ジャンプ作品「ダークファンタジー」の系譜  vol. 2

Column

『ダイの大冒険』・『封神演義』・冨樫義博作品……キャラクターの魅力が花開いた、90年代のジャンプ「ダークファンタジー」作品

『ダイの大冒険』・『封神演義』・冨樫義博作品……キャラクターの魅力が花開いた、90年代のジャンプ「ダークファンタジー」作品

1968年に「少年ジャンプ」として刊行が開始され、1969年より現在の週刊スタイルとなった「週刊少年ジャンプ」における、ダークファンタジー作品の歴史を追っていく本連載。

第一回ではジャンプ作品におけるダークファンタジーの特色としてバトルマンガ的要素が融け合っていることからそれぞれの源流を紐解き、80年代の作品について語ってきました。

車田正美・『ジョジョ』・『BASTARD!!』……青年誌的な攻めの姿勢も見られた、80年代のジャンプ「ダークファンタジー」作品

車田正美・『ジョジョ』・『BASTARD!!』……青年誌的な攻めの姿勢も見られた、80年代のジャンプ「ダークファンタジー」作品

2020.09.19

第二回となる今回は、90年代の代表作について記していきます。

文 / 兎来栄寿


ジャンプ史上最高の、剣と魔法とドラゴンのファンタジー『DRAGON QUEST -ダイの大冒険-』

国民的コンピュータゲームである『ドラゴンクエスト』は、『Dungeons & Dragons』に端を発するRPG(ロール・プレイング・ゲーム)という文化を非常に巧みにローカライズして生み出されました。ゲーム業界に留まらず、『ロードス島戦記』や『フォーチュン・クエスト』など後発の作品に対して与えた影響は非常に多大でした。近年でも異世界ファンタジーが流行していますが、その礎を作った作品であり日本のファンタジー作品史を語る上では外せないタイトルです。

そして『ドラゴンクエスト』関連のマンガの中でも最多の発行部数を誇り、最も人気が高いのが現在リメイク版アニメも放映中の『DRAGON QUEST -ダイの大冒険-』(以下『ダイの大冒険』)です。『ドラゴンクエスト』についてまったく知らずとも単独で楽しめる作品で、日本のエンターテインメント史の中でも燦然と輝く至宝です。

本作はダークファンタジーとは言えないかもしれませんが、元々原作の『ドラゴンクエスト』も含めてかなりハードな展開があり、『ダイの大冒険』においてもそうしたエピソードも散見されます。何よりジャンプにおいては珍しい、剣と魔法とドラゴンの登場する正統派西洋系ファンタジーの代表作として触れずにはいられません。

私自身、ジャンプは『ドラゴンボール』を読むために購読し始めたのですが、『ドラゴンボール』の次にハマったのは『ダイの大冒険』でした。印象的なのは、普段マンガを読まない同級生の女の子や還暦を超えた祖母ですら、『ダイの大冒険』の単行本を手に取るとその面白さを理解してくれたことです(余談ですが共通して「ヒュンケルがカッコいい」と言っていました)。普段マンガを読み慣れていない人間が触れても非常に親しみやすい絵柄に構図やコマ割りなど画面作りや演出の秀逸さもあいまって圧倒的に「読みやすい」のは大きな魅力です。

『ダイの大冒険』の素晴らしい点は無数に挙げられますが、何といっても最大の美点は登場するキャラクターたちが途轍もなく魅力的なことです。主人公のダイのみならず、ポップやチウといった最初は冴えない脇役だったキャラクターが成長し勇気を振り絞って闘う姿には強く胸を打たれます。フレイザードやザボエラ、大魔王バーンといった非道な敵キャラクターたちもその考え方に筋は通されているため共感はできなくとも理解はでき、悪の魅力に満ち満ちています。

一度読み始めたら止まらない怒涛の展開の数々、『ドラゴンクエスト』シリーズをベースにしつつオリジナル要素にもワクワクさせられるアイテムや呪文や必殺技の設定、それらを駆使した手に汗握るバトルの数々……。何度読んでも面白さに唸ってしまいます。

名言も非常に多く、「アバンの書」の「傷つき迷える者たちへ」から始まる節は現在のような困難の多い時代だからこそ改めて読んでも勇気付けられます。そう、勇者とは勇気ある者のこと。『ダイの大冒険』を読めば勇気を貰え、誰もが勇者になれるのです。

再アニメ化に伴い、ファンタジー畑の方のみならず多くのクリエイターがいかに『ダイの大冒険』から影響を受けたかについて語っているのを見るにつけ、その偉大さを再確認する名作です。

美麗な絵柄で女性人気も博した中華ファンタジー『封神演義』

後に『屍鬼』(原作:小野不由美)や『銀河英雄伝説』(原作:田中芳樹)のコミカライズも手掛ける藤崎竜が、1996年から連載を開始して中華ファンタジーブームを巻き起こした代表作が『封神演義』です。

封神演義とは…
『西遊記』『三国志演義』『水滸伝』と並ぶ
中国の四大怪奇小説の一つである

というナレーションから始まる本作ですが、実際には四大奇書は『三国志演義』、『水滸伝』、『西遊記』、『金瓶梅』の4冊であり『封神演義』は含まれていないのはご愛嬌。

ともあれ、『封神演義』は中華ファンタジーとしては当時まだマイナーで日本人の多くは名前も知らない物語でした。

それを人口に膾炙させたのがこの藤崎竜版『封神演義』です。『封神演義』人気が高まったことで、連載中にマンガ版とは無関係なもののコーエーから『封神演義』のゲームも発売されました。
同時期に『幻想水滸伝』シリーズや『真・三国無双』シリーズのヒットもあり、この辺りの作品を切っ掛けにこれらの原典に当たった人もとても多かったことでしょう(私自身も図書館に原典の『封神演義』を探しに行っていました)。

ジャンプコミックスで全23巻という長さの物語ですが、これほど綺麗にまとめられたジャンプ長編作品も稀有であるという評価を受けています。序盤の内容で人気が出なかったために路線変更をした作品も少なくない中、『封神演義』は徹頭徹尾ラストへ向けて物語が紡がれています。終盤に待ち受ける衝撃の展開は、第一話から僅かも揺るぐことなく綿密に積み重ねられた布石を一挙に回収するもので、圧倒的なカタルシスが存在します。

こればかりは未読の方には読んで体験して欲しいと願うばかりですが、2000年以降の作品で流行を見せるとある設定を先駆けて取り入れていたのは、本作が卓抜しているポイントです。

そして、『封神演義』もまた主人公である太公望(たいこうぼう)を始めとして、キャラクターがすこぶる魅力的な作品です。とりわけ、ジャンプ史上でも最凶の悪女キャラクターと名高い妲己(だっき)の存在が、この作品の魅力を大きく引き上げています。彼女による姫昌(きしょう)と伯邑考(はくゆうこう)の件などはこの作品のダークさの真骨頂であり、「週刊少年ジャンプ」でここまでやるかと思わされるものでした。

また、少女マンガのエッセンスを感じる繊細で美麗な画風で描かれる多数の“顔のよい”男性キャラクターたちによって、女性人気が非常に高い作品でした。その人気ぶりは90年代最後のコミックマーケットにおける女性向けジャンルで最大数を誇ったほどです。(※1)

『封神演義』では宝貝(パオペエ)を用いた迫力あるバトルも見所です。日本の能力バトル物の魁となったのは山田風太郎の『忍法帖』シリーズとされますが、その数百年前から中国ではさまざまな能力を駆使して戦う物語が人気を博していたのですから恐れ入ります。

なお、連載終了から18年経った2018年に「週刊ヤングジャンプ」で外伝が描かれ単行本化もされているので、特に当時ファンだった方はそちらも読んでみてください。

※1: あまあまくろにくる(ブログ)「【コミケカタログで90年代のカップリングを調べてみた】最終回:1999年は恐怖の大王を封神台ヘ!」参照。
http://tarte41.hatenablog.com/entry/20190430/1556551858

ジャンプの暗黒の深淵『幽★遊★白書』と『HUNTER×HUNTER』

「週刊少年ジャンプ」の長い歴史の中でも、累計発行部数1,000万部を超える大ヒットを2作品以上出した作家は数えるほどしかいません。また、マンガ史全体で見ても累計発行部数5,000万部を超える超大ヒットを2作品以上出したのは『スラムダンク』『バガボンド』の井上雄彦と、これからご紹介する冨樫義博ほどのものです。(※2)人気作家が描いたからといって売れるわけではない世界で、圧倒的な偉業と言えます。

その冨樫義博の代表作『幽☆遊☆白書』と『HUNTER×HUNTER』を併せて語っていきましょう。

『幽★遊★白書』は1990年から1994年にかけて連載され、「週刊少年ジャンプ」が最も売れていた90年代に『ドラゴンボール』、『スラムダンク』と並んで看板を飾っていた作品です。

『HUNTER×HUNTER』は1998年に連載が開始され、今もなお度重なる休載を重ねながらも断続的に連載が続いています。

『幽☆遊☆白書』や『HUNTER×HUNTER』が他のバトルマンガと一線を画している点はいくつかあります。

まず、気持ちよく読めるリズムを生み出すコマや構図、セリフの配置などのネームのセンスがずば抜けていること。純粋なマンガ力の高さは恐るべきもので、文字数だけで考えると普通は読みにくくなるような文章もさらりと読ませてしまいます。マンガ家を志す人に対して、絵ではなく冨樫義博作品のネームの模写をするとよいという人もいるほどです(絵は絵で、アシスタントの手を借りず独力で描いた『レベルE』を見ると解る通り、本来はより写実的に描き込む画風で美しく魅力的なのですが)。

そして、個々のキャラクターと常に相談をしたり脳内で掛け合いをさせたりしながら行動原理から外れない説得力ある言動を取らせつつも、時にキャラクターの方から動き出すとそれを採用してそれまで考えていた展開を捨てるという作劇方法。(※3)それによって生み出される意外性の連続。ページを捲るたびに予想しなかった展開が起き続けることによって、脳から変な物質が分泌されるような快感を覚えられます。

特に『HUNTER×HUNTER』最新の王位継承編ではあまりにも多くのキャラクターの思惑が複雑に絡み合い、話をすべて理解して着いていけている読者は1割にも満たないのではないかと思うほどです。多くの作品ではごく限られた人数にしか持たされない明晰な思考を雑魚キャラクターにいたるまで持たされ、その駆け引きによる狂気的な緻密さで物語が進行していきます。これだけの深度と密度がある作品はなかなかお目にかかれません。それでも、深く理解せずに表面だけをなぞっていても十分すぎるほど面白いのがまたすごいところです。

普通のマンガであればある程度の決着の仕方は予想できるものですが、『HUNTER×HUNTER』が今後どのような展開を経てどう終わるつもりなのかはまったく想像がつきませんし、想像したとしても必ずやそれを超えてくれるだろうという期待があります。

また、『幽★遊★白書』や『HUNTER×HUNTER』もキャラクターの魅力に秀でた作品です。飛影・蔵馬、キルア・クラピカといった主人公の仲間たちが人気投票において常に主人公を超えて人気があるというのは象徴的です。
クロロ=ルシルフルに人生を狂わされてしまった友人もいますが、そうしたメインキャラクターでなくとも「恐ろしく速い手刀 オレでなきゃ見逃しちゃうね」のおじさんのように名前がないキャラクターですら人気を博すのは、僅かな言動だけでもキャラクターを立たせる力が際立っていることの証でしょう。

マンガ力、ストーリーとその構成や演出力、キャラクターや世界設定の豊かさと巧みさなど総合的に出色なのは疑いようがないのですが、『幽★遊★白書』や『HUNTER×HUNTER』の一番の魅力を敢えて挙げるとすればそのダークさにあると思います。

仙水が見てしまった人間の暗黒面や躯の生い立ちなど(『幽★遊★白書』)は大人になってから改めて読むとそのエグさが解ります。およそ一般的に少年誌でやる内容ではありません。また、『HUNTER×HUNTER』キメラアント編での従来のバトルマンガではありえない決着の付け方、そしてその後日談で描かれる現実世界と人間へのアイロニーと歪愛を感じさせる内容は凄まじく、秀逸です。

かつて冨樫義博が『エルフェンリート』や『パラレルパラダイス』の岡本倫を「王道を隠し味に使える素敵な作家」と評したことがありましたが(岡本倫『ノノノノ』帯コメントより)、それは自身にも言えることでしょう。王道的な盛り上げ方や感動もあり、王道をなぞりながらも思い切り覇道を驀進しているのが『幽★遊★白書』であり、『HUNTER×HUNTER』です。

勧善懲悪で王道の『ドラゴンボール』と並んで、覇道の『幽★遊★白書』が連載されていたことは「週刊少年ジャンプ」の懐の深さを表す一事です。『ドラゴンボール』や『ワンピース』が太陽だとすれば、『幽★遊★白書』や『HUNTER×HUNTER』はその太陽を輪郭として描きながら光を飲み込む、暗黒の宇宙空間であると考えます。

そもそも私たちがなぜダークなものに惹かれるかといえば、それは人間社会の禁忌でありながらも、その一方で本質でもあることを本能的に理解しているからではないでしょうか。見てはいけないものを見る快感、一寸先で何が起こるか解らない極上の混沌を秀逸なダークファンタジーは、冨樫義博作品は与えてくれます。

2020年10月現在、『HUNTER×HUNTER』は22年間の連載期間の中でも最長の休載となっていますが、冨樫先生のお体に無理のない範囲で一日も早い再開を祈るばかりです。

(次回につづく)

※2: 漫画全巻ドットコム「歴代発行部数ランキング」参照。
https://www.mangazenkan.com/ranking/books-circulation.html

※3: 少年ジャンプ+「冨樫義博×石田スイ 特別対談」参照。
https://www.shonenjump.com/p/sp/1606/hyskoa/

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