横川良明の演劇コラム「本日は休演日」  vol. 35

Column

平野 良の趙公明にトレビアン!「封ミュ」が思い出させてくれる少年漫画のワクワク感

平野 良の趙公明にトレビアン!「封ミュ」が思い出させてくれる少年漫画のワクワク感
今月の1本「ミュージカル封神演義‐開戦の前奏曲(プレリュード)-」

ライター・横川良明がふれた作品の中から、心に残った1本をチョイス。独断と偏見に基づき、作品の魅力を解説するこのコーナー。
今月は「ミュージカル封神演義‐開戦の前奏曲(プレリュード)-」をピックアップ。初演から1年10ヶ月。新たなる冒険の旅へ出た「封ミュ」の魅力を語り尽くします。

※本公演は10月25日の初日公演のみ上演。以降、新型コロナウィルス感染拡大防止により全公演中止。初日公演のアーカイブ配信・再配信が11月8日まで行われた。

少年漫画を手にしているときは、みんな“少年心”が疼いている

少年漫画の魅力は、ワクワク感だと思う。もちろん作品によってカラーはそれぞれ。テーマが違えば、目指す世界も違う。だから、読者に与えるものも作品によって十人十色であっていいんだけど、人を惹きつける作品にはワクワク感がある。

ページをくるたびに、新しい世界が広がるワクワク感。漫画を読んでいるときだけは、他の誰かになれているワクワク感。そのワクワク感を人は“少年心”と呼ぶのだろう。男も女も、大人も子どもも、少年漫画を手にしているときは、みんな“少年心”が疼いている。

だから、少年漫画を舞台化するときは、同じようにワクワク感を観客に与えるものであってほしいし、“少年心”を思い出させてくれる作品にしてほしい。そんな期待にちゃんと応えてくれるのが、「ミュージカル封神演義」シリーズだ。

2019年1月にシリーズ第1弾として「ミュージカル封神演義-目覚めの刻-」を上演。主人公・太公望(橋本祥平)の旅立ちから聞仲(畠中 洋)との対決までがスピーディーに描かれた。第2弾となる「ミュージカル封神演義‐開戦の前奏曲-」では、魔家四将との激闘を開幕のベルとし、前半は殷の二太子・殷郊(長江崚行)と殷洪(田口 司)との対決、後半は趙公明(平野 良)とのバトルにフォーカスを置いて構成されていた。

母の膝の上で眠る二太子に、優しい愛を感じた

原作を知る者にとってワクワクが高まるポイントは、スケールアップしていく悪の仙道との攻防を舞台でどう描いていくかだ。まず殷郊との一騎打ちは、人間ドラマの哀しみに重点が置かれた。祖国・殷を取り戻したい気持ちも、非業の死を遂げた母の仇を討ちたい気持ちも、同じ。けれど、道を違えた兄・殷郊と弟・殷洪。悲劇の兄弟の苦悩を強く訴えると共に、人と争うことも命を奪うことも好まない太公望が、自らの意志で殷郊を討つ。その葛藤と決断がtakの紡ぐオリジナル楽曲に乗せて綴られた。

見せ場となる殷郊の宝貝(パオペエ)・番天印は、「番天」の旗印がついた旗で表現。太公望が打神鞭を振るえば、太公望のトレードカラーである黄色い旗を持ったアンサンブルキャストが舞台上を駆けめぐり、殷郊が番天印をかざせば、「番天」の旗印がついた旗を持ったアンサンブルキャストが応戦する。宝貝によって繰り広げられる力のぶつかり合いが、どこか人間同士の争いにも見える演出だ。

人が動くと熱が生まれる。人が動くと風が起きる。映像のように3DCGで宝貝のエフェクトを表現することはできないけれど、生身の人間から発せられる熱と風も、3DCGではつくれない。そんな熱と風がドラマを盛り上げる。

兄のために自らの命を投じた殷洪。太公望に敗れ去り命果てた殷郊。原作では国のために殉じた悲運の太子という印象が強かったラストシーンだが、舞台では力尽きた殷郊が走馬灯の中で現れた母の膝の上で息絶えるという演出が加えられた。道を違えた兄弟が、最期は共に母に抱かれ眠る。そこに家族の温かさが溢れ出ていて、悲しい場面ではあるのだけれど、どこか優しい愛を感じる幕切れとなっていた。

哪吒VS馬元戦にこみ上げる苦しさと愛しさ

バトルシーンの表現は、他にも様々な趣向が取り入れられていた。特に印象的だったのは、哪吒(阿部大地)と馬元の一騎打ちだ。宝貝人間である哪吒は心の機微を持たない。ただ強さを追い求める戦闘兵器のようなもの。そんな哪吒が初めて戦いたくないという感情を覚えた相手が、馬元だ。

哪吒の身の丈の何倍もの大きさを誇る馬元。その巨大ないでたちを舞台でどう表すのか。演出・吉谷光太郎が選んだ手法は、影絵だった。馬元 役のアンサンブルキャストが舞台の面(つら)側で動き、それを前方の照明機材から照射することで、舞台後方に大きな影をつくる。古典的だが、プロジェクションマッピングが当たり前の2.5次元舞台では逆に新鮮だ。哪吒 役の阿部大地を飲み込むような黒い影が、観客の脳裏にそれぞれの馬元像をイメージさせる。直接その場で人間が動くからこそ、影絵の動きも生々しく、固定のプロジェクションマッピングに合わせるより、キャストの動きにも臨場感が生まれる。

また、薬によって理性を奪われ、暴走化したのちも、もとの動きを演じたアンサンブルキャストがそのまま馬元の声を担当することで、目の前で怪物化した馬元の心の中にはちゃんと人間だった頃の馬元がいるんだということが伝わってくる。父に喜んでほしくて身を捧げた馬元。個人的に哪吒推しであるという贔屓目を差し引いても、この馬元戦は号泣必至のエピソードだ。馬元の最期に締めつけられるような苦しみを味わうと共に、人間らしい感情に目覚めた哪吒に愛しさがこみ上げる。舞台でまたこの感動を体験できてよかったと胸がじんわり熱くなる名シーンだった。

原作ファンの平野 良が演じる、納得の趙公明

そして、本作最大の山場となるのが、クライマックスの趙公明との決戦だ。この趙公明自体が、歴代のバトルファンタジーを遡ってみても“異色”としか言いようのないド変人。タッチはロココ調。つねにスポットライトの中心に立ち、原作では宝塚歌劇団を思わせる大階段から、シャンシャンを携えたキャストを従え、ゴージャスに登場するという、ナルシストと呼ぶにはもはや実際のナルシストに失礼なくらい、ぶっ飛んだキャラクターだ。実力は妲己(石田安奈)、聞仲と並び、この段階で登場する敵キャラクターとしては文句なしに強力なはずなのに、そのユニークすぎる性格のせいでまるで憎めないどころか、思わず戦意喪失してしまうシュールな魅力がある。

そんな超個性派キャラを誰が演じるのか。原作ファンが固唾を飲んだキャスティングも、平野 良と聞いて、きっと多くの人が思ったはずだ――平野 良なら安心だ、と。そんな期待に応えるように、確かな演技力と抜群のコメディセンスで、趙公明を愛すべき変態としてブラッシュアップさせていた。

しかもこの趙公明というキャラクターが、ミュージカルに絶妙にマッチするのだ。なぜなら、趙公明は存在そのものがミュージカルだから。それを、近年、着々とミュージカル俳優としての経験を積み上げている平野 良が、鍛え込んだ歌唱力で高らかに歌い上げてくれるので、趙公明のショータイム感が倍増。おフランス感のある髪型も、濃すぎる眉毛もしっかり再現。漫画では新連載開始となっていたあのネタも、舞台ではカーテンコールという形でうまくアレンジし、原作者である藤崎 竜のフジリューワールドへのリスペクトも忘れない。きっと劇場で趙公明と一緒にあの手振りをやりたかったファンは多いはず……!

ワクワク感という意味で最後のお楽しみとなったのが、趙公明が原型である巨大花へと変身するシーンだ。毒々しい花弁を長い布で表現し、舞台上が趙公明の花弁で埋め尽くされるような演出は、この宇宙スケールの異次元バトルにふさわしいダイナミックさがあり、原作を読んだときの“少年心”が熱く甦ってきた。最後の封神シーンまで趙公明らしさ全開で、麗しくも面白い平野 良の趙公明に“トレビアン”と拍手を送りたい。

本作は、公演関係者に新型コロナウイルス陽性が確認されたため、10月27日以降、全公演が中止に。上演されたのは、初日の1公演のみとなった。公演に携わったすべての人たちの気持ちを思うと、どんなに言葉を尽くしても足りないくらいだ。

それでも、配信という形で、たくさんの人に「封ミュ」が届いたこと。画面越しとはいえ、キャスト・スタッフが魂を込めてつくり上げた作品にふれられたことをうれしく思う。そして、太公望の冒険はまだここで終わりではない。これは、開戦の前奏曲。後奏曲までにはまだいくつものインタールードが残っている。

それに、逆境ほど燃えるのが、少年漫画の王道。胸に“少年心”を絶やさず、カンパニーが次なる作品を届けてくれる日を楽しみに待ちたい。

「ミュージカル封神演義–開戦の前奏曲(プレリュード)–」

原作:藤崎竜(集英社文庫コミック版)安能務訳「封神演義」より
脚本:葛木英
演出:吉谷光太郎
音楽:tak
音楽監督・歌唱指導:水野里香
振付:MAMORU
アクション監督:奥住英明(T.P.O. office)

出演:
太公望 役:橋本祥平
楊戩 役:安里勇哉
哪吒 役:阿部大地
黄天化 役:太田将熙
武吉 役:宮本弘佑
黄飛虎 役:宮川智之
太乙真人 役:荒木健太朗
四不象(操演)役:吉原秀幸
妲己 役:石田安奈
殷郊 役:長江崚行
殷洪 役:田口司
姫発 役:松井健太
申公豹 役:大平峻也
趙公明 役:平野良
聞仲 役:畠中洋

アンサンブルキャスト:
佐藤優次、山﨑翔太、浅川文也、千大佑、平澤佑樹、安久真修、熊田愛里、若松春奈

オフィシャルサイト
オフィシャルTwitter(@musical_houshin)

©安能務・藤崎竜/集英社
©「ミュージカル封神演義–開戦の前奏曲–」製作委員会

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