マンスリーWebマンガ時評  vol. 11

Review

今からアニメに秒で追いつく! マンガで読む『ダンまち』シリーズの世界

今からアニメに秒で追いつく! マンガで読む『ダンまち』シリーズの世界

小説投稿サイト「Arcadia」に投稿され、2013年にGA文庫から書籍化された大森藤ノ『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』(通称『ダンまち』)のTVアニメ第3期が2020年10月から放送・配信中だ。
アニメ第1期1話が放映されると童顔巨乳の女神ヘスティアの服に付いている、胸の下の部分に巻いて乳房を強調するようなふしぎなデザインの青い紐が話題になり、「例の紐」と呼称されたことでも知られる同作は、一時のバズに留まらずその後も人気を継続させて出版物はシリーズ累計1,200万部超。
今から本作に入りたいという人には、マンガで一気に追いつくことをおすすめしたい。

文 / 飯田一史


アニメ第1期と第2期序盤をカバーする、九二枝版コミカライズ

©Fujino Omori / SB Creative Corp.
©Kunieda/SQUARE ENIX

九二枝による原作小説のコミカライズ『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』は全10巻刊行されており、アニメ第1期と第2期の序盤(「戦争遊戯」以前、原作小説5巻)までが描かれている。

『ダンまち』は冒険者の少年ベル・クラネルがダンジョンの中で出会ったミノタウロスにやられかけていたところを助けてくれたロキ・ファミリア最強の“剣姫”アイズ・ヴァレンシュタインに一目惚れをし、彼女のように強くなることをめざす異世界ファンタジー。
この世界ではギリシア神話に由来する神々が契約した人間を「眷属」(ファミリア)として扱い、パーティを形成してダンジョン攻略に臨んでいる。

ベルは女神ヘスティアの眷属(ファミリア)唯一のメンバー。物語序盤では「女の子だから」と言って女性キャラを守ろうと弱いのに危険に飛び込んでいた――この点、『Fate/stay night』の衛宮士郎と似ている――が、驚異的な速度で成長していく。
まっすぐでやさしいベルを溺愛するヘスティアは、「あの子の力になりたい」という気持ちと「僕をひとりにしないでくれ」という気持ちが混在しながらも、ベルのことを支援し続ける。
ベルが憧れるアイズもまた「強くなりたい」という想いを抱え、自分や仲間たちが失ってしまった純真さを持ち続けるベルに興味を持つ。

『ダンまち』の魅力は主要キャラクターたちの一途さにある。想いの力と修行で強くなり、モンスターに窮地に追い込まれてもギリギリで撃破していくという、少年マンガ的な胸のすく展開がある(ベルが「想いの力で強くなる」のは『アクセル・ワールド』『ソードアート・オンライン』に登場する「心意システム」と似ている)。

『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』試し読みはこちら(ガンガンONLINE)
https://www.ganganonline.com/contents/danmachi/

アニメ第2期第5話「竈火の館」以降を描く、矢町大成版コミカライズ

©Fujino Omori / SB Creative Corp.
Original Character Designs: ©Yasuda Suzuhito / SB Creative Corp.
©Taisei Yamachi/SQUARE ENIX

九二枝版の続きを描くのが矢町大成によるコミカライズ『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかⅡ』だ。これはアニメ第2期の第5話以降を描いており、2020年10月現在刊行されているコミックス第1巻では第7話(原作小説7巻)あたりまでを収録。

ヤマト・命の幼なじみである狐人サンジョウノ・春姫が歓楽街の娼館に囚われていることを知ったベルたちが春姫を身請けして救出しようとする……というお話だ。少年マンガ的な雰囲気で展開していた作品で娼婦の物語を描いたことは意外だったが、ベルの女性に対する奥手ぶりは変わらない。ここまで読んでいればアニメ第3期第1話に登場する主要キャラは一通り出てきているのですんなりアニメに入っていけるはずだ。

『ダンまち』の主人公・ベルは大好きだった祖父をモンスターに殺された過去から「英雄になりたい」と願う以外は無欲・無頓着で、他人の悪意に対して鈍感なお人好しだ。それに惹かれてヘスティア・ファミリアには徐々に協力者が増えていく。
見るからに怪しい冒険者のサポーターのリリルカ・アーデ、魔剣の依頼者が絶えない鍛冶士のヴェルフ、ベルたちに大量のモンスターを押しつけて逃げたタケミカヅチ・ファミリアから改宗(転籍)したヤマト・命らが加わり、パーティは賑やかになる。そのひとりひとりの心情の掘り下げと掛け合いも『ダンまち』の魅力である。

たとえば『とある魔術の禁書目録』のような作品では、主人公サイドと敵キャラサイドとで、お互いの考えや想いをぶつけ合うことが戦闘を盛り上げる。ところが『ダンまち』では敵役であるモンスターがしゃべらない。つまり敵側に理屈がない。すると、戦闘を盛り上げるためには、考えや想いを持ったキャラ同士のやりとりが重要な鍵を握ることになる。逆に言えば「しゃべる敵」との戦いでは敵を掘り下げて描く尺が必要になるが、「しゃべらない敵」と戦う作品では、しゃべるキャラの背景や関係を掘り下げるためにより多くの尺が使える。『ダンまち』には非常にたくさんのキャラが登場するがいずれもよく描き込まれているのは、この特性をうまく活かしているからだ。

外伝『ソード・オラトリア』のマンガ版は本編コミカライズ以上の巻数で進行中

©Fujino Omori / SB Creative Corp. 
Original Character Designs: ©Haimura Kiyotaka / SB Creative Corp.
Original Character Designs: ©Yasuda Suzuhito / SB Creative Corp.
©Takashi Yagi/SQUARE ENIX

『ダンまち』は、ベルの憧れである無口な剣姫アイズを主人公にした外伝小説『ソード・オラトリア』もシリーズ化されており、こちらもアニメ化、マンガ化されている。マンガ版は矢樹 貴が担当しており、2020年10月現在で16巻まで刊行。

『ソード・オラトリア』は本編のベルたちの冒険と時系列をほぼ同じくしてロキ・ファミリアの冒険を描いていく。必然的にときどきヘスティア・ファミリアとの交錯、アイズ側から見たベルとの関わりも描かれ、「あのときアイズたちはこう思っていたのか」「裏ではこんな出来事もあったのか」ということがわかる。アイズに出会うと恋心から来る緊張ですぐいなくなる不審者ぶりを発揮するベルの姿がおかしい。
外伝を読むと、寡黙なアイズが内に強い想いを抱えて戦っている人物であることが本編以上に伝わり、また、本編では描かれない彼女の知られざる過去も少しずつ見えてくる。

『ダンまち』ではベルがさまざまな女性キャラクターから好かれていくが『ソード・オラトリア』ではアイズが女性キャラ(とくにレフィーヤ)に愛されている。アイズを偏愛する、同じファミリア所属のレフィーヤはベルと似ている。アイズのことが好きで、遠慮がちで、強さを求める。『ダンまち』は、モテまくっているアイズと、モテまくっているベルが、互いに自分にはないものを持っていると見込んで惹かれ合う物語なのだ。

また、本編はダンジョンの1階からじっくり進んでいくが『ソード・オラトリア』でのロキ・ファミリアは前人未踏の59階層攻略を目指して進んでいくため、必然的に本編以上に強大なモンスターとのスケールの大きな戦いが描かれる点も、外伝の魅力だ。
『ソード・オラトリア』を読まなくても『ダンまち』本編鑑賞に支障はないが、作品世界への理解が深まり、キャラクターへの愛着が深まることは間違いない。

『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか 外伝 ソード・オラトリア』試し読みはこちら(ガンガンONLINE)
https://www.ganganonline.com/contents/ais/

『ダンまち』の外伝は、ほかに『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか ファミリアクロニクル episodeリュー』がコミックス全6巻で刊行されているほか、『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか ファミリアクロニクル episodeフレイヤ』がマンガアプリ「マンガUP!」で連載中だ。いずれも合わせて楽しむことをオススメしたい。

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