Interview

和楽器バンド 『TOKYO SINGING』で描く勇気と未来。パワフルなニューアルバムの聴きどころを鈴華ゆう子、町屋、山葵の3人に訊く。

和楽器バンド 『TOKYO SINGING』で描く勇気と未来。パワフルなニューアルバムの聴きどころを鈴華ゆう子、町屋、山葵の3人に訊く。

8月に横浜アリーナで有観客ライブ『和楽器バンド真夏の大新年会2020 横浜アリーナ 〜天球の架け橋〜』を開催し、新型コロナウイルスによるクラスターの発生も感染も無くライブを成功させた和楽器バンドが、ユニバーサルミュージックに移籍後初となるアルバム『TOKYO SINGING』をリリース。収録曲の大半は自粛期間中に作られたことから、日本人の心を鼓舞するような熱さや、不安や悲しみを拭い去ってくれるような清々しさも含まれた作品になった。また、東京という街をテーマに、日本人の心やパワーを世界に知らしめるような曲も収録。リーダーでボーカルの鈴華ゆう子、バンドのサウンドプロデュースを手がけるギター&ボーカルの町屋、そして多くのファンに勇気を与えた楽曲「Singin’ for…」の作詞作曲を担当したドラムの山葵に、アルバム制作における思いと、今後のライブへの考えを聞いた。

取材・文 / 榑林史章 撮影 / 荻原大志


「和楽器バンドらしさとは?」「今回のアルバムに足りないものは何か?」ということに向き合えました(鈴華)

和楽器バンド 鈴華ゆう子 WHAT's IN? tokyoインタビュー

アルバム『TOKYO SINGING』は、制作期間が外出自粛期間と重なるなどイレギュラーなことも多々あって、その影響も多分に含んだものになりました。どういう流れでの制作だったんでしょうか。

町屋 まずテーマとして、東京から国内外に向けて発信するメッセージというのが決まっていて、それで60曲くらいあるデモから曲を選ぼうとしていたんです。それが、コロナ禍になったことによってレコーディングのスケジュールが延びて、必然的に時間ができたので、じゃあ追加で曲を作ってそれも含めて選曲しましょう、と。そういう経緯もあって、おのずと歌詞のメッセージの内容が、現状に合ったものが多くなりました。

鈴華ゆう子 大半は自粛期間中に出来た曲です。「和楽器バンドらしさとは?」「今回のアルバムに足りないものは何か?」ということに向き合えました。

この困難は必ず終わると信じて、再びお客さんと一緒に一つの空間を作り上げたいと気持ちを込めています(山葵)

山葵さんが作詞作曲の「Singin’ for…」は、8月に開催された『和楽器バンド 真夏の大新年会 2020 横浜アリーナ 〜天球の架け橋〜』でも演奏されて話題を呼びました。この曲がラストに収録されていることで、よりアルバムにメッセージ性が感じられますね。

町屋 この曲にはみんなで歌う合唱の部分があって、そこから希望の光が強く感じられたので、これを最後に置いてハッピーエンドで終わるのが良いねというところで、最初に曲順が決まった曲です。

鈴華 リモート会議で、そういう話し合いをしたんですよ。

山葵 曲としては、両国国技館で開催予定だった『和楽器バンド 大新年会 2020 両国国技館 2days 〜天空の架け橋〜』が、直前で中止になったことを受けて、自粛期間中に作りました。『大新年会』が開催出来なかったことを悲しみつつ、でもこの困難は必ず終わると信じて、再びお客さんと一緒に一つの空間を作り上げたいと気持ちを込めています。

横浜アリーナで演奏したときは、どんな気持ちになりましたか?

山葵 コロナ禍で自分が感じた気持ちを、この曲を通してみんなに聴いてもらえたのは、すごく幸せなことだったと思います。ただ、本来ならお客さんと一緒に大合唱したかったんだけど、それが出来なかったので、それはいつか必ず叶えたいなと思いました。

鈴華 オチサビのあとのみんなで合唱するポイントで、私はお立ち台に立って目をつむって手を広げたんですけど、新曲で初披露だったにもかかわらず、私には確かにお客さんの声が聴こえましたね。

医療の最前線で働いている方々の思いや、会いたくても会えない人たちの思いを胸に、私たちの歌のパワーで、海を越えて世界を繋ぎたいとイメージを込めています(鈴華)

和楽器バンド 鈴華ゆう子 町屋 山葵 WHAT's IN? tokyoインタビュー

また「Sakura Rising with Amy Lee of EVANESCENCE」は、日本と世界を結ぶ1曲です。2月に開催された『和楽器バンド Premium Symphonic Night Vol.2 〜ライブ&オーケストラ~ in大阪城ホール 2020』にエイミーがゲスト出演して、そのときに作ったそうですね。

鈴華 エイミーのボイスメモを元に、まっちー(町屋)と私の3人で曲のベースになるものを作りました。エイミーが帰国してすぐコロナ禍になってしまったので、そこからはデータやメールのやりとりだったのですが、言葉や時差の壁を越えて作ることが出来ましたね。コロナ禍だったこともあって、医療の最前線で働いている方々の思いや、会いたくても会えない人たちの思いを胸に、私たちの歌のパワーで、海を越えて世界を繋ぎたいとイメージを込めています。やりとりがすべて英語だったから苦労しましたけど、アルバムの中でも一番時間をかけて、一番フィーリングで作った曲です。

鈴華さんは他に、「生きとしいける花」と「月下美人」を作っていて、花モチーフが多いのは、お名前に“華”と付いているからですか?

鈴華 完全にたまたまです(笑)。「Sakura Rising」は、エイミーとのやりとりの中で、桜が日本を代表する花であることなど文化的な感覚を共有したり、エイミーが自分の部屋に飾っていた桜の花の写真を「こういうイメージよね」って送ってくれたりして、そういう流れもあって決まったんです。
「月下美人」は雅なバラード曲で、NHK『みんなのうた』10〜11月の曲として作った、唯一今回ではないタイミングで制作したものなのですが…物語調が良いという先方からの提案があったので、花を擬人化してそれに心を奪われていく青年の気持ちの移り変わりを描きました。そして「生きとしいける花」は、自粛期間中に書いたんですけど、道ばたに咲いている花とか草を見て書きあげました。

僕は、どんな状況であっても愛を持つことが大切だと思っているので、それが伝わったら良いかなと思います(町屋)

和楽器バンド 町屋 WHAT's IN? tokyoインタビュー

なるほど、そういう流れがあったんですね。今作は激しい曲も多くて、「ゲルニカ」は渋谷が空襲されるみたいなイメージで、SF映画を観ているような感覚でした。

町屋 僕はミリオタなので(笑)、こういう世界観が大好きです。今後もし戦争が起こりうるとしたらと想像して、いろいろなことを比喩的に使いながらストーリーを考えて、でも最終的には「覚悟を持って次に進みましょう」と歌っています。ただ、あまり暗いお話にはしたくなくて。僕は、どんな状況であっても愛を持つことが大切だと思っているので、それが伝わったら良いかなと思います。

みんな何かと白黒付けたがるけど、そのままにしておいたほうが良いこともある。それは日本人的な感覚だと思うので、これもある意味で東京っぽいかなと(町屋)

実際に<白黒付けずにここで愛を歌おう>という歌詞があって。

町屋 そうですね。白黒付けずにというのは、みんな何かと白黒付けたがるけど、そのままにしておいたほうが良いこともある。それは日本人的な感覚だと思うので、これもある意味で東京っぽいかなと。例えば、僕は北海道の田舎の出身で、地方の田舎はコミュニティが狭いので、グレーゾーンでは生きにくいんです。でも東京はいろんな文化がミックスされているから、良い意味でグレーのままで紛れられるんですね。それがすごく東京っぽいなと思って。

今の状況だとみんなで集まってリハーサルできる回数が限られてしまっているし、自宅で練習するのも大変なんです。特に和太鼓の黒流さんは、音の問題もあって練習すら出来ていないって(山葵)

「ゲルニカ」は激しいサウンドですけど、山葵さんは演奏についてどうですか?

山葵 ライブでやるのが楽しみですけど、アンサンブル力が求められる曲なので、しっかりリハーサルをやって、当たり前だけど周りの音をよく聴いて演奏を固めていきたいですね。と言うのも、今の状況だとみんなで集まってリハーサルできる回数が限られてしまっているし、自宅で練習するのも大変なんです。特に和太鼓の黒流さんは、音の問題もあって練習すら出来ていないって。

町屋 和太鼓は自宅では練習出来ないから、いつもシミュレーションだけして、あとは本番命みたいな(笑)。

鈴華 レコーディングが始まって4日くらいドラム・和太鼓のレコーディングが続いたんですけど、すごく嬉しそうに「見て、ゆう子ちゃん。こんなにマメが出来たよ」って見せてくれて(笑)。でも、私も“歌筋”が完全に衰えていてヤバかったです。

“歌筋”って何ですか?

鈴華 私はライブのときに、衣装の帯を締めながらヒールを履いて、3時間くらい歌うことを7年続けた結果、ライブで歌うときに身体のバランスを取るための筋肉が鍛えられて、それを歌筋と呼んでいて。それが自粛期間で完全に衰えていることに気づきました。歌うだけならどこでも出来るんですけど、それでは歌筋は鍛えられないから、やっぱり和楽器バンドのステージは特殊だなって。

和楽器バンドならではという部分では、「日輪」という曲に、詩吟が出てくるのもそうですね。

鈴華 「大楠公」という、徳川斉昭が作った詩吟を取り入れました。まっちーから、和楽器バンドらしさの一環で、どこかに詩吟が入っていても良いかもと提案をしてもらって。ただ普通の詩吟の倍以上のテンポ感で歌っているので、だいぶ無謀だったんですけどね。あと「Tokyo Sensation」はボカロっぽい曲調なんですけど、歌詞に〈死んだ魚の目〉というフレーズがあって、そこはわざと詩吟のこぶしの節調を入れて目立たせています。

「日輪」は日の丸で、つまり日本のことですよね。

町屋 はい。基本的にすごく励ましている曲です。

今度はバンドが全力でサウンドをぶつけている中で、歌がずっと低空飛行で居続けることで声を響かせるという新しい試みでした(町屋)

和楽器バンド 鈴華ゆう子 町屋 山葵 WHAT's IN? tokyoインタビュー

細かいリズムの高速のビートに、壮大さを感じさせるメロディで、サビはすごく頭に残ります。

鈴華 まっちーが書いてきた曲は、「ゲルニカ」にしても「日輪」にしても、中毒性が高くなる仕掛けが施されています。「日輪」はバンドサウンドがドカッとくるのに、私の歌は今までで一番低いキーで、低空飛行を保つという仕掛けがあって。

町屋 楽器数の多いサウンドの中では、高い音で声を響かせるのがスタンダードなのですが、それは今までさんざんやってきたから、今度はバンドが全力でサウンドをぶつけている中で、歌がずっと低空飛行で居続けることで声を響かせるという新しい試みでした。

山葵 でもこの曲は本当に速いから、レコーディングは地獄でした。ライブで実際にできるのかなって。

町屋 久々にBPMが200を超えたからね。

山葵 「200越しやがった!」って思いましたもん(笑)。

先ほどタイトルが挙がった「Tokyo Sensation」も、非常に面白い作りですね。

鈴華 原宿や秋葉原など、若者のトレンドの集中する場所が、東京にはいくつもあって。そういう今の感覚を、若者と近い距離感でリアルに表現したくて。ちなみに歌詞の<猫の手も借りたい>は、まっちーのことで、<死んだ魚の目>は、レーベルの人を見て大丈夫かなって思ったので書きました(笑)。自分の周りにいる身近な人たちをモチーフに書くのも面白いなと思って。

御苑の芝生に疲れて寝転んでいるまだ20代だった頃の自分がいて、そこから広がる物語みたいな(鈴華)

そしてバラード「宛名のない手紙」は、悲しく切ない歌で、聴く人の状況や経験で捉え方も変わってくるなと思いました。鈴華さんは、どういうイメージで作ったのですか?

鈴華 東京というテーマで、いろんな地方から東京に出てきている人たち、例えば歌舞伎町の状況とかも取材した上で、そこに自分の経験や想いを落とし込みました。悲しくは聴こえるかもしれないけど、今の私に見える愛を歌った曲です。私が自分で好きなのは<皺を撫で合う>という表現で、とてもエロティックだと思っていて。あと、新宿御苑の風景がイメージとしてありました。遠くに歌舞伎町があってビル群も見えて、都会のちょっとしたオアシスみたいな。そんな御苑の芝生に疲れて寝転んでいるまだ20代だった頃の自分がいて、そこから広がる物語みたいな。どんな状況の何歳の人にでも重ねて受け取ってもらえるようにと、「宛名のない手紙」と付けました。

難しい状況ではあるけど、ライブをやらないという選択肢以外の行動で、アクションを示していけたらと(山葵)

和楽器バンド 山葵 WHAT's IN? tokyoインタビュー

では最後に、コロナ禍で感じたこと含め、10〜11月に開催されるツアー『和楽器バンド JAPAN TOUR 2020 TOKYO SINGING』に向けての気持ちを教えてください。

山葵 自粛期間は、自分自身と向き合う時間がたっぷり出来たことが、僕自身としては良かったと思っています。こういう時期なのでライブを行うことに対して賛否両論があるのは分かっていますが、僕はライブをやることもやらないことも、どちらも間違いではないと思っていて。もちろん政府の方針に沿って、自分たちに出来ることを模索してやっているし。難しい状況ではあるけど、ライブをやらないという選択肢以外の行動で、アクションを示していけたらと。それをどう受け取るかはその人次第で、僕たちに賛同していただける方と手を取って、ライブを作っていけたらと思っています。

町屋 歌ではきれい事をたくさん並べていますが、個人としては、万が一にでもクラスターが起きたときのことを考えると、ライブをやるのが非常に怖いと思っています。でも怖いと思っているからこそ、万全の体制を整えることが出来るとも思っています。来る人も配信で見る人も「見て良かった」と思ってもらえるように、僕は精一杯パフォーマンスをするだけ。ジャスト・ドゥ・イットです。

鈴華 横浜アリーナのときは、親からは「なぜあなたがやる必要があるのか?」と言われ、自分の置かれている状況を俯瞰で見たときに、私自身もすごく怖かったし不安もありました。でも、クラスターを引き起こしてしまうのか上手くいくのか、誰もが平等に分からない未来に向かって、和楽器バンドのチームが、「やってやるぞ!」って一丸となって動けたのは、本当にすごいことだと思います。
いろんな考えがあるにも関わらず、ライブをやろうと思ってくれたスタッフチームがいて、感染予防を徹底してくれたチームがいて。それに対してその流れに乗ろうと決断したメンバーがいた。そのひとつひとつが、本当にありがたいし感謝だし、周りを信じるしかない、それがすべてだと私は思いました。そう思えたときに、一人で勝手に不安に思っていたことが、意味のないことだと気づきました。否定的な意見も覚悟の上で、それでもやるんだとチームで決断出来ている“今”を信じて、それを積み重ねていこうというのが私の気持ちです。

その他の和楽器バンドの作品はこちらへ。

<『TOKYO SINGING』 SPECIAL SITE>

ライブ情報

「和楽器バンドJapan Tour 2020 TOKYO SINGING」

2020年10月24日(土) 東京・ガーデンシアター
2020年10月25日(日) 東京・ガーデンシアター
2020年11月14日(土) 大阪・大阪城ホール
2020年11月28日(土) 愛知・日本ガイシホール
詳細はオフィシャルサイトにて

和楽器バンド

詩吟、和楽器とロックバンドを融合させた新感覚ロックエンタテインメントバンド。
2014年4月にアルバム『ボカロ三昧』でデビュー。2015年に発売したセカンドアルバム『八奏絵巻』はオリコン週間ランキング初登場1位を獲得し、第57回「輝く! 日本レコード大賞 企画賞」を受賞。また国内外において精力的にライブを行い、2016年にはデビュー1年9ヶ月にして初の日本武道館公演開催、海外においては北米単独ツアーを開催し、ワールドワイドに展開。2018年には5thアルバム「オトノエ」が第60回「輝く! 日本レコード大賞 アルバム賞」を受賞。
2019年にはさいたまスーパーアリーナ2days公演を成功させ、よりワールドワイドな活動を本格的に始動させ、世界最大のレコード会社ユニバーサルミュージックとグローバルパートナーシップ契約を締結。
2020年2月には、大阪城ホールで行われたオーケストラとの共演ライブである「Premium Symphonic Night Vol.2」で、グラミー受賞アーティストEVANESCENCEのAmy Leeと共演し、ワールドクラスのパフォーマンスを披露するなど、今、日本のみならず世界中から注目を集めるアーティストである。

オフィシャルサイト
https://wagakkiband.com

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