佐藤剛の「会った、聴いた、読んだ」  vol. 162

Column

震えるほどの衝撃を受けた「ラブ・ジェネレーション」から半世紀がすぎて思ったこと

震えるほどの衝撃を受けた「ラブ・ジェネレーション」から半世紀がすぎて思ったこと

筑摩書房から刊行された早川義夫の著書『女ともだち――静代に捧ぐ』を読んでいたら、前半の39ページにとても納得できる言葉を見つけて、どこか懐かしい気持ちになった。

僕の文章は、書けない人がやっと書いた文章であり、僕の歌は歌えない人がぎりぎり歌っている歌なのだ。

たしかにその通りだと思って何度か読み直していると、遠くから同時代の歌が聴こえてくるようにも思えた。

ぼくが初めてジャックスのレコードを聴いたのは1968年のことで、ラジオから流れてきた「からっぽの世界」を耳にして、それからまもなく放送禁止になったことを知った。

そこで秋に発売されたアルバムの『ジャックスの世界』を購入した。

そのなかで「ラブ・ジェネレーション」と「マリアンヌ」いう楽曲に、震えるほどの衝撃を受けたことが忘れられない。

とりわけ「ラブ・ジェネレーション」からは、歌わずにはいられなかった早川義夫の気持ちが、歌と音楽の塊になって頭のてっぺんから背骨を通ってつま先まで、電流が流れるように感じたのである。

「ラブ・ジェネレーション」
作詞・作曲:早川義夫

僕らは何かをしはじめようと
生きてるふりをしたくないために
時には死んだふりをしてみせる
時には死んだふりをしてみせるのだ

しようと思えば空だって飛べる
そう思える時嬉しさのあまり
泣きながら飲めない酒をかわす
泣きながら飲めない酒をかわすのだ

信じたいために親も恋人をも
すべてあらゆる大きなものを疑うのだ

心の奥底からギリギリの思いで絞り出された言葉が、音楽となって聴き手に向かって飛んできた。

まさに絶唱であった。

ぼくはこの歌を後半の歌詞を聴いたことによって、自分の将来が少しだけ見えた気がした。

大人っていうのはもっと素敵なんだ
子供の中に大人は生きてるんだ

実はひとりになりたいゆえに
バカみたいにたくさんの人と話すのだ
僕らの言葉の奥には愛が
僕らの言葉の奥には愛がいっぱいある

最後はもう、泣きながら歌っていたのかもしれない。

曲を聴き終わった余韻のなかで、ぼくは日本に初めてロックが誕生したと思った。

心の中でたまっていた気持ちをそのまま言葉にして、ロックのビートに乗せて伝えることが、日本語でも可能だとわかったのだ。

今になって思えば、16歳にして「ラブ・ジェネレーション」を天啓のように受けとめたのかもしれない。

早川義夫ジはャックス解散後、岡林信康やはっぴいえんどを輩出したインディーズのURCレコードで、契約ディレクターとして働き始めた。

そして1969年の晩秋にはピアノの弾き語りで、ソロ・アルバム『かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろう』を発表している。

そのときに雑誌のコラムで、こんな言葉を発表していた。

僕はこのレコードをどうしても流行に乗り遅れてしまうような方に捧げようかと思う。多分に時代遅れぎみのこれらの詞曲は、けっしてかっこよくはなくなんともみじめな歌ばかりなのである。

そこでは孤独と向き合っているなかで生まれた別れや死をテーマにした歌が、あたかもそっと吐きだすかのように唄われていた。

たしかに時代の流行とはまったく無縁のアルバムだったが、そこから普遍的なメロディーの「サルビアの花」が発見されて、後世にまでうたい継がれることにもなった。

ところで早川義夫の最新刊『女ともだち』は、タイトルに「静代に捧ぐ」とあるように、2016年3月28日に71歳で亡くなった夫人の静代さんとの出会いから、臨終の瞬間までのエピソードが綴られている。

だから乳がんが見つかって入院し、抗がん剤治療をしながら手術を待つ様子などのパートは、読み進めるのに辛いものがあった。

というのもドキュメンタリーであると同時に、ぼくの知り合いだった人たちの名前が出てくるからだ。

ずっと、しい子(静代さんの愛称)そばに付いていてやりたいと思った。こんな気持ちになったのは初めてだ。やはり死を連想したからである。音楽仲間であったバイオリンのHONZIは乳がんで亡くなり、ギターの佐久間正英さんもスキルス胃がんで亡くなってしまった。ふたりとも亡くなるギリギリまで僕と共演してくれた。

ここでもやはり、ぎりぎりという言葉が出てくる。

そしてぼくはそれらのライブを、観にいったことがあったのだ。

抗がん剤の副作用で、しい子はすっかり食欲がなくなってしまった。吐き気がひどくて、ほとんどベッドに横たわっている。病院以外は一歩も外に出たがらない。点滴を打ったところの血管は赤黒くミミズ腫れのようになり、頭髪も抜けはじめる。抗がん剤は、がん細胞だけでなく正常な細胞まで破壊してしまう。

いたたまれずに早川義夫は病室を出て、愛犬を連れて公園に散歩に行く。

僕は公園に着くと辺り一面の木々を見渡し、隣接している高層ビルの最上階を見上げ、青い空に向かって、流れる雲に向かって、もう会えない人たちの名を叫ぶ。
「お父さん、お母さん、ミータン、チャコちゃん、HONZI、佐久間さん。しい子を見守ってくれよー」 と、毎日お願いする。しい子の家族にも声をかける。「お義父さん、お義母さん、たっちゃん、お兄ちゃん、しい子を見守ってくれよー」
亡くなってしまった人たちのたましいが、空や木々の茂みや大地に漂っていて、声をかければ願いを聞いてくれるような気がするのだ。
人はみな大好きな人たちのたましいによって支えられている。

高校生の頃から早川義夫の書いた文章によって、ぼくは歌や音楽について真剣に考えることが多くなった。

そして音楽に限らずたくさんのことを学ばせてもらったし、自分も音楽の世界に入って現在に至っている。

『女ともだち』という単行本には、静代さんがたましいになった後のことも、2020年まで日記としていくつかが掲載されている。

その中にピアニストの渋谷毅さんとの対話が出てくるのだが、それを読んでいるとなぜかとても心がやすらかになった。

2017年9月6日
二台のピアノ渋谷毅×早川義夫
(岸和田市自泉自薦会館楽屋談2017.9.2日)

渋谷:みんな一人一人リズムっていうのは違っていてね。違うのが当たり前なんです。まぁ、あんまり違っちゃうと一緒にできなくなっちゃうけど。違わなくちゃ音楽じゃないんです。合わないから音楽になると言う理屈があるんです。オーケストラなんか指揮者がちゃんと合わせて、合わせてみたいにやるけれど、それでも合わないから美しく聞こえてくるわけで、音楽がぴったり合っちゃったら美しくないわけですから。

早川:僕は歌っている時、自分の中の世界というか、描写する1つの風景があるわけなんだけど。渋谷さんが音を出すと、別な世界、もう一つの会が見えてくるわけ、すると、そっちの風景のほうがいいなと思えてきて、追っかけたくなっちゃう。僕の歌が邪魔している気がして、申し訳なくなってしまう。

渋谷:音楽っていうのは、そういうものの延長線みたいなものでね。2人でやったり、人数が多い方がわかりやすいけど、いつもと違う音楽が生まれる。いつもやってる音楽と全然違う音楽がどこかで聞こえてくる。今やってる音楽はあるんだけど、それとは別なものが生まれる。今聴いている音楽と、聴いている自分との間に、何か別なものができる。僕はそれを音楽っていうのじゃないかなと思うんだよね。

渋谷さんは淡々と語っているが、音楽の本質がどこにあるのかについて、とても大切なことを述べていた。

”音楽がぴったり合ったら美しくない”というのは、日ごろからぼくもよく口にする言葉だ。

リズムもピッチも強弱もすべて完璧な音楽からは、心が伝わってこないのである。

それらをあえてこの単行本に大先輩のピアニスト、渋谷さんの発言を通して収録しているところが、早川義夫という表現者のすごさだとも思えてくる。

ところでぼくがジャックスを聴いてから1年後、日本のブルースとロックを歌える天才少女の藤 圭子が、”演歌の星”というキャッチフレーズで芸能界にデビューしている。

このときに彼女のために用意された楽曲は演歌の「新宿の女」と、ロックのテイストを思わせる「生命ぎりぎり」の2曲であった。

著者プロフィール:佐藤剛

1952年岩手県盛岡市生まれ、宮城県仙台市育ち。明治大学卒業後、音楽業界誌『ミュージック・ラボ』の編集と営業に携わる。
シンコー・ミュージックを経て、プロデューサーとして独立。数多くのアーティストの作品やコンサートを手がけている。
久世光彦のエッセイを舞台化した「マイ・ラスト・ソング」では、構成と演出を担当。
2015年、NPO法人ミュージックソムリエ協会会長。現在は顧問。
著書にはノンフィクション『上を向いて歩こう』(岩波書店、小学館文庫)、『黄昏のビギンの物語』(小学館新書)、『美輪明宏と「ヨイトマケの唄」~天才たちはいかにして出会ったのか』(文藝春秋)、『ウェルカム!ビートルズ』(リットーミュージック)

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