今、知っておくべき注目声優を解説します!  vol. 10

Column

魅惑のバリトンボイス、聴かない日はもはやない!? 声優「諏訪部順一」幾多のハマり役と出世作を振り返る

魅惑のバリトンボイス、聴かない日はもはやない!? 声優「諏訪部順一」幾多のハマり役と出世作を振り返る

この人の声を知っておけばアニメがもっと楽しくなる(はず)! 今、旬を迎えている声優の魅力をクローズアップする連載コラム。今月は、『テニスの王子様』跡部景吾役、『Fate/stay night』アーチャー役、『ユーリ!!! on ICE』ヴィクトル・ニキフォロフ役などで知られ、現在放送中の作品でも『GREAT PRETENDER』、『呪術廻戦』などのメインキャストとして大活躍中の諏訪部順一(すわべじゅんいち)さんに大注目! 声優界になくてはならない存在となったバリトンボイスの魅力に迫ります。


なぜ、この声を聴くとゾクゾクしてしまうのか?

人は強い感情を掻き立てられたとき、“鳥肌が立つ”という言葉で表現することがある。鳥肌は、自律神経の働きにより毛穴の根元にある立毛筋という筋肉がギュッと縮んで、寝ていた体毛が引っ張られて立毛し、毛穴の周囲が少しだけ隆起することで起きる。人が最も鳥肌を実感するのは、寒気を感じたとき。体毛に覆われた動物が毛を逆立てて温かい空気を蓄え、寒さをしのぐメカニズムの名残りなのだそうだ。それはつまり、人間の体が持つ天然の防御本能。恐怖や驚きを感じてゾッとしたとき、映画や音楽に感動を受けたときも鳥肌は立つが、それは予想もしなかったものに襲われ、平静な精神を保つために肉体が自然に防御反応を行うから起きるのでは?

そして“いい声”も人に鳥肌を立てさせる。諏訪部順一の声を表現するときに頻繁に目にする言葉は “セクシーな声”。その響きは、特に女性にとってまさに鳥肌ものだ。その鳥肌も、クールめな役柄ではゾクッと、ソフトめな役柄ではソワソワッとした感覚になる。きっと、彼の声からあふれ出す色気が、ナチュラルに身の危険を感じさせるから、鳥肌が立つのでないか? と考えたくもなる。

諏訪部の声質の魅力は、雑味のない落ち着いたバリトンボイス。そもそもバリトンの音域の声には、落ち着きからくる大人の色気、男らしさ、説得力を感じやすいと言われている。四半世紀を超える諏訪部順一の声優キャリア初期は、ナレーションやCM、ラジオDJとしての活動が主だったと聞くが、それも彼の声の落ち着きと説得力が発揮された結果だろう。

さらに、諏訪部のクリアだが突き刺すようではなく、まろやかな豊かさを持ったバリトンは、その声質だけでも相当艶っぽい。思わず触り続けたくなる上質のビロードのような滑らかさが甘さ成分を高めてはいるが、そのビロードはただ柔らかいだけでなく、その下には硬質でしっかりとした地盤の存在を感じさせる。彼の中での高めの声と低めの声でまた与える印象は少し変わってはくるが、全体を貫く骨のある滑らかさが、ブレない艶っぽさ、説得力のあるセクシーさの土台になっているように思える。

出世作『テニスの王子様』跡部景吾役にみる圧倒的な存在感

1990年代後半から始まる長いキャリア、そして現在もアニメのテレビシリーズ出演作だけでも年間15~20本を下らない人気ぶりから、諏訪部の印象的な代表作はかなりの数にのぼるが、上質の艶っぽい甘さ、セクシーさを存分に発揮した諏訪部キャラは、当然ながら女性ファンに愛されるタイプの作品に多い。

『ユーリ!!! on ICE』のヴィクトル・ニキフォロフ役では、苦悩する孤高の王者の一面と主人公・勝生勇利(CV:豊永利行)に絶え間ない愛情を注ぐオチャメな一面を巧みに演じ分けた。大人びたお色気とソフトな立ち振る舞いでファンを魅了する『うたの☆プリンスさまっ♪』のプレイボーイなアイドル・神宮寺レン役では、物語スタート当初は仲間にもクールに接していたレンが、次第に柔らかな態度を見せていくギャップにもキュンとさせられる。

セクシーさとともに発せられるダンディーさに魅了された作品といえば、諏訪部が主演した『GANGSTA.』の便利屋兼ジゴロ、ウォリック・アルカンジェロ役も印象的。少女漫画原作では、女性とみればすぐ口説く、美しいものが好きな『暁のヨナ』のジェハ役も諏訪部順一が魅力を倍増させたキャラクターだろう。

クリアなバリトンが活かされた王道クールなキャラ、“俺様”的なキャラも諏訪部の得意とするところだ。声優・諏訪部順一の名前をアニメファンに知らしめた出世作『テニスの王子様』の跡部景吾役は、超・上から目線の大胆で大仰な台詞が特徴だが、普通に話してしまうとコミカルにすら響く台詞も、諏訪部の説得力のある声と巧みな演技にかかると、最高に魅力的な台詞へと変貌する。俺様キャラはときに嫌みさも兼ね備えがちだが、跡部景吾の誰もが思わずひれ伏したくなる圧倒的な存在感は、諏訪部の声あってこそではないか。

クールさでいえば、『Fate/stay night』のアーチャー役も注目だ。単にクールなだけではなく、キャラクターの葛藤をちゃんと内包した諏訪部の演技力も見どころ。『黒子のバスケ』の青峰大輝もクールで孤高の存在だが、時折見せる優しさが諏訪部の温かみのある演技と相まって、天才肌だが心温かいキャラクターへとしっかりと成長を見せていた。

胡散臭いキャラにも抜群の魅力を与える、その演技はベテランの域へ

こうして改めて諏訪部が演じた作品を並べてみると、二面性のギャップが魅力のキャラクターが多いことにも気づかされる。それは、落ち着いた声質がもたらす、直情的ではない大人キャラを担当する機会が多いのも理由のひとつだろうが、どんな二面性をも瞬時に切り替えられる諏訪部の高い演技力に負うところも大きい。

仲間に対する態度と、他の人間への冷ややかさを体現する『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』レオーネ・アバッキオや、『僕のヒーローアカデミア』相澤消太/イレイザー・ヘッドもその系統か。セクシー系でも、バリトンボイスの高めのトーンでチャラチャラ話していた色男が、一瞬で低めのクールなトーンで男気を発揮するときのギャップも、もともとの声の良さもありゾワッと鳥肌が立つ瞬間だ。

そんな二面的演技をいかした、どこか胡散臭さを感じさせるキャラクターも、諏訪部にかかると抜群に魅力を輝かせる。変人さをいかんなく発揮する『黒執事』の葬儀屋〈アンダーテイカー〉や、最近では、不真面目なキャラではないが少しチャラついた雰囲気が漂う『PSYCHO-PASS サイコパス 3』の入江一途役なども印象的な存在だった。

筆者が個人的に、最近一番の諏訪部のハマリ役と感じたのは、詐欺師たちの“騙し合いゲーム”を描いた作品『GREAT PRETENDER』のローラン・ティエリーだ。詐欺師らしい胡散臭さを軽い演技で見せつつ、いざというときの頼れる男らしさを魅せる諏訪部の芝居もさることながら……Netflixで先行配信されているシーズン2(CASE 4:15話~23話)では、群像劇としてローランの切なくも悲しい過去も明らかになり、現在のローランと過去のローランの人間味あふれる見事な演じ分けを堪能できる。

一方で、現在放送中の作品では『呪術廻戦』の両面宿儺(りょうめんすくな)のように残忍なキャラクターも演じている。どの役柄もプロフェッショナルに、ファンの期待を裏切らない演技と声で演じきる諏訪部順一。既に中堅からベテランの域に差し掛かりつるある“巧者”の芝居を、これからも注目していきたい。

文 / 阿部美香

vol.9
vol.10