Interview

山崎育三郎 新作は森山直太朗が手がけた、シンプルにして雄弁なバラード。さまざまな縁とタイミングが生み出した一曲について訊く

山崎育三郎 新作は森山直太朗が手がけた、シンプルにして雄弁なバラード。さまざまな縁とタイミングが生み出した一曲について訊く

最初から最後まで聴こえてくるのはピアノとボーカルだけ。硝子細工のように繊細で透明感のあるピアノの音色に続いて、耳にそっとすべり込んでくるやわらかな声。その二つが時に離れてみたり、寄り添ったり、熱を帯びたり、静かに深く響き合ったり……。山崎育三郎の新曲「君に伝えたいこと」は、そんなシンプルでありながらとても雄弁なバラードだ。
世界中で人の行動のみならず気持ちまでさまざまに制限されることになった2020年。そんな日々のなか知らず知らずのうちにささくれだった心を潤してくれるのは、こういう曲なのかもしれない。

取材・文 / 前原雅子 撮影 / 森崎純子


今年は自分の大事な人、大事なことを脅かされることが多かったので、そういったことにも繋がる歌にしたいという想いはありましたね

山崎育三郎 WHAT's IN? tokyoインタビュー

「君に伝えたいこと」は作詞作曲を森山直太朗さんが手がけた曲ですが、これはNHK連続テレビ小説『エール』での共演がきっかけになったそうですね。

そうです。ただその前に僕のラジオ番組(ニッポン放送『山崎育三郎のI AM 1936』)に出演してくださって。そのとき「ちょっとやってみない?」と言われて直太朗さんが弾くギターにあわせて「さくら」をセッションしたんですけど、すごくいいハーモニーが作れて。『エール』の控え室でもそのときのことで話が盛り上がって、「一緒に音楽を作りたい」ってところからトントン拍子に話が進んでいったんです。

「さくら」はおばぁちゃんにリクエストされてよく歌っていたと、以前おっしゃっていましたね。

そうです、そうです。岡山に帰ると、おばあちゃんに「さくら」と氷川きよしさんの「箱根八里の半次郎」の2曲をマストでリクエストされるんで(笑)。また「さくら」は高校生のときからずっと聴いてきたし、友達とカラオケに行くと歌ってたし、卒業シーズンになるとみんなで歌ったりもしたので、青春の1曲というか、思い出の楽曲なんですよね。

だとしたらラジオで一緒に歌ったときは。

もう本当に感動して。だってご本人が目の前でギターを弾いて歌ってくれるだけでなく、僕も一緒に歌えたわけですから。

僕の声とかイメージからいろんなタイプの曲を10曲くらい書いてくださって

新曲の「君に伝えたいこと」は、事前に直太朗さんといろいろ打ち合わせをして制作したのですか?

「こういう曲を」みたいな打ち合わせはしませんでした。直太朗さんが「まず書いてみるよ」「次から次へと浮かんでくるんだよ」って、僕の声とかイメージからいろんなタイプの曲を10曲くらい書いてくださって。

10曲?! アルバムができますね。

できちゃうと思います(笑)。それくらいいろんな曲があって。アップテンポの楽曲とか、『エール』で僕が演じた役柄をイメージしたようなキザな感じの楽曲とか、本当にいろんな楽曲があったんですけど、自分に今一番響くというか、歌いたいと思うのがこの楽曲だったんですよね。

歌詞は最初の段階から付いていたんですか。

そうですね、大まかなベースはありましたね。

直太朗さんがイメージする僕というところから新しい発見が出てきたり、いつもと全然違う楽曲が生まれてきたり

山崎育三郎 WHAT's IN? tokyoインタビュー

すると歌詞のテーマも山崎さんが伝えたのではなく。

出てきたなかで決めて、そこからブラッシュアップしていきました。せっかく直太朗さんと一緒に作るれることになったのに、最初に自分でテーマみたいなことを決めつけたくなかったので。直太朗さんがイメージする僕というところから新しい発見が出てきたり、いつもと全然違う楽曲が生まれてきたり、そういうことに興味があったので。でも今歌いたいと思うことが込められた楽曲が出てきたっていうことは、僕のなかのどっかにはあったことかもしれないですね。直太朗さんとは、いろんな話をしましたから。

「君に伝えたいこと」は2020年という年だからこそ、すごく染み込んでくる歌詞だと思いました。行きたいところに行けない、会いたい人にも会えない、ということが本当に多かったので。大事な人の最後のお別れにも行けなかったり。

そうですよね、今年、僕もいろんな別れがあって、直太朗さんにもそういうことがあって。そんなパーソナルな話もかなり深いところまで二人で話し込みましたから。なんかもう今年は自分の大事な人、大事なことを脅かされることが多かったので、そういったことにも繋がる歌にしたいという想いはありましたね。とにかく聴く人に寄り添える歌詞にしたいって、ずっと思ってました。

また包容力のあるボーカルが一対一で伝わって来る感じもしました。

ボーカルに関して、それは一つテーマでしたね。今回はいつもの歌唱と違うところに挑んでみたいという想いがあったので。直太朗さんにも「家のソファで一人ぼっちでポツポツしゃべるような感じを目指して欲しい」と言われて。これまでは大きな劇場で、自分の声や空間を相手に届けるようにってことでやってきてたんですけど、この楽曲ではそうじゃないところに挑んでみようってとこでスタートしました。

この曲はもっと個人的な自分との会話というか、自分の想いに寄り添いつつ聴いてもらいたい楽曲

平たく言うと、いつもとは真逆なアプローチで。

音楽ってイヤホンをしたり、基本的には一人で聴くじゃないですか。その感じだと思ったんです。ずっと僕がやってきてたのは一対一の関係ではなく、一人対二千人の関係で。だからといって一対一で聴いているときに二千人の圧でこられてもねぇ(笑)。ミュージカルやオペラが苦手な人のあるあるですよ。♪オオゥ~とかやられたら「うわー、重いー!」みたいな。でもこの曲はもっと個人的な自分との会話というか、自分の想いに寄り添いつつ聴いてもらいたい楽曲だから。

空間にふさわしいアプローチってありますよね。

そうなんです。逆に舞台のときは一対一のアプローチじゃ何も伝わらないんですよ。僕はずっと「一対一はやっちゃいけない。伝わんないぞ」っていうところで育ってきたので、今回のようないつもの逆のアプローチは難しさもありましたけど、すごく新鮮でもあって。やっぱり場によって表現は変わりますよね。よく言うんですけど、僕はバスガイドさんと一緒だと思ってて。10人くらいの人数だったら「皆さん、ここが○○です」って普通の会話のようなトーンでいいんです。それが30人になると「皆さん! ここが○○です!」、50人になったら「皆さん!! ここが、○○ですー!!」、100人になったら「皆さーん!!!!! ここが、○○ですー!!!!!」ってなってくるんですね。そういう空間や人数を自分がどういうふうに感じるかが表現の幅だと思うので。それが500人の会場なのか、1000人なのか、2000人なのか、一対一なのかっていうのが表現するうえでの僕の基準ですね。

それが今回は一対一での表現方法に。

そうですね。後半はちょっと解放してきてるんですけど、初めのアプローチとしては普段の会話を意識したところがありますね。

今回、ピアニストはどうしようという話になったとき、直太朗さんも僕も紺野さんの名前を出したんです。そういうことにもすごく縁を感じますね

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またピアノのみのアレンジになっているので、よりボーカルがまっすぐ伝わってくるように思いました。

楽曲ができたときは弦楽器を入れて壮大に、という案もあったんです。でもそれだと今まで自分がやってきた感じになってしまうので。そうじゃなくて、もっと個人的な、もっとパーソナルな部分が見えるような等身大の自分で、と思ったときにピアノ1本で勝負したほうがいいんじゃないかと。ピアノと「せーの」の一発録りをしようと。真剣勝負みたいなところで誠実に挑んでいこうっていうことでピアノのみのアレンジになりました。またこのピアニストさんとも実はすごく縁があって。紺野紗衣さんという方で、直太朗さんも20代の頃から仕事をされてて。僕は98年のミュージカルデビューのときにご一緒したんですけど。今回、ピアニストはどうしようという話になったとき、直太朗さんも僕も紺野さんの名前を出したんです。そういうことにもすごく縁を感じますね。

そういうピアニストの方と同じ空間で一発録音というのも感慨深いですね。

僕はミュージカルという生の演奏でやってきたので、その緊張感がすごく好きというか。先にオケを録って、そのあとで歌を録るやり方より、やっぱり演奏する人と一緒に録るライブ感のほうが燃えるんですよね(笑)。

間違えちゃいけないという緊張感もあるんでしょうけど。

その緊張感も含めて、その瞬間にしか出せない色っていうのは絶対あると思ってて。今回も伴奏というよりは、楽曲の世界観に溶け込むような演奏で。自分が表現した空気感とか歌詞の内容みたいなところに、それこそ寄り添ってくださる演奏なので。

『エール』の佐藤久志として歌った楽曲ですね

そしてカップリング曲の「栄冠は君に輝く」ですが、これも『エール』つながりの楽曲で。

これは『エール』で僕が演じた久志が立ち直る大事なシーンで歌った楽曲なんです。実は今年、古関裕而さんの母校の吹奏楽部の学生と福島でこの楽曲をコラボするという企画がNHKの番組イベントであったんですけど、コロナでなくなってしまったんですね。そしたら学生が自主的にリモートで演奏を録って僕に送ってくださったんです。そういう経緯もあって、今回できなかったことを何かの形にしたいと思ったんですね。かたや甲子園が100年以上の歴史で初めて中止になって。僕はずっと野球をやってたんで甲子園は毎年楽しみにしてたんですけど。でも一番は学生のみんなと一緒にやりたかったということだったので、これはもう『エール』の佐藤久志として歌った楽曲ですね。

吹奏楽部の皆さん、喜ばれたでしょうね。

はい。なおかつ古関さんの母校の小学校の合唱団も入ってくれて。レコーディングは緊急事態宣言の頃で、僕が福島に行くこともできなかったので、吹奏楽部のみんなでレコーディングしていただいて、小学生のみんなも体育館で歌っていただいて、別々に録ったものを合わせて最後に僕が歌うっていう作り方をしました。

このスタイルのボーカル、とても新鮮ですね。

佐藤久志はクラシックをやってきた役だったので、僕も音大生時代に歌ってたような発声で歌いました。そいういう引き出しも自分のなかにあるので、あんまり違和感なかったです。ミュージカルのときに近い感覚なので。

一人でポツンと劇場の廊下に座ってアカペラで歌っているところに、途中からピアノが入ってくるという。それもピアニストは別の場所にいて

山崎育三郎 WHAT's IN? tokyoインタビュー

ところで「君に伝えたいこと」のミュージックビデオも面白い作りになっていますね。

そうなんです、これも新しいチャレンジが詰まってます。今回はリップシンクの映像にしたくなくて。この楽曲の世界観は生でやるのが一番伝わるんじゃないかと思ったんです。一人でポツンと劇場の廊下に座ってアカペラで歌っているところに、途中からピアノが入ってくるという。それもピアニストは別の場所にいて、僕の声を聴きながら弾いていくという撮り方をしたんですね。

お互いに姿が見えない状態で歌って、弾いている?

そうです、僕としてはお芝居の1シーンみたいな。だからテンポもなにもかも自分の感情で歌っているので、CDの音源とは全然違う歌になってます。

実際やってみてどうでした? 面白かったですか。

面白かったですね。何回もテイクを重ねて14回くらい歌いましたけど(笑)。でもやっぱり一発で録ってるというあの緊張感と、マイクもなく誰もいないところで座って歌い続けるっていうのは、かなりの挑戦ではありましたね。

子どもとずっとプロレスしてるだけですね(笑)

ところで在宅する時間も増えた2020年だと思いますが、家で何か楽しんでいることなどありますか。

いやもう子どもと遊ぶだけです。子どもとずっとプロレスしてるだけですね(笑)。そして子どもを保育園に送って行くと、けっこうみんな『エール』を見てるみたいで、「ひさしだー! ひさし、きたー!」って子どもに囲まれるっていう(笑)。

 一人の時間ということでは、どうでしょうか。

台本覚えてるか、歌詞覚えてるか、振り付け覚えてるか、ですね。僕たちは家に帰ってからの時間にどれだけ準備できるかが勝負なんですよね。現場は準備したことをやる場というか。だから寝るギリッギリまで準備の時間なんで。また僕の場合、俳優業から歌手から舞台から、いろんなものが同時に動いちゃってるんで。やることが……。

いっぱい。

はい(苦笑)。常に明日なんだっけ?みたいな感じで追い込まれてます。この数年、ずっとそうですね。

だから僕のなかでは映像作品のほうがライブな感じがします

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覚えるのが得意なもの、苦手なもの、とかありますか?

僕、全部得意じゃないです。全部苦手(笑)。とにかく時間がかかる。メイクしながらバンってセリフを覚えられる人もいるんですよ。「はいっ、覚えたー!」って。嘘だろ……!みたいな。そういう瞬発力、ないんですよね。舞台で育ってきてるから、1ヵ月とか2ヵ月とか稽古して時間をかけて相手とやりとりしながら体に入れるやり方なんで。瞬発的にっていうのが最初は苦手でしたねー。いや、今も苦手か(笑)。だから僕のなかでは映像作品のほうがライブな感じがします。初めて会った人と、すぐさまお芝居することも多いので。

でも覚えるのに時間がかかるということは、家にいる間は。

大変ですね。声を出さないと覚えられないんで、家族が寝てる夜中は車の中でセリフを覚えることもあって。公園で車を停めてやってたら、警官に「なにやってるんですか?」って職務質問されましたからね。免許書を見せたら「あ~。いつも見てます。頑張ってください」ってことになったけど、その前はめっちゃ怖かったー(笑)。

その他の山崎育三郎の作品はこちらへ。

INFORMATION

ミュージカル「モーツァルト!」
ヴォルフガング・モーツァルト 役
(Wキャスト)

2021年4・5月 帝国劇場(東京)
2021年5・6月上旬 札幌文化芸術劇場hitaru(札幌)/ 梅田芸術劇場メインホール(大阪)

「LIVE SDD 2021」
開催日時:2021年2月13日(土) 開場13:30/開演14:30
会場:大阪城ホール
観覧応募:fmosaka.net/sdd

山崎育三郎

俳優、歌手。1986年1月18日生まれ、東京都出身。A型。
2007年、ミュージカル『レ・ミゼラブル』のマリウス役に抜擢。以降、ミュージカル俳優として活動。2015年、ドラマ『下町ロケット』(TBS系)真野賢作役で、一躍注目を浴び、ドラマ『あなたのことはそれほど』ではミステリアスな同僚を演じるなど幅広い演技をみせ、個性派俳優として活躍。2017年7月期には金曜ナイトドラマ『あいの結婚相談所』(テレビ朝日系)主演藍野真伍役を演じ、更に8月16日に自身初めてのオジリナルシングル「Congratulations / あいのデータ」をリリース。
2018年10月期ドラマ10『昭和元禄落語心中』(NHK総合)では、天才落語家助六役を演じ、『第14回コンフィデンスアワード・ドラマ賞』助演男優賞。
2020年ドラマ『エール』(NHK)、『私たちはどうかしている』(NTV系)に出演し、2021年4月からミュージカル『モーツァルト!』で主演・ヴォルフガング・モーツァルト役で出演予定。

オフィシャルサイト
http://www.ken-on.co.jp/1936/

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