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長江崚行&和泉宗兵、輝馬&多和田任益。それぞれがバディで見せる始まりの物語。舞台『文豪ストレイドッグス 序』観劇レポート

長江崚行&和泉宗兵、輝馬&多和田任益。それぞれがバディで見せる始まりの物語。舞台『文豪ストレイドッグス 序』観劇レポート

舞台『文豪ストレイドッグス 序』が、東京・池袋のあうるすぽっとにて9月27日(日)まで上演された。
太宰治や芥川龍之介といった文豪にちなんだ名を持つキャラクターたちが、異能力バトルを繰り広げる人気アニメ「文豪ストレイドッグス」の舞台化作品、通称・文ステの最新作。小説版「探偵社設立秘話」と「太宰治の入社試験」を原作とした2作品を上演。
「探偵社設立秘話」は江戸川乱歩 役・長江崚行と福沢諭吉 役・和泉宗兵。「太宰治の入社試験」は国木田独歩 役・輝馬と太宰治 役・多和田任益がそれぞれW主演。“文ステ”ならではの面白さに加えて、“バディ”関係が生み出す魅力溢れる物語と、この作品だからこその表情を見せる。
9月23日(水)昼の部「太宰治の入社試験」と夜の部「探偵社設立秘話」、順に観劇レポートをお届けする。

取材・文 / 片桐ユウ


“理想とは何か”。揺れ動く心情、覗かせる本音

まずは「太宰治の入社試験」からレポートする。

“文ステ”シリーズは、“物語が進む作品”と“物語の前に戻る作品”を交互に上演しており、今作は、“物語の前に戻る作品”。起点である“物語の始まり”の前段階といえる時系列のエピソードだ。

©舞台「文豪ストレイドッグス 序」製作委員会

本編ではすっかり「あ・うんの呼吸」を持つ国木田と太宰のコンビネーションだが、今作ではそれがどのようなキッカケで芽生えたのかが明かされていく。

冒頭、国木田独歩(輝馬)がひとり静かに佇み、自身も属する「武装探偵社」──異能力を備えた文豪たちによる組織に、とある新入社員が加入することと、その見極めを任されたことを語る。

その新入社員こそ太宰治(多和田任益)。自殺願望の赴くまま、毒キノコを食したり出会う女性に心中を持ちかけたりと、とにかく厄介な男だ。

理想的な生活をモットーとする国木田には我慢がならない相手だが、彼がイチ社員として使える人間なのかわかるまでは、行動を共にせねばならない。

こうして、まったく違う性格を持つふたりの“バディ”が始まる……。

©舞台「文豪ストレイドッグス 序」製作委員会

ふたりが追う怪事件には、国木田が負い目に思う過去の事件が潜んでおり、犯人探しに奔走する過程で「武装探偵社」と対立している「ポートマフィア」と衝突してしまうトラブルも起こる。

複雑に絡み合う物語だが、解決に向かう場面ではひとつひとつの謎がつながって一本の筋となっていくので、探偵モノの爽快感がある。
そして何より“太宰は何者なのか”、少なくとも国木田の信頼に足る人間なのかどうか、という一本の軸が通っているため、混乱なく集中できた。

ふたりの物語に注目するためには、国木田と太宰が魅力的でなければ成り立たないが、国木田独歩 役の輝馬と太宰治 役の多和田任益、それぞれ最高だったと言えるだろう。
共に初演から続投しているキャラクターということもあってか、仕草や何気ない台詞に至るまで安定しており、シンクロ性が高い。

輝馬が演じる国木田は、几帳面さと生真面目さの中にユーモアを滲ませ、言葉の裏に隠された情の厚さを見事に漂わせている。“太宰を信頼していない”状態の国木田に始まり、徐々に太宰を受け入れていく過程もわかりやすい。

多和田が演じる太宰はフザケ放題の場面と、グッと押さえるポイントのメリハリが気持ち良く、華やかなスタイルと謎めいた不気味さが綯い交ぜとなって生まれる不思議な色気を備えていた。

©舞台「文豪ストレイドッグス 序」製作委員会

以前、対談インタビューで「文ステは物量が多い作品なので、ふたりでやるのは怖い(笑)」と語っていたとおり、国木田はステージ上に出ずっぱりで状況説明から対話、心の声まで台詞の連続、連続。
うまいことペットボトルが登場して喉を潤す場面もあるが、上演時間の1時間40分通して、膨大な情報量を流暢に述べていく力強さに圧倒された。

一方、太宰を演じる多和田は台詞量が助かっているかというと、決してそうではない。国木田とシルエットで会話する他の文豪キャラクター以外、登場する人物すべての声をアフレコ風に担うのだ。犯人、女性、少年問わずすべてである。

朗読劇でメインキャラクター以外の人物を担当するのはよくある手法だが、これをドッグスチームと呼ばれるアンサンブルの動きに乗せ、“生”でやってみせる技量と面白さに釘付けになった。
それによって“国木田と太宰”に観る側の視点がフォーカスされる効果も生み出しており、国木田の揺れ動く心情、共感性を排除するかのように振る舞う太宰が覗かせる本音がより伝わってきたように思う。

©舞台「文豪ストレイドッグス 序」製作委員会

“文ステ”特有の「異能力」は、原稿用紙の枠線が描かれている大小の舞台装置や八百屋舞台となっている足元に映し出されるプロジェクションマッピングと、長い布を使った演出で表現。ドッグスチームの身体能力、輝馬と多和田のアクションも活きている。

もう片方の上演作でW主演を務めている江戸川乱歩 役・長江崚行と福沢諭吉 役・和泉宗兵が対談インタビューで語っていた「スタイリッシュでスタイルの良いふたり」が繰り出す立ち回りは、期待に違わない見せ場のひとつだ。

“文ステ”シリーズが持つ面白さに昂ぶり、国木田と太宰の“バディ”にときめく。だがラストには“理想とは何か”というシリアスな問いを喉元に突き付けられるような、凛とした空気が劇場にあった。

“孤独”の共鳴。感情の衝突、そこに芽生える信頼

続いて「探偵社設立秘話」をレポートする。

タイトルどおり、「武装探偵社」の成り立ちを明かすエピソード。

一匹狼の用心棒としてヨコハマで名を馳せていた福沢諭吉(和泉宗兵)は、とある殺人現場で超天才的な推理力を持つ少年・江戸川乱歩(長江崚行)と出逢う。

両親を亡くして孤児となった乱歩の面倒を見る羽目になった福沢は、警護仕事のために殺人予告のあった劇場へ赴く。そこで起こる事件が、ふたりの運命を決定づける……。

©舞台「文豪ストレイドッグス 序」製作委員会

このエピソードの要(かなめ)でもあるが、乱歩は「異能力」を持たず、従って今作に異能力バトルはほぼ登場しない。
しかし“劇場”という何が起きてもおかしくない場所で起こる場面展開が鮮やかだ。劇中劇としての舞台表現は絞られた作りだが、そのシンプルさが物語をブレさせない。そして乱歩がステージ上で謎を解き明かす場面では逆に舞台特有の演出を強調して、この作品が持つ構造の面白さを際立たせる。

アクションシーンも織り込まれるが、今作ではドッグスチーム=アンサンブルたちの動きをより賑やかなものにすることで、舞台を彩っていたように感じた。

©舞台「文豪ストレイドッグス 序」製作委員会

その事件における“トリック”を解明していく場面や、“文ステ”にも登場した文豪キャラクターの背景がチラリと覗く場面にも胸が高鳴るが、やはり一番の見どころは福沢と乱歩の関係性だろう。
暗殺者としての過去を背負って独りで生きてきた福沢と、自身の頭脳を持て余して社会への不安を募らせる乱歩との不器用なぶつかり合いが良い。

人間関係とはこうして始まるのかもしれないと微笑ましささえ覚えるが、乱歩は鬼才の両親から受け継いだ才能に自覚がなく、明るく振る舞ってはいるものの実際は周りとのズレを抱えてもがき続けている。
福沢はその苦しみを目の当たりにして、どうにか救ってやりたいと願う。それは福沢の持つ優しさや生来の資質に加えて、社会との断絶感や疎外感、“孤独”の共鳴によるものだろう。

泥くさいと感じるほどにリアルなふたりの感情が衝突し、そこに芽生えた信頼がふたりを結びつけていく様子に惹きつけられた。

©舞台「文豪ストレイドッグス 序」製作委員会

さらに、そこで乱歩と福沢が見せる様々な表情も良い。ふたりが繰り広げるコミカルなやりとりは、心地良いテンポ感で観客を巻き込む。

無口な福沢だが、心の中は雄弁。というか、人の話をまったく聞かないうえに自由気ままに振る舞う年少の乱歩に振り回されていれば、言いたいことが山のように積み重なるのだろう。
福沢が状況説明を担うと同時に本音も観る側に吐露していくため、親近感がわくキャラクターとなっている。

以前の対談インタビューにて、福沢を演じる和泉宗兵が「血の通っているチャーミングな部分を出したい」と意気込みを述べていたが、まさにチャーミングでキュート。ボケにツッコミ、ノリツッコミと絶妙な間合いで客席を沸かせ、硬派なイメージを持つ福沢諭吉に一段と魅力を加えていた。

長江崚行の演じる乱歩が持つ伸びやかさも愛らしく、憎めない。もう片方の上演チームのW主演を務める輝馬と多和田が「可愛い崚行が見たい」と口を揃えていたとおり、まだ名探偵として目覚める前の乱歩の持つ無邪気さと危うさを、それぞれ最大出力で見せている。

同時に、長江は登場する他のキャラクターの台詞をほぼ担当。女性、老人、看板役者。幅広い役に合わせて声色をガラリと変えて当てた次の瞬間には、くるくると軽快に動きながら乱歩としての台詞を述べて、会話を成立させてみせる。
江戸川乱歩が持つ才能の大きさと重ねて、長江崚行という役者もまた、どれほどの潜在能力を秘めているのかと目を見張った。

©舞台「文豪ストレイドッグス 序」製作委員会

福沢を演じる和泉と、乱歩を演じる長江。役と同様に年齢差が開いているコンビでW主演を務める舞台は、2.5次元作品では珍しい。大きな成功例として、今後ジャンルの広がりにも活きてくるのではないかと思うような、素敵な“バディ”だった。

“ふたりが紡いだ物語”であることを証明するかのように、冒頭は江戸川乱歩が語り出し、福沢諭吉がそれを受け継ぐ。そしてラストは再び江戸川乱歩に戻って、物語は締め括られる。

緩急のある芝居に惜しみなく拍手を送ると同時に、彼らの“その後”が本編に続いていることで、このキャラクターたちを追いかけていける幸せに気づいてうれしくなった。

映画化作品の公開も待つ“文ステ”シリーズ。
今後の展開にも期待したい。

舞台「文豪ストレイドッグス 序」
探偵社設立秘話・太宰治の入社試験

2020年9月11日(金)~9月27日(日)東京 あうるすぽっと
※一部公演のライブ配信(有料)も実施。

原作:角川ビーンズ文庫「文豪ストレイドッグス 探偵社設立秘話」
角川ビーンズ文庫「文豪ストレイドッグス 太宰治の入社試験」

脚本・演出:中屋敷法仁
協力:朝霧カフカ 春河35

出演:
「探偵社設立秘話」
江戸川乱歩 役:長江崚行
福沢諭吉 役:和泉宗兵

「太宰治の入社試験」
国木田独歩 役:輝馬
太宰治 役:多和田任益

主催:舞台「文豪ストレイドッグス 序」製作委員会

オフィシャルサイト
オフィシャルTwitter(@bungo_stage)

©舞台「文豪ストレイドッグス 序」製作委員会

舞台「文豪ストレイドッグス 序」探偵社設立秘話・太宰治の入社試験 Blu-ray&DVD発売

発売日:2021年2月24日(水)
価格:Blu-ray:16,800円(税別) DVD:14,800円(税別)
発売・販売元:株式会社KADOKAWA