Interview

eill 注目の新作は、音楽的な成長とスケールアップを感じさせながら、どうしてより身近に彼女を感じられるのか?

eill 注目の新作は、音楽的な成長とスケールアップを感じさせながら、どうしてより身近に彼女を感じられるのか?

今年の前半から、NEWSや韓国の人気女性グループEXID、テヨン(ex.少女時代)への楽曲提供、さらにはm-flo、さなり、フィラデルフィア出身のR&BシンガーPINK SWEAT$などとのコラボなどで活動の幅を広げてきたeillが、いよいよ新作アルバムをリリース。『LOVE/LIKE/HATE』と題されたこの新作で、カラフルなソングライティングのセンスと表情豊かなボーカルの魅力といった彼女のポテンシャルをリスナーはいっそう強く意識することになるだろう。
ここでは、昨年のフルアルバム・リリースの経験を経て、コロナ禍の息苦しい状況も乗り越えて生まれたこの充実作に込めた思いを彼女自身にじっくり語ってもらった。

取材・文 / 兼田達矢


(曲を)作りたいんだけど出てこないという時期が2ヵ月くらい続いたんです。

初めてのフルアルバムとなった前作をリリースして、どんな反応が返ってきましたか。また、ご自身はどんな手応えを感じましたか。

クリスマスイヴにラーメンを食べてたらタイトル曲の「SPOTLIGHT」が流れてきたんですよ(笑)。自分の曲が流れてくるということを経験したことがそれまでなかったのでびっくりしたというか…。近所のスーパーで急にかかったりしたこともあったし。意識していない時に自分の曲が流れてくることがすごく多くなったので、それはまず驚きでしたね。

前回のインタビューで、前作はイヤホンで聴くダンス・ミュージックということを意識して作った作品だという話をしてくれましたが、その作品がイヤホンで聴くのではなくて、そういうふうに街鳴りしている現場に直面した時に、つまり想定していた状況とはちょっと違う場面で自分の作品を聴き直した時にどんなことを思いましたか。

前作は、言ってくださったようにダンス・ミュージックというテーマを自分のなかにおいて作ったので、そこのところは外で鳴っててもしっかり守られているというかちゃんと表現できてると思うんです。例えば低音がしっかり出てるとか、そういうところで。イヤホンで聴いても外で鳴ってても、自分がイメージしていたカラーリングはちゃんとできてるなということは思いました。

そういう実感を得て今回の制作、ということになっていったんだと思いますが、作業としてはどんなふうに進んでいったんですか。

前作を去年11月にリリースして、12月くらいにはもう新曲作りを始めてストックはずいぶん出来たんですけど、このアルバムのために作った曲もあって、しっかりレコーディングを始めたのは2月くらいですね。

新曲作りの作業はずっと順調に進んでいきましたか。あるいは、どこかのタイミングで行き詰まるような場面があったんでしょうか。

ありました。配信で出した「FAKE LOVE/」「踊らせないで」「Night D」あたりを制作していた時期はまだギリギリ緊急事態宣言が出る前くらいだったと思うんですけど、コロナがいよいよ広がって外に出られなくなったら、刺激がなさ過ぎて、本当に曲が書けないという状態になったんです。普段の私は、友達と話したり、外に出かけて何か発見したりした時にインスピレーションがわくので、その時期は本当に納得出来る曲を作るのが難しくて…。ただ、時間はめちゃくちゃいっぱいあるじゃないですか。だから、作りたいんだけど出てこないという時期が2ヵ月くらい続いたんです。でもレコーディングにはもう入ってるし、締め切りは刻々と迫ってくる。とは言いながら、時間はあるんですよね。これまでは“もっと時間があればいいのに”と思ってたんですけど、あったらあったで怖いというか。真っ暗な中に放り出されたような気持ちでした。

「片っぽ」がリリースされたらSNSですごく長文のDMがファンからたくさん届いたんですよ。

「刺激がなさ過ぎて」という状況のなかで、それでも何か刺激を探してみたりしたんですか。

刺激を探すというか、「踊らせないで」や「FAKE LOVE/」を一緒に作ったLEFTYさん(宮田リョウ)とスタジオに入って曲を作るということは続けてたんです。で、1カ月で20曲くらい作ったんですけど、1曲もいいデモができなかったんですよ。“今まで作れてたのはまぐれだったかもしれない”と思ったりしたんですけど(笑)。そのうちに感情が無になってくるというか、いろんな映画やアニメを見てみたりもしたんですけど何も思わなくて、“なんだ、この不思議な感情は?”という感じでした。曲ができないから、不安で夜も寝れないし…。そういう日が続いてたある日の朝、急にビエーンって感じで泣いたんです。

いきなりですか。

そうなんです。なんで泣いたか、自分でもわからないんですけど。それで、フラフラしながらピアノの前に座ってなにげなく歌い始めたら「片っぽ」のサビのメロディーが歌詞も一緒に出てきたんです。(笑)。私は泣いたりするような何かがあるとピシッとスイッチが入って、曲が出てくるんですよね。出そう、出そうとするんじゃなくて勝手に出てくる、その時が大事みたいなんですよね、私にとっては。

「片っぽ」が生まれたその朝のことを今振り返ってみても、泣いた理由は「何か」としか言いようがないですか。

そう、いまだによくわからないんですよ。曲が書けなかったから泣いたのか、何なのか。ホントに不思議なんですけど。

曲が書けなかった時期は「真っ暗な中に放り出されたような気持ち」だったということでしたが、そういうなかでいきなり曲ができると逆に呆然としたりはしなかったですか。

とにかくすぐ録って、それをスタッフに送りました。でも、みんな全然反応がなくて(笑)。私自身はできた時に“これはいい曲ができたぞ!”と思ったんですけど、全然反応がないから“あれっ?”と思って。でも、この曲は何日経ってもずっと忘れなくて、お風呂に入っててもすぐこのメロディーが出てきたりしてたから、“やっぱりこの曲は行けるかもしれない”と思ったんです。そんなある日にLEFTYさんとセッションをやった時に、「やっぱり、この曲いいと思うんだけど…」と言ったら「いいじゃん!」という話になって(笑)。そこからはリード曲候補として仕上げていきました。

最初にみなさんに送った時は、キーボードと歌くらいの形だったんですか。

そうです。やっぱり弾き語りだとイメージが伝わりきらなかったみたいで、一緒にスタジオに入って、みんなでやってみたら「この曲いいね」という話になったので、そこであらためてアレンジというのは大事なんだなと思いました。

バンドのメンバーとアレンジを進めるなかで曲自体にも手を加えたところはあるんですか。

サビは変わっていないんですけど、Aメロは新しく作り直して、 Bメロも少し付け足したりして、デモからはだいぶ変わったんですけど、これまでのダンス・ミュージック的な感覚とかカッコいい感じというのはバラードであっても残したかったので、AメロやBメロを変える時にはそういう要素も感じてもらえるように意識しながらやっていきました。

「片っぽ」の歌詞についても聞かせてください。あの曲の主人公は♪君を守れれば/片っぽなままで心に咲かせておくよ♪と歌っていますが、例えば二人は交わらない間柄なんだと気づいた時点でその相手とは別れて新しい出会いに向かおうとする人もいると思います。eillさん自身は、どう思いますか。

まず自分の気持ちを伝えることで相手を傷つけてしまうことがたくさんあると思っていて、だから自分の気持ちを伝えずに心の中で守っておくことが相手への愛情であり完璧な愛なんじゃないかなということをこの曲で言いたかったんだと思うんです。歌詞の結末としてはすごく切ないと思うんですけど、「片っぽ」がリリースされたらSNSですごく長文のDMがファンからたくさん届いたんですよ。例えば「私は好きな人がいるんですけど、その気持ちを心の中に置いておくことも一つの完成された愛なんだということをこの曲ですごく感じました」みたいな感じで、その人たちが共通して言ってくれたのが「心が温かくなりました」ということだったんですよね。すごく切ない結末なのに、「包まれました」とか「これでいいんだと思いました」とか、そういう感想がすごく多くて、こういう気持ちを抱えている人は私が思っていたよりもずっとたくさんいるんだなあと思いましたね。

確かに、そういう人がたくさんいるからということも理由の一つでしょうが、それにしても「形としては片っぽではあっても、完璧になり得る思いというものがあるんだ」というeillさんのメッセージを少なくない人がちゃんと受け取ったということですよね。

そんなにすんなりと伝わるとは思ってなかったんですよ。みんなすごくよく歌詞を聴いて、気持ちを馳せて聴いてくれてるんだなと思って感動しました。

今回は歌い方がすごく変わったんです。

今回のアルバムを聴き通してまず感じることの一つはボーカルの表情の豊かさということで、「片っぽ」はその代表的な曲でもあると思いますが、そのボーカル・ワークはこれまでは出していなかった一面を出してみたという感じですか。それとも、今回チャレンジして初めてやれたことなんですか。

「片っぽ」のレコーディングするまでにボイス・トレーニングの先生にずっと入ってもらってて、「1テイク録るごとに1回フラれたくらいの体力を使ってください」と言われたんですよ。「泣いてもいいし、それでピッチをはずしてもいいから、とにかく感情をこめてください」って。おかげで、最後の1行を歌うところでとうとう私は号泣してしまったんですけど(笑)。体も、翌日は筋肉痛になるくらいしっかり使って歌ったし。それに、これまではコーラスをたくさん付けてるんですけど、「片っぽ」はメインのボーカル1本だけなんです。ダブルで重ねることもしていないので、裸のボーカルをそのまま見せたような感じなんですよね。

「感情を込めると同時に体力も使って」という先生の言葉は、歌うというのは感情表現でもあるけれど肉体表現でもあるということですよね。

そう思います。だから、今回は歌い方がすごく変わったんです。今回は体全体を使って、足の指でグッと地面を掴むことやお腹を使って歌うことをしっかり意識して、体全体を使って声を出すということを心がけてレコーディングしました。めちゃくちゃ難しかったですね。足の指に力を入れながら感情を込めるなんて(笑)。

(笑)。竹内まりやさんの「夢の続き」をカバーすることにしたのは、どういう気持ちの流れだったんですか。

コロナのせいで気持ちが落ち込んでいた時期に、竹内まりやさんと山下達郎さんの楽曲をたくさん聴いてて、そのなかで「夢の続き」の♪重い扉の向こうはいつでも青空さ♪という歌詞に、私はすごく勇気づけられたんです。ライブができなくて自分が表現できる場所がない状況で、曲もできないし、“ああ!もうダメだ!”となった時にすごく救いになった曲の一つだったので、今回のアルバムに絶対入れたいと思ったんですよね。

オリジナルにすごく勇気づけられたという曲を自分で歌うとなると、どうしても意識してしまうと思うんですが。

そうなんですよ。だから、「夢の続き」だけ、違う人が歌ってるみたいと言われたりします。自分からは出てこないメロディだし、音域にしても自分が作った曲とは違うから、やっぱり単純に歌うのは難しかったですね。

オリジナルに近づこうとしたんですか。それとも、離れる方向を意識したんですか。

どっちにするか、すごく悩みました。私の声は出そうとする音を出すのに時間がかかるんですよね。だから、どうしてもオリジナルと同じようには歌えなくて、どうしようかなって…。歌入れはすごく大変でした。それに山下達郎先生のコーラスが…、先生と言っちゃいましたけど(笑)、あのコーラスは聴けば聴くほど、新しい音がどんどん聴こえてくるんですよ。ものすごく緻密に計算されて音が入っているので、それを聴き取って自分なりのハーモニーにするのがすごく大変でしたけど、その分すごく楽しかったです。

メインのボーカルについては、まりやさんとの違いも実感した上で、どういうふうに解決したんですか。

この曲は最終的には気持ちがすごく明るくなれる曲だと思うんです。そのことをすごく意識しながらというか、自分に言い聞かせながら歌いました。それで、どれだけうまくできたのか、ちょっと自信はないんですけど…。

強い自分と弱い自分が常に私のなかで闘い続けているんですよね。

聴き終わった後には、扉の向こうの青空が見えてくるような歌に仕上がっていると思いますよ。そして、それに続く「2025」がこのアルバムの一つのクライマックスを飾っている印象を僕は受けたんですが、この曲はどういうふうに生まれた曲ですか。

緊急事態宣言が出てライブが延期になってしまって、ファンのみんなに会えなくなってしまったので、何か一緒にできないかなあと思ったんです。それで、ふと口ずさんだメロディをSNSに上げて、「これを歌って、送ってください」というメッセージを投げて、みんなが送り返してきてくれたものをもとにして作った曲です。歌詞も、このアルバムに言いたかったことを全部詰め込んだような内容で、本当に一番最後、最終レコーディングの5日前くらいに出来上がった曲ですね。

シンプルなアレンジですが、終盤にファンの皆さんの声がゴスペル・コーラスのような感じでフィーチャーされていますね。

タイトルは今から5年後という意味で、5年後の私へ、5年後のあなたへ、という気持ちで書いた歌詞なんですけど、みんなの声を集めたのは2020年のこの状況を一緒に乗り越えた証みたいなものが欲しいなという気持ちもあったんです。だから、歌詞も今の私の本当にリアルな気持ちと決意が詰まってると思います。

とすると、♪強がることは得意だけど/輝くのは現実の私じゃない♪というフレーズも実感ですか。

それも全部、私の素直な気持ちです。ずっと輝けていたらいいんですけど、私のなかには「SPOTLIGHT」みたいな強い言葉を纏って強く見せている自分と弱いからこそ「2025」のそのフレーズのような言葉が書ける自分がいて、一人になった時には弱いほうの自分が出てくるんです。そういう時には“強い言葉を纏っている自分は本物じゃない”と思うことがあって、言ってくださったフレーズはそのことを書いているんですけど、その強い自分と弱い自分が常に私のなかで闘い続けているんですよね。そういう葛藤を抱えているからこそ、ずっと曲が作れているんだろうなというふうにも思ってるんですけど。

自分はそういう弱い部分を抱えているということをこんなふうにオープンにできることはかなり強いというかタフだと思うんですが、それは例えばこのインタビューの冒頭で話してくれたように、自分の音楽が街の中のいろんな場面で流れていることを経験したり、あるいは「片っぽ」についてリスナーが予想以上に深く理解してくれることを知ったりしたことが自信になっているからできることじゃないでしょうか。

自信か…。自信はホントにないんですけどね。自信って、どうやったらつくんですかね(笑)。私のなかでライブが自信をつける場所だったりするので、今はそれがないから辛いですね。だから、11月21日のライブは“やっとみんなに会えるなあ”という感じで、本当に楽しみなんですよ。

『LOVE/LIKE/HATE』というアルバム・タイトルには、どういう思いを込めたんですか。

これには2つ意味があって、ひとつは「愛は憎しみのようで、憎しみは愛のようで」という意味と、もうひとつは人間の感情には恋愛のLOVEと人として好きという感情のLIKE、そして嫌いという感情のHATE、その3つがあるけれど、その3つに収まりきらないような関係性や思いをこのアルバムでは歌ってるなということなんです。

確かに、例えば失恋を歌っていても「愛してる」と「嫌い」が入り組んでいたりしますよね。

特に「愛は憎しみのようで、憎しみは愛のようで」というほうの意味については私が歌を歌う根本的な理由に関わっていて、私は幼い頃から友達とか両親とか、いろんな人から愛されているのに、それに対して何も返せない自分をどんどん嫌いになっていくということがあったんです。愛を受け取れば受け取るほど自分のなかにHATEの気持ちが生まれてしまうような性格と言うか。だから、自分は何で返せるのかということをずっと考えていて、その先に見つけたのが歌なんですよね。歌うことで愛を返すんだという気持ちがあったから。今回のアルバムはこれまで以上に自分のパーソナルな部分をしっかり刻んだ作品にしたいなと思っていたので、絶対このタイトルがいいと思って決めました。

そういうアルバムをリリースした後には、さっき話にも出た久しぶりのライブが開催されます。それに向けての意気込みを、最後に聞かせてください。

今回は、ライブで初めて演奏する曲がほとんどになると思うんです。お客さんがいるところで「FAKE LOVE/」や「踊らせないで」を歌ったことがないので、それがもう私はすごく楽しみなんですけど、MCでお客さんに向けて話す言葉に自分自身も励まされたりすることもあって、それもまた楽しみなんです。そして、昏い世の中に少しでも光を照らせられるようなライブにできたらいいなと思っています。

楽しみにしています。ありがとうございました。

その他のeillの作品はこちらへ。

「LOVE/LIKE/HATE」特設サイト
https://eill.info/lovelikehate/

ライブ情報

eill Live Tour 2020 (振替公演)
11月21日(土) 東京・恵比寿リキッドルーム

■配信ライブ
eill Live Tour 2020 at LIQUIDROOM
配信日:2020年12月12日(土)20:00
チケット販売価格:¥2,200(税込)
チケット申し込みURL :https://vod.skyperfectv.co.jp/feature/eill
配信期間:2020年12月12日(土)20:00〜2020年12月19日(土)23:59
販売期間:2020年11月4日(水)12:00〜2020年12月19日(土)22:00

eill

東京出身。SOUL/R&B/K-POPをルーツに持つ新世代シンガーソングライター。15歳からJazz Barで歌い始め、同時にPCで作曲も始める。2018年6月、SG「MAKUAKE」に続き、10月にはミニアルバム『MAKUAKE』を発表。2019年11月にリリースした1stアルバム『SPOTLIGHT』は、TOWER RECORDS「タワレコメン」に選出されたほか、収録曲の「SPOTLIGHT」が全国30局以上の放送局でパワープレイとなり、ラジオ・オンエア・チャート2週連続1位を獲得。MVもSSTV「POWER PUSH!」、M-ON!「Recommend」に選出されるなど、1 stアルバムとしては異例の評価を受けた。2020年はテヨン(ex.少女時代)、NEWS、EXID等に楽曲を提供しているほか、m-flo、さなり、フィラデルフィア出身のR&BシンガーPINK SWEAT$など国内外アーティストへの客演も行い、新世代を代表するアーティストとして各所より注目を集めている。11月にリリースとなる「LOVE/LIKE/HATE」には、5月に発売された「FAKE LOVE/」、7月から放送されたテレビ東京ほかドラマ25『女子グルメバーガー部』主題歌「踊らせないで」、10月19日から放送されているフジテレビ『あの子が生まれる・・・』の主題歌「Night D」などが収録される。

オフィシャルサイト
https://eill.info/#top