論で研磨して子供から大人まで楽しめるように完成させた奇跡が『鬼滅の刃』である。そんな風に見ることもできるでしょう。

『進撃の巨人』を「“ジャンプ”でない作品」として弾いた一方で、『過狩り狩り』を見事なまでに「“ジャンプ”な作品」にしてみせた。そして、出版不況と言われる時代にあって空前の大ヒットを生み出した。これは、「週刊少年ジャンプ」の歴史上でも最大級の「勝利」なのではないかと思います。「ジャンプらしく」あること……ジャンプが培ってきた作品作りのロジックが、最大公約数を取り込むという意味において今なお正しい戦略なのだと証明してみせたのですから。

※【インタビュー】『鬼滅の刃』大ブレイクの陰にあった、絶え間ない努力――初代担当編集が明かす誕生秘話 (ライブドアニュース)参照。
https://news.livedoor.com/article/detail/17760339/

生存と信念をかけた頭脳戦『約束のネバーランド』

今月から連載完結記念として原画や制作時の資料などを展示する「約束のネバーランド展」が開催され、更に実写映画版も公開されて注目度が一段と上がっている『約束のネバーランド』。

2004年から2006年にかけて連載された『DEATH NOTE』は、「ジャンプらしくない、しかし圧倒的に面白い作品」として一世を風靡しました。ダークで緻密で濃厚な頭脳戦をバトルマンガではない形で楽しめる内容は、その後の作品にも大きく影響を与えました。

『約束のネバーランド』は、2010年代の『DEATH NOTE』のような存在として登場しました。閉じた世界の中で子供が容赦なく異形に捕食される様子や謎が謎を呼ぶ秘密に満ちた世界観は、『進撃の巨人』の影響も強く感じるところです。
とりわけ最初のGF孤児院からの脱出を描いたパートのサスペンス性は凄まじく、話のテンポの良さとハラハラする駆け引きが秀逸で、瞬く間に宝島社の「このマンガがすごい! 2018」オトコ編でも1位を獲得しました。

ストーリーはもちろんのこと、『DEATH NOTE』における小畑 健の流麗な作画が人気であったように、『約束のネバーランド』でもまた作画を担当する出水ぽすかが生み出す美麗なヴィジュアルが輝きを放っていました。生物も風景も、単体でずっと眺めていたくなる魅力があります。
イラストレーターとしても活躍する出水ぽすかの画風も当初「ジャンプっぽくない」と言われていましたが、連載を重ねていくと目に見えて画風が変化していきました。それは、本人曰く『鬼滅の刃』や『ハイキュー!!』など同じジャンプ連載作品に無意識の内に影響を受けていたということです。

賛否両論がありますが、『約束のネバーランド』はストーリー的にもある程度進むとジャンプの型に当てはまる形の展開となっていきます。最初期には無かったバトル要素も付加されていき、ジャンプのバトルダークファンタジーの正道へと接近していくようになります。
元々、原作者の白井カイウの300ページのネームから始まったという本作はその時点ではもっともっと陰惨な方向性だったそうで、ただそれはジャンプには合わないと判断されて現在の形になったそうです。「もしも連載が青年誌であったなら、この展開はもっとリアルでハードな方向に舵を切っていたのかな、より高度で複雑で政治的な展開も見たかったな」と思ったところもあります。

ただ、今年迎えた完結は非常に美しいものでした。少年マンガの王道を往く、最後の最後まで自分の信念を曲げず太陽のように仲間たちを照らして困難に挫けず戦い続けたエマの在り方は、ジャンプ主人公として極めて正統なものでした。

「ジャンプっぽくない」とされていた作品も、連載中に他作品から刺激を受けながら、ライバル同士で鎬を削り合いながら、「ジャンプ」へと成っていく。その過程もまた「ジャンプ的」です。

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