ジャンプ作品「ダークファンタジー」の系譜  vol. 3

Column

『BLEACH』『マンキン』『Dグレ』『ムヒョロジ』……「ユルさ」や「スタイリッシュさ」が新風を吹き込んだ00年代のジャンプ「ダークファンタジー」作品

『BLEACH』『マンキン』『Dグレ』『ムヒョロジ』……「ユルさ」や「スタイリッシュさ」が新風を吹き込んだ00年代のジャンプ「ダークファンタジー」作品

1968年に「少年ジャンプ」として刊行が開始され、1969年より現在の週刊スタイルとなった「週刊少年ジャンプ」における、ダークファンタジー作品の歴史を追っていく本連載。

第一回ではジャンプ作品におけるダークファンタジーの特色としてバトルマンガ的要素が融け合っていることからそれぞれの源流を紐解き、80年代の作品について語ってきました。

車田正美・『ジョジョ』・『BASTARD!!』……青年誌的な攻めの姿勢も見られた、80年代のジャンプ「ダークファンタジー」作品

車田正美・『ジョジョ』・『BASTARD!!』……青年誌的な攻めの姿勢も見られた、80年代のジャンプ「ダークファンタジー」作品

2020.09.19

第二回ではその流れの中から、原作を持った西洋ファンタジーや中華ファンタジーで人気となった作品、また冨樫義博作品とダークファンタジーそのものの魅力を手繰っていきました。

『ダイの大冒険』・『封神演義』・冨樫義博作品……キャラクターの魅力が花開いた、90年代のジャンプ「ダークファンタジー」作品

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2020.10.26

第三回目の今回は、00年代に熱狂を生んだ代表作について語っていきます。

文 / 兎来栄寿


ゆる~く新しい時代を切り拓いた『シャーマンキング』

90年代後半の「週刊少年ジャンプ」では『ドラゴンボール』、『幽☆遊☆白書』、『SLAM DUNK』といった代表作が立て続けに終わりを迎えた後、1997年に『ONE PIECE』、1998年に『HUNTER×HUNTER』、1999年に『NARUTO』とその後長い時間ジャンプを支えていく名作が誕生していきました。それらはいずれもバトルマンガであり、ジャンプの王道の潮流を継承しつつ更に発展させていきました。そんな流れの中で、1998年の6月に『シャーマンキング』の連載が開始しました。

仏教を題材としていた作者・武井宏之の前作『仏ゾーン』とも繋がりがある『シャーマンキング』では、世界中の宗教・神話がモチーフにされているのが特色です。『女神転生』・『ペルソナ』シリーズや『Fate』シリーズなど、ゲームでは人気を博している作品にもよく見られる設定ですが、マンガの世界でここまで洋の東西を問わず大量に宗教を取り入れたものは当時としては斬新でした(なお第一回で取り上げた『ゴッドサイダー』や、少年誌の範疇で言えば萩尾望都版『百億の昼と千億の夜』などを淵源として指摘することは可能でしょう)。

ジャンプのバトルマンガの主人公として、『封神演義』の太公望、そして『シャーマンキング』の麻倉  葉はかなり異質でした。それまでのジャンプの主人公といえば熱血で戦いを厭わない性格が大半でしたが、太公望や葉はどこまでもマイペース。そんな彼らによって、作品全体にも従来とは違ったゆるく柔らかな雰囲気が生じていました。しかしながら、常に冷めている訳でもなく、決めるところは決めるし燃えるところは燃えるのです。令和となった現在では彼らのような主人公像も増えましたが、移ろう時代性を反映して新感覚を取り入れた代表格と言ってもいいでしょう。

そして、特に少年心を擽ったのは武井宏之の圧倒的なデザインセンスです。一目見て「おおおっ!」と思わされるような、オーバーソウルの痺れるようなデザインは秀逸です。『ジョジョの奇妙な冒険』の幽波紋(スタンド)に通ずる設定ではありますが、スタイリッシュな画風で描かれるキャラクターの格好よさ、かわいさ、あるいはその両方に彼らのオーバーソウルが加わった時のヴィジュアルには、マンガという媒体の強みを最大限に生かした白と黒のコントラストと構図の魅力の掛け算も合わさり、独自の魅力が完成されていました。メカ系のデザインは特にクールで、設定画をずっと眺めていても飽きません。

また、『キン肉マン』に端を発する「強さの数値化」がこの作品でも「巫力」という形で行われていますが、そこでもひとつ新しさを見せています。強さを数字で表現することは解りやすさを生む一方で、インフレという課題を抱えてしまいます。当然『シャーマンキング』でもインフレは起こるのですが、その数字だけが絶対ではないという展開が描かれたところには感心しました。

友情・努力・勝利というジャンプ三原則をしっかり咀嚼しながら、新鮮な味わいとなるように料理してみせた作品と言えます。

掲載誌に関しては紆余曲折があり、「ジャンプ改」にて『シャーマンキング0-ZERO-』『シャーマンキングFLOWERS』が描かれた後、講談社の「マガジンエッジ」で20周年記念と共に『SHAMAN KING SUPER STAR』が開始されました。タイトル通り歴代のキャラクターが総登場する内容で、『FLOWERS』までは追っていた、というファンには胸が熱くなる展開となっています。

道 潤が主役の『SHAMAN KING レッドクリムゾン』、X-LAWSが主役の『SHAMAN KING マルコス』、2020年12月から「なかよし」誌上で始まる『SHAMAN KING & a garden』といった外伝も連載中の他、2021年4月からは2度目の映像化となるTVアニメも始まります。「マンキン」ワールドはまだまだ広がりを見せて楽しませてくれそうです。

これぞ唯一無二の久保帯人ワールド!『BLEACH』

2001年より15年間連載、全74巻の単行本の累計発行部数は全世界で1億2,000万部。長年ジャンプの看板マンガのひとつとして君臨したのが『BLEACH』です。

『バクマン。』において「大人気マンガの共通点は刀」と言われ、その例として『BLEACH』も挙げられました。より正確に言えば、大ヒットマンガの多くはバトルマンガであり、その中に刀を使用するキャラクターが登場する作品が多いというところでしょう。そうした観点で考えると『るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-』が特大のヒットを記録した後、和月伸宏の次作である銃で戦う『GUN BLAZE WEST』が今ひとつの人気に留まったことは、ジャンプ史において象徴的なできごとです。

古来より武士の命として重用されてきた刀の魅力は日本人男子のDNAに刻まれており、近年では『刀剣乱舞』のヒットもあり女性の刀ファンも激増しています。マンガとして描く場合には刀身が長く見栄えのする刀はうってつけという面もあるでしょう。とは言いつつも刀メインで戦うバトルファンタジー作品で大ヒットしたものはジャンプでも意外と多くありません。刀だけではできることのバリエーションが限られるので、様々な武器を使うキャラの中に刀キャラもいるというバランスが一番描きやすいということもあるでしょう。ともあれ『風魔の小次郎』以来あまり出ていなかったところで、『BLEACH』を経て『鬼滅の刃』へと繋がっていきます。それぞれの時代時代で子どもたちに公園で棒切れを持ちながら風魔烈風剣を、卍解を、水の呼吸を真似させる魅力をこれらの作品は持っています。

『聖闘士星矢』の黄金聖闘士、『HUNTER×HUNTER』の幻影旅団、『鬼滅の刃』の柱のように圧倒的な強さと個性を兼ね揃えたキャラクター群の登場は作品の魅力を大きく引き上げますが、『BLEACH』の護廷十三隊も正にその役割を担いました。編を追うごとにスケールを増し、強大さを増していく敵との戦いは、正に少年マンガの真骨頂です。

しかし『BLEACH』といえば、何をおいても久保帯人の独特のセンスに尽きます。単行本5巻の

剣を握らなければ おまえを守れない
剣を握ったままでは おまえを抱き締められない

のような巻頭の文章に触れた時に心にどのような波紋が広がるかによって、また細かいことは気にせずに大筋を楽しめるかによって、この作品のfor me or not for meが解ることでしょう。

今年連載が始まった『BLEACH』とも繋がりのある最新作『BURN THE WITCH』連載版で、「おとぎ話なんてクソでしょ」というセリフから物語が始まった時は「僕らの久保帯人がジャンプに帰ってきた!」と昂りました。

「一体いつから(中略)錯覚していた?」や「あまり強い言葉を遣うなよ 弱く見えるぞ」などネットミームと化した藍染惣右介のセリフのような側面ばかりが取り沙汰されることも多いですが、志波海燕から朽木ルキアへ投げかけられた言葉や、主人公・一護の父親が息子を発奮させるために言ったセリフなど、感動できる名言も数多くあります。一時代を築いた偉大な作品であることに間違いはありません。

スタイリッシュなジャンプの新風『D.Gray-man』

2002年に「赤マルジャンプ」に掲載されたデビュー作『zone』やジャンプ本誌に掲載された『Continue』を読んだ時、作者・星野 桂の絵の美しさに見惚れ「この人のマンガをもっと読みたい!」と思いました。そして2004年に満を持して『D.Gray-man』が始まった時はとても嬉しく、日々の楽しみが増えました。

星野 桂作品は、とにもかくにもスタイリッシュな作画により生み出される世界観とキャラクターの魅力が突出しています。それまでのジャンプっぽくない、「月刊少年ガンガン」などエニックス系統の作品に近い画風と物語のテイストで、そういった作品が大好物だった私には大いに刺さりました。

2007年に「ジャンプSQ.」が創刊され、『CLAYMORE』、『テガミバチ』、『ロザリオとヴァンパイア』など月刊少年ジャンプから移籍した作品に加え、『エンバーミング』、『血界戦線』や『青の祓魔師』などジャンプスクエアを代表する上質なファンタジー作品も数多く生まれました(その多くがダーク寄りであるのも象徴的です)。その時期に『D.Gray-man』も「ジャンプSQ.」へと移籍になりました。従来のジャンプらしさとは少し離れたところにあるファンタジー作品の需要というものが確かにあり、集英社はしっかりとその受け皿を作ったと言えます。単行本2巻発売の時点で100万部を突破し、新人の作品としては類を見ないスピードでの大ヒットを飛ばした『D.Gray-man』の存在はそれを大きく後押しするものだったでしょう。

作者の体調による休載も繰り返されながら現在も季刊の「ジャンプSQ.RISE」で連載は続いており、ちょうど最新号では主人公アレン・ウォーカーが表紙を飾っていました。2020年8月の時点で単行本は27巻、2,500万部となっています。主に休載が明けたタイミングで画風に変化が起きたことが何度かあり、16年間の技術の変遷を味わいながら読むのもひとつの楽しみです。

作者が女性であることから端々に女性的な感性が見られるところ、また基本的にはシリアスでハードな展開が多いですがその合間にもギャグが挟まれるところ、新人で初連載でありながら大ヒットしたところなどは『鬼滅の刃』とも通ずる部分があります。

シーン毎のキャラクター同士の掛け合いや味わい深いセリフ回しが光りますが、世界全体に秘められた謎を追うワクワク感もあります。主人公・アレンの武器は十字架、ヒロインポジションのリナリーの武器は靴という特徴的なスタイルも面白いところ(神田の武器が刀なのは『バクマン。』流のヒット作品の条件を満たしていますね)。また味方サイドだけでなく敵サイドのデザインも非常に格好よく、一度嵌ると抜け出せない魅力があります。

今年の8月には「D.Gray-man原画展 ─星野桂の世界─」も開催され、その美麗な描線やカラーを生で見る機会にも恵まれました。これからの展開にもますます期待が掛かります。

心温まるホラー&バトルのバディ作品『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』

2004年に連載が開始され、2008年に終了した『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』。連載終了から10年が経った2018年にアニメ化がされ、第2期が2020年7月から9月の間に放映されたことで現在人気が再燃しています。

近年では現実の職業をファンタジー要素と掛け合わせた作品も数多く登場していますが、『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』は「週刊少年ジャンプ」でいち早くそうした要素を取り入れた作品です。作者の西 義之が「となりのヤングジャンプ」で現在不定期連載中の『ライカンスロープ冒険保険』も、そうした巧さがよく出ている作品です。

「法律家」という、少年マンガで描くには若干難解であるが故にそれまで描かれてこなかった職業にフィーチャーして、独自に魔法律という設定を体系化した世界観がまず魅力的です。

この作品では六氷 透こと天才・ムヒョと、草野次郎こと凡人・ロージーが対照的な凸凹バディとして描かれますが、この二人の関係性とその変化も大きな見どころです。おっちょこちょいで臆病なロージーが、ムヒョに着いていくために懸命に努力をして成長していく姿に心を打たれます。主役の二人以外でも数多く描かれる女の子もかわいくて魅力的で、個人的にはパンジャが好きです。

そして、西 義之作品に共通する最大の魅力は、作者の人柄が表れているような「優しさ」が根底に流れているところです。展開としてはかなりダークかつハードで人間の闇を刳り出すようなエピソードもあり、ホラー色も強いのですが、それでも作品全体を通して読んだ時には胸に温かい感情が宿ります。

同時代に連載されていた『魔人探偵脳噛ネウロ』は同じダーク要素のある事務所バディものということで、作者同士も意識していて互いに単行本でコラボレーションをしていたのもファンには嬉しいところでした。

少年誌に載るダークファンタジーとしては実に丁度いいバランスで作られた作品だったと、2020年のアニメを観て改めて感じました。

なお、2009年には超ヒットを記録した『進撃の巨人』の連載が「別冊少年マガジン」で開始されました。最初はジャンプにも持ち込まれたそうですが、「“ジャンプ”(に載っているような作品)を持ってこい」と断られたという話は有名です。『進撃の巨人』は近年のダークファンタジーを定義する作品であり、逃した魚はあまりにも大きいかと思われましたが、一方で「ジャンプらしい」育成を経て『進撃の巨人』を超える大ヒットを記録することになる「あの作品」が登場してくる話は次回にしたいと思います。

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