Report

和田琢磨&荒牧慶彦&多和田任益らが表現する人間の狂気。「舞台 PSYCHO-PASS サイコパス Virtue and Vice 2」上演中!

和田琢磨&荒牧慶彦&多和田任益らが表現する人間の狂気。「舞台 PSYCHO-PASS サイコパス Virtue and Vice 2」上演中!

「舞台 PSYCHO-PASS サイコパス Virtue and Vice 2」が11月20日(金)に明治座で初日を迎えた。
人々の精神が数値化された近未来で社会の善悪を問う刑事たちのドラマを描くアニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』のスピンオフストーリーの舞台化第2弾。本作も公安局刑事課三係の人物を中心に彼らに関わるオリジナルキャラクターたちが躍動し、第1弾の前日譚として、嘉納火炉の過去が描かれる。
本作で主人公となる嘉納火炉は、前作に続き和田琢磨が演じる。そして、嘉納と対峙する神宮寺 司を演じるのは、荒牧慶彦。演出は前作から引き続き本広克行が手がけ、脚本を第1弾でキャストとして出演した池田純矢が担当(演出補も)し、アニメの脚本を担当している深見 真とのタッグで新たな物語を紡ぐ。
そんな舞台の公開ゲネプロが行われたのでレポートしよう。

取材・文・撮影 / 竹下力


令和における最高峰の演劇を我々に観せてくれた

感動的な舞台。エンターテインメントの質においても、芸術性においても、令和における最高峰の演劇を我々に観せてくれた。
演出の本広克行と脚本の池田純矢と脚本監修の深見 真の3人は、“SF”の設定を巧みに取り込みながら、現代社会の歪みを炙り出し、“今、ここ”で生きる人々の生きにくさや心の闇を徹底的に洗い出すことで、混乱した現在の世界のあるべき姿を提示しようと野心的な作品に仕立て上げていた。

舞台 PSYCHO-PASS サイコパス Virtue and Vice 2 WHAT's IN? tokyoレポート

物語の時代は近未来。世界のあらゆる紛争に巻き込まれることを拒否すべく再び鎖国をした日本では、人間の心理状態や性格を数値化し計測する包括的障害福祉支援システム「シビュラシステム」が人々を管理していた。この数値を「サイコパス(PSYCHO-PASS)」と呼び、その値の良し悪しを指標に生きることを人々は半ば強制された。

人間の心は「色相(しきそう)」という色で判断され、心理状態が悪化すれば濁ってしまう。そして色相の状態がシビュラシステムにとって悪を意味する「犯罪係数」として計測されると、罪を犯していなくても「潜在犯」と認知され、社会から隔離、さらに数値が高くなると排除の対象となる。このシビュラシステムの命令を受け任務に当たるのが、「公安局刑事課」の「執行官」であり、彼らをまとめる「監視官」だった。

公安局刑事課の執行官である嘉納火炉(和田琢磨)は、公安局局長の禾生壌宗(榊原良子)から同課の三係の監視官としての辞令を受ける。「廃棄区画」という劣悪な環境で幼年を過ごし、一時は潜在犯のレッテルを貼られ、社会の底辺を這いつくばって生きていた彼は、突如としてシビュラシステムに見出され執行官となったのだが、その執行官を管理・統括する監視官(現代でいえば管理職に近いかもしれない)を早くも拝命することになった現状をうまく受け止めきれずに戸惑っていた。

舞台 PSYCHO-PASS サイコパス Virtue and Vice 2 WHAT's IN? tokyoレポート

そんなとき、公安局にスーツケースに詰め込まれた惨殺死体が届く。送り主はシビュラシステムの管理社会から隔絶された一種の理想郷とされる「特別自治区 Neo・Nature・Division」(NND)。しかも、死体には「トロリー・プロブレムを見過ごすな」という謎のメッセージが添えられていた。公安局刑事課三係は事件の詳細を掴むべくNNDに潜入捜査をすることになる。

嘉納たちがNND潜入を開始すると、そこには、特区内の治安維持組織の構成員の神宮寺 司(荒牧慶彦)たち、まとめ役の光宗 悟(多和田任益)がいた。彼らはこの地域では何も問題は起こっていないと宣言する。それもそのはず、罪を起こすはずの人がいない理想郷なのだから。しかし、次第にNNDの闇の部分が浮かび上がり、公安局刑事課 VS NNDという抜き差しならない様相を呈していく……。

舞台 PSYCHO-PASS サイコパス Virtue and Vice 2 WHAT's IN? tokyoレポート

この物語のテーマは“人間の狂気”だと思う。言い換えれば、人間がコントロールできない激烈な感情を描くこと。理不尽な暴力衝動、怒り、苦悩、葛藤、疎外感、嫉妬、人々のネガティブな感情が白日の元に晒され、それらをコントロールできるのか、そもそも人間の無意識にある本能的衝動(イド)のような感情は誰にも制御できないのではないか、と問いがなされる。

それをリファレンスする言葉が、今作のキーになる、イギリスの哲学者フィリッパ・フットが提唱した「トロリー・プロブレム」という倫理学だ。高度に知識の発達した世界で、優劣のつけがたい選択を迫られたとき、人間は理知的に行動できるのか、あるいは利己的な行為や本能に任せた選択をしてしまうのか。そしてそのとき“哲学をする”という行動が大切になってくる。あるいは、あらゆる人間にとって正しい選択をし続けること。ただし、その答えは宙吊りになったままだ。どんな人間だって理知的にも本能的にも行動することがあるからだ。それでも、深層心理より深くに隠された何か、答えにならない“サムシング”を暴き出そうとするところが、本作が野心的たる理由になっているのではないか。

人間のあらゆる要素を数値化し、管理社会がもたらすディストピアな世界と、管理を拒んだケガレなき世界。どちらが理想なのか。観念的で抽象的な堂々巡りの思考の罠にはまりそうだけれど、それを押し留めてくれるのが、明治座という劇場、すなわち“現実”だ。その点が今作をエンターテインメントとして楽しませてくれる大きな要因になっている。大衆演劇の根ざした明治座の“和”の空間に“洋”の世界観が混淆して日本らしいSF世界を作り上げ、考えるよりも目で見て体感して楽しめる。明治座らしい盆(回り舞台)を多用した演出も素晴らしかったし、近未来を表すガジェットの「ドミネーター」という特殊な拳銃も精巧な作りで、未知なるものに触れたときの高揚感と郷愁を誘う塩梅が絶妙だった。

舞台 PSYCHO-PASS サイコパス Virtue and Vice 2 WHAT's IN? tokyoレポート

そのために多大な手腕を振るったのは演出の本広克行だろう。アニメや映画にも接しているだけあって今作に何が必要なのかを知り尽くしている。ヴォイスキャストとして、アニメ作品「PSYCHO-PASS サイコパス」シリーズの常守 朱(花澤香菜)を舞台の始まりに登場させて世界観を丁寧に説明。ドミネーターの音声も日髙のり子が担当。さらに、アニメシリーズ、劇場版、前作に続き、凛として時雨が書き下ろした主題歌「Perfake Perfect」を高らかに鳴り響かせ、真っ黒なスーツとネクタイに監視官だけが着ることを許される青いレイドジャケットに記されたロゴマークといったディティールにもこだわりをみせながら、舞台オリジナルキャラクターも『PSYCHO-PASS サイコパス』シリーズの世界に実在している仕掛けを施す。

なかでも本広は、登場人物たちが抱える、悩み、葛藤、歪んだ心、どちらかといえばハードな感情を表出する演出に趣を置いていたと思う。入り組んだ舞台機構、印象的な光と映像の演出で作品を立体的にしていくのだが、それは物語の世界観をスムーズに伝えるためというよりも、登場人物たちの複雑な“内面=個性”を並列して表現しようとする意思を感じた。特定の人物にスポットを当てるよりも“群像劇”として、「PSYCHO-PASS サイコパス」の世界をもがきながら必死で生きようとする人物たちの姿を活写したかったのだと思う。さらに“刑事モノ”特有の義理と人情、それに相克するそれぞれの心の闇を丁寧に描いていた。

舞台 PSYCHO-PASS サイコパス Virtue and Vice 2 WHAT's IN? tokyoレポート

演出を支える脚本にも刮目したい。脚本の池田純矢と脚本監修の深見 真のタッグは、原作のモチーフを上手に操りながら、やくざ(悪者)とかたぎ(刑事)、組織と個人、近代と未来、理想と現実、ケガレと無垢といった、“SF”や“刑事モノ”のモーメントになるあらゆる矛盾を、台詞とト書きに書き記していたと思う。それが俳優たちの具体的な肉体を通して、リアリティと切迫感とわかりやすさを生んでいた。俳優としての池田純矢の活躍は誰もが知るところではあるけれど、脚本においての評価はますます高まっていくだろう。

先に群像劇と感じたのは、アンサンブルを含め、誰もが素晴らしかったから。みんな平等に世界を生きている。御子柴 夕役の中尾暢樹はダメな後輩っぷりが板についていて、堂々たる芝居を見せていたし、青野 楓演じるパワフルな言動と行動が特徴的な逆咲一花が心の闇を隠したまま微笑む笑顔は寂しげで心動かされた。また、周 麟太郎 役の弓削智久の芝居は、中年の悲しい性を身体から滲み出して哀愁があり、藤本隆宏演じる斎記冬真が、刑事が刑事たる所以を証明する男気のある芝居には感動した。その中でも特に多和田任益、荒牧慶彦、和田琢磨の3人は印象的だった。

舞台 PSYCHO-PASS サイコパス Virtue and Vice 2 WHAT's IN? tokyoレポート

光宗 悟役の多和田任益は、ロボットのように表情を変えず、平板な口調で感情のブレが少ない高圧的な人物を演じ切った。それほど大きなアクションはないけれど、一瞬だけ、エンターテインメント集団「梅棒」に所属していることを証明するような激しいマイムで、劇空間に亀裂を走らせ観客を驚かせた。わずかな瞬間に役の存在を賭けるクレバーな芝居に衝撃を受けた。

舞台 PSYCHO-PASS サイコパス Virtue and Vice 2 WHAT's IN? tokyoレポート

神宮寺 司 役の荒牧慶彦は、影のある人物を演じると誰にも真似できないすごみをみせる。なにより、憂いのある瞳と表情が美しい。どこから眺めてもそれがわかるような存在感は圧巻だったし、神宮寺 司が己の出自がゆえに抱えてしまった寂しさを肉体すべてを使って表現していた。荒牧慶彦の到達した芝居の高みかもしれない。彼は唯一無二の劇世界を作ることができる俳優だと思う。日本刀による殺陣もタメが効いてカッコよかったし、孤高な戦士にぴったりの演技だった。

舞台 PSYCHO-PASS サイコパス Virtue and Vice 2 WHAT's IN? tokyoレポート

嘉納火炉 役の和田琢磨は、理知と狂気の間を行ったり来たりしながら、どうにもならない人間の余儀なさを卓抜に表現していた。観客が感じるもどかしさをも一心に体現していたと思う。透きとおるバリトン・ヴォイスは劇場の奥まで響きわたり台詞は明瞭、感情の流れもスムーズで、まったく無駄のない芝居。彫りの深い顔に照明が当たったときの陰影は、嘉納火炉の内面を丁寧に表現しているようだった。

これから千秋楽に向けてどれだけ芝居が研磨されていくのか楽しみだし、何度でも観たくなる。だから劇場に足しげく通いたくなる。生粋の“舞台俳優”たちだと思う。千両役者とは彼らのような俳優をいうのだろう。居様だけで人を惹きつける魅力があるのは得難い才能だと思う。

舞台 PSYCHO-PASS サイコパス Virtue and Vice 2 WHAT's IN? tokyoレポート

“SF”の意匠を借りた哲学的な作品ではあるけれど、描かれるのはあくまで、演劇にとって必要不可欠な要素“人間の魂”である。だから、リアルな舞台として楽しみながら観ることができるだろう。そして観劇後に心に残る、言葉で説明できない感情の“シコリ”。人間とはかくも業の深き存在だとまざまざと思い知らされる。そんな“シコリ”を抱えたまま生きることも、人間にとって大切なことなのだろう。

東京公演は、11月29日(日)まで明治座にて上演。大阪公演は、12月3日(木)から12月6日(日)までCOOL JAPAN PARK OSAKA WWホールにて上演される。また、11月28日(土)、11月29日(日)、12月6日(日)の計5公演がライブ配信され、チケットが発売中だ。さらに、2021年5月26日(水)にはBlu-ray&DVDの発売が決定している。

「舞台 PSYCHO-PASS サイコパス Virtue and Vice 2」

東京公演:2020年11月20日(金)〜11月29日(日)明治座
大阪公演:2020年12月3日(木)〜12月6日(日)COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール


<ライブ配信>
配信公演:
東京公演:11月28日(土)13:00公演/18:00公演
東京公演:11月29日(日)13:00公演
大阪公演:12月6日(日)12:30公演/17:00公演
●チケットはこちらから

<「舞台 PSYCHO-PASS サイコパス Virtue and Vice 2」Blu-ray&DVD発売>
発売日:2021年5月26日(水)
価格:Blu-ray 9,000円(税別)/DVD 8,000円(税別)
収録内容:本編+特典映像
映像特典:全景映像、メイキング映像+キャストインタビュー(予定)
●詳細はオフィシャルサイトにて


【STORY】
公安局刑事課に所属する執行官の嘉納火炉はある日、公安局局長・禾生からの辞令を受け、異例の昇進で監視官に任命される。
時を同じくして、公安局宛にスーツケースに押し込められた死体が届く。そして死体には「トロリー・プロブレムを見過ごすな」という謎のメッセージが添えられていた。嘉納を筆頭に新任執行官らで編成された刑事課三係の面々は、未だ足並みが揃わぬなか事件の捜査にあたるが軋轢は徐々に広がっていく。
死体の発送元を辿ると、自然回帰主義者らが暮らすシビュラ社会から隔絶された独立集落「特別自治区 Neo・Nature・Division」《通称 NND》が事件に何らかの関係があると発覚する。
嘉納は執行官らと調査に赴くが、そこで特区内の治安維持組織の構成員・神宮寺司と激しく対立する。
神宮寺が事件の鍵を握ると推測した嘉納は強引に捜査を進めるが、政府からの圧力を受け思うように進まない。
そして次第に、様々な利権と思惑が複雑に絡んだNNDの闇が浮かび上がっていく……。
「トロリー・プロブレム」とは? 謎の死体が意味するものとは?神宮寺の目的とは? そして、嘉納はひとつの答えに辿り着く……。

原作:サイコパス製作委員会
演出:本広克行
脚本・演出補:池田純矢
脚本監修:深見 真

出演:
嘉納火炉 役:和田琢磨
神宮寺 司 役:荒牧慶彦
光宗 悟 役:多和田任益(梅棒)
御子柴 夕 役:中尾暢樹
逆咲一花 役:青野 楓
周麟太郎 役:弓削智久
斎記冬真 役:藤本隆宏

映像特別出演:
雑賀譲二 役:山路和弘

ヴォイスキャスト:
常守 朱(花澤香菜)
禾生壌宗(榊原良子)
ドミネーター(日髙のり子)

アンサンブル:
海本博章、長田拓郎、河野賢治、清水優志、田中 慶、田沼ジョージ、田ノ中亮資、茶谷優太、野島透也、藤澤アニキ、藤田真澄、町田尚規、本広 春

©サイコパス製作委員会
©舞台「サイコパス2」製作委員会

公演オフィシャルサイト
オフィシャルTwitter(@PSYCHOPASSstage)