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クールでいて情熱的。色気溢れる陳内 将の芝居にノックアウト! 演劇配信プロジェクト「ひとりしばい」第7弾

クールでいて情熱的。色気溢れる陳内 将の芝居にノックアウト! 演劇配信プロジェクト「ひとりしばい」第7弾

ZOOMというプラットフォームを使い、革新的な芝居を見せてくれる講談社とOffice ENDLESSによる共同プロジェクトの配信舞台「ひとりしばい」。これまで、荒牧慶彦、小澤 廉らフレッシュな若手俳優が、それぞれ演出家とタッグを組んで一人芝居に挑戦し、新たな演劇のスタイルを示して我々を驚かせてくれた。
その第7弾に、陳内 将が登場。「タワーリングアンコンシャス・ザ・ショウ」という作品で、1人7役という荒技に挑む。つねにハイレベルの演技を見せてくれる陳内が、作・演出の伊勢直弘とどんな芝居をするのか。期待値の高いステージ、その模様をレポートしよう。

取材・文 / 竹下力


見どころは陳内 将の優しい視線と凛々しい表情

誤解を恐れずに言ってしまえば、本作は“陳内 将の陳内 将による陳内 将のための芝居”なのかもしれない。陳内が自身の内に潜り込み、ひたすら自己と向き合った演劇。だが、決してひとりよがりになっていない。己の存在証明を賭けた“陳内 将”の俳優魂が炸裂し、芝居に色気と熱情とクールネスがほとばしっていた。それだけで観客は引き込まれる。1人7役の八面六臂の活躍。そして、彼の芝居をエンターテインメントに仕立て上げた伊勢直弘やスタッフの尽力によってなしえた感動的な舞台だった。

「vol.7」で主人公を演じる陳内 将は、俳優集団「D-BOYS」のメンバー。MANKAI STAGE『A3!』シリーズ(皇 天馬 役)、『暁のヨナ』シリーズ(スウォン 役)、「ミュージカル封神演義-目覚めの刻-」(黄天化 役)をはじめ、舞台のみならず、映画・テレビ・声優としても活躍。観る者を圧倒する演技力で話題をさらっている俳優だ。

そんな彼とタッグを組む作・演出の伊勢直弘は、会社員を経て劇団「X-QUEST」に加わり、2007年に結成されたエンターテイメント・ユニット「ハイブリッド・アミューズメント・ショウbpm」ではリーダーとして活動。2008年に舞台『飛行機雲2008』で舞台を初演出。2009年には、ロサンゼルスで上演された『ひこうき雲』を演出。以降、舞台での活動を中心に、演出家、脚本家、イベントMC、俳優、声優、ラジオパーソナリティ、ナレーターとして多彩な顔を使い分けながら、旺盛な活動を続けるエンタメ界のホットな住人のひとりだろう。

物語は、劇場の椅子に座った男が「いやー、ありがたいですよね。誰も観てなかったら、僕らただの気持ち悪い人ですよね……」と独り言ちるシーンから始まる。やがて「ステージで練習しようか!」と舞台に走り立ち、スタンダップコメディを始める。初めはひとりでコメディアンを演じているかと思いきや、ボケとツッコミがひたすら繰り返される。どうやら「アンコンシャス」というコンビで漫才をしているようだ。

ネタが終わると陳内は一度下手にはけて、再び中央のマイクスタンドの前に立つ。今度はボケとツッコミをする人物だけでなく、新たな人間が出てきて、ブロッコリーとカリフラワーを掛け合わせた「カリッコリー」なるネタを披露する。コンビはいつの間にかトリオになっている。

こうして物語が進むにつれて、気優しい「ボケ」、テンションがやたらに高いが根は優しい「ツッコミ」、軽薄でひょうきんな「テキトー」、ボケが苦手な暴力的な「輩(やから)」、ナード風のキャラクター「ビビリ」、さらに「ガキ」という子供まで、6つの人物が目まぐるしく現れてくる。彼らの会話や身振りから次第にわかってくるのは、舞台に立っている男は“解離性同一性障害”を患った、いわゆる“多重人格者”だということ。つまり陳内は、様々な人間を演じているのではなく、“6つの人格をひとりの人間”として演じているということだ。

やがてビビリが、主人格である「ジンナイショウ」がカウンセリングを受けて人格を統合しようとしているのだから、6つの人格たちも「治療を受け入れよう」と提案する。しかし、そんなことは許されないと、矢継ぎ早に次々と人格が登場して喧々諤々と喧嘩を始めてしまう。

この喧嘩がもとで、精神がショートし、ブラックアウトしてしまった男=主人格のジンナイショウは、自分自身が多重人格であることがよくわかっていない。自分に認知できていない摩訶不思議な行動に理由を見つけたいと思い、カウンセリングを受ける。その場所が、劇場だった。別人格が漫才をしたいという希望を汲んだ医者が彼を劇場に連れていき、人格をひとつにさせる療法を行っていたのだ。

舞台中央のスクリーンに映し出されているのは、ハンディカメラで録画された、人格が変貌したときの、ひとり漫才、おとぎ話、人格同士の話し合いなどの映像。彼はその映像を見せられて己の姿に愕然とする。そして自分が多重人格であることを理解したところで、医者からさらなる治療のために「人格統合プログラム」の提案をされる……。

物語はヘヴィーで現代的だ。己のトラウマから逃れるために自分の中に人格を次々に形成してしまう。ひと言では言い表せない悲しい“現代病”のひとつかもしれない。そんな病を患う人間の切実な有様に、陳内 将は真正面から向き合っていく。「ジンナイショウ」という役と俳優名を同一にして、いわば私小説的に多重人格者を演じるのは、リスキーな行為かもしれない。少しでも作品に隙があったら、あるいは台詞にトゲがあったら、あからさまな演技にしか見えなかったら、陳内自身に批判の的が向けられるだろう。そんな危険も引き受ける覚悟を全身から滲み出しながら、彼は堂々と舞台に立っている。いっさいのシニシズム、悲観主義、楽観主義も許さない強固な意志で、本作のテーマであるだろう、生きとし生けるすべての人間を肯定していた。

作・演出の伊勢直弘は、アンダーグラウンドな演劇になりそうな重厚なテーゼを、コメディにしたり、おとぎ話にしたりすることで、決して重くなりすぎず、笑いをスパイスにしながら、陳内が向き合うアンコンシャス(無意識)の人格をわかりやすく表現していく手腕が見事だった。これには陣内とさし向かった稽古でふたりで作り上げたところも多かったとアフタートークでは明かされていた。ストーリーは決して難しくない。むしろ、人間の持つ根源的な面白さを感じさせてくれて笑ってしまう。演出も余分な装飾もいっさいない。これまで観てきた「ひとりしばい」特有のカメラのスイッチング、クローズアップは使うけれど、映像の技術的な表現は最小限に抑えられ、陳内が7役を思いっきり演じるための舞台を丁寧に作り上げていた。

陳内 将はあらゆる人格をクレバーに演じ分けていく。大仰に演じるわけでも、囁くように弱々しく演じるわけでもない。どの役(人格)にも平等に接して、それぞれの性格を緻密に表現しながら、物語に緩やかな波を作っていく。先にも触れたし、彼の才能だと思うけれど、どんな仕草にもほのかに色香が漂う。画面越しに彼の汗の匂いや吐息の温かみさえ感じる。彼は俳優である以上に、人間であることを自覚している。

そして、約40分の上演時間に、暴力的な人間から幼児性をまとった人物、果ては己自身の分身のキャラクターを演じることで、次第に俳優・陳内 将の皮がめくれていく気がした。そこには剥き出しで裸=生身の陳内 将が立っている。彼は俳優という以上に人間という存在に向き合いたかったのだと思う。己をとことん曝け出しながら、彼が向き合った人間そのものを、それがどんなに弱々しくとも、どんなに情けなくても、みんなに肯定して欲しいと懇願している気がした。その行為は殉教的に見えるし、神々しくあった。劇場には宗教的な磁場さえ生まれていた気がする。我々を許してくれる包容力のある芝居は、圧巻だった。

今作は陳内 将の素晴らしい芝居を体感することで、自身に立ちはだかる無意識を見つめ直すことを突きつけてくる。そこにこそ、隠された本来の自分がいる。そしてそんな無意識が、自分をそっと包んで慰撫してくれる。人間は好き勝手に生きているわけではない。社会や政治、経済や流行病、人間の悪意に惑わされ、時には傷つき、逃げたい気持ちを抑えながら、無意識と意識が手を取り合い、前を向いて生きていこうとする真摯な生き物だ。
最後のシーンで画面に向かって歩いてくる陳内のカメラを見つめる優しい視線と凛々しい表情に、この舞台が表現したいすべての意味と感情と、壊れやすい人々の“魂”への慈愛が宿っていた。

俳優として、表現者として、皆さんを楽しませられるように挑戦し続けたい

「ひとりしばい Vol.7 陳内 将」が配信されたのち、陳内 将と伊勢直弘が登壇し、アフタートークが行われたので少しだけ触れておきたい。

陳内 将に呼ばれて伊勢直弘が登場すると「やりきったね! 僕は“一人芝居”のつもりで脚本を書いていなかったから、台詞を覚えるのが大変なのに、見事にこなして驚かされました」と語り、陳内は「嬉しいです! なんとか無事に走りきりました(笑)。普段は稽古をしているときには、どこか俯瞰で役を見ている陳内 将が30パーセントぐらいいますが、今作は、7人の登場人物に委ねていたので、10パーセントぐらいしかいなかったですね」と笑顔で作品を振り返った。

本作について伊勢は「アメリカの海外ドラマ『シットコム』のような雰囲気の作品をイメージしていました。ただ、今回のプランは陳内くんが持ってきてくれたんです。話を聞いたときに“ひとりでできるの?”という挑戦的な芝居を要求してくれたので、遠慮なく書くことにしました。彼のクリエイティブな部分も讃えて欲しいと思います。とにかく楽しかったので、また新しい作品でご一緒したいですね」と語った。

最後に陳内が「ひとりでお芝居に挑戦して、お芝居の難しさだけでなく、楽しさにもあらためて気づくことができました。僕を支えてくださったスタッフやお客様が喜んでいただけたら幸せです。これからも俳優として、表現者として、皆さんを楽しませられるように挑戦し続けたいと思います」と締め括った。

本公演「ひとりしばい Vol.7 陣内 将」は、10月26日(月)〜11月2日(月)までアーカイブ配信されるので、見逃してしまった場合にはぜひ観劇して欲しい。

「ひとりしばい vol.7 陣内 将」

2020年10月24日(土)19:00〜 生配信実施
演出:伊勢直弘
出演:陣内 将

<アーカイブ配信>
2020年10月26日(月)12:00~11月2日(月)23:59
※アーカイブ配信チケットは販売中チケットはこちらから

企画・制作:講談社/Office ENDLESS
主催:舞台「ひとりしばい」製作委員会

公演オフィシャルサイト
公演オフィシャルTwitter(@hitoshiba2020)

©舞台「ひとりしばい」製作委員会


「ひとりしばい vol.8 植田圭輔」

2020年10月31日(土)19:00〜生配信
演出:松崎史也 出演:植田圭輔
※配信チケット購入はこちらより(販売期間=2020年10月29日(木)23:59まで)

「ひとりしばい vol.9 椎名鯛造」

2020年11月8日(日)19:00〜生配信
演出:ほさかよう 出演:椎名鯛造
※配信チケット購入はこちらより(販売期間=2020年11月6日(金)23:59まで)

ひとりしばい『ラルスコット・ギグの動物園』

2020年11月27日(金)〜11月29日(日)Theater Mixa / Zoom

●「ひとりしばいvol.10 佐藤拓也」
2020年11月27日(金)19:00〜
演出:末原拓馬 出演:佐藤拓也
※配信チケット購入はこちらより(販売期間=2020年11月25日(水)23:59まで)

●「ひとりしばいvol.11 下野紘」
2020年11月28日(土)18:00〜
演出:末原拓馬 出演:下野紘
※配信チケット購入はこちらより(販売期間=2020年11月27日(金)23:59まで)

●「ひとりしばいvol.12 福圓美里」
2020年11月29日(日)18:00〜
演出:末原拓馬 出演:福圓美里
※配信チケット購入はこちらより(販売期間=2020年11月27日(金)23:59まで)


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