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椎名鯛造が俳優の“喜怒哀楽”を巧みに表現。あなただけの楽園のありかを教えてくれる。演劇配信プロジェクト「ひとりしばい」第9弾

椎名鯛造が俳優の“喜怒哀楽”を巧みに表現。あなただけの楽園のありかを教えてくれる。演劇配信プロジェクト「ひとりしばい」第9弾

個性豊かな演出家と俳優がタッグを組んだ配信舞台「ひとりしばい」の第9弾には、椎名鯛造が登場。作・演出は、ほさかようが担当する。そのタイトルは、「ネバーランド、アゲイン」。
これまでに、荒牧慶彦、小澤 廉、北村 諒ら若手俳優がそれぞれ共演を熱望する演出家と組んで一人芝居に挑み、配信というプラットフォームを最大限に活かした芝居で演劇ファンを魅了してきた。今回、満を持して出演する実力派の椎名が、ほさかとどんな舞台を立ち上げるのか。講談社とOffice ENDLESSの共同プロジェクト「ひとりしばい」、第9弾の模様をレポートしよう。

取材・文 / 竹下力


良い舞台を観る行為は、新しい自分へ生まれ変わるための儀式

10代後半の多感な時期を俳優として過ごし、役者仲間といろいろなオーディションを受け、皮膚感覚のままに演じていたら、誰もが“椎名鯛造”のようにキラキラと輝くと思うのだけれど、そうならないのはなぜだろう? この配信舞台を観つつそんなことを考えていたら、「そんな戯言なんてナンセンス。思いきり演じているだけ!」と椎名のたしなめの声が聞こえてきて背筋が伸びた。今作は椎名鯛造が俳優・椎名鯛造であることを宣言する“自伝劇”とも言える一人芝居だった。

「vol.9」で主人公を演じる椎名鯛造は、2008年に『ネオロマンス・ステージ 遙かなる時空の中で』で舞台デビュー。『最遊記歌劇伝』シリーズ(孫悟空 役)、斬劇『戦国BASARA』シリーズ(猿飛佐助 役)、舞台『刀剣乱舞』シリーズ(不動行光 役)、ミュージカル『薄桜鬼 志譚』風間千景篇(山崎烝 役)などで活躍。テレビ・映画など幅広く作品に出演している。アクロバティックな動きや激しい殺陣など、身体性を活かした演技に定評がある俳優だ。

そんな彼とタッグを組む演出のほさかようは、演劇プロデュース・ユニット「空想組曲」の主宰を務めるほか、ゲームのシナリオライターとしても活動。舞台『ここはグリーン・ウッド』や浪漫活劇譚『艶漢』の演出をはじめ、テレビドラマの脚本や小説執筆などを手がける新進気鋭の劇作家・演出家である。

物語は、椎名鯛造が演じるピーターパンがネバーランドや出自を紹介するシーンから始まる。やがて、アクロバティックな動きや殺陣を見せ、フック船長と戦っていると、突然携帯電話のベルが鳴り響く。実はここからがその男の現実だった。電話の相手は男の親友で同年代の俳優仲間。かかってきたはずの電話口で男は「明日『ピータパン』という舞台のオーディションを受ける」と告げる。10代最後の若き俳優にとって主役のピーターパンを演じること、それは誰にも譲れない夢だった。

男はボロアパートに住み、注目の集まらない舞台に出演してばかりで、明日の生活さえままならない。けれど夢に向かい稽古を重ねていた。しかし、壁の薄いアパート、隣りから壁を叩かれてしまう。男は謝るが、壁の向こうからは「そのまま続けて大丈夫」と言われる。どうやら隣人も昔から俳優をしているようだった。そこで調子に乗った男は「ダメ出しをしてください」と軽いノリで自分の芝居について尋ねる。すると隣人から「役者なら台詞を大事にしろ。ピーターパンは子供でい続けたいと思っているのか? 君が演じているのはただのピーターパンの物真似だ」と厳しい言葉が投げかけられる。的を得た指摘に対し、それを受け入れられずに戸惑う男。

さらに隣人は「君にはなんでも相談できる友達がいると言うけれど、自分のことばかり話して、友達の気持ちを考えたことがあるのか」といった人生論まで語り始められる始末。男は、隣人が自分の過去まで知っている気がして不思議な気分になる。翌日、モヤモヤした感情を抱えたまま、男は『ピータパン』のオーディションに向かう。その会場には、前日連絡をくれた親友が同じ役に挑戦しようとしていた……。

物語は、未来や過去の自分が現在の自分に出会って、これまでの行いを戒めるというディケンズの小説『クリスマス・キャロル』的なファンタジーの手法を下敷きにしている。『クリスマス・キャロル』は悪辣な人間が良心に満ちた人間に改心するキリスト教的なお話であり、今作はひとりの俳優が様々な困難を経験しながら俳優としての己の間違いに気づき、考えを改めて成長する点が共通している。ディケンズが良き人間であり続けることを望んだように、良き俳優になるには、俳優であることを諦めないメンタルを持ち続けることを訴えている。俳優の大切な心構えを問うた“俳優論”としても捉えられる作品だ。

そんな本作の作・演出を担当したほさかようは「椎名鯛造のために書いた」と語っていたように、“椎名鯛造が椎名鯛造でいることを肯定する”脚本を描き、彼の“役者魂”を鼓舞する演出をしていた。物語が進むにつれて、戒められる男=若い俳優が、隣人=歳を重ねた俳優を勇気づけて、立場が逆転してしまう構造は面白かった。それ以上に、つねにポジティブな姿勢でいることの大切さが心に染みた。

今作は椎名鯛造の“自伝劇”の要素があるから、彼の何十年と生きてきた時間と空間をねじ曲げなければならない。劇作家の仕事は、どのように時間を捕まえるかという“時間論”を正確に理解する必要があると思うけれど、ほさかはきちんと椎名の生き様を捉え、椎名らしい芝居を抽出しながら、思わず椎名に感情移入してしまう舞台を作り出していたと思う。

演出は、椎名のアクロバットや殺陣、はちきれんばかりの笑顔をカメラのクローズアップで抜きながら、30代半ばに差しかかかろうとする椎名に、あえて10代や40代の俳優を演じさせてもブレない、揺るぎのない信念を持った“椎名鯛造”を表現しようとしていた。そこに椎名の存在感が漲っていた。また、緊張感があるというよりリラックスして洒脱に見えるのは、ほさかのユーモアが舞台に生きていたからだろう。

椎名鯛造は、主役の心の子細な変化を会話劇で見せるというより、アクロバティックな動きやダイナミックな表情の変化で劇場を情熱的なグルーヴで満たしていく肉体性の強い芝居だった。発声から声に宿る感情にいたるまで豊かで、それに裏打ちされた芝居が、椎名を“椎名鯛造”たらしめているのだと感じさせられた。

なによりも、どんな困難があろうとも俳優でいようとする信念が伝わってくる。彼はピーターパンと同じく永遠に俳優であることを止めようとしない。俳優であることにどんな意味があるのかわかっている。だから10代だろうと、40代だろうと、どの世代を演じても人間の根源的な深みが芝居から出せるのだろう。俳優は、己の中にある芯がブレなければ、どんな役だろうと演じることができる。底抜けに明るい肯定感が俳優には大切なのだと思う。

タイトルの「ネバーランド、アゲイン」が意味しているのは、“楽園=幸せを感じる居場所”は決して失われることのないユートピアとして我々の目の前にあるというメタファーだろう。目を凝らし、そこに楽園があると思い続ければ、きっとそばに寄り添ってくれる。たとえ、そのありかを見失ってしまっても、どこかで再び巡り合うことができる。幸せは自らが掴み取るもの。楽園を見つけようとする心を持って生き続けることがどれほど大切なのかを感じる。突き詰めれば、ネバーランドはその人の数だけ存在しているということだ。

「ひとりしばい」シリーズをここまで眺めて感じるのは、良い舞台を観る行為は、人生の忙しさやつらさを忘れさせ、観客の心を洗い流して新たな自分へ変わらせてくれる“生まれ変わりの儀式”かもしれない、ということだった。椎名鯛造は今作を通して、新しい“椎名鯛造”として変貌を遂げた。それは観客も同じだと思う。そうやって良い舞台と巡り合い、新しい自分を発見していくことが舞台の魅力ではないだろか。そして、その中心のひとりには俳優・椎名鯛造がいて、これからも我々を驚かせてくれるはず。そんな確信を抱くことができた傑作である。

今作を生でお客様に観ていただく機会があれば嬉しい

「ひとりしばい Vol.9 椎名鯛造」が配信されたのち、椎名鯛造とほさかようが登壇し、アフタートークが行われたので少しだけ触れておきたい。

ほさかようが「僕は『遠ざかるネバーランド』という作品を手がけ、鯛ちゃん(椎名鯛造)は少年社中さんの『ネバーランド』に出演し、お互いに“ネバーランド”というフレーズに感じるものがあったし、鯛ちゃんから“ピーターパン”という言葉が出てきたので、この一人芝居に繋がりました」と明かす。
椎名は「今作は僕の宝物になりました。孤独な戦いでしたが、支えてくれるスタッフさんのおかげで今日を迎えることができて嬉しかったです」と感想を述べた。

打ち合わせから椎名を見続けたほさかは「どんなときも最初から全力で演じる俳優で、細かいところは自分でアイデアを出してくれて助かりました。鯛ちゃんとご一緒できて良かったです。今作を観て、演劇は俳優さんを魅せるものだとつくづく感じました」と語った。

最後に椎名の「一回の公演で千秋楽を迎える儚い作品でしたが、出演して楽しかったです。コロナの状況下で、いつ舞台が普通に楽しめるエンターテインメントになるのかわかりませんが、今作を再演して生でお客様に観ていただく機会があれば嬉しいです。アーカイブもあるのでぜひご覧になってください」というメッセージで締め括られた。

本公演「ひとりしばい Vol.9 椎名鯛造」は、11月10日(火)から11月17日(火)までアーカイブ配信されるので、見逃してしまった場合にはぜひ観劇して欲しい。

「ひとりしばい vol.9 椎名鯛造」

2020年11月8日(日)19:00〜生配信実施
演出:ほさかよう
出演:椎名鯛造

<アーカイブ配信>
2020年11月10日(火)12:00~11月17日(火)23:59
※アーカイブ配信チケットは販売中チケットはこちらから

企画・制作:講談社/Office ENDLESS
主催:舞台「ひとりしばい」製作委員会

公演オフィシャルサイト
公演オフィシャルTwitter(@hitoshiba2020)

©舞台「ひとりしばい」製作委員会


ひとりしばい『ラルスコット・ギグの動物園』

2020年11月27日(金)〜11月29日(日)Theater Mixa / Zoom

●「ひとりしばいvol.10 佐藤拓也」
2020年11月27日(金)19:00〜
演出:末原拓馬 出演:佐藤拓也
※配信チケット購入はこちらより(販売期間=2020年11月25日(水)23:59まで)

●「ひとりしばいvol.11 下野紘」
2020年11月28日(土)18:00〜
演出:末原拓馬 出演:下野紘
※配信チケット購入はこちらより(販売期間=2020年11月27日(金)23:59まで)

●「ひとりしばいvol.12 福圓美里」
2020年11月29日(日)18:00〜
演出:末原拓馬 出演:福圓美里
※配信チケット購入はこちらより(販売期間=2020年11月27日(金)23:59まで)


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