LIVE SHUTTLE  vol. 417

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MISIA “人の心のドクターになれたら”。そう語ったMISIAの“音楽の力”がしっかりオーディエンスを幸せにした国際フォーラムのライブを振り返る。

MISIA “人の心のドクターになれたら”。そう語ったMISIAの“音楽の力”がしっかりオーディエンスを幸せにした国際フォーラムのライブを振り返る。

年内に予定されていた全国ツアー『MISIA 星空のライヴ Across The Universe』は中止・延期となったが、MISIAはすぐさま7月のビルボードライブ横浜とブルーノート東京での『MISIA SUMMER SOUL JAZZ 2020』からライブを再開。それに続いて敢行されたのが、今回の『MISIA SUMMER SOUL JAZZ 2020 ~ Support for Medical Professionals ~』だ。

ジャズクラブでのライブ直後のインタビューで、MISIAは「今回は1日2回公演だったので、大丈夫かなと思っていたんですけど、やってみたら『できるな!』と(笑)。「お客さんを半分しか入れられないのなら、1日2回やればいいのかも!」とジョークめかして語っていた。これはMISIAのライブを観たいと強く願っているファンと、ミュージシャンはもちろん、音響や照明などのスタッフを思いやっての発言だと思っていた。しかし、そのインタビュー後に発表された『MISIA SUMMER SOUL JAZZ 2020 ~ Support for Medical Professionals ~』は、驚くことに東京国際フォーラムホールAでの1日2回公演2デイズだった。MISIAはジョークではなく、ファンやスタッフのことはもちろん、医療従事者のことも真剣に考えていた。この公演の収益の一部は、新型コロナウイルスの対応に当たる医療従事者を支援する活動へ寄付されることになっている。その心意気に感じるものがあったので、4公演の最終ステージを観に行くことにした。

久々に足を踏み入れた国際フォーラムの入口には、検温装置と靴を消毒するマットが敷かれている。客席は当然ながらジャズクラブとは比べものにならないほど広い。そこにオーディエンスは市松模様を描いて着席している。ライブが始まる前のウキウキ感と、普段とは違うセッティングに伴う緊張感がない交ぜになって漂っていた。

舞台はいたってシンプルで、並べられた楽器と、そのバックに照明装置があるのみ。開演時間が来て、白衣を着たメンバーがステージに入って来る。キーボード大林武司、ドラムTOMO、ベース中林薫平はジャズクラブと同じ布陣だ。トランペットの黒田卓也が率いるブラスセクションは、トランペットx2、サックスx3、トロンボーンx1というジャズクラブより厚みを増した編成。続いて白い衣装と白いマスク姿のMISIAが登場すると、拍手が一段と高まった。

黒田がトランペットを鳴らすと、それを合図にバンドが切れの良いリズムを刻み出す。1曲目「CASSA LATTE」で、いきなりオーディエンスが座ったまま両手を高く上げて、ハンドクラップを始めた。先ほどまでの緊張感はあっさり吹き飛ばされ、オーディエンスは大音量での洗練された演奏に歓びを隠さない。いつものライブと変わらないようだが、観客が立つことはなく、歓声も上げない。“with コロナ”の新しいライブ風景というわけだ。MISIAが「国際フォーラム!」と呼びかけると、さらにハンドクラップの音が大きくなった。

「こんばんは、『MISIA SUMMER SOUL JAZZ 2020 ~ Support for Medical Professionals ~』のファイナルにようこそ! 右のみんな、左のみんな、2階のみんな、今日は心を込めて歌うので、楽しんでいってください!!」とMISIAが叫ぶ。

すぐに次の「Mercy Mercy Me」へ。これはマーヴィン・ゲイの曲のカバーで、昨年、MISIAが名誉大使を務めるTICAD7 (第7回アフリカ開発会議)のイベント『TICAD7 LIVE HEART FOR AFRICA』に黒田たちと出演したときのメッセージソングだったもの。そのアレンジが素晴らしかったので、今回のセットリストに加えられた。環境破壊や核汚染についての歌詞に深い意義があり、同時に音楽性も高いので、まさにSOUL JAZZにピッタリのナンバーだ。

MISIAが「Mercy Mercy Me」を楽しんで歌っている横では、6人のブラスセクションが黒人コーラスグループよろしく、お揃いの振り付けで踊っている。ワンコーラスが終わると、そこから楽器のアドリブ回しが始まった。大林のピアノソロを受けて、黒田がトランペットソロを取る。そこにMISIAがハイトーン&ロングトーンの声で絡み、演奏がヒートアップしていく。まるで小さなジャズクラブでやるようなことを、MISIAは大ホールでやってみせる。なんというチャレンジ精神だろうか。さらに驚いたのは、ステージでの“音楽の会話”にオーディエンスが敏感に反応していることだった。観客は椅子に座ったまま身体を揺らし、伸び伸びと即興演奏を繰り広げるミュージシャンたちと音楽の歓びを分かち合っていた。そんな自由な交歓が6分以上にわたって続いたのだった。

「今夜、ファイナルを迎えることができました。こうして来てくださって、本当にありがとうございます。このライブの収益は、医療従事者の方々のサポートに使わせていただきます。(MISIAは自分の白い衣装を示しながら)今夜のミュージック・ナースのMISIAです。そしてミュージック・ドクターの黒田卓也! ドクター大林武司!」とバンドのメンバーを紹介する。「楽器を操ったり、歌を歌って、人の心のドクターになれたらと思っています」。

3曲目は9月16日に配信開始になった新曲「君の背中にはいつも愛がある」で、JRAの馬術競技応援CMテーマソングになっている。馬と人間の繋がりを歌うハートウオームな歌は、広い意味でのラブソングになっていて心地よい。Aメロでブラスはクラシカルに響き、Bメロではファンキーに鳴る。黒田のアレンジが冴え渡っていた。

歓声がないこともあってか、PAスピーカーから出てくるサウンドの美しさが際立つ。MISIAのライブは音の良さで定評があるが、それは大会場で一層魅力的になる。MISIA自身も大きな会場で思い切り歌うのが大好きだと常々言っているが、本当にその通り。僕はブルーノート東京での再開ライブを観たが、その時よりサウンドがクリアで迫力があり、MISIAがこの日のために様々な準備を積み重ねてきたことが感じられて嬉しくなった。

ここで黒田を残してブラスの5人はいったんステージを去る。

「コロナは悲しいウイルスです。大事な人の最期のときに、手を握ってあげることもできない。だからこそ今を大切にして、愛しい人に大好きだよって伝えたい。そんな思いを込めて作った曲です」。これも新曲の「さよならも言わないままで」だ。MISIAの曲にしては珍しくストレートに悲しみを描くこの歌に、コロナの前代未聞の残酷さを痛感する人が多いのか、会場は小編成ならではの繊細な演奏に静かに聴き入っていた。

この夜、特に素晴らしかったのは、ブラスの5人が戻ってきて演奏された「Everything」だった。MISIAは最新アルバム『MISIA SOUL JAZZ BEST 2020』で、誰もが知るこの名曲のアレンジを黒田に委ねた。オリジナルのストリングスを意識した黒田のアレンジは、壮麗なブラスサウンドを演出してファンを驚喜させた。そしてこの夜の「Everything」は、さらに一歩、名曲に踏み込んでいた。

大林がピアノの低音をガンガン鳴らしてイントロを弾くと、大きな拍手が巻き起こる。オリジナルとは明らかにニュアンスが異なっている。そのままピアノだけでMISIAが歌い出す。大林とMISIAが、音楽で会話しているのがありありと分かる。歌詞の2行目からバンドが入ってくると、MISIAが今度は全員と会話を始める。『MISIA SOUL JAZZ BEST 2020』の「Everything」は緻密さが良かったが、この夜の「Everything」は気持ちの通じ合った者同士の温かいおしゃべりのようで、とても親しみ易かった。中林の自在なベースラインをはじめ、メンバーそれぞれの「Everything」が奏でられると、MISIAのボーカルがどんどんノッて来る。ビッグバンドとは異なるタイプの感動を味わうことができた。「Everything~国際フォーラム・バージョン~」と呼びたくなるほどの奇跡のプレイだった。正直、この「Everything」、好きです。

演奏がどんどんリラックスして行く。本編最後の「あなたにスマイル」で大会場とは思えないファミリアーな雰囲気になったところで、ついにオーディエンスが立ち上がった。最初は周囲の様子をうかがいながらだったオーディエンスたちは、ハンドクラップも身体の動きも大きくなっていく。合わせてMISIAも身体を大きく揺らしながらハンドクラップする。バックの“ミュージック・ドクターズ”の面々も踊り出す。曲が進むにつれて変化するMISIAのグルーヴに、オーディエンスは両手を前に差し出してシンクロする。ラストではMISIAとTOMOのドラムがバトルを繰り広げ、その楽しさにMISIAが思わず「あははは」と笑い出し、見事にライブを締めくくったのだった。

アンコールの大きな拍手に迎えられて、MISIAが満面の笑みを浮かべて再登場する。

「ありがとうございます。こうしてファイナルを迎えられて、何より歌えることが嬉しい。では最後に感謝と愛を込めて、九州弁で力いっぱい歌わせてもらいます!」。♪よか よか♪や♪しゃれとんしゃ♪など、MISIAのホームグラウンド九州の言葉がたくさんちりばめられた「好いとっと」の明るいグルーヴが会場を満たす。オーディエンスはワイパー・アクションで一緒に楽しむ。MISIAもステージのあちこちを動きながら、めちゃくちゃ楽しそうに歌っている。その姿は2公演x2デイズのファイナルとは思えないほどパワフルだった。 

「好いとっと」をライブで歌うにあたって、彼女は「全国の皆さんの“好いとっと”が聴いてみたい」と語っていた。ツアー先のそれぞれの方言で、この歌を歌ったら楽しいだろうなとMISIAは想像していたのだろう。それはしばらくお預けだとしても、MISIAの信じる“音楽の力”が、しっかりオーディエンスを幸せにしたライブだった。

ライブが完全に元通りになることはないのか、あるのか。それは誰にも分からないが、MISIAが出来る限りのことを実行することで、何かの光が見えた気がした。その勇気に敬意を払いたい。

文 / 平山雄一

MISIA SUMMER SOUL JAZZ 2020 ~ Support for Medical Professionals ~
9月20日(日)東京国際フォーラム ホールA 2nd Show

<SET LIST>
1.CASSA LATTE
2.Mercy Mercy Me
3.君の背中にはいつも愛がある
4.さよならも言わないままで
5.明日へ
6.Everything
7.アイノカタチ
8.あなたにスマイル
9.好いとっと

その他のMISIAの作品はこちらへ。

MISIA

長崎県出身。グローバルな知性を持つ、アジアを代表する歌手。
1998年、デビュー曲「つつみ込むように…」が大ヒット。グルーヴ感抜群の歌唱で、音楽シーンに衝撃を与える。
2000年にはバラード「Everything」がヒットして国民的人気歌手となり、2004年には女性アーティストとして初めて5大ドームツアーを敢行。アジアにも進出して大成功を収めた。
以降、J-POPの枠にとらわれることなくチャレンジを続け、日本にクラブカルチャーを根付かせた。同時に、世界基準のサウンド・クオリティとポピュラリティの両立を果たしている。
ライヴにおいても常にトップ・アーティストであり続け、コンピュータを駆使した大規模なツアーでは斬新な演出の中心となり、楽器の生演奏のみのコンサートではエンターテイナーに徹し、最新のグルーヴを探究するライヴでは超一流ミュージシャンとのセッションを楽しんでいる。20周年を迎えた2018年はフェスの最高峰“フジロック”でその実力を世界に見せつけた。
また社会貢献活動にも積極的で、特に子供の教育支援に尽力。音楽に込めるメッセージと、貢献活動が一致していることも特筆される。
そのアーティスティックなライフスタイルは、あらゆる世代の男女に強い共感を呼んでいる。

オフィシャルサイト
https://www.misia.jp

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