Interview

ノーベル物理学賞も先取り!? 劇場アニメ化決定『映画大好きポンポさん』も話題の鬼才・杉谷庄吾【人間プラモ】の頭の中に迫る

ノーベル物理学賞も先取り!? 劇場アニメ化決定『映画大好きポンポさん』も話題の鬼才・杉谷庄吾【人間プラモ】の頭の中に迫る

イラスト投稿サイトの「pixiv」に登場するや、映画作りへの情熱を描いたストーリーと、高い画力が注目を浴びて書籍化されたマンガ、『映画大好きポンポさん』(MFC ジーンピクシブシリーズ/KADOKAWA刊)。2021年3月19日には劇場アニメの公開も決定して、敏腕プロデューサーの「ポンポさん」や監督志望のジーンの活躍を大きなスクリーンで楽しめる。
原作者の杉谷庄吾【人間プラモ】は、宇宙や物理学をテーマにしたSFマンガも多く執筆している。2015年発表の『量子力学式 真 宇宙戦争』という作品は何と、一般相対論からブラックホールの存在を導き出し、2020年のノーベル物理学賞に輝いたロジャー・ペンローズ氏にちなんだ内容になっている。こうしたSFマンガを描いた理由や、『ポンポさん』シリーズが生まれた背景、そして映画化への期待などを聞いた。

取材・文 / タニグチリウイチ


SF作品について

『量子力学式 真 宇宙戦争』は、ペンローズという航空宇宙局国防保安部7課長官を務める少女と、ロジャーという名の新任士官が登場したり、銀河系の中心にある超巨大質量ブラックホールがあったりと、ペンローズ氏や2020年のノーベル物理学賞の対象に絡んだ内容になっていて、その先取りぶりに驚きました。

ペンローズ氏に興味を持ったのは、臨死体験をした人が皆同じ景色を見たという――光の渦の中に入っていき宇宙の中心のような世界に行くという――話を昔テレビで観たのがきっかけです。ペンローズ氏はその臨死体験の話を聞いて研究した結果、脳の中の「マイクロチューブル」という器官から量子的に意識が飛び出して、宇宙全体の中に人間の意識が集まる場所があるという理論(量子脳理論)を打ち立てたんです。その研究結果を違う角度から構築して、物語に落とし込みました。

『量子力学式 真 宇宙戦争』より、著者の許可を得て転載。

『量子力学式 真 宇宙戦争』より、著者の許可を得て転載。

『量子力学式 真 宇宙戦争』全文(杉谷氏のpixivアカウント)
https://www.pixiv.net/artworks/51031816

マンガでは、ペンローズ氏が提唱した量子スピンネットワークや量子脳の理論が使われていて、登場人物のペンローズとロジャーが太陽系にいながら、銀河核に置かれたボディに感覚を移して操作する描写が登場します。

ペンローズ氏の理論から「脳の意識が外に飛び出すことができるなら、受け皿さえあれば宇宙のどこにでも一瞬で行けるんじゃないか」という発想が生まれたことで、このマンガを描きました。宇宙的に大きなスケールの事柄を、「女の子が麺を食べる」という物凄く小さなところに持っていったことが、ミソというかマンガの妙というところですね。

麺を啜れないペンローズが可愛いです。SFではグレッグ・イーガンが量子論などの理論をもとに刺激的な作品を発表しているように、最先端の理論を元にしたアイデアを物語に載せて描くことが盛んに行われてきました。杉谷さんもSFがお好きなのですか。

既存のSF作品から影響を受けるというよりは、科学的なトピックスを見たときに「このAという科学のニュースとBという科学のニュースを掛け合わせたら何か面白い話ができるんじゃないか」と自分の中で構築するのが好きなんです。ただ好きなSF作品はもちろんあって、映画では『伝説巨人イデオン』『2001年宇宙の旅』『コンタクト』。マンガでは士郎正宗先生の『攻殻機動隊』『ドミニオン』『アップルシード』や、星野之宣先生の『2001夜物語』。小説では、ジェイムズ・P・ホーガン『星を継ぐもの』、フィリップ・K・ディック『ユービック』が好きです。

同じSF系マンガとして、杉谷さんは『猫村博士の宇宙旅行』というマンガも描かれました。アイボール惑星やブラックリング、観測者効果など宇宙に関する情報や理論がぎっしり詰まっていましたが、この作品はどのように生まれたのですか。

SF的なネタがすごく貯まってきたところで、「一つ一つ消化していったら面倒くさいだろうから、まとめて全部ドカ~ンと消化しよう」と、宇宙旅行という形をとりました(笑)。作品間のつながりについては、『猫村博士』と『量子力学式 真 宇宙戦争』は確かにちょっとだけつながっていますけど……基本的には作品のつながりというものは気にしていません。次のSF作品のテーマに関しては、『猫村博士』ではとにかくスケールの大きな話を描いたので、次はスケールの物凄く小さい世界のお話を描きたいなと思っています。しかし絵的にはつまらないものになってしまいそうなので、なかなか悩ましいところです。

©Shogo Sugitani,Production Good Book
©OHZORA SHUPPAN

©Shogo Sugitani,Production Good Book
©OHZORA SHUPPAN

猫村博士の宇宙旅行』試し読み(pixivコミック)
https://comic.pixiv.net/works/6137

『映画大好きポンポさん』について

©2020 Shogo Sugitani/KADOKAWA/Pompo Project

ここからは、『映画大好きポンポさん』についてうかがっていきます。非常に緻密な長編作品にも関わらず、pixivに無料で、しかも一挙に掲載されたのには驚きました。

いわゆる商業誌から無視されつづけたので、ネットで発表するしかなかったのです(笑)。

赤裸々過ぎる理由! 結果として多くの読者に内容が伝わり、ポンポさんやジーン、コルベット監督といった個性的なキャラクターたちも人気を得ました。中でもポンポさんはいつも前向きで、創作には厳しいが人には優しいといったキャラクターになっていましたが、そこには杉谷さんの考える、映画プロデューサーとしてのある種の理想が投影されているのでしょうか。

ポンポさんのプロデューサーとしてのあり方は、自分の理想を反映したものではないですね。むしろ先にキャラクターデザインと性格のイメージがあって、その組み合わせに説得力を持たせるために設定が生まれた感じで。
ポンポさんの原型のような絵は、なんとなくだらだらと落書きをしているときに生まれました。「この子は人に指示されるような立場ではなくて、人を導くような立場のキャラクターだ」と思ったので、「こんなにちっちゃい子がそういう偉い立場になるにはどうすれば良いか」と考えたんです。

©Shogo Sugitani, Production GoodBook/KADOKAWA

『映画大好きポンポさん』試し読み(BOOK☆WALKER)
https://viewer-trial.bookwalker.jp/03/8/viewer.html?cid=93173e3e-c3d8-4389-b39c-3b34b46f7ce6

それで「映画プロデューサー」だと。

そうですね。よくあるパターンだと「実は800歳の魔女」だとか、「実はどこかの国のお姫様」だとかがあると思うんですが、そういう設定にはしたくなかった。実力さえあればどんな子供であろうと皆がついてきてくれるような世界観を考えた結果、映画の世界を舞台とすることになったんです。ポンポさんのおじいさんが物凄い伝説のプロデューサーであるといった設定も、その過程で生まれたものですね。

コルベット監督は映画マニアの急所に刺さるキャラでした。

コルベット監督に関しては、自分では特に気にせず設定していたのですが、マンガを読んだ同僚(編注:杉谷氏はアニメーション製作会社 Production GoodBookに所属している)たちは皆、アニメアールの吉田 徹さん(編注:『ガンダム』シリーズなど、ロボットやメカが登場するアニメを中心に多数の作品に参加するアニメーター・演出家)に似ていると言いますね(笑)。吉田さんは仲の良い友人なので、自然と似たのかもしれないです。

ポンポさんからジーンに贈られる、「すでに幸せを感じている人にクリエイティブな仕事なんてできない、自分に満足していないからこそ何か作りたいといった思いが出てくるのだ」といったメッセージは創作者の心を刺激します。これは読者にも届くようにと意図されたメッセージなのでしょうか。

実際問題、傍から見てその人が幸せかどうかなんて絶対わからないですよね。どう見ても幸せそうな人が実は不幸である、なんてことはよくあることだと思います。ただ、作業場にこもってちまちまと作業をしている姿って、人から見れば不幸かもしれないけれど、やってる本人は幸せだったりするんで……なかなか一概には言えないですね(笑)。まぁ、このセリフに関しては多分にジーン君を励ますための言葉であるという感じで、それが全て正しいというわけではないと自分は思います。ちなみに僕自身はマンガを描いてる時間がずっと楽しいので(クリエイティブな仕事をするということは)不幸でも何でもないんですが、単行本が出たことは素直にうれしかったです。

『映画大好きポンポさん2』では次回作の脚本作りに悩むジーン、『映画大好きフランちゃん』では自分で居場所を作ろうと動く新進女優のフランの頑張りが描かれていました。映画という共通のテーマを描く、“ニャリウッド”が舞台のシリーズで伝えたいテーマは何でしょう。

『ポンポさん』からずっと通して、「他人の意見をあまり聞き過ぎない」「自分でちゃんと考える」というテーマは常に自分に言い聞かせています。『ポンポさん2』は、描いてるうちは意識していませんでしたが、最終的な形がなんとなくマーティン・スコセッシ監督の『タクシードライバー』みたいになったなと。こじらせた青年が自分なりの正義を振り回して周りにメチャクチャ迷惑をかけた結果、なんとなく女の子を一人救う事が出来た……という形ですね。『タクシードライバー』はジーンが大好きな作品でもあるので、重なっていい感じになったなと思います。

©Shogo Sugitani, Production GoodBook/KADOKAWA

『映画大好きポンポさん2』試し読み(BOOK☆WALKER)
https://viewer-trial.bookwalker.jp/03/8/viewer.html?cid=e02fbbec-97b9-403e-b656-c162751f9181

『フランちゃん』は、『赤毛のアン』の中で自分が好きな描写である、「若いころは凄くやんちゃで無茶苦茶な女の子だったアンが、いつの間にか頭がよくておとなしい立派なレディになっていたことに育ての親のマリラがふと気づく」……そういうシーンを描きたくて描きました。フランも、最初のうちは職業や見た目で人を差別するようなとんでもない子だったのが、どこかのタイミングで切り替わり、立派な女優さんになりますね。

©Shogo Sugitani, Production GoodBook/KADOKAWA

『映画大好きフランちゃん』試し読み(BOOK☆WALKER)
https://viewer-trial.bookwalker.jp/03/8/viewer.html?cid=59e9f860-da6c-43f7-b08d-268ad593af91

最新作の『映画大好きカーナちゃん』は、オーディション仲間だったフランの飛躍に焦る女優志望のカーナが、彼女なりの演技法を身につけ飛躍していくストーリーでした。

『カーナちゃん』には……あまりテーマがないかな(笑)。『フランちゃん』が終わった時点で次のスピンオフはカーナが主役と決まっていたので、相棒を「(何かについて)こじらせた」男にしようと。最初はミリタリーにしようと思ったんですけど、僕自身があまりミリタリーに詳しくないので、結局SFを取り出してきました。最初は『ポンポさん』シリーズでSFの要素は扱わないようにしようと思っていたんですけど、やっぱり好きなので(笑)、この作品で絡めることができて良かったです。

©Shogo Sugitani, Production GoodBook/KADOKAWA

『映画大好きカーナちゃん』試し読み(BOOK☆WALKER)
https://viewer-trial.bookwalker.jp/03/8/viewer.html?cid=51c981b2-a36a-4a94-9d73-59d692bb59eb

劇場版アニメ『映画大好きポンポさん』は、先日プロモーション映像も公開されて期待が高まっています。平尾隆之監督や声優陣について、原作者としての印象はいかがですか。

平尾監督は、『劇場版 空の境界 第五章「矛盾螺旋」』『魔女っこ姉妹のヨヨとネネ』など、物凄くクオリティの高い作品を作られてきた監督なので、クオリティに関しては全く心配しておりません! ただ気質的に僕がメチャクチャ楽観的なのに比べて、平尾監督は物凄く真面目な方だと思うので、テイストは少し変わるだろうなと思っています。キャストに関しては、ベテランの方たちがたくさんいる中で、ジーンとナタリーだけが若手の声優さん(俳優さん)というのが本編とクロスしていて非常に良いと思います。

原作はのびのびと描かせて頂いておりますが、アニメーションは私の作品というよりも監督の作品と考えているので、いちいち原作者として物を言う必要はないと考えています。そもそも私もアニメ制作会社の社員ですから(編注:杉谷氏の所属するProduction GoodBookも映画版の制作に関わっている)、一度お任せしたなら監督の方針に従います。当初打ち合わせをして顔合わせをさせていただいてからは、一切口を挟まないようにしております。なのでキャラ設定も背景美術のクオリティも物語の流れも声も、知っているのは本当にTwitterの公式アカウントで小出しにされている情報くらいで、皆さんと同じです(笑)。私も公開が楽しみです!

映画がテーマの『ポンポさん』には、やはり映画作品の影響があるのですか。

ラストにエピローグがだらだら流れるのが苦手で。終わる時はスパッと終わる、デイミアン・チャゼル監督の『セッション』みたいな終わり方が大好きなんです。だからどの作品も、メインの話が終わったときに作品全体もスパッと終われるように作っています。ちなみに『映画大好きカーナちゃん』には、結構『ブレードランナー』の血が流れていると思います。

最後に、ご自身の作品の読者に向けてのメッセージをいただければ幸いです。

マンガを描くことが好きで、第一に自分のために描いているのですが、そんなマンガを読んだ人が喜んでくれるなら、それほどうれしいことはありません。

劇場アニメ『映画大好きポンポさん』

2021年3月19日(金)全国ロードショー

【スタッフ】
原作:杉谷庄吾【人間プラモ】(プロダクション・グッドブック)『映画大好きポンポさん』(MFC ジーンピクシブシリーズ/KADOKAWA刊)
監督・脚本:平尾隆之
キャラクターデザイン:足立慎吾
演出:居村健治
監督助手:三宅寛治
作画監督:加藤やすひさ 友岡新平 大杉尚広
美術監督:宮本美生
色彩設計:千葉絵美
撮影監督:星名 工 魚山真志 
CG監督:髙橋将人 
編集:今井 剛 
音楽:松隈ケンタ
制作プロデューサー :松尾亮一郎
制作:CLAP
配給:角川ANIMATION
製作:映画大好きポンポさん製作委員会

【キャスト】
ジーン/ジーン・フィニ:清水尋也
ポンポさん/ジョエル・ダヴィドヴィッチ・ポンポネット:小原好美
ナタリー/ナタリー・ウッドワード:大谷凜香
ミスティア:加隈亜衣
マーティン/マーティン・ブラドッグ:大塚明夫

『映画大好きポンポさん』オフィシャルサイト
https://pompo-the-cinephile.com/

『映画大好きポンポさん』オフィシャルTwitter
https://twitter.com/pomposan