
楽しいはずのクリスマス・イヴ。ところが、突如東京で連続爆破テロ事件の犯行予告が…。犯人の狙いは何か? そもそも予告は本当なのか? さまざまな謎が交錯する中で、危機意識のない人々が渋谷に集まってくる。そして、悲劇は起きた──。
「アンフェア」シリーズの原作者であり、脚本家や映画監督としても活躍する秦建日子のクライムサスペンスを、「SP」シリーズや「コールドケース」シリーズの波多野貴文監督が映像化。佐藤浩市、石田ゆり子、西島秀俊ら豪華キャストによる重厚な芝居によって、ノンストップ・サスペンスエンターテインメントに昇華された。コロナ禍という危機と隣り合わせの2020年末、本作は現実世界に何を投げかけるのか? 現場を振り返ってもらいながら、映画と現実の境界線をたゆたう中で感じたことを語ってもらった。
取材・文 / 平田真人 撮影 / 斎藤大嗣
朝比奈という人物ができるだけウェットじゃない見え方だといいなと思っていた。(佐藤)

お三方が演じられた人物はそれぞれに積年の思いであったり“大義”を抱えていますが、そのマインドをどのようにしてご自身の中に染みこませていったのでしょうか?
佐藤 あまり背景的な部分を丁寧に描くことで成立する映画ではないんですよね。タイムレス──時差なく物語が進行していく非常に短いスパンの中で展開していく、スピード感のあるエンターテインメントなので。もちろん各人物たちに背景的なものはあるんですけど、それを克明に見せるという手法ではない中で、できるだけ朝比奈の人物像──上司にあたる人間であったり、家族との見え方がウェットじゃない方がいいな、と。おそらく波多野さんも同じ思いだったのではないかと思っているんです。
確かに、感情が揺れ動いてもおかしくない場面でも朝比奈は動じないですね。
佐藤 そうですね。クライマックスでの電話も、「じゃあ、また明日の朝な」という感じの会話のキャッチボールでね。変にベタつかせたくなかったんです。それがお客さんにどう伝わるか。逆に裏の思いを感じてもらえるかどうかは、我々の勝負どころなんですけどね。
石田 私の役の場合は、表に出せる部分と伏せておかないとならない部分があって。そこを計算してお芝居するのが難しかったです。とはいえ、99分のエンターテインメント映画として、自分としても面白く演じたいという気持ちもあったので、考えすぎて、自己満足的な芝居になるのもよくないような気もしていて。その狭間で、最適解な芝居を探していたという感じでした。

西島 準備稿では僕が演じた世田の過去が描かれていたので、それが芯として自分の中にはありました。決定稿で全部カットされましたけど(笑)。ただ、僕の中では世田の過去がクリアになっていたので、そのシーンを撮り終えたつもりで現場に入っていったという感じでした。人物の背景がいっさいなく99分のサスペンスにシフトしているんですけど、世田に関しては結構、背景のヒントとなるものがたくさんありましたし、監督から「みんなが油断している中、世田だけはテロ事件の犯人の本気を感じとって、捜査に向かっている」という提示もあったので、それを携えながら僕は演じていました。

お話をいただいた時、どういう印象を抱かれたのでしょうか?
佐藤 先に原作を読んでいたんですけど、脚本も世界観は一緒ながら“スタイリング”を少し変えた映像になったなぁという印象でしたね。ただ、役の設定がだいぶ原作とは違っていたので、映画版の朝比奈仁というキャラクターだと割り切って受け止めました。あとは(波多野貴文)監督と「戯曲の上では成立するけど、三次元で成立させるにはどういうふうに持っていくか?」といった部分の話をしました。
石田 原作と脚本を同時にいただいたんですけど、私はまず「どうやって映像化するんだろう?」と素直に思いました。今まで携わったことのないようなタイプの映画で、波多野監督とも初めてでしたし、こういう作品に私を呼んでいただけたのを不思議に思っていました。
西島 波多野監督とは『オズランド 笑顔の魔法おしえます』(18)という映画でご一緒しましたけど、どちらかというとアクションやサスペンスを得意とされているのかなという印象があって。今回は、監督の真骨頂と言える作品に呼んでいただいたので、その現場を拝見したいという思いで参加させていただきました。
その波多野組での撮影はいかがでしたか?
佐藤 ウェットかドライかで言うと、後者ですよね。だからこそ、戯曲ではなく映像で見せていくという表現が成立するのだろうな、と。

西島 そうですね、確かにザラッと乾いた手触りのテイストがお好きなんだろうな、と。そういう意味では、波多野さんの撮りたいものが明確に出ていたと思いましたし、何しろ撮影のペースが速かったですね。なので、こっち側も素速く芝居を組み立てていかないと、どんどん撮影が進んでいっちゃうので、それが結構大変でした。予想していたよりも全然速いんですよ(笑)。
佐藤 今はちょっと撮影を止めて、膝を突き合わせて「このシーンさ、ちょっと俺はこう思うんだけど…」っていう時代でもないからね。スタッフのリズムもあるし、現場の状況もあるし、それに対してできるだけ自分では変なタイミングでストップを入れないようにしようと心がけていて。良い意味で大人の関係が今の現場を成立させているよね。昔は平気で現場を止める人がいっぱいいたからさ(笑)。でも、今それをやっちゃうと撮り終わらないから。そうやって時代に適合していくことも、役者の仕事ではあるのかなと。
石田 私は初めての波多野組だったんですけど、確かに(撮影のペースが)速かったですね。正直、焦りました(笑)。「え、今のテイクでいいんですか!?」って思ったりするシーンもありましたけど、「監督がOKだって言うんだから大丈夫だ!」と信じるしかなかったですね(笑)。撮影のスピードや決断が速いのは、監督の頭の中の設計図がものすごく緻密に組み立てられているんだと思いましたし。渋谷のスクランブル交差点の大規模なテロのシーンなんかまさにそうですが、力のある画を撮られる監督さんなんだと思っています。
おふたりのお芝居をもっと見ていたかったですし、もっと一緒に演じていたかったです。(石田)

お三方がご一緒するシーンというのは限られていましたが、本作をご覧になってみて、ご自身以外のキャラクターの輪郭や芯をどのように捉えられたのでしょうか?
佐藤 台本に目を通しているので話がどうなるか知っていますし、アイコ(石田)と世田の背景も知っているわけですから、キャラクターの印象というよりも、人物として整合性がとれている動きをしてくれることで期待通り三位一体になっている、というところに僕の場合は着目した感じですね。1人ひとりの印象というよりも、それぞれのパートの中できっちり歯車として嵌まったな、という印象を受けました。

石田 そうですね、1人ひとりのキャラクターという考え方はしないかもしれないです。わりと物語の世界全体をとらえるところがあって…。
西島 強いて言うなら、おふたりの関わるシーンを僕はもっと見たかったですね。それは想像で楽しむところだとは思うんですけど、浩市さんとゆり子さんの演技をもっと堪能したかったなと思いました(笑)。
石田 そうなんです、私ももっと、おふたりと一緒にお芝居をしたかったなと思いました。
佐藤 もう少し情緒的な背景を見たいなと、たぶん、みんながそう思うんじゃないかな。それが良い意味で省かれたのか、「物足りないよ!」と思われるのか…その際どいところを攻めている映画だと僕は思うんですけど、人によっては「もっと感情移入させてよ」と感じるかもしれない。演者としては、各自が何を背負って苦しんでいるのかを見てみたいですけど、監督はそれを敢えて見せないという選択をして、渋谷で起こる大規模なテロとその後の顛末をシンプルに描いている。その手法が人の気持ちの中に楔を打つのか否か知りたいな、という気もしますけどね。

なるほど。この質問をするのも野暮かとは思いますが、ご自身以外のお二方の役者としての凄みや重みというものは、どんなふうに受け止めたのでしょうか?
石田 私はお二方とも大好きな俳優さんですし、画面に出てくるだけでもっとお芝居を見たいなという思いが個人的には強かったですね。でも、監督は敢えてそうじゃない選択をされたということで…お客さんがどういうふうに受け止めるのか、そこは楽しみです。
西島 浩市さんとは過去に2回共演しているんですけど、2シーンしかご一緒していないんですよ。なので、もっとガッツリからませてもらって、いろいろと吸収したいという思いがありますよね、やっぱり。とはいえ、たとえワンシーンでも浩市さんを間近で見ていると、現場との関わり方であったり、台本からのふくらませ方だったりに「なるほど…」と唸らされたところが多くて。ある種、学びきれない大きさのようなものも感じたので、ぜひ、どなたか浩市さんと僕がガッツリからむ企画を立ててくださいと、この場を借りて言わせていただければと(笑)。
ゆり子さんとは、本当に何度もご一緒させてもらっていて、「ゆり子さんがいれば、大丈夫だろう」と全面的に信頼しています。どことなく甘えているところもあるんですけど、今回もやっぱり…さすがだなぁと思いました。それは女優さんとしてももちろんですけど、ゆり子さん自身の人間力が大きいと思うんですよね。ご本人は自覚されていらっしゃらないようなんですけど、僕は毎回「すごいな!」と思っています。
石田 えっ…そうなの!?
西島 はい。次は、そろそろハッピーな感じの役でご一緒したいですね(笑)。

石田 そう、楽しい作品がいい(笑)。なんで辛い作品ばっかりなんだろう?
西島 たぶん、悲しみを背負うゆり子さんを見たい人が多いんでしょうね。本人はすごく楽しい人なのに(笑)。
石田 そうなんですよ、重たいキャラクターじゃないのに…。
佐藤 泣き顔が似合う人なんだよなぁ(笑)。
石田 いやいやいや…できれば、この3人で何か兄妹の話とかやりたいですね。
西島 どんなストーリーが始まるんだろう(笑)。
佐藤 遺産争いだったりして(笑)。
石田 次にご一緒する機会があったら、楽しいお話で、ぜひぜひ。
たくさんの人の目に触れてもらうためにも、テキストにしておきます(笑)。
石田 はい、ぜひお願いします(笑)。
映画をご覧になった方がどう感じられるのか興味があるし、みなさんの感想をお聞きしてみたい。(西島)

実現しますように! で、話題をガラリと変えまして…危機は身近にあるものだということを思い知らされる作品ですが、みなさんはどのような意識をお持ちなんでしょうか?
佐藤 アメリカの場合は「911テロ」で意識が大きく変わりましたが、日本の場合は天災に対する危機意識は常にあるにせよ、テロに対しては頭ではわかっていても、実感としては捉えきれていないんじゃないかと。それを想定した中での『サイレント・トーキョー』という物語であるわけですけど、それがコロナ禍という危機にさらされたことで、予想外のことが日本でも起こるんだ──と認識した日本人がそれでも何割いるか、どう考えるか。ということに関して言うと、昨年に撮っていた時の意識と公開するタイミングでの意識では、我々作品を出す側も受け取る側もだいぶ変わってきたんじゃないかな、という気がします。

石田 確かに映画を撮っていた頃は、2020年の世界がこんな状況になっているとは思っていなかったので、本当に『サイレント・トーキョー』がやってきてしまった、と恐ろしくなりました。物語よりも現実の方が怖いという…。コロナ禍で、この映画を公開するとどういうふうになるのかなと想像してはいたんですけど、明日何が起こるかわからないという気持ちが今、日本人だけじゃなくて世界中の人が感じているわけじゃないですか。想像がつかない時代にあるという意識を共有している中で公開されるということで、撮っていた時の私たちの気持ちとは違うものになっていくのだろうなと、ある意味、不思議な心持ちだったりもします。
西島 まさにコロナ禍にあるわけですけど、どのくらい危機に感じているかという意識は、映画の中でも描かれているように人それぞれ違っているんですよね。そのどれもが正解でも不正解でもなくて、僕自身もクランクインする時には劇中でテロが起こるということしかわかっていませんでした。撮っていく中で色々な気付きがあるとは思っていましたが、全然わかっていなかったなということを後から思い知らされました。現実的に、今日と同じ明日が必ずしも来るわけじゃない世界になったわけですが、それでも何をどうすればいいのかはわからない、というのが現状のような気がしていて。なので、この映画をご覧になった方がどう感じられるのかすごく興味がありますし、みなさんの感想をお聞きしてみたいですね。
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フォトギャラリー
映画『サイレント・トーキョー』
12月4日(金)全国公開

出演:佐藤浩市 石田ゆり子 西島秀俊/中村倫也 広瀬アリス 井之脇 海 勝地 涼 ほか
原作:秦建日子「サイレント・トーキョー And so this is Xmas」(河出文庫刊)
監督:波多野貴文
脚本:山浦雅大
オフィシャルサイト
silent-tokyo.com
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