Interview

何気なく見ているアニメの背景画、その裏に秘められた不断の努力の話─“コンセプトデザイン”の匠・岡田有章インタビュー

何気なく見ているアニメの背景画、その裏に秘められた不断の努力の話─“コンセプトデザイン”の匠・岡田有章インタビュー

アニメ-ション制作には多くのスタッフが関わっている。皆さんがよく知っている役割としては、監督、脚本、キャラクターデザイン、メカニックデザイン等があるだろう。そんな役割の中で、40年間、美術やコンセプトデザインを手がけてきたクリエイターがいる。『Gのレコンギスタ』、『さよならの朝に約束の花をかざろう』、『クロムクロ』などのアニメーション作品で美術、コンセプトデザインを手がけた岡田有章(おかだともあき)だ。

その岡田が40年の間に描きためた設定やデザインをまとめた書籍『クリエイターズノート 岡田有章デザイン集』が発売された。今回はその書籍の中身に触れつつ、岡田がどのような仕事をしていたのかについて迫った。アニメの仕事は、恐らく多くの人が「自分の好きな絵が描けて楽しそうな仕事」というイメージを持つのではないだろうか? だが現実は違う。岡田は毎回異なる監督やスタッフから「いったいどんなイメージでその作品を作ろうとしているのか」を探り、その答えに近付くために絵を描いていたのだ。我々がぼんやりとイメージするアニメーション制作の裏側と、岡田が語る実際のアニメーション制作の裏側がいかに異なっていたか、きっとこの書籍は、アナタのアニメーション作品の見方を変える一石になるだろう。

取材・文 / カトウカズヒロ


コンセプトデザインという仕事について

岡田さんはこれまでに美術監督、メカニックデザイン、コンセプトデザインといった様々な肩書きにてお仕事をされていますが、まずは岡田さんの肩書きと言いますか、役割について教えてください。

岡田有章 昔は美術監督と呼ばれていました。美術ボードを描いて、美術設定を描いて、美術スタッフを集めて、スタッフに仕事を振って、それを回収して納品する人のことを美術監督と呼んでいたんです。最近はコンセプトデザイナーという呼び名が一番近い気がします。

美術設定とコンセプトデザイナーのどこが違うかと言いますと、コンセプトデザイナーの場合、ほぼプリプロダクションしか関わらない点ですかね。背景や作画となるとプロダクションの段階に入りますが、コンセプトデザイナーの場合はその前で参加する形になります。企画が通って、これからどんな作品にするかを具体的に考えるという段階です。

例えば僕が参加した『クロムクロ』を例えると、僕がオファーを頂いた時点ではシナリオも出来ていませんでした。全体のあらすじくらいしか決まっていなかったんです。そこからシナリオを進めていくのですが、監督としては同時に絵素材も欲しいので、監督がイメージしている世界観を絵にしていく作業が必要になってきます。そこでキャラクター以外のほとんどのビジュアルを制作するのがコンセプトデザイナーの仕事になります。この作品はこういう世界観ですよという誰が見てもわかるようなビジュアルを作る仕事ですね。

『Gのレコンギスタ』─富野由悠季監督とのデザインの応酬

『クリエイターズノート 岡田有章デザイン集』P.4より。岡田が担当した『Gのレコンギスタ』キャピタル・タワーの背景。

書籍『クリエイターズノート 岡田有章デザイン集』に収録されている作品に関して伺いたいのですが、富野由悠季監督と初めてお仕事をされた『Gのレコンギスタ』の場合はどのような作業を担当されたのでしょうか?

岡田 『Gのレコンギスタ』の場合は少しややこしいのですが、コンセプトデザインを担当して、そのまま美術監督も担当しました。例えばキャピタル・タワー地上部分は実際に使用した背景になります。その他のラフはコンセプトデザインの仕事として描いた物ですね。

ただ僕は美術監督としてのスピードはそんなに早くはないので、もうひとり佐藤歩さんという本物の美術監督がいらっしゃいました(笑)。最初の1話から3話くらいまでは美術ボードも描いていたのですが、そのあとは美術設定の方にシフトしていきましたね。

コンセプトデザインも担当されたということで、富野監督とはどういったやりとりで作業を進められたのでしょうか?

岡田 監督のタイプとしては、「自分でラフをいっぱい描いてこんな風にしたい」と伝えてくる方と、「ビジュアルに関してはそのスタッフにお任せして、ジャッジをするのが監督」というスタイルの方がいるのですが、最初はラフ・デザインが無かったのでうっかり富野監督は後者のタイプかなと思い、わりと自分の好きなようにデザインを上げていったんです。

これまでの『ガンダム』作品でも富野監督が描かれたラフがたくさんあったことを知っていたのですが、僕の方で自由にデザインしてしまっていたんですね。そのうち監督もラフをいっぱいお描きになっていたのに、拡大解釈して自由にしていたらぎくしゃくしてしまいまして(苦笑)。そこからは富野監督の意図を汲みながらデザインするように心がけました。

『クリエイターズノート 岡田有章デザイン集』P.20より。シラノ-5の変遷がわかる。「富野監督はシラノ-5の真ん中にあるリング状のパーツを整然と並んでいる形でラフを描かれていたのですが、このときまだ気づいていなくてランダムな感じに並べてラフを描いていたんです。そうしたら富野監督から「これは違う」と言われ、整然とした配置に描き変えたところOKを頂けました。そこからは監督のラフを忠実に具体化しようと思いましたね」(岡田)

書籍では『Gのレコンギスタ』の時に富野監督とデザインのやりとりがあったとのコメントもありますが、具体的にはどのようなやりとりがあったのでしょうか?

岡田 富野監督が描いたキャピタル・タワー教会サイトがあるのですが、それは僕が描いた軌道エレベータ・中継ステーション・ラフを監督が気に入ってくださって、そのイメージを取り入れて描いてくださった物なんです。中継ステーション・ラフ自体は使われなかったのですが、富野監督が気に入ってくださって、何かに使いたいなとなったんです。それで最終的にはビクローバーというキャピタル・タワーの地上部分のデザインに活かされることになりました。富野監督が自分のデザインを真似して描いてくださったのはとても嬉しかったですね。

中継ステーション・ラフはかなり初期の頃に描いたラフで、自分としては採用されるかなんてわからなかったんですが、それを富野監督が気に入ってくださって、デザインモチーフとして使ってくださったので、「ああ、この仕事楽しい!」と思いました(笑)。そのおかげでこの作品を最後まで楽しんで作業できたんだと思います。

ちなみにキャピタル・タワーのラフを描いたのは2011年の7月で、背景美術に関してはその2年後くらいに描いています。改めて見てそんなに期間が空いているのかと驚きました(笑)。2014年に放送が開始されて、その時点では美術設定の作業とかをやっていたので、3年以上は『Gのレコンギスタ』に関わっていたんですね。

『クリエイターズノート 岡田有章デザイン集』P.17より。左側中段のラフが富野監督の手による物。岡田が描いた軌道エレベーター中継ステーション・ラフ(上段右)のイメージを取り入れている。


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2020.02.28

『さよならの朝に約束の花をかざろう』─岡田麿里監督のイメージを探る日々

『さよならの朝に約束の花をかざろう』(脚本家・岡田麿里が初監督をつとめた劇場用アニメーション作品)では美術設定・コンセプトデザインとして岡田麿里監督と初めてお仕事されましたが、どのようなやりとりで進められたのでしょうか?

岡田 富野監督がラフをたくさん描かれる監督としたら、岡田監督は一枚も絵を描かない監督です。脚本家の方なので当然と言えば当然ですよね。だからといってこちらの好きに描いていいかというと、そんなことはない訳で(笑)。岡田監督がどういうビジュアルイメージをお持ちなのかを探るのが大変でした。

とにかく描くしかないと思い、色々と描いては出してみたのですが、初監督ということで遠慮もあったのかもしれませんが、具体的な反応が無かったので、まずはヒアリングというか、どんな絵が好きなのかなどを聞いたりしました。そうしたらキャラクター原案を手がけた吉田明彦さんの絵が好きだということがわかりまして。どうやらこの作品では派手な色使いは使いたくなくて、吉田さんの絵のようなリアリティのある色使いにしたいんだなと思いました。それで制作するにあたって一番苦労したのがイオルフの村(物語の鍵となるイオルフの民が暮らす村)のイメージです。

『クリエイターズノート 岡田有章デザイン集』P.112より。『さよならの朝に約束の花をかざろう』イオルフの村の最終設定。紆余曲折あり、このようなデザインとなった。

岡田 岡田監督的には人里を離れていて険しい道を行かないと辿り着けない場所ということだったので、高地になっていて、周りが断崖になっているから人が辿り着けないんじゃないかと考えたんです。それで高地にある感じで初期イメージを描いたのですが、それだと牧歌的すぎるとなり、修正して南米にあるテーブルマウンテンのような初期イメージを描いたら岡田監督からハッキリとした「違う」という反応があったんです。そこで岡田監督から盆地にしたいという話を聞きまして、ようやく次の段階に進めました。岡田監督が秩父出身なので盆地のイメージがあったのだと思います。でもこれを描いている時はみんなバラバラのイメージを持っていた時なので、それらをまとめてビジュアル化するのが辛かった時期です(苦笑)。

美術監督の東地(和生)さんはイオルフの塔の側には滝が必要だということだったのですが、僕はテーブルマウンテンのような高地にイオルフの塔があるイメージに囚われていたので、テーブルマウンテンの上に滝ってどうすればいいのかと、悩んだあげくに考えたのがSF設定です(笑)。修正した初期イメージ内にイオルフの塔があるのですが、その横に怪しい巨樹を置いたんです。水蒸気を蓄える性質の特殊な樹木ということにして、樹木の上の部分が池のようになっていて、そこから滝が流れるという風にしてみたんです。自分としてはもうこれ以上無理という感じでしたが、やっぱり皆さんの意見も違うとなりましたね(笑)。盆地という方向性が決まってからもディテールの部分でやはりまだ齟齬があって、なかなかイオルフの村のイメージが決まらずに苦労しました。

『クリエイターズノート 岡田有章デザイン集』P.118より。イオルフの村の初期イメージ。ボツにはなってしまったが、ヘルム農場(主人公達が一時身を寄せる農場)に引き継がれた。

『クリエイターズノート 岡田有章デザイン集』P.117より。修正した初期イメージがこちら。テーブルマウンテンのような高地になっていることがわかる。左上には樹木と滝が確認できる。

他の街についてもお伺いしたいのですが、工業が盛んなドレイルや敵国となるメザーテに関してはどのようにして生まれたのでしょうか?

岡田 メザーテに関してはイオルフの村のイメージが固まる前にデザインしていました。初期のイメージを岡田監督も気に入ってくださって、メザーテはこれにしましょうと決まっていたんです。ドレイルに関しても初期イメージを監督が気に入ってくださったので、ドレイルもほぼ決まっていました。ただその時、自分の中でメザーテとドレイルの雰囲気が被っちゃったんです。ドレイルは設定的にこのイメージでいくしかないなと思ったので、メザーテをどうにか変えないといけないと思い、岡田監督を説得するための材料として、新たに2枚のラフを描きました。

物語後半でバイエラという国が船でメザーテに対して攻め込んでくるのですが、初期のメザーテのデザインですと、いくら船で攻め込んでも落とせないようなイメージがあるでしょうと、岡田監督に話をしまして(笑)。すんなりとはいかなかったのですが、渋々OKをいただいた感じです。でもそのおかげでメザーテとドレイルのデザインラインがハッキリ分けられたので、そのあとの作業はとっても楽でした。そうこうしている内にイオルフの村のイメージも固まっていったという感じですね。

『クリエイターズノート 岡田有章デザイン集』P.122より。下段の2枚のラフが岡田監督を説得するために用意した物。


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2018.02.18

『クロムクロ』─これまでとは違う「作品づくり」に関われた喜び

メカデザイン、ヴィジュアルコンセプトを担当された『クロムクロ』に関しては、書籍の中でも「一生これが続けば良いと思っていた」と語られていますが、具体的にはどのような部分が岡田さんとしては楽しかったのでしょうか?

岡田 とにかく楽しくて、プリプロが始まってしばらくして気分的にも乗ってきた時に「この作品もいずれ終わるんだ」と思ったら少しメンタルをやられました(笑)。『クロムクロ』が他の仕事と違うのは、メカデザイン、ヴィジュアルコンセプトに加えてSF設定のアイデア出しというのも含まれていたからなんです。SF設定のアイデア出しはほんの少しでしたが色々なことをさせてもらえました。

昔、クリス・フォスというSFアートの方(『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』宇宙船のデザインなどを手がけた)を真似して絵を描いたり、SFの漫画とか同人誌を描いていました。ずっと自分で作品を作りたいという想いがあったんです。コンセプトデザインという仕事だけですとほとんど背景を描くだけという感じだったのですが、『クロムクロ』ではメカデザインも担当させて頂き、メカデザインに関してはキャラクターデザインに近い仕事だと思いますし、SF設定はシナリオの補助的な作業なので、いつものジャンルを超えた仕事をさせて頂いたので昔同人誌を作っていた時の想いが蘇ってきまして、仕事なのですが、とても楽しかったですね。

企画段階から参加させて頂いたので、最初はシナリオ会議にも参加していたのですが、その時はどうすれば面白くなるのか? ということをみんなで考えていて、美術をどうやってスケジュール通りに終わらせよう?と考えるのに比べると、色々やることは多くて大変だったのですが、クリエイティブな時間が過ごせたのでとても楽しかったです。

『クリエイターズノート 岡田有章デザイン集』P.79より、『クロムクロ』の設定。下段には岡田が考案したクロムクロの攻撃案が掲載されている。

では最後にこの本をご覧になった方へメッセージをお願いします。

岡田 この本を見るとどの仕事も楽しそうに見えると思うんですが、実際振り返ってみるとそんなに楽しいことばかりではなかったんですよね。でも本を見ると楽しそうに見えるので、日々大変な仕事も40年も続けると楽しかったと思える見本みたいなだと、自分としては思っています。とてもありがたい本だなと思います。好きに描いた絵は本の最後の方に掲載しているオリジナル企画くらいですからね。それもプロデューサーから「これは違う」と言われ続け、完全に描きたい物を描いた訳ではないのですが……。でもそういうダメ出しがないと楽しめない身体になってしまったというか(笑)。やっぱり人との関わりを楽しめないとこの仕事は大変かなと思います。そんな感じでアニメの制作現場をちょっと覗くような気持ちでこの本を楽しんでもらえれば嬉しいですね。

書籍『クリエイターズノート 岡田有章デザイン集』

『勇者エクスカイザー』を始めとする勇者シリーズや『機甲戦記ドラグナー』など歴代のサンライズアニメ作品の美術設定、美術監督を務め、2013年には『翠星のガルガンティア』、2018年には『さよならの朝に約束の花をかざろう』にてコンセプトデザインを手がけ、緻密な設定やコンセプトデザインでアニメファンを驚かせたクリエイター岡田有章のこれまでの活動を網羅したデザイン集。細部まで作り込まれた設定資料や背景画、監督からの赤字などが描き込まれた制作過程の素材も掲載し、アニメファンが楽しめる一冊に仕上がっている。

出版社:玄光社
発売日:2020年8月12日
A4ヨコ判:208ページ
定価:本体3,200円+税

収録作品
Gのレコンギスタ/機動戦士ガンダム サンダーボルト/機動戦士ガンダム一年戦争全史 U.C.0079-0080/GUNDAM EVOLVE/機動戦士ガンダムNT/クラッシャージョウ劇場版/機甲戦記ドラグナー/クロムクロ/さよならの朝に約束の花をかざろう/A.I.C.O. Incarnation/Project BLUE 地球SOS/翠星のガルガンティア/オリジナル作品

©創通・サンライズ
©PROJECT MAQUIA
©クロムクロ製作委員会