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植田圭輔が人間を真摯に“生きる”。一度きりの人生、自分に向けた「ありがとう」。演劇配信プロジェクト「ひとりしばい」第8弾

植田圭輔が人間を真摯に“生きる”。一度きりの人生、自分に向けた「ありがとう」。演劇配信プロジェクト「ひとりしばい」第8弾

講談社とOffice ENDLESSによる共同プロジェクトの配信舞台「ひとりしばい」も第8弾を迎え、百戦錬磨の俳優・植田圭輔が登場。作・演出には、糸川耀士郎出演の第5弾「LA・LA・LA・LIBRARY」も手がけている松崎史也が指名された。
これまでに、荒牧慶彦、小澤 廉、北村 諒ら若手俳優がそれぞれ希望の演出家とタッグを組んで一人芝居に挑み、役者としての新境地を披露。コメディからシリアスまで幅の広い演技で、新たな演劇ファンを獲得してきた。
今回、圧倒的なキャリアと実力をもった植田が、松崎とどんな光景を見せてくれるのか。そして、タイトルの「50%」が意味するものとは──。その模様をレポートしよう。

取材・文 / 竹下力


“植田圭輔”の“植田圭輔”たる所以

人はいつだって何かを選んで生きている。幸せな結末も、悲惨な結末も、実は本人次第なのかもしれない。そしてその結果は、誰にも責めることはできない。今作「50%」の主人公と同じく、死に至る病(脊椎カリエス)を患って寝たきりの闘病生活を送った詩人の淵上毛銭は、生きることを達観した「死算」という詩で、人生は結局、すべてがプラマイ・ゼロになると書いた。人は誰であろうと生きてみんなと同じようにゼロになる。そのために人は無数の選択を繰り返さないといけない。本作は、その時に起こる心の機微や葛藤を仔細に眺め、様々な角度から人間を微分していく。決して世界が変転する大きな話ではない。たったひとりの男の機知に富んだ独白が淡々と描かれ、自分の人生を思わず考えないといけなくなる示唆に富む舞台だった。

「vol.8」で主人公を演じる植田圭輔は、「ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」ファイナリストを経て俳優デビュー。舞台『文豪ストレイドッグス』シリーズ(中原中也 役)、『王室教師ハイネ THE MUSICAL』シリーズ(ハイネ 役)、『おそ松さん on STAGE 〜SIX MEN’S SHOW TIME』シリーズ(チョロ松 役)、舞台「鬼滅の刃」(我妻善逸 役)をはじめ、様々な作品に出演。また、2018年には「STAR LINE〜時の轍〜」にてCDデビューも果たす。舞台のみならず、映画・ドラマ・声優など多くの分野で活躍している、確かな演技に定評のある俳優だ。

そんな彼とタッグを組む演出の松崎史也は、2010年に舞台を初演出。2014年に演劇企画「SP/ACE=project」を発足し、主宰を務める。MANKAI STAGE『A3!』シリーズ、『機動戦士ガンダム 00-破壊による再生-Re:Build』など多くの作品の演出を手がけながら、舞台『人狼 ザ・ライブプレイングシアター』シリーズでは医師マドック 役として出演。演出のみならずプレイヤーしても高い評価を得ている。

物語は、主人公の男が“がん”の告知を受けるシーンから始まる。病名は悪性リンパ腫。医者は入院をして抗がん剤と放射線の治療を受けるように伝えるが、事務的に話を進めていく医者に苛立ちを募らせる。これまで死ぬことを考えたことがなかった男には、“死”が現実としてうまく受け入れられない。

しかも男は、ある舞台の最終オーディションの結果を待っているところだった。人生をかけて歩んできた役者という職業。パッとしないままだったがかすかに希望の光が見えている。けれど、“がん”になった今ではすべてが終わりそうな気もしている。治療を受けるか、舞台に立ち続けるか、選択に思い悩む。

その後入院してまもなく、未曾有の大災害が起こる。彼のいる病院も少なからず影響を受けるが、入院という軟禁状態に現実感がはぎ取られていくようで、「地上」と自分の乖離を感じている。どうにも理解できない己と世界の関係。生と死。半ば人生を諦めた風情で哲学的に思考し続ける。

長い入院生活。抗がん剤治療の副作用も思ったより厳しい。髪の毛は抜け、嘔吐も止まらない。病院食は薄味でぬるい。“死”がつきまとう。彼の心にあるのは倦怠と孤独。はたまた虚無と消亡の感覚。それでも日常は進んでいく。朝がきて、夜が訪れ、再び朝がくる。その繰り返し。そんな日々のなかで、彼は何を考え、何を選択するのか……。

物語はミニマリズムでオフビートだ。ある男の3ヵ月ほどの期間の心の些細な変化を丁寧に描いている。感情の昂りはあるけれど控え目で、ロシアの演劇人であるチェーホフの舞台のようにアンチクライマックス的な仕掛けを基調としている。他人にとっては些末なことなのに、当事者にとってはかけがえのないことが描かれている。他の人にとってはどうでもないことでも、ある人が感じた心をえぐる事件は、その人にとって一大事という発想だ。それでも、思い悩んだ末に見出す答えは、誰の役にも立たないちっぽけなことでしかない。人間は、かくも儚き生き物であることを今作は教えてくれる。自己の存在の壊れやすさ、ペシミスティックな感覚が今作の通奏低音として流れている。

作・演出の松崎史也は、すでに一度「ひとりしばい」を経験しているので作品の見せ方を熟知していた。映像とカメラのスイッチングを巧みに使いながら、ひとりの冴えない俳優の人生を醒めた目線で描いていく。もちろん、男に共感はしている。同情さえしているかもしれない。クローズアップで表情の変化を捉えつつ感情移入できるシーンを作る。それでも神の視点のような天井からのカメラや、時間を恣意的に操作し、俳優との距離を一定に保ちながら、ひとりの人間の人生の余儀なさを多角的な目線で静かに表現していく。それは徐々に観客の心の疼きになる。あるいは“しこり”として澱(おり)になっていく。物語の正解は埋もれていく。だからこそ、観客がその答えを掴み出さないといけない。まさに演劇だと思う。

内省を繰り返すこの冴えない俳優を演じる植田圭輔は圧巻だった。あくまで演劇だから、病気で弱々しくなっていく様もフィクションでしかない。でも、一度もハケることなく立ち続けるなかで、最後には本当に頬がこけて痩せ細って見えた。人生を諦めていく姿がありありとわかる圧倒的な存在感があった。

さして体温もなげにひたすら思い迷いを繰り返す自問自答の台詞が多いけれど、それら言葉のリズム、温度、テンポ、込められた感情、すべてがこの作品を形づくるパズルのピースとなって、有機的に物語に絡み合っていた。

どんな作品だろうと演技が美しいのは植田圭輔の“徳”と言っていいけれど、なにより、“感情の流れ”がスムーズでいつ観ても惚れ惚れするほど上手だと思う。だからこそ、彼が笑っていれば笑いたくなるし、泣いていれば泣きたくなる。本作は徹底してミニマリズムな作品だからこそ、時折り見せる感情の些細な揺れ動きに我々の心は大きく動かされる。

わりと淡々と俳優の僕と、医者とマネージャー3役を演じ分けているように見えるのに、どうしてこんなに心が焼きつくのか。彼は舞台上で架空の人間ではなく、血の通った人間を生きている。そうやって俳優の使命をまっとうすることは実際にはなかなかに難しいことだと思われるのに、そんな稀有な才能をつねに発揮し、存在するだけで狂おしい俳優であるのが、“植田圭輔”の“植田圭輔”たる所以なのだと思う。

人生は可能性を選択することで成立している。その成否はわからない。神様だって知らない。それでも、突き詰めれば何かを選んだ瞬間に、己の人生に起きるはずの可能性の49パーセントは捨てられる。人生の“民主主義”はなんとも悲しい。人間は人生の半分近くを無駄にして生きているのだ。けれど、たとえ人生の選択に間違ったとしても、後悔はかならず生きる糧になる。自ら掴んだ答えを肯定するパワーが漲っている作品だった。

人間はたった1パーセントの可能性の間で迷いながら、選んだ選択がなんであれ、間違いも正解も合わせて100パーセントにしながら生きて、やがて死んでいく。植田圭輔が演じる男は、ひたすら自己と向き合い、様々な可能性を選び取りながら、“十万億土”を見つける旅に出ようとする。それこそがまさに人間が生きていることの証明なのだ。

普通に生きているだけでは見えない景色をたくさん見せていただいた

「ひとりしばい Vol.8 植田圭輔」が配信されたのち、植田圭輔と松崎史也が登壇し、アフタートークが行われたので少しだけ触れておきたい。

松崎は「ずっと拍手していたい(笑)。うえちゃん(植田圭輔)みたいに優しくて賢くて、演技できちんと感情を表に出す俳優がいてくれたおかげです。押し付けがましくしたいわけではないけれど、“命の教科書”というか、倫理や道徳を表現する側面が舞台にはあると思って書いた脚本です。『ひとりしばい』はたった1回で終わることを含めて“演劇”だと思います」と語った。

植田は「今回のお話をいただく前から、『ひとりしばい』に挑戦したいと思っていました。コロナの大変な状況でも、俳優仲間の北村 諒が、西田大輔さんと一緒にやっているのを観て感銘を受けて。そして松崎さんとご一緒できて、さらに念願が叶ったというか(笑)。俳優として幸せ者だと思います」と今作への想いを語った。

あらためて植田が「一人芝居はやっぱり大変でした」と笑顔になると、松崎は「ひとりでも共演者がいると見える風景が違うからね。でも、ひとりでしか伝えられない感情があるはずだし、うえちゃんが発する言葉だけのお芝居をお客様に見せたかったので、『ひとりしばい』という場所があって、俳優・植田圭輔がいることに感謝しています」とコメント。

最後に植田は「“がん”を告知された男の感情を通して、普通に生きているだけでは見えない景色をたくさん見せていただいて感謝しています。自分の身に起こったことに迷うことは誰にでも起こり得るので、そんなときは、今作を観返して、これからも頑張ろうと思ってくだされば幸せです」と締め括った。

本公演「ひとりしばい Vol.8 植田圭輔」は、11月2日(月)から11月9日(月)までアーカイブ配信されるので、見逃してしまった場合にはぜひ観劇して欲しい。

「ひとりしばい vol.8 植田圭輔」

2020年10月31日(土)19:00〜生配信実施
演出:松崎史也
出演:植田圭輔

<アーカイブ配信>
2020年11月2日(月)12:00~11月9日(月)23:59
※アーカイブ配信チケットは販売中チケットはこちらから

企画・制作:講談社/Office ENDLESS
主催:舞台「ひとりしばい」製作委員会

公演オフィシャルサイト
公演オフィシャルTwitter(@hitoshiba2020)

©舞台「ひとりしばい」製作委員会


「ひとりしばい vol.9 椎名鯛造」
「ネバーランド、アゲイン」

2020年11月8日(日)19:00〜生配信
演出:ほさかよう 出演:椎名鯛造
※配信チケット購入はこちらより(販売期間=2020年11月6日(金)23:59まで)

ひとりしばい『ラルスコット・ギグの動物園』

2020年11月27日(金)〜11月29日(日)Theater Mixa / Zoom

●「ひとりしばいvol.10 佐藤拓也」
2020年11月27日(金)19:00〜
演出:末原拓馬 出演:佐藤拓也
※配信チケット購入はこちらより(販売期間=2020年11月25日(水)23:59まで)

●「ひとりしばいvol.11 下野紘」
2020年11月28日(土)18:00〜
演出:末原拓馬 出演:下野紘
※配信チケット購入はこちらより(販売期間=2020年11月27日(金)23:59まで)

●「ひとりしばいvol.12 福圓美里」
2020年11月29日(日)18:00〜
演出:末原拓馬 出演:福圓美里
※配信チケット購入はこちらより(販売期間=2020年11月27日(金)23:59まで)


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