発掘!インディーゲーム総研  vol. 28

Review

オオカミと駆ける美しい世界『Lost Ember (ロスト・エンバー)』前世の悲しい記憶を辿る物語

オオカミと駆ける美しい世界『Lost Ember (ロスト・エンバー)』前世の悲しい記憶を辿る物語

オオカミとさまよう魂が、前世の運命と失われた文明の謎に迫るアドベンチャーゲーム『Lost Ember (ロスト・エンバー)』。美しい世界を駆けまわり、オオカミの前世の記憶の痕跡に触れ、すべてを忘れた魂の記憶をたどる……。派手な演出や戦闘などはないのに、穏やかな時間の流れや文明の跡を覆い尽くすほどの圧倒的な自然や動物たち、そしてそれらを背景とした人間ドラマにグッと引きつけられるものがある。
物語の軸はゲーム内で語られるけれど、それに付随する側面を自分なりに手探りで考察していくのが楽しいゲームなので、ネタバレは楽しみを損なわない最小限にして、秋の夜長を楽しむのに最適な一本を紹介。

文 / 大部美智子


1匹とひとりの長い旅

プレイヤーが操作する主人公は名もなきオオカミ。草原で寝ていたところを赤く光る魂に起こされて頼みを聞くことになる。この魂は死んでから長い間ひとりでいたらしく、どんな動物に話しかけても相手にされず、障壁と呼ばれる赤い壁に囲われたこの地域から出ることも叶わないでいた。

Lost Ember WHAT's IN? tokyoレビュー

▲唯一話を聞いてくれたのが、このオオカミだった

記憶がほとんどない魂(以降、パートナー)は「アミュレットがあれば……」とつぶやく。昔このあたりに住んでいたというヤンラーナの人々はひとりひとり名前を刻んだアミュレットを首から下げていたということで、記憶を取り戻す手がかりになるかもしれない。パートナーに導かれて洞窟に入ると誰かの骸骨があり、その手に持っているアミュレットをオオカミが取り出した。魂は現世の物に干渉できないのだ。アミュレットには“カラニ”という名前が刻まれていて、女性の幻が現れた。パートナーではなく、どうやらこのオオカミの前世の姿らしい。

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▲どうしてこんな場所で亡くなったのだろうか……

物語の舞台はだんだんと判明していく。オオカミもパートナーも生前はヤンラーナの民ということ、そこは皇帝が治める国であったということ、年頃になるとワルカの儀式を行ってアミュレットとターピュイの短剣を親から授かるということ、人は死ぬと“光の都”に行くが訓えに背くと獣になり荒野を彷徨うということ……。では光の都に行くことができていないパートナー、そしてオオカミに生まれ変わった主人公には何があったのだろうか。こうしてオオカミとパートナーはお互いの過去を知るため、光の都を目指す旅に出る。過去の記憶に触れると障壁にヒビが入り、砕け散った。痕跡を辿るに連れて徐々に明かされていく情報の匙加減が絶妙で、するすると物語に引き込まれていく。

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▲生前の痕跡は赤い煙が立ち昇る

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▲赤い煙に触れ記憶を呼び覚ますと、その場所で起こった出来事が浮かび上がる

オオカミは動物なので喋らず、パートナーの語りと生前の痕跡による回想で物語は進んでいく。おもしろいのが、最初にこのパートナーのセリフをON・OFF切り替えられるところ。そうすることでよりオオカミに寄った直感的で神秘的な雰囲気で物語を進めることもできるのだ。ただし、パートナーはオオカミの周囲を飛び回るだけになりアドバイスを聞くことができないので、旅の道のりはアドバイスがあるときよりも少し難しくなる。

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▲オオカミにできることは走ったり、落ちている“宝物”をみつけたり、キノコを発見すること。そして……

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▲“魂替え”という、対象にオオカミの体ごと乗り移って操作する技を使える! これは偶然通りがかったウォンバット

魂替えは、オオカミでは通れないような狭い通路を小さな動物に乗り移って移動したり、鳥に乗り移って空を飛ぶことができたり、象となって遮る植物を押しのけながら進んだりと、旅の行く手を阻むさまざまな障害を乗り越えることができる。

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▲動物によっては食べ物を“もぐもぐ”したり、隠された食べ物を探し当てたりできるが何も起こらない。ゲームの進行にまったく関係のない、こういった遊び心が最高に好き

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▲水辺では水を撒いたり飲んだり、陸地ではパオンと鳴く

前述の“宝物”や“キノコ”は道中のあちらこちらで発見することができる。一度クリアしたいまでも使い道がわからないので、オオカミ(あるいはイヌ科)の習性を表しているのかもしれない。イヌはよく宝物を集めたりするし……。

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▲宝物一覧。コンプリート欲が刺激される

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▲キノコ一覧。こちらも宝物同様用途はわからない

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▲幻の動物。物語はクリアしたけれど、まだ2匹しか出会えていない。白く輝く個体で、魂替えで操作することも可能

旅を彩るものとして外せないのが美しい大地と動物たち。広大な大地をオオカミやさまざまな動物の姿で進む。高速で羽ばたくハチドリやドシドシと力強く進むゾウとか、それぞれの個性を感じる操作がとても楽しい。しかしどこまで進んでも人の姿はなく、あるがままの自然が点在する文明の名残りを飲み込もうとしていて、パートナーやカラニが死んでからどれだけの年月が経ったのだろうかと考えてしまう。

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▲魚になって悠々と泳ぐ

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▲オウムの姿で複雑な地形をひとっ飛び。すべてのエリアを有用な鳥の姿で行こうとしても、そうはできないようにできているのでご注意を

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▲急峻な崖もヤギならばヒョイッと移動できる

オオカミとパートナーの旅は美しい自然に囲まれているけれど、生前の記憶は楽しいことばかりではなく、旅を進めて赤い煙に触れるたびに想像を絶する出来事や壮絶な運命を共有することになる。またパートナーの「ヤンラーナの教えは絶対」といった言動に、いちいち「はー!?」とか「またそんなことを言って!」と憤慨してしまうこともしばしば。ゲーム中のオオカミはしゅんとして聞いているのだけれど、Nintendo Switch™を握る手には力が入ってしまう。

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▲これまでの物語を振り返ってみるとパートナーの言いたいこともわかるけれど、オオカミの前世であるカラニの気持ちを想うとむかむかしてしまう

でもこの感情こそが『Lost Ember (ロスト・エンバー)』の楽しみのひとつでもあって、詳細は省くけれど物語に引き込まれれば引き込まれるほど感情を揺さぶられてしまう。エンディングの少しまえあたりから、ボロ泣きでぐちゃぐちゃになってしまった。
この物語は終始穏やかなテンポで進んでいく。正直言って派手なアクションはないし、爽快感を味わうギミックもないし、変形合体するロボットなんかも出てこない。もっと言っちゃうと何度もフィールドの裏側に落ちたり、谷間に落ちていっては元の場所にリスポーンしてという流れをエンドレスでくり返すバグに陥ったりもしたけれど、そんなことはこの物語のまえでは些末なこと。“チェックポイントから再開”ボタンで少しまえにいたところに戻ればいいだけ。……と、些細なバグがどうでもよくなるぐらいこの物語にやられてしまったのだ。

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▲光の都に着いたオオカミとパートナーが見たものとは……

障壁に囚われていたパートナー、そしてオオカミの姿で生まれ変わったカラニ。死後に光の都に行くことができなかったふたりはいったいどんな人生を歩んでいたのか。1匹とひとりが出会って光の都を目指して来たけれど、ラストでついにパートナーの生前の姿やカラニの最後が明かされることになる……。
ヤンラーナの訓えに反すると野を駆ける獣になるということは、これまでの道中で遭遇した動物たちももしかして……? と、クリアしたあとでも考察がやまない。宝物もキノコも幻の動物もコンプリートしていないし、広大なフィールドを隅々まで味わい尽くせていないので、自然と2周目に挑まなくてはならない気になってしまう。
オオカミや動物が好きな人、上質な物語に没頭したい人、とある文明の行く末に興味がある人はぜひプレイしてみてほしい。想像以上の体験が待っているので……。

フォトギャラリー

■タイトル:ロスト・エンバー
■発売元:GameTomo
■対応ハード:PlayStation®4、Nintendo Switch™、Xbox One、Steam®
■ジャンル:大自然探索アドベンチャー
■対象年齢:12歳以上
■発売日:発売中(2020年9月24日)
■価格:オフィシャルサイトでご確認ください


『ロスト・エンバー』オフィシャルサイト

© Mooneye Studios

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