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梅津瑞樹&杉江大志&後藤 大&陳内 将が不器用に紡ぐ人生。そこから生まれるかすかな“愛”。劇団温泉ドラゴンの傑作「BIRTH」ただいま上演中!

梅津瑞樹&杉江大志&後藤 大&陳内 将が不器用に紡ぐ人生。そこから生まれるかすかな“愛”。劇団温泉ドラゴンの傑作「BIRTH」ただいま上演中!

シライケイタが代表を務める劇団温泉ドラゴンの財産演目「BIRTH」が、10月10日(土)より10月21日(水)まで、よみうり大手町ホールにて上演中だ。
詐欺に手を染める4人の男たちの壮絶な人生が描かれる物語。読売演劇大賞で優秀演出家賞を受賞した千葉哲也が演出を手がけ、梅津瑞樹、前山剛久、杉江大志、玉城裕規、後藤 大、佐藤祐吾、陳内 将、北園 涼、章平といった今をときめく実力派の若手俳優が舞台を彩る。
そんな舞台の公開ゲネプロが初日前に行われたのでレポートしよう。

※公開ゲネプロのダイゴ 役は梅津瑞樹、ユウジ 役は杉江大志、マモル 役は後藤 大、オザワ 役は陳内 将

取材・文・撮影 / 竹下力


多くの人の孤独な魂を癒してくれる傑作舞台

“愛”はどうしたら手に入れられるのだろう? 誰かに優しくすればいいのだろうか? 誰かを徹底的に傷つければいいのだろうか? あるいは莫大な富があればいいのだろうか? 愛ってなんだろう? その答えはどこにある?
この舞台の登場人物たちは、親の“愛”や、肌を温めてくれる誰かの“愛”、あるいは自分の“愛”という永遠に見つからないかもしれない“目に見えない大切な何か”を求めて彷徨い続ける。それは現代を生きるか弱い人間と同じだ。

BIRTH WHAT's IN? tokyoレポート

舞台の上手に、一脚の椅子と小さな机、デスクライト。そこは取調室で、ライトに照らされた手錠をしたオザワ(陳内 将)が語り始める。オザワは裏家業の仕事をしている。男の語り口からして、どうやらある事件の顛末を話しているようだ。

シーンが変わり、オザワのもとに刑務所から出所したばかりのユウジ(杉江大志)が訪れ、商売の話を持ちかける。ユウジは闇金業に手を出して失敗し、借金を重ねた挙句に逮捕され、いまだにヤクザに追われている。オザワはユウジの手助けをするには、仲間が必要だという。ユウジは幼い頃から良く行動を共にしていた友達、ダイゴ(梅津瑞樹)のことを思いつく。

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ライトが舞台中央を照らすと、女装をして、いかがわしい薬を売りつけて金を巻き上げている、ダイゴとマモル(後藤 大)がいる。そこにユウジがやってきて、ダイゴを計画に巻き込もうとする。もともと楽天的なのか、間が抜けているのか、不審がるマモルをよそに、ダイゴは、友達のユウジが言うのだからと簡単に儲け話に乗ってしまう。

彼らは廃業した劇場をアジトにして、オザワの指南のもと、“オレオレ詐欺”に手を染める。彼らはオザワが用意した名簿の連絡先に片っ端から電話をかけ始める。そして、リストアップされた2万人の中からダイゴがかけた電話に出たひとりの女性が物語を大きく動かしていく……。

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物語は、クールでシャープ、暴力と嘘と猜疑心が己の存在証明になる荒廃した雰囲気に溢れているのに、時折り混じる覚めたユーモアがそんな空気を和ませる構造になっている。
社会の底辺を彷徨うミスフィット(不適合者)な4人の悲喜交々の人生はドラマティックで、観客の心にリンクして圧倒的な共感を呼び覚ます。ハッピー・エンディングで束の間の安住を得るぐらいなら、いっそ救いのない顛末がいいのかもしれないとさえ感じる。

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彼らはみんな何かが欠けている。それを補填しようと必死にもがいている。ダイゴやマモル、ユウジは孤児院育ちで、両親の顔すら覚えていない。オザワにも語り尽くせない過去がある。ただ言えるのは、この舞台は圧倒的に父性が欠け、父親の影すら存在しないことだ。その欠落を埋めるように母の“愛”だけが彼らの生きる拠り所になっている。

といっても、彼らは“愛”を享受することを諦め、なかば暴力的に忘れ去り、信頼しているのは即物的な“金”だけ。“金”は、厳しい現実と折り合いをつけて自分の傷を慰めてくれる装置だった。もちろん、底辺を這いつくばる彼らにとって、“金”を稼ぐのは簡単じゃない。マトモなことをして救われた経験もない。社会は悪だ、他人は己を傷つける、世界も人も汚れている。だったら、人を騙して“金”を毟り取って何が悪い? そんな社会の片隅で自分の存在価値に居直ってしまおうと躍起になる姿が痛々しくあり、ヒロイックにも見える。

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脚本のシライケイタが描くのは、正常と思われている社会システムに組み込まれたら、窒息してしまう宿命を背負った人々の物語だ。上昇志向や適者生存が求められる日本において、そんな社会にノーを叫んで弾き飛ばされ、あるいは意図的に外に飛び出し、必死に生き延びなければならない個性豊かな4人の姿が静謐に描かれている。はみ出し者たちへの共感がそこにある。この作品が、いまだに受け継がれ、現代に蘇るのは、どうしても社会に適応できない人々に対する、シライケイタの温かい眼差しがあるからだと思う。彼はどんな人間の生き方も肯定しようとしている。

演出の千葉哲也は、抑揚のある演出で、観客の目線を釘付けにする。廃墟の劇場、汚いアパートの一室、刑務所の取調室といった荒んだ舞台に、下手に柔らかい光に包まれた一脚のベンチを置いて救いにしている。登場人物もそこにいれば心を許し笑顔になり、そうでなければルサンチマンを爆発させる。台詞を攻撃的に喋る人物と、黙り続ける人間との対比。静と動のメリハリが効いている。そのおかげで、人間の理不尽な心のありようが綺麗に浮かび上がっていた。

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オザワ役の陳内 将は、物語の語り部であり、事件を見守る存在に終始する。今作ではカメラになり、ストーリーを記録し留めていく。観客の目線は次第に彼と同一化して、彼の目から舞台を眺めている気分になる。観客を自分に憑依させる懐の深い芝居が素晴らしかった。冒頭の警察官との対話の長台詞は、ゆったりとしたリズムで、淡々と人間の闇を語っていくので背筋が凍えるほど。オザワの役割に徹しながらも、陣内自身の個性も忘れないクレバーな演技に感動してしまう。

マモル役の後藤 大は、起こった出来事の正否を問わず、ひたすら驚いたり、反抗したり、受け入れるリアクションの芝居が素直で感情移入してしまう。ダイゴの孤独な心やユウジの破滅的な行動を癒す立場に徹して、芝居は情感があって色気すら感じた。ひょっとしたら、シライケイタの一番の依代なのかもしれない。

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ユウジ役の杉江大志は、ルサンチマンと破壊衝動に満ちて好戦的で、今作の大切なテーゼである“暴力”を一心に体現していた。あらゆることに拒否と否定を繰り返し、過去のトラウマもあって己の存在さえ認められない複雑なキャラクター。理解できるのは“金”だけという唯物論者で暴力的なのに、思わず許してしまいそうになるピュアで包容力のある演技が目を見張った。

ダイゴ役の梅津瑞樹は、インタビューで「何者にも括られず、ひと言では説明できない人物像にしたい」と語ってくれたけれど、ユーモアとシリアスを行ったり来たりしながら、最も人間的な感情を持った人物を繊細に演じた。人間の優しさと悲しさをたたえたみずみずしい芝居。ダイゴが求めているのは、“愛”という、金では計量できない不確かなものだからこそ、思わず揺れ動いてしまう心の葛藤をリアルに表現していた。梅津の出演している作品は何作も観ているのに、目まぐるしく俳優としてのスタンスを変えて、自身の成長に繋げていく。素晴らしい俳優だと思う。

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タイトルの「BIRTH」=生まれるという言葉が何を意味しているのかは、はっきりと明示されない。希望でも絶望の暗示でもない。我々の望んでいる答えはどこにもない。なぜなら、それこそが“現実”であるからだ。みんなは“愛”を求めているのに、そんな“愛”はどうやったって手に入らないという諦念。そんな世界はあまりに悲しいし、苦しいのに、この舞台を観ているとそれがすべてだと思わされてしまう。人間はいつだって途方に暮れて泣き荒んでいる。
人間のユーモアと生存の哀しみを徹底的に突き詰めて、存在の儚さを感じさせてくれる。今作には圧倒的なセンチメンタリズムが貫かれている。それらを物語の枠組みにしながら、ミスフィットな人間たちがたくさんの人生の矛盾や暴力に傷つき、くたびれ、壊れそうになりながら、それでも生きようと闘い続ける魂から絞り出されたかすかな優しさと慈しみが、多くの人の孤独な魂を癒してくれる傑作舞台に仕上がっていた。

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公演は、10月21日(水)までよみうり大手町ホールにて上演。また、10月10日(土)の初日公演のアーカイブ配信が17日(土)まで可能で、チケットが販売中だ。さらに、10月21日(水)の2公演が生配信され、1週間のアーカイブ視聴が可能となっている。

「BIRTH」

2020年10月10日(土)~10月21日(水)よみうり大手町ホール

<ライブ配信決定!>
配信公演:
●10月21日(水)12:30公演/16:30公演
[アーカイブ視聴期間]2020年10月28日(水)23:59まで
※生配信終了後から1週間、視聴チケットの購入・アーカイブ視聴が可能。
チケットの詳細はこちらをご覧ください

<アーカイブ配信>
●10月10日(土)13:00公演/18:00公演
[アーカイブ視聴期間]2020年10月17日(土)23:59まで
チケットの詳細はこちらをご覧ください

【STORY】
取調室。一人の男が警官から尋問を受けている。男は事件の真相を語り始める……。
出所したばかりのユウジは昔の経験を活かして、ある『商売』を始めることを思いつく。
裏社会の商売を助ける仕事をしているオザワの元を訪れ、必要な場所や道具を手に入れたユウジは
昔の仲間であったダイゴと、ダイゴの友人であるマモル、オザワと共に『商売』を始めることに。
それぞれの事情を抱えた男たちの選んだ仕事、それは「オレオレ詐欺」。
愛を求め、運命に翻弄される四人の男の物語。

脚本:シライケイタ
演出:千葉哲也

出演:
ダイゴ:梅津瑞樹・前山剛久
ユウジ:杉江大志・玉城裕規
マモル:後藤 大・佐藤祐吾
オザワ:陳内 将・北園 涼・章平

おかあさん(声の出演):松永玲子

オフィシャルサイト
オフィシャルTwitter(@Birth_2020_10)

©シライケイタ/ BIRTH製作委員会