Interview

KIRINJI バンド編成で新たなフェーズに挑んできた8年間の軌跡を堀込高樹が語る。

KIRINJI バンド編成で新たなフェーズに挑んできた8年間の軌跡を堀込高樹が語る。

2021年以降は堀込高樹を中心とする「変動的で緩やかな繋がりの音楽集団」として活動していくことを発表したKIRINJI。2013年にキリンジからバンド編成のKIRINJIとなり、その卓越した音楽性で次々と新しい扉を開けていった彼ら。その軌跡を凝縮したベスト・アルバム『KIRINJI 20132020』が11月18日にリリースされる。アルバム毎に冒険に挑み続け、2014年から2019年にかけて4枚のオリジナル・アルバムを発表したKIRINJIの8年間の変遷をリーダーの堀込高樹にあらためて訊いてみた。

取材・文 / 佐野郷子 撮影 / 沼田 学


2020年1月に届いた「KIRINJIからの大切なお知らせ」

KIRINJIが2021年以降は「変動的で緩やかな繋がりの音楽集団」として活動してゆくことを発表したのは1月でしたが、今年は本来どういう活動をしていく予定でしたか?

今年はコロナの影響で、気がついたらもう年末……という不思議な時間の感覚がありますね。年内は現編成のメンバーで活動を続けて、2月末からツアー(『KIRINJI TOUR 2020』)、その後もフェスやイベントに出演する予定だったのですが、コロナの影響で延期や中止になってしまいました。

ちょうどツアーが始まる頃にコロナの感染拡大が危惧される事態になりましたね。

そう。ツアーのリハーサルをすべてやって、「さあ、行くぞ」というタイミングだったのでとても残念でしたが、こればかりは致し方ない。最初は延期を発表したものの結局ツアーは中止となり、その代替としてスタジオ・ライヴ映像を2週連続で有料配信することになったのが7月でした。

その頃には配信ライヴも増えていましたが、KIRINJIはスタジオで事前収録されたパフォーマンスを配信することになったのは?

7月の振替公演の開催が難しいとなって、せっかくリハーサルも重ねたし、ツアーを楽しみにしてくれていた方もいたと思うので。ただ、ライヴ会場からのリアルタイムの配信に拘らずに、スタジオで収録した演奏をちゃんとミックスした音で視聴してもらう方がKIRINJIらしいんじゃないかと。というのも、ライヴ会場だとそれほど気にならない細かい音のニュアンスが、家で冷静に聴くと視聴者は気になるんじゃないかと思ったんですよ。今回のベスト・アルバムのデラックス・エディションには、スタジオ・ライヴ配信の映像を再編集したBlu-ray Discが付くので、見逃した人はぜひ。

KIRINJI 堀込高樹 WHAT's IN? tokyoインタビュー

このメンバーでできることを片っ端からやっていこうとしたアルバム『11』

キリンジから、新たに5人のメンバー(田村玄一、楠均、千ヶ崎学、コトリンゴ、弓木英梨乃)を迎えたバンド、KIRINJIとして活動すること発表したのは2013年夏でした。

キリンジとしての最後のツアーが終わったのが2013年の4月。自分としてはあまり時間を空けずに次の活動に移行したかった。その夏の「WORLD HAPPINESS 2013」に出演したときは、ギターの弓木(英梨乃)さんが参加できなくて、ちゃんとメンバーが揃った最初のライヴは本門寺の「Slow Music Slow Live 2013」でした。

新体制初のワンマンライヴはその年の12月でしたね。そのライヴで初披露されたのがベスト・アルバムの1曲目「進水式」。KIRINJIの新しい船出を象徴する曲として印象に残りました。

あのときは新曲とキリンジ時代の曲を演奏しましたが、新しいバンドのメンバーとプレイしてみて、今までになかった感慨がありましたね。新しいKIRINJIは一体どんな音楽を聴かせてくれるんだろうというお客さんの緊張感もあったと思うし、僕らもたぶん緊張していたのでしょうけど。

KIRINJIとしてのアルバムをリリースする前にライヴをしたのは?

先に曲をつくって、ライヴでこなれてからレコーディングをしたいと思っていたからです。『11』のときはそれができました。当時は「進水式」のようなオーセンティックな曲もあれば、ニューウェイヴやチェンバー・ポップの要素も視野に入れた曲作りをしていた気がしますね。弓木さんはヴァイオリンも弾けるし、玄さん(田村玄一)も色んな楽器が出来るので、それを活かしながら、このメンバーでできることを片っ端からやっていこうと。実はKIRINJIになって最初にレコーディングしたのは、大貫妙子さんのトリビュートアルバムに参加した曲だったんです。

今回のデラックス・エディションのBonus CDにも収録された「黒のクレール」ですね。

当時は、ああいうクラシカルなチェンバー・ポップと言えなくもない音も取り入れていこうとしていたんじゃないかな。今、思えばかなり手探りでしたね。何せ一度もセッションすることなく、メンバーを集めてアーティスト写真を撮るところからKIRINJIは始まりましたから(笑)。

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イメージを刷新した男女混成の編成と女性メンバー二人によるヴォーカル

ベストには『11』からは、「雲吞ガール」、「fugitive」「だれかさんとだれかさんが」も入りましたが、女性メンバー二人のヴォーカルやコーラスワークはKIRINJIの新たな武器であり、特徴になりましたね。

キリンジは(堀込)泰行を中心にした男性ヴォーカルで、なぜかデュオと呼ばれたりもしたのですが(笑)、そこを刷新するためには女性ヴォーカルの曲があるというのは大きかった。あと、「だれかさんとだれかさんが」のような男性と女性の混声のアレンジもやってみたかったですしね。

アルバム・タイトルはキリンジの『Ten』の続きで、あえてさらりと『11』に?

アルバム・タイトルが「進水式」とかだとちょっと大袈裟な感じがするじゃないですか? 『11』にしたのは、地続きで「やってます」というのを伝えたかったからなのですが、今思うと、それは自分だけの問題だったなと(笑)。

ニューウェイヴ色の強い「雲吞ガール」はライヴで人気のナンバーですが、歌詞に〈花園神社〉、〈風林会館〉、〈過払い金〉というダークサイドを匂わせる言葉が出てきたのは出色でしたね。

あの頃はJAPANやデヴィッド・シルヴィアンなんかを聴いていたのかな? 歌詞は新宿っぽいですよね(笑)。新宿はギャランティーク和恵さんの曲(「あきらめのボン・ヴォヤージュ」)を手がけたことをきっかけに、たまにゴールデン街に飲みに行くようになって面白いところだなと思って。まぁ、新宿って戦後の闇市の残り香なんかがあって、イメージが浮かびやすい街なんですよね。

コトリンゴさんが〈刑事さん 私、何も知りません〉と歌う「fugitive」もただ事ならない場面ですよ(笑)。

イヤだったかなぁ、あの歌詞(笑)。いや、面白がって歌ってくれた気がします。あの歌詞は彼女の儚い歌い方だから特別な雰囲気になったと思います。自分が歌うのではなく、人が歌うから書けた歌詞ではありますが、言われてみると『11』の歌詞は少し不穏な空気を醸していますね。

翌年に『11』をリアレンジした『EXTRA-11』を発表したのは何か意図があったのでしょうか?

何かリリースしたいけど、アルバムを一から作るのはさすがに厳しいからライヴでやった別のアレンジでもう一枚つくることになったのですが、前作のすぐ後だけにさすがに苦心しましたね。ただ、ここでチェンバー・ポップ的なアレンジやKIRINJIのバンドとしての対応力は発揮されたとは思います。

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ラップを大胆に取り込んだ「The Great Journey feat. RHYMESTER」

『ネオ』では、早くも次のコーナーに差しかかったKIRINJIを感じました。

その前にシングルで「真夏のサーガ」(2015)を発表してから、『ネオ』までけっこう時間が空いてしまって、そこで気分が変わったんですよ。『11』は音楽的にかつてのキリンジをまだ引きずっていた部分があったので、せっかく新しい編成になったわけだし、もっと今までにない新しいタイプの音楽をつくりたくなった。

その象徴が「The Great Journey feat. RHYMESTER」でした。ラップへのアプローチはきっかけがあったんですか?

当時のマネージャーからの提案だったのですが、色々想像していくうちに、ラップはハマったら面白くなるかもしれないと思いました。ただ、どの程度の割合でラップを入れたらいいものか? よくあるサビはメインのアーティストが歌うという入れ方だとあんまり通常の歌ものと差がないとも思って。それで、バックトラックはKIRINJIが頑張って、主役はRHYMESTERという方が面白くなるんじゃないかと。

それまでRHYMESTERとの接点は?

キリンジのときに宇多丸さんのラジオに出演したり、彼がDJでキリンジをかけてくれているという噂は聞いていたので、お願いしても大丈夫かなと密かに思っていました。

高樹さんが叫ぶ〈満室! どこも満室!〉は衝撃でしたが、ここで思いきって振り切った感はあったのでは?

そうですね(笑)。ああいうファンキーでアフロっぽい熱量と情報量が尋常ではない曲ができたことは自分でもけっこう頑張ったなとは思います。バンドのタイプは違うけど、RHYMESTERはクレイジーケンバンドやNONA REEVESとも共演しているし、音楽的にすごく柔軟性があるからやりやすかったというのも大きかった。

Bonus CDには「Diamonds feat. KIRINJI / RHYMESTER」も収録されました。

RHYMESTER主宰のイベント「人間交差点」にも出演しました。KIRINJIの後にKREVAさんという並びも面白かったし、今までと違うフィールドに多少なりとも踏み出した感はありましたね。

コトリンゴさんの「日々是観光」、弓木さんが歌う「Mr. BOOGIEMAN」など個性の違う女性二人の活躍もKIRINJIの幅と奥行きになっていきました。

そうですね。これは二人の異なる個性がよく表れている2曲だと思います。「Mr. BOOGIEMAN」で初めてヒップホップやLDH系のアーティストなどを手がけているエンジニアのD.O.I.さんにミックスをお願いしたのも実は大きくて、普通に街から流れてくる現行のポップ・ミュージックと違和感なく聞こえたのは新鮮な発見でしたね。そこで開眼したことが、次のアルバムに繋がっていきました。

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『愛をあるだけ、すべて』で、現行のポップを意識したサウンドに進化

2017年11月にはコトリンゴさんが脱退を発表、同時期に「AIの逃避行 feat .Charisma.com」もリリース。前作よりさらに現行のポップを意識したサウンド・プロダクションになっていく予感が。

「The Great Journey」のときは生のグルーヴが主体でしたが、「AIの逃避行」になると打ち込みか生か分からないくらい編集した音になりました。

2018年の『愛をあるだけ、すべて』に収録された4曲は今様に変わりゆくKIRINJIの新たな表現が刺激的でした。

『11』や『ネオ』は、クラシックなポップの要素を残しつつ多ジャンルに渡る音楽を取り込んだアルバムだったと思いますが、それをもっと絞って、自分が今、興味があって得意なものに寄せていったというか。

ベースの千ヶ崎学さんと共作した「悪夢を見るチーズ」のようなユニークな曲がベストに入ったのも面白い。

「悪夢を見るチーズ」こそ、KIRINJIでないと出来なかった曲です。千ヶ崎くんが持って来たベースと歌だけのデモテープにハーモニーをつけてゆくと、聴いたことのない面白い曲になって不思議な中毒性があった。その時期のKIRINJIらしさがある意味、よく出ていると思います。

サンダーキャットのようなヒップホップやジャズの影響と、AORのテイストまで取り込む斬新なミュージシャンが登場したことも刺激になりましたか?

あそこまで謎ではないですけど(笑)、意外なカウンターからメロウな音楽をシーンにぶち込んできたのは新鮮でした。日本の昔のシティポップなんかも海外の人が聴いて、通過したものをまた僕らが聴いて再発見するようなところがあった。僕らが慣れ親しんでお腹がいっぱいだと思っていた音楽が、そういう新しい視点で甦ったところはありましたね。

ケンドリック・ラマーのステージを観るために高樹さんがフジロックフェスティバルに足を運んだのも2018年でしたよね。

大雨に打たれながら観ましたよ(笑)。ファレルのN.E.R.Dやアンダーソン・パークも観たかったけど、別の日だったから諦めて、息子の希望でケンドリック・ラマーになりました。しかもそれがフジロック・デビューだったという(笑)。

高樹さんの志向の変化を物語るエピソードですね。2018年は、キリンジのデビュー20周年のアニヴァーサリー・ライブも開催されました。

あのライヴはキリンジとKIRINJIのステージの両方に出なくてはならないから、感慨に浸る余裕もないほど大変でした。自分としては「早く次に行きたい」という思いが強かったから、回顧的なライヴというよりも、区切りになるライヴになりました。

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バンド編成によるKIRINJIから、フレキシブルで緩やかな繋がりの音楽集団へ。

昨年のアルバム『cherish』は、「killer tune kills me feat. YonYon」「Almond Eyes feat. 鎮座DOPENESS」など気鋭のゲストを迎え、2019年のベスト・アルバムに選出されるなど高い評価を獲得した力作でした。

「killer tune kills me」は、インスタでYonYonにメールしたところから始まったのですが、自分がそんなことをするのも意外でした(笑)。彼女をフィーチャリングすることで韓国をハブにして、アジア圏を中心に海外の人も聴いてくれて、今までにはない動きが生まれたこともよかったです。

「雑務」、「「あの娘は誰?」とか言わせたい」の高樹さんのヴォーカルの個性と独自の世界観もいよいよ確立された感がありました。

KIRINJIになって歌うことに慣れてはきましたね。どういう風にしたらどういう声が出るかとか、姿勢や体の使い方がここ数年で分かってきた。本物のシンガーの人は無意識にそれができているのでしょうけど。

バンド編成によるKIRINJIになってアルバム毎に新しい扉を開けてきたと思いますが、今、あらためて振り返るといかがですか?

歌うことへの意識の変化やプロデューサーとしての客観的な視点も含めて、ミュージシャンとして成長できたなとは思います。8年経ってそれは実感できましたね。

現体制でのライブは12月のNHKホール2Daysが最後になります。

本来は現編成でツアーをして完全燃焼したかったんですけどね。今年、KIRINJIが人前でライヴしたのって日比谷野外大音楽堂の「Slow LIVE’20」 だけなんですよNHKホールは、通常の公演よりも客席を半分以下に減らして開催することになりました。有料生配信も実施する予定です。8年間のKIRINJIのライヴの集大成をたっぷり、楽しく、賑々しく披露したいと思っています。ここで現編成のKIRINJIは終了ですが、これからも今のメンバーとは音楽の適正を考えながらフレキシブルな関係で音楽をつくっていく気がします。緩やかな繋がりは続いていくと思います。

この秋は、話題のTVドラマ「共演NG」の音楽を手がけ、堀込高樹としての仕事も増えていきそうですね。

ドラマの音楽は監督の大根仁さんから直接お話をいただきました。大根さんは「モテキ」もそうですが、ドラマの劇伴に坂本慎太郎さんを起用したり、ミュージシャンを尊重してくれる方のような気がして引き受けました。タイトルバックに流れる曲は最初はインストだったのですが、大根さんの「歌ってほしい」という希望で、劇中ドラマも「殺したいほど愛してる」と物騒な感じなので(笑)、〈険悪 殺伐 一触即発 撲殺〉という歌詞をつけて歌いました(笑)。そういう仕事は、自分が普段つくっている作品ではできない曲や新しい試みもできるので、今後もやっていきたいと思います。

その他のKIRINJIの作品はこちらへ。

ライブ情報

「KIRINJI LIVE 2020」
12月9日(水) 東京・NHKホール
12月10日(木) 東京・NHKホール
■出演
KIRINJI(堀込高樹、楠均、千ヶ崎学、弓木英梨乃)
矢野博康、sugarbeans、MELRAW, YonYon

KIRINJI

1996年に堀込高樹、泰行の実兄弟でキリンジを結成。1997年のインディーズデビューを経て、メジャーデビューし、オリジナル・アルバム10枚を発表。
2013年に泰行がキリンジを脱退後、堀込高樹がバンド名を継承し、2013年夏、新メンバーに田村玄一/楠 均/千ヶ崎 学/コトリンゴ/弓木英梨乃 を迎えバンド編成のKIRINJIとして活動を開始。2014年に通算11枚目となるアルバム『11』をリリース。2016年には外部アーティストと初のコラボレーションに挑んだ「The Great Journey feat. RHYMESTER」を含むアルバム『ネオ』を発表。2017年12月に東京・大阪で開催した「KIRINJI LIVE 2017」をもってキーボードのコトリンゴが脱退。2018年にメはジャーデビュー20周年を迎え、アルバム『愛をあるだけ、すべて』を発表。20周年記念ライブ「KIRINJI 20th Anniversary Live 19982018」を開催するなど精力的にライヴ活動を展開した。韓国ソウル生まれ日本育ちのYonYonを客演に招いたシングル「killer tune kills me feat.YonYon」が話題を呼んだ2019年は、アルバム『cherish』をリリースし、高い評価を獲得。2020年1月、年内をもってバンドとしての活動を終了し、以後のKIRINJIは堀込高樹を中心とする変動的で緩やかな繋がりの音楽集団(現在のメンバーも含む)として活動していくことを発表。堀込高樹はTVドラマ「共演NG」の音楽や楽曲提供、“聴こえる”絵本『あの人が歌うのをきいたことがない』を手がけるなど多方面で活躍中。

オフィシャルサイト
https://www.kirinji-official.com/

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