Interview

たった一言のセリフにこそ宿る魂。櫻井孝宏、中国発の超絶クオリティアニメ『羅小黒戦記』吹き替え版の熱演を語る

たった一言のセリフにこそ宿る魂。櫻井孝宏、中国発の超絶クオリティアニメ『羅小黒戦記』吹き替え版の熱演を語る

北京・寒木春華スタジオのMTJJ監督が制作したWEBアニメシリーズを原点に、2019年9月に中国で公開されたアニメ映画『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)』。昨年は日本でも小規模ながら字幕版が公開され、黒ネコの妖精・シャオヘイをはじめとする魅力的なキャラクターや、ハイレベルな作画がコアなアニメファンの心を掴み、口コミでも話題を広げていった。

そんな本作が、花澤香菜、宮野真守、櫻井孝宏ら豪華キャストによる日本語吹き替え版『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ) ぼくが選ぶ未来』となって11月7日より全国公開される。人間と自然の共存をテーマに、日本のアニメファンからも絶賛を集める『羅小黒戦記』の魅力とは? 人間嫌いの妖精・フーシー役を、強さと繊細さを持って見事に演じた櫻井孝宏に語ってもらった。

取材・文 / 阿部美香 撮影 / 樋口 涼 構成 / 柳 雄大


「敵か? 味方か?」という役どころの捉え方

<『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ) ぼくが選ぶ未来』あらすじ>
舞台は、妖精と人間が共生する世界。黒ネコの妖精・シャオヘイ(CV:花澤香菜)は、暮らした森が人間により開発されたため、居場所を失ってしまった。そんなシャオヘイに優しく手を差し伸べたのは、同じ妖精のフーシー(CV:櫻井孝宏)。しかしシャオヘイは、フーシーのもとから人間でありながら最強の“執行人”ムゲン(CV:宮野真守)によって連れ出されてしまう。ふたりとの出会いによりシャオヘイは、人間と妖精の関係を揺るがす戦いの中心へと導かれるのだった。

『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ) ぼくが選ぶ未来』では吹き替え声優という立場でフーシーを演じられましたが、ご自身としてはこの作品のどんなところに一番面白さを感じられましたか?

櫻井孝宏 王道の作品だし、自然と人間の共存を考えるというテーマも普遍的。童心に返ったような気持ちで観ることができたのは、印象として大きかったですね。もうひとつ、アニメーションのクオリティがすごいと。もしかしたら、日本のアニメーションの影響も受けているんじゃないかとは思いますが、そこにちゃんと自国の文化を融合して、昇華されている。だから日本人が観ても、新鮮に感じる部分は多いんですね。アニメーション文化としても、相互に良い関係で作られている作品だと僕は思いました。

この物語では、安心して住んでいた森を人間によって追われた黒ネコの妖精シャオヘイを挟んで、「人と妖精の共存を願う」ムゲンと、櫻井さんが演じられた「人間を許すことができない」フーシーが、激しく対立します。櫻井さんはフーシーをどんなキャラクターと捉えましたか?

櫻井 僕はフーシーを信念の人だと思いましたね。覚悟を持って生きている。そもそも、人間に対してあまり良い感情を抱いていない妖精だという出所なので、単純に敵か?味方か?と考えると、ダークな方向に行ってしまうキャラクターではある。ですが、人間を憎む彼が望んだ未来、信じた未来というのは、僕は決して悪いものではないと感じたんですね。

フーシーに共感できたと。

櫻井 そうですね。彼のやり方が正解なのか?と言われると、うーん……とは思いますけど、導き出した答えが信念として彼の中にはあって、そこに向かって突き進む行動は理解できる。彼の信念に従う行動は、綺麗事だけでは済まないから徐々にグレーな方向へと傾いていく。でもそれは、この物語の方向性としてそうなっているだけであって、彼が悪だと僕は思わない。なので、ことさら悪ぶろうとか、嫌な感じにはしたくなかった。そうならないように表現しました。

思想が敵対するムゲンは、どんなキャラクターだと思いましたか?

櫻井 達人、強すぎる人ですよね。強いことが当たり前な存在。その圧倒的な強さは、冒頭から描かれます。こちらが束になっても敵わず、それに対してムゲンは涼しい顔をして息一つ乱さないんですね。ただ、ムゲンとフーシーが魂をぶつけ合い、主義主張を戦わせるところでは、ムゲンもちょっと思うところがある……後に繋がる思いのようなものが、アクションシーンにも表されているんですよ。

彼もいろいろあって、悟ってあそこにいる。だから、相反することを語るフーシーの気持ちも、ムゲンは分かるといえば分かっているんだと思うんです。だから、「目指す先にあるものは、本当にいいものなのかな?」と問う気持ちもある。そういう曖昧な部分があると分かった上で、決めたんでしょうね、ムゲンも。自分はこう生きようと。自分が出した答えはこれであると。その意味では、たぶんフーシーも同じ想いを辿って、すべきことに辿り着いたのだと思っています。

ふたりとも、めざしているのは妖精が幸せに生きられる世界。ただ方法論が違ったと。

櫻井 だからムゲンのように、あれだけ強いと難しいことも多いと思うんです。背負わなきゃいけないことが多いぶん、それが転じて綻びに繋がってしまう。そのあたりの揺らぎは、ムゲンとフーシーの間に立っている、シャオヘイのポジションで描かれているんだと思いますね。シャオヘイは、彼らのどちらの立場にもなれる可能性のあるキャラクターですから。

吹き替えの演技は、原音の良さをリスペクトしつつ「乗せていく、重ねていく感覚」

そんなフーシーを演じる上でこだわられたことも教えてください。吹き替え版は岩浪美和さんが音響監督を手がけられていますが、ディレクションはどのようなものでしたか?

櫻井 自分がイメージした表現でチャレンジして、その方向性でと後押ししていただいたので、じつはそれほどの演出はなかったですね。ただ物語の中盤、シャオヘイに妖精と人間の関係にどういうストーリーがあって今があるのかと長く語るシーンがあるんですけど、そこでは少し演出がありました。物語のスタートからゴールに向かって、フーシーの少しずつ揺らいでいく感情を、もう少し波立つようにとか。最終的に辿り着く、感情の線を描いてほしいという感じでしたね。

中国のアニメを日本語に吹き替えて演じることでの難しさはあるものですか?

櫻井 やりやすい、やりにくいというのはないですね。ただ……これは僕にしか分からない部分なので言語化は難しいんですが、いつもやっている作品とはちょっと違う質感があるので、もともとの作品の原音の良さを損なわないようリスペクトを持ちつつ、吹き替えならではの味わいをどう乗せていくかという部分で、考えたこと、工夫したことはありますね。なので、「日本語で全てを刷新する」というよりは、「乗せていく、重ねていく」という感覚で表現しました。

具体的には、どういうものを“乗せていく”のでしょうか。

櫻井 原音の印象だと、キャラクターがとてもテキパキ、サバサバ喋って聴こえるんですね。それは中国語という言語そのものが持つ特性だと思います。なので、言葉が強く響く。そこに日本語に翻訳された台詞のニュアンスを、どう“温度”として乗せていくかが、新しく僕が考えなければならない作業でした。でも、そこもすごく楽しかったです。

映画『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ) ぼくが選ぶ未来』 櫻井孝宏 WHAT's IN? tokyoインタビュー

では、演じていて楽しかったシーンは?

櫻井 ちょっと子供っぽいチョイスになっちゃうんですけど、バトルです。カッコいい画だなー! カッコよくしたいなー!と(笑)。もちろん、ドラマとしての苦さはあるし、物語全体で描かれる優勢・劣勢のシーソーがバトルでもしっかり描かれているので、ただ「カッコいい!」だけでやっちゃダメなんですけど……この作品はつい、ジャッキー・チェンの映画を観ているような、男の子的な気持ちに、どうしてもなっちゃうんですよ。すみません、46歳のおっさんがこんなこと言って(笑)。なので、自分として気になったところは、何度かトライしてこだわらせていただきました。

具体的には、どういったところにこだわりを?

櫻井 アクションシーンでも、中国語の原音は歯切れがいいんですよね。「ハッ! フッ!」と、俊敏な格闘技のリアルな呼吸がアクションに伴っているんです。でも僕はもう少し、アニメーションっぽくしたかったので、呼吸の「ハッ!」ではなく「ハァーッ!」と音のニュアンスを入れたり、バトル中に苦い展開になったときは、そういう雰囲気を声にもちょこちょこと落とし込みながらやらせていただきました。もちろん、「もっと原音に寄せて」というオーダーがあれば、即変えようと思っていたんですが、そのあたりもOK にしていただけたので。

それが、バトルシーンの大迫力に繋がったんですね。

櫻井 超人的な動きをしていますからね、彼らは。バトルシーンも長尺なので、リアルな話、生身の僕は息切れするんですよ、途中でハァハァしちゃったり(苦笑)。一番大きなアクションが欲しいところで、声が自分の理想に届かなかったりすることもあって、「すみません、もう1回やらせてください!」ということもありました。あれだけカッコいいアクションシーンを、僕のせいでダサくするわけにはいかないですからね。気持ちとしても「最後に立っているのはフーシーだ!」と、完全に勝つつもりで(笑)。とても気持ちが入りましたね。

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