横川良明の演劇コラム「本日は休演日」  vol. 34

Column

2.5次元シーンを席巻する『ヒプステ』の真価。オリジナルストーリーで描く男たちの友情ドラマ

2.5次元シーンを席巻する『ヒプステ』の真価。オリジナルストーリーで描く男たちの友情ドラマ
今月の1本:『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』Rule the Stage -track.3-

ライター・横川良明がふれた作品の中から、心に残った1本をチョイス。独断と偏見に基づき、作品の魅力を解説するこのコーナー。
今月は舞台『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』Rule the Stage -track.3-をピックアップ。シリーズ第1弾からわずか1年で一気に2.5次元舞台の中心に躍り出た人気作の魅力を語り尽くします。

3人だから無敵。少年たちのために、あの男たちが立ち上がった

いつだって誰かのために駆け回る男たちは、最高にカッコいい──『ヒプステ』は、そんな男の美学を改めて思い出させてくれるステージだ。

急速に勢力を伸ばす新興宗教「糸の会」。絶望の底に立たされた者たちの頭上に降りてくる、天からの蜘蛛の糸。谷底で泣き伏せることしかできなかった者たちは、その白い糸に一筋の光を見た。けれど、それは救いの光などではない。善意を騙って懐に近づき、自由を搦めとる悪意の巣だ。

そんな新興宗教の網に堕ちた少年を救うため、オオサカ・ディビジョン“どついたれ本舗”とナゴヤ・ディビジョン“Bad Ass Temple”が奔走する姿をエキサイティングに描いたのが、この『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』Rule the Stage -track.3-。

今や社会現象となっている音楽原作キャラクターラッププロジェクト『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』を舞台化した本作は、今回でシリーズ第3弾。そのストーリーはいたってシンプル。だからこそ、ストレートに胸に響く。

物語の軸となるのは、舞台オリジナルキャラクター・小鳥遊ハル(星乃勇太)、綿本裕孝(北乃颯希)、茜ヶ久保遼太郎(髙橋祐理)の3人。彼らは3人でトリオを組んで、プロのお笑い芸人を目指していた。

もともとは裕孝と遼太郎の2人組。だけど、裕孝も遼太郎もボケ担当のため、2人ではスベッてばかりだった。空回りする2人の前に現れたのが、ハル。いじめられっ子のハルは、両親を亡くし、祖母と2人暮らし。学校では友達もおらず、泣いてばかりいた。けれど、ハルにはツッコミのセンスがあった。

ハル1人ではダメ。裕孝と遼太郎の2人でもダメ。3人だから無敵になれる。そんな3人という関係性が、自然と“どついたれ本舗”や“Bad Ass Temple”に重なってくるという構図だ。

秀逸なのは、この3人を鏡にして、“どついたれ本舗”と“Bad Ass Temple”のキャラクターを描く、亀田真二郎のオリジナル脚本。病床の祖母を救うため、新興宗教に入信したハル。裕孝と遼太郎はハル奪還を決意し、教師である躑躅森盧笙(里中将道)が所属する“どついたれ本舗”と行動を共にする。一方、ハルは、「糸の会」から脱会しようとする四十物十四(加藤大悟)に粛清を与えるべく、“Bad Ass Temple”の前に現れる。しかし、ハルの事情を知った波羅夷空却(廣野凌大)が味方となり、「糸の会」解体のために立ち上がる。

2つのストーリーがクロスするとき、胸熱くなるバトルが始まる

“どついたれ本舗”サイドのキーワードは「相方」だ。盧笙はかつて白膠木 簓(荒牧慶彦)とコンビを組んでいた。けれど、簓の才能に自分は釣り合っていないと考えた盧笙はコンビを解消し、教師の道を選んだ。盧笙の見る目に狂いはなく、簓はその才能を開花させ、ピン芸人として大活躍を遂げている。これでいい。自分の決断は間違っていなかった。そう思いたい盧笙の心とは裏腹に、簓の胸の内は違った。

突然、「相方」がいなくなる。その傷を、簓は芸人らしく陽気な振る舞いで隠していた。背中を預け合う相手だからこそ言えないこともある。聞けないこともある。そのことをいちばんよく知っていたのは、簓自身だった。

だからこそ、今まさに「相方」を失おうとしている裕孝と遼太郎の力になってやりたかった。「相方」が自分を必要としているかなんて関係ない。自分が「相方」を必要としているかどうかだ。そう裕孝と遼太郎にかけた簓の言葉は、なんだか簓自身に言っているようで、思わず鼻先がツンと痛くなる。

一方、“Bad Ass Temple”サイドのキーワードは「闘う勇気」だ。不良僧侶の空却は、喧嘩っ早くて気性が荒い。根がいじめられっ子気質で、ウジウジ悩んでばかりのハルとは正反対だ。すべてを「糸の会」のせいにし、裕孝や遼太郎からも背を向けているハルの弱さを空却は理解できず、天国 獄(青柳塁斗)からもみんながお前のように強くいられるわけではないと諭されてしまう。

そんな空却が弱虫のハルと向き合い、自分の人生を自分で切り開くことの大切さを教えていくところにドラマがある。空却は決してブレない。いつも真ん中に、自分はどうしたいかがある。その強靭な意志が、ハルに「闘う勇気」を与えていく。行動を起こすのに、用意周到な準備や筋の通った理屈なんていらない。もっと無鉄砲でいいんだ、と観る者の心を奮い立たせてくれる。

そんな2つのストーリーがクロスする「糸の会」とのバトルが、本作のクライマックス。熱迸る友情ドラマにきっと身も心も熱くなるはずだ。

荒牧慶彦、廣野凌大、東山義久らキャストたちが観客を魅了!

本作の演出を務めるのは、ダンサーとして、演出家として、世界をフィールドに活躍する植木 豪。そのステージングはとにかくド派手で刺激的だ。オープニングから最新のテクノロジーを駆使した演出が炸裂している。LEDスーツをまとったダンサーたちが、レーザービームのさんざんめくステージで激しくパフォーマンス。その近未来的なステージングが、『ヒプノシスマイク』の世界観にマッチしている。

さらにデジタルパネルに原作のメインビジュアルを投射。そのパネルがオープンになると、そこにいるのは演じるキャストたち。2次元から3次元へ。まるでバトンを渡すような演出に、2.5次元感が強く打ち出されていた。

また、「糸の会」の教祖である大蜘蛛弾襄(植野堀 誠)の登場シーンでは、念を唱える大蜘蛛弾襄の前で、“D.D.B”がヘッドスピンを披露。まったく軸のブレない高速回転に驚くと共に、それが大蜘蛛弾襄の神格性を象徴しているようで、不吉な気配が漂う。また、天から降りる蜘蛛の糸をレーザービームで表現。得体の知れぬ「糸の会」の不気味さが語らずとも観客に伝わってきた。

そんなダンスとデジタルテクノロジーを総動員した植木の先鋭的な演出に、キャストたちも的確な演技で応えていく。それぞれに役をしっかりとつかんでいたが、中でも作品全体の牽引役を担っていたのは、やはり白膠木 簓 役の荒牧慶彦だろう。

荒牧といえば、これまで数多くの2.5次元舞台に出演しており、当たり役も多数。人気も知名度もあり、ある程度、固定化されたイメージのある俳優だ。けれど、この『ヒプステ』で見せた姿は今までのどの荒牧慶彦とも違っていて、まさに白膠木 簓そのもの。扇子を持つ腕の角度だけで原作のビジュアルを彷彿とさせる憑依ぶりだ。地声よりずっとハイトーンの声とテンションの高い喋り口調は、何でも茶化してしまう簓のキャラクターによく合っていて、こういった系統の役柄もこなせる荒牧の球種の豊富さに改めて驚かされてしまった。

パフォーマンスで惹きつけられたのは、波羅夷空却 役の廣野凌大だ。錫杖型のマイクのさばきっぷりは文句なしのカッコよさ。さらに、パフォーマンス中にはスカジャンを肩まで脱いで、型にはまらぬ空却の破天荒ぶりを強調。ジャンプキックで敵をなぎ倒したり、スライディングでかわしたり、身体能力の高さを随所で発揮。その体からエネルギーがはち切れそうな動きに空却の悪童感がみなぎっていた。

存在感という意味で突出していたのは、天谷奴 零 役の東山義久だ。DIAMOND☆DOGSのメンバーとして活躍し、数々の舞台でその実力を発揮してきた東山だが、本作ではジャジーなサウンドに乗せて、抜け感がありながらもキレのあるダンスを披露。アダルトな色気で観客を酔わせた。謎多き天谷奴 零というキャラクターを演じるには、そこにいるだけで目を引くような重量感が不可欠。立ち姿からにじみ出る東山の貫禄が、役に問答無用の説得力をもたらしていた。

もちろん『ヒプステ』最大の魅力である音楽の素晴らしさは言うに及ばず。“どついたれ本舗”は大阪らしくノリがよくてファンキー。“Bad Ass Temple”は音もヘビーで好戦的。それぞれのチームのカラーを表したトラックが劇場を興奮の坩堝へと変える。

舞台を華やかに彩る“D.D.B”のパフォーマンスも出色だ。数々のアクロバットもさることながら、関節がすべて外れているのかと疑いたくなるなめらかな動き、重力という概念を無視した無重力ダンス、まるでコマ送りをしているかのような高速振付など、そのレベルは規格外。彼らのダンスだけでも十分に一見の価値がある。

今や2.5次元舞台の新勢力としてファンを増やし続ける『ヒプステ』。シリーズ第3弾となる本作は、シナリオ、演技、音楽、ダンス、すべての打点が高く、まさにその真価を証明するハイレベルなステージだった。

『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』Rule the Stage -track.3-

2020年10月2日(金)〜10月11日(日) TOKYO DOME CITY HALL

原作:EVIL LINE RECORDS
演出:植木 豪
脚本:亀田真二郎
音楽監督:Ts
テーマソング:井手コウジ

出演:
オオサカ・ディビジョン“どついたれ本舗”
白膠木 簓 役:荒牧慶彦
躑躅森盧笙 役:里中将道
天谷奴 零 役:東山義久

ナゴヤ・ディビジョン“Bad Ass Temple”
波羅夷空却 役:廣野凌大
四十物十四 役:加藤大悟
天国 獄 役:青柳塁斗

大蜘蛛弾襄 役:植野堀 誠
小鳥遊 ハル 役:星乃勇太
綿本 裕孝 役:北乃颯希
茜ヶ久保 遼太郎 役:髙橋祐理

ディビジョン・ダンス・バトル“D.D.B”
Toyotaka RYO gash! SHINSUKE Dolton KENTA GeN KIMUTAKU

主催:『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』Rule the Stage製作委員会

オフィシャルサイト
オフィシャルTwitter(@hm_rtstage)

©『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』Rule the Stage製作委員会

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