LIVE SHUTTLE  vol. 432

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奥田民生 どんな環境でも発信し続ける“音楽愛”。有観客&生配信のライブツアー『ひとり股旅 2020』の最終日を振り返る

奥田民生 どんな環境でも発信し続ける“音楽愛”。有観客&生配信のライブツアー『ひとり股旅 2020』の最終日を振り返る

仕事場のスマホの前で開演を待っている。この時期に『ひとり股旅』が見られるのはありがたい。ステージには奥田民生が一人だけ。奥田の歌を“1対1”の感覚で楽しめるのだ。人と人との距離の置き方や会話が難しい状況の中、奥田は『ひとり股旅』という最もパーソナルなライブ方法を選んだ。僕はそのことに特別な意味を感じる。

今年は数多くの配信ライブが行われてきた。以前は会場に入りきれないオーディエンスを対象にしたパブリック・ビューイングで、貴重なライブを体験することはあった。だが今年は観客を入れてのライブが禁止になってしまったので、無観客でのライブをするしかなかったから、自然と配信が多くなった。その後、キャパシティの半分だけ観客の入場が許可された後もこのやり方は継続され、いろんなアーティストが半分の観客に生で直接パフォーマンスを披露しながら、配信でも楽しめるよう工夫したライブが行われるようになった。

なかでも奥田は、彼らしくユニークなスタイルでの生&配信ライブを選択。間もなくそれが始まる。“開場時間”が来たのでアクセスしてみると、奥田が早速、収録映像で登場。最新リリース作品『カンタンバーチャービレ』(Blu-ray & DVD /11月11日発売)をみずから解説してくれる。もし会場にいれば開演前のザワザワ感が楽しめるのだが、こうしたサービスがあれば配信でも淋しくない。

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そうこうしているうちに、頭にきりりと手拭いを巻いたいつもの“ひとり股旅ユニフォーム”でステージに現れた。「はい、奥田民生です。よろしくお願いします」と挨拶して、椅子に座ってアコギを抱える。1曲目は2000年リリースの名盤『GOLDBLEND』収録の「近未来」だ。歯切れのいいR&Rのリズムが気持ちいい。

2曲目は、これも名盤『OTRL』(2010年)からの「解体ショー」。ライブで公開レコーディングするツアー「ひとりカンタビレ」から生まれた傑作だ。歌詞は「ひとりカンタビレ」のコンセプトにもなっている。その後、奥田は宅録DIYレコーディングプロジェクト「カンタンカンタビレ」など、オリジナルな表現方法を作り出していくが、その発端になった1曲と言ってもいい。

「今回はいろんなことがありまして、もともとは別のツアーになるはずでした。でもこのライブができてよかったです」と奥田はさらりと感謝を述べる。世界中のミュージシャンが困難な状況にあることを踏まえての発言だと考えられる。本当に心の強い人だ。その“優しい強さ”が、会場を引っ張っていく。3曲目「何と言う」では、Zepp Tokyoの最前列に応援キャラクター“ハバレロくん”が登場。薄い素材でできたバルーン状の人形を、エア・コンプレッサーで動かしているのだろう。ぐにゃぐにゃした動きがユーモラスで楽しい。「今回、皆さんが声を出せないし、立って暴れられないので、代わりにやってもらってます」と奥田がハバレロくんを紹介すると、フロアから笑いと拍手が起こった。

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6本のツアーで、セットリストは毎回変わる。「配信もあるので、何をやるのかバレバレ。なので、1曲目だけ全箇所変えました」と奥田。だが、見ている方としてはその反対で、毎回違うから配信する意味があるのだと思う。実際、1曲目どころか、半分以上異なる曲で構成されていて、毎回、絶妙な流れを持ったセットリストが生まれる。

「その日その日で適当な曲をやってきましたけど、久々に歌ったら『これ、いいね』っていうのもあったんだよ。このご時世に、やってみます」と言って歌った「カイモクブギー」は、まさにその通りだった。♪あたりまえみたいな顔してろ でないと今をのりきれないぞ♪というリリックは、明日がまったく見通せない今の時代にどう対処するのかを歌っているように聞こえたのだった。

圧巻だったのは奥田民生50祭のテーマソング「私はオジさんになった」だった。その前に歌ったユニコーンのEBIの50才を祝う「TAIRYO」からの流れで浮上したこの曲について、「あんまり曲を作らなくなってきたけど、最近作った中で気に入ってるのがあって、それを歌います」とコメント。50才になって生活を新しくする宣言の歌かと思ったら、♪するわきゃない♪と全否定。これまでつちかってきた音楽作りを貫く決意を逆説的に訴える。痛烈で痛快な歌は、配信を通してでもグサリと刺さるものがあった。

ここでライブは休憩をはさむ。その間は“ラーメンカレーミュージックショッピング”のコーナーで、奥田が物販を収録映像で紹介する。奥田の3DモデルにTシャツを着せたり、とにかく画面に情報があふれ、インターバルにも手がかかっていて飽きさせない。

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その精神はステージ演出にも表れる。第2部で再登場した奥田は、ステージの後ろに、クロマキー合成のためのグリーンカーテンを降ろし、パソコンの前に座るとスイッチを入れる。するともうひとつのスクリーンに合成画面が映し出された。この場で『カンタンバーチャービレ』をリアルで見せようというのだ。

奥田は最近の状況を逆手にとって、テレワークでゲストとトークや演奏をする『カンタンテレタビレ』や、バーチャル背景で演奏する『カンタンバーチャビレ』など、新しいやり方を開発。そのチャレンジ・スピリットは尊敬に値する。どんな環境でも発信し続ける“音楽愛”が、奥田の最大のモチベーションなのだ。同時に、そうした新しい音楽の伝え方の現場を公開することで、音楽ファンとの距離を近づけようとする。コンピュータを使えば何でもできると思い込みがちな世情に対して、秘密をまったく持たず、安心して音楽を楽しんでほしいのだ。

奥田は現状を予想して『カンタビレ』を発明したわけではない。音楽愛が生んだ表現の多様性が、この時代に負けない活動を実現させた。どちらかと言えば“脱力”のイメージがある奥田だが、実はエネルギッシュでチャレンジングなアーティストなのである。

第2部で奥田はエレキギターを持つ。リズムトラックを録音したテープをレコーダーで再生し、それに合わせてロックをガンガン奏でる。「悪い月」「サテスハクション」「トキオドライブ」と、大音量で飛ばしまくる。第1部とはまったく違う『ひとり股旅』だ。

かと思うと「やるたびに下手になる」とボヤいて始まった「Paradise Has No Border」は、東京スカパラダイスオーケストラの代表的インスト曲のカバー。奥田はスライドホイッスルを手に、難曲に挑む。最後に音程が怪しくなったところで、全てを吹き終わった。実はこの曲、『カンタンバーチャビレ』に収録されていて、全楽器を奥田が演奏する力作だ。その宣伝も兼ねて演奏したわけだが、まったく別の面白さが生まれていて得した気分になった。「たぶん最初にやったのが、いちばんうまかったです。見逃し配信で見てください」と奥田。

エレキを置いた奥田は、元の位置に戻ってアコギを抱える。

「こんなヤツを6本ほどやりましたけど、この先、どうなるかはわかりません。バンドのツアーも決まりましたし、皆さんも覚悟していただいて、またよろしくお願いします」。この日、奥田のソロのバンド“MTR&Y”の来年のツアーが発表になった。これも生&配信になる。少しずつ活動を取り戻すしかないが、奥田はオーディエンスとともに音楽を楽しむ日々を待ち望んでいる。

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この夜の本編ラストは「すばらしい日々」と「さすらい」の大ネタ2連発。どちらの曲もキーはEで、奥田も最も得意とするギターのコードストロークが冴える。Eはギターがいちばん力強く鳴るキーなのだ。だから歌も深く響く。このレポの最初に“この時期に『ひとり股旅』が見られるのはありがたい”と書いたが、その真価が発揮された2曲だった。

鳴り止まない拍手に、奥田はその場で「アンコール、ありがとう」と応える。「いろいろやってみますんで、よろしくお願いしますね。なんなら配信の人の方が、お酒呑んだりして、これはこれで面白いと思いますので」。

最後の曲は「イージュー★ライダー」だった。この曲のキーはAで、これもまたギターがよく鳴るキーだ。奥田は確信を持ってギターの弦にピックを当てる。ライブの最終盤なのに、歌声はますます太かった。

この秋のはじめに、奥田と話す機会があった。その際、奥田は「ライブの体力って、別モノなんだよ。これだけライブをやっていないと、ライブの体力が相当落ちてると思う」と語っていた。走り込んだり、筋トレをどれだけしても、“ライブの体力”の強化にはならないという。一方で、「四十肩になって、腕が上がらなくなっちゃったことがあって。でもユニコーンツアーの初日に、舞台に出て最初に『イェー!』って両手を上げたら、治っちゃった(苦笑)」。それほどライブはアーティストにとって特別で大切な行為なのだ。そして、奥田のライブの体力は見事に保持されていた。

奥田こそ、シーンでいちばん音楽を楽しんでいる男だ。ツアー最終日のステージを見て、ますますその思いを深くしたのだった。

文 / 平山雄一 撮影 / 三浦憲治

奥田民生 ライブツアー『ひとり股旅 2020』
2020年11月25日 Zepp Tokyo

セットリスト

1部
SE:ブルームーンギャラクティカ
01.近未来
02.解体ショー
03.何と言う
04.羊の歩み
05.股旅(ジョンと)
06.カイモクブギ―
07.TAIRYO(UNICORN曲)
08.私はオジさんになった(UNICORN曲)
09.車も電話もないけれど(UNICORN曲)
-休憩-
2部
10.悪い月
11.サテスハクション
12.トキオドライブ
13.Paradise Has No Border(東京スカパラダイスオーケストラ曲)
14.最強のこれから
15.KING of KIN
16.すばらしい日々(UNICORN曲)
17.さすらい
ENCORE
En-1.イージュー★ライダー


プレイリストはこちら!
https://okudatamio.lnk.to/20201125
【見逃し配信】配信終了約1時間後~1週間後23:59までお好きな時間に何度でもご覧いただけます。

ツアー「ひとり股旅2020」各地のライブ映像から1曲をチョイスしYouTubeで随時公開中!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLJUYLQualGBjB3Y7a-rfW5f7cJoA23JuB

ライブ情報

全国11か所をまわる、バンド編成(MTR&Y:奥田民生・湊雅史・小原礼・斎藤有太)でのツアー開催決定!
奥田民生『MTRY TOUR 2021』

『MTRY TOUR 2021』特設サイト
https://okudatamio.jp/special/mtry2021/

1月31日(日) 【山梨】YCC県民文化ホール(山梨県立県民文化ホール)
2月5日(金) 【北海道】カナモトホール(札幌市民ホール)
2月8日(月) 【東京】昭和女子大学 人見記念講堂
2月11日(木/祝) 【宮城】東京エレクトロンホール宮城(宮城県民会館)
2月13日(土) 【群馬】ベイシア文化ホール(群馬県民会館)
2月15日(月) 【岡山】倉敷市民会館
2月16日(火) 【福岡】福岡市民会館
2月18日(木) 【兵庫】神戸国際会館 こくさいホール
2月20日(土) 【静岡】富士市文化会館 ロゼシアター
2月23日(火/祝) 【長野】上田市交流文化芸術センター サントミューゼ
2月26日(金) 【東京】府中の森芸術劇場 どりーむホール

※政府が定めた収容率制限内での開催。(開催月時点)
※新型コロナウイルス感染予防対策を万全にした公演を行います。
※公演ガイドラインは『MTRY TOUR 2021』特設サイトをご覧ください。

奥田民生

1965年広島生まれ。1987年にユニコーンでメジャーデビューする。
1994年にシングル「愛のために」でソロ活動を本格的にスタートさせ、「イージュー★ライダー」「さすらい」などヒットを飛ばす。また井上陽水とコラボ作品を発表したり、PUFFYや木村カエラのプロデュースを手がけたりと幅広く活躍。
バンドスタイルの「MTR&Y」、弾き語りスタイルによるライブ「ひとり股旅」や、レコーディングライブ「ひとりカンタビレ」、YouTubeで繰り広げる宅録スタイルのDIYレコーディングプロジェクト「カンタンカンタビレ」など活動形態も多岐にわたる。
さらに世界的なミュージシャンであるスティーヴ・ジョーダン率いるThe Verbsへの参加、岸田繁(くるり)と伊藤大地と共に結成したサンフジンズ、斉藤和義・トータス松本ら同世代ミュージシャンと結成したカーリングシトーンズの一員としても活躍している。
2015年に50歳を迎え、レーベル・ラーメンカレーミュージックレコード(RCMR)を立ち上げ、2019年にソロ活動25周年を迎えた。
現在はテレワークでゲストと繋がりトークや演奏を繰り広げる『カンタンテレタビレ』やバーチャル背景で演奏する『カンタンバーチャビレ』などをYouTubeにて次々と公開している。

オフィシャルサイト
https://okudatamio.jp

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