Interview

LUCKY TAPES 宅録・リモートで制作した新作『Blend』に込められた「BLUE」から「Happiness」に至る2020年の空気とは?

LUCKY TAPES 宅録・リモートで制作した新作『Blend』に込められた「BLUE」から「Happiness」に至る2020年の空気とは?

LUCKY TAPESが、約2年ぶりのフルアルバム『Blend』をリリースする。2018年のアルバム『dressing』以降、ゆるやかなペースで活動してきた彼らだが、今年の春以降は新曲を配信で次々リリース。コロナ渦によって生まれた制作のための時間をアルバムに注ぎ込み、レコーディングからマスタリングまですべて宅録で仕上げた新作はLUCKY TAPESの今をヴィヴィッドに伝えながら、2020年でしか生まれなかった時代の空気を含んだ音となった。自粛期間の逡巡を経て、「BLUE」から「Happiness」に至る過程をメンバー3人に語ってもらった。

取材・文 / 佐野郷子


ライヴの中止で生まれた制作時間。新曲を配信で連続リリース

去年の10月に配信で「Actor」をリリースして、秋には全国ツアーを開催。今年は本来、どういう活動をしていこうと考えていましたか?

高橋 海 当初は秋のツアーを想定して、EPかミニアルバムのリリースを考えていたのですが、コロナの影響でライヴが以前のようにできなくなり、制作する時間が生まれたのでアルバムのボリューム感で曲をつくっていくことになりました。

2020年の年明けには、新曲を4月に配信リリースすること、LUCKY TAPESの自主企画イベント「HALL #2」の開催を発表していましたね。

田口恵人 そうなんですよ。3月くらいにはなんとなくコロナが終息するような楽観的なムードもあったと思うんですが、甘かったですね。

高橋健介 結局、ライヴは中止になってしまいました。

 楽しみにしていた「ブルーノート名古屋」の公演はハコ自体がなくなってしまった。とはいえ、もともとライヴスケジュールが沢山入っていたわけではないので、ライヴをよくするアーティストと比べたらダメージは少ない方なのかなと。

この春の自粛期間はどう過ごされていましたか?

 個人仕事がちょうど一段落したタイミングで、そこでアルバムの制作を進めておけばよかったものの、その当時は音楽を作る気があまりおきず、料理ばかりしていた気がします。

田口 僕もそうでしたね。料理の腕だけは上がった。

 健介はYouTuberやってたよね?

健介 やったね。4回くらい喋ってみたんだけど、コロナ渦でYouTubeデビューする人が増えすぎて、やっていく意味が見出せなくなってしまった。

 その中でも埋もれないくらいのコンテンツを目指せばよかったのに(笑)。

健介 それができなかった(笑)。

メンバー同士で会うこともなかったんですか?

田口 会ってなかったですね。アルバムが完成するくらいまで会ってなかったんじゃない?

健介 会うようになったのって最近だよね。10月のZoffの配信ライブくらいからかな。

田口 今回のアルバムの制作に際しての打ち合わせもほとんどリモートでしたね。

4月は「Mars」、8月には「BLUE feat. kojikoji」を配信リリース。以降も連続して新曲を配信しましたが、それはコロナ渦とは別に予定していたんですか?

 「Mars」はコロナ以前に制作していた曲ですが、「BLUE」が出来たのは6月くらいだったかな? 配信で新曲を続けてリリースするというアイデア自体はそのくらいに浮かんできました。

アルバムの制作はすべて宅録、リモートで行ったそうですね。

 スタジオに集まって制作するとなるとどうしても密になってしまうし、自分はバンドとは別に、プロデュース業やCM音楽を作ったりもしていて、自宅での制作には慣れていました。今回はリリースを見越して、デモの段階からかなり作り込んでいきました。

健介 僕らが聴かせてもらった音源もデモが8割くらいはできている状態でしたね。

「Happiness」が完成したタイミングで湧いたアルバムの世界観とイメージ

アルバムの曲は配信された新曲の順にできていったんですか?

 「Mars」以降最初にできた曲は「Happiness」でした。この曲が完成したタイミングで、アルバムの全体のイメージが湧いてきて。テーマや構想というよりは、世界観や色が見えたのでそれに導かれるように次から次へと曲を描いていきました。

「Happiness feat.ハル」は、大阪のガールズバンド、DIALUCKのハルさんを起用していますね。

アレンジもメロディも歌詞も大体が固まった段階で、彼女の声が合いそうだなと思い、声をかけました。

「Happiness」は、アルバムの最後に曇り空が晴れていくようなポジティブで明朗な世界が広がる曲ですね。

 そうですね。パッとしない憂鬱な心情を綴った「BLUE 」から始まり、希望や一筋の光を感じさせる「Happiness」に向かっていく。

健介 海から「Happiness」の後に「BLUE」が送られてきて、僕らはそこで初めて「アルバムを出す」と聞いたんですよ。

田口 そうそう。「へぇー、そうなんだ」って(笑)。

 会社やマネージメントとのやり取りは自分が代表してやっていたので、デモを送るタイミングで二人に伝えたんです。

健介 直接会う機会がなかったからミーティングもないまま、突然、曲が送られてきて、「今月中に完成したい」と言われてちょっと焦りましたけど、幸いなことにそれまでに家で録音する環境を整えていたので。

田口 僕も給付金で機材買い揃えていました。

健介 それ以前もデモくらいは録れる環境ではあったんですけど、もっとちゃんと良い音で録れるように新たに機材を買い足して。

 自分はもともと宅録である程度の音が録れる環境は整っていたのですが、それをさらにグレードアップしたりしていました。

公開されているライヴ映像「LIVE IN (personal) SPACE」のスペースは、もしや海さんのご自宅ですか?

 そうです。ライヴの時は家具を退けたりしたので凄いことになっていましたが、一般家屋ですよ。

田口 僕はPCが旧式だったのでメモリーも全然足りなくて新しく買い直しました。おかげで、リモートでも何とかなるなと。

 送られてきた音が厳しかったら家に来てもらって録ろうかと考えていましたが、全く問題なかった。

健介 意外といけたよね。

田口 うちの2LDKでも大丈夫でした(笑)。すでに海外ではそれが主流になっているし、コロナ渦でその傾向はかなり進んだんじゃないかな?

先が見えない時期に書いた歌詞。環境の変化は音にも言葉にも表れている。

ホーンやストリングスをフィーチャーした華やかなアレンジの「Actor」や「Mars」に比べて、「BLUE」はメロウな曲調ながら音数を絞って歌をじっくり聴かせるような曲になっていますね。

 そもそも自宅でレコーディングするとなると、ブラス・セクションを入れたアレンジは難しかったし、今までは完全にライヴを意識した曲作りだったけど、そこをあまり意識せずにつくったというのもあります。ライヴで盛り上げたり、体を揺らせるような曲という発想から自由になれたというか。

ライヴを意識しないと、つくる曲も変わったと?

 そうですね。そもそもそんなにアップテンポな曲は普段から聴かないし、むしろこういったゆったりしたリズムの曲ばかり聴いているので、本来の自分らしさがダイレクトに出ているのかなと。

健介 最初に聴いた時は少し大人しいかなという気もしたんだけど、家で聴きやすいし、落ち着くなと思いましたね。「BLUE」を聴いた頃は自分もあまり外に出ていなかったから、しっくりきたというのもある。

田口 ライヴがあったら、また違ってたかもしれない。

健介 今年、ライヴをガンガンやっていたら、もっと華やかな曲をプレイしたい気持ちになっていたと思うけど。

〈誤魔化し誤魔化されたこの世界では 何が真意かも分からず騒がしい〉という歌詞も自粛期間の頃に書かれたのですか?

 まさに先が見えずモヤモヤしていた時期に書きました。やはり、今年の環境の劇的な変化は音にも言葉にも顕著に表れていますね。

〈思い通りにはいかないし 行ったり来たりを繰り返し〉と歌う「No Sense」もその頃の揺れ動く感情を吐露しているように思いましたが、それをジャジーでメロウなトラックで穏やかに聴かせるところは新鮮でした。

 そこは自分の性格でもあるんでしょうね。最近は普段の生活の中で感じているフラストレーションやストレスを歌詞にぶつけることが多いので、今年は特に皆が同じような感情を抱えていたと思うので、どこかで共感できる部分はあるのではないかと。

お洒落なBGMではなく、誰かの心に残るポップ・ミュージックを。

前作のアルバム『dressing』では人が”色”を纏っていく様子を描き、今回の『Blend』は人が環境や時代と共存する過程をテーマにしたそうですが?

 毎回必ずしもテーマに添ってつくっていったわけではないのですが、アルバム曲が揃い始めた段階でそんなテーマが見えてきたんです。人と人もそうですが、コロナ渦に覆われた時代や社会情勢にも”色”があると考えていて、”色”を纏った我々人間がその中で“Blend”(混合・共存)していく様を自分なりに描いたつもりです。

〈少しダサいくらいでいい 嫉妬してばかり冗談じゃねえ〉(「Actor」)など、いつになく強い言葉が出てきたのも新境地では?

田口 歌詞は年々、毒気が出て来ている気がしますね。

健介 言葉の使い方にはハッとさせられたよね。僕は良い方向だと思うけど。

 あまり普段表には出さないけど、考えていることはけっこう毒気を持っていますね……。

少し毒気と痛みがある言葉と柔らかいヴォーカルが心地良いトラックにスムーズに乗る作風はLUCKY TAPES独特のバランスですね。

健介 確かに。

 LUCKY TAPESのような音楽って、お洒落と言われることがよくあるんですけど、それは逆をとれば聞き流せてしまうBGMになり得るということ。ポップ・ミュージックとして誰かの心に残ったり、何かを考えるきっかけとなるにはどうしたらいいのかということは常に自分の中での大きな課題の一つです。

その線引きは重要ですよね。

田口 お洒落と呼ばれる音楽ほどそこは大事ですよね。

 雰囲気もので一括りにされるのには少し抵抗があるので。

健介 今回はトラックがシンプルなだけに余計に歌詞、言葉が際立つからね。

 音数が少ない分、言葉や歌でリズムやグルーヴを担う部分が大きかった。

「Trouble」や「3:33」などジャジーなギターが印象に残る落ち着いたトーンの曲が増えたのもこのアルバムの特徴ですね。

健介 自粛期間はジャジーでチルな音楽を聴いて、自分でも弾いていたので、その影響はかなり出ていますね。

 ゆったりしたテンポの楽曲が多いから、余計にね。

健介 家で弾いているというのもあるかな。家だと時間を気にしないでフレーズを練ることができるし、プレッシャーがないから。

音楽のありかたを自問自答した日々、〈明日は今日より少しはマシでしょう〉という感覚。

「生活」はギターの弾き語りですが、これも今までのLUCKY TAPESにはなかったタイプの曲ですね。

 去年のツアーでギター弾き語りをやったんです。長めのライヴセットの中でそういった落とすシーンがあるのも緩急がついていいなと感じたことがきっかけで生まれた曲です。

健介 こういうややフォーキーな曲は新鮮でしたね。

 ずっとやってみたかったことではあったんですけど、ようやくこのタイミングで挑戦できた。

〈明日は今日より少しはマシでしょう 明日は今日よりいい日になるでしょう〉と自らに言い聞かせるような歌詞も生活の様々なことがままならない状況になった今年らしい。

 まさに。コロナ禍で誰もが感じている感情ではないでしょうか。

健介 まだ今も先が見えないじゃないですか。これから音楽のありかたがどう変わっていくのかとか僕も自問自答していましたね。

田口 仕事がなくなってしまったわけですからね。暗くなったこともあったけど、何とかやっていこうと気を取り直して。

健介 今まではライヴで忙しくしていたので、コロナ渦で時間ができて久々に自分と音楽やギターをみつめ直す機会にはなりましたね。機材を揃えたり、トライしたかったことにチェレンジしたり、悪いことばかりじゃなかった。

「ランドリー」は、〈昨日よりはマシだと思えた〉という歌詞から始まり、アルバムのストーリー性を際立たせていますね。〈何者にもなれるそんな時代〉という表現にも時代の空気が忍び込んでいる。

 時間ができて、スマホやSNSに触れる時間が増えた分、より一層リアルに時代の空気やみんなが抱いている社会に対するストレスやフラストレーションを感じることができましたしね。

田口 この春からの3ヶ月くらい家に籠もっていたので、その時間が一瞬だったような、忘れ去られたような不思議な感覚があるんですよ。数年後にこのアルバムを聴いたら、思い出すことが色々ありそうですね。

ライヴの楽しさやそこで起こる奇跡を忘れないでほしい、忘れないでいたい。

今作は作詞作曲編曲に加えて、レコーディング、ミックス、マスタリングに至るまでの全ての工程を海さん自身で行ったそうですね。

 前作までの音像に100%満足していなかったのと同時に、個人仕事の案件では宅録で完結させることも多かったので、ミックスの感覚が身についてきた実感もあって。バンドでも自身でミックス〜マスタリングまでやってしまった方が思い描いている音に近づけられるんじゃないかと思って。デモの時点でリリースを見越してバランスをとりながら音を構築していったので、思ったよりは大変な作業でもなかったですし。

自分の理想とする音を自らの手で作り上げてゆくことができるのは強みでもありますよね。

 そうですね。今後もこのやり方は続けて、ミックスやマスタリングの技術ももっと磨いていきたいです。

アルバムのラストを新しい時代の希望の光が射し込むような「Happiness」で締めくくり、「BLUE」のアコースティック・ヴァージョンに繋ぐ構成も美しい。

 このアルバムをつくった日々の感覚と記憶はまだリアルに自分の中に残っていて。このような状況下でも一つのまとまった作品を残すことが出来たので、今は少しずつ前を向く気持ちになれています。

12月には六本木EX THEATERのライヴがありますね。

健介 第3波が来ているのは気がかりですが、ライヴは楽しくやりたいです。

田口 客席は通常の半分ですが、ホーンを入れたフルセットの編成で久しぶりに弾けたい。コロナが収束して、早くツアーに行きたいですよ。

 ライヴの楽しさやそこで起こる奇跡のような体験をいつになっても忘れないで欲しいですし、忘れないでいたい。新作からも演奏する予定なのでお楽しみに。

その他のLUCKY TAPESの作品はこちらへ。

ライブ情報

「Blend」release one-man live
12月5日(土)東京・六本木EX THEATER
※第1部、第2部、それぞれに別のチケットが必要となります。

LUCKY TAPES

高橋 海、田口恵人、高橋健介の3人組。2015年に1stアルバム『The SHOW』をリリース。2016年にEP『MOON』、2ndアルバム『Cigarette & Alcohol』をリリースし、多数のフェスへ出演。2017年9月にEP『Virtual Gravity』をリリースし、そのツアーファイナルにてメジャーデビューを発表。2018年5月にEP『22』でメジャーデビュー。10月にはメジャー1stアルバム『dressing』を発表。ホーン・セクションや女性コーラス、パーカッションなどを加えた総勢9名のライブ・パフォーマンスは、国内はもとより中国や台湾、タイ、韓国などアジア各国でも高い人気を集めている。

オフィシャルサイト
http://luckytapes.com/