Interview

上演できる奇跡をかみしめて。橋本 淳が気鋭の加藤拓也 新作舞台『たむらさん』で伝えたい“演劇愛”

上演できる奇跡をかみしめて。橋本 淳が気鋭の加藤拓也 新作舞台『たむらさん』で伝えたい“演劇愛”

新型コロナウイルスの逆境をバネに、「何か面白いことをやってみよう」を合言葉にしたシス・カンパニーが仕掛ける、“短期集中決戦”と銘打つ新作舞台『たむらさん』が、10月9日(金)より11日(日)まで、新国立劇場 小劇場にて上演される。
コロナの影響で、多くの舞台が公演中止、延期を余儀なくされた演劇界。ようやく、劇場に灯がともり始めたものの、当初の計画にズレが生じて、劇場に空きが生まれるケースも増えてきた。今作は、そんな状況を利用し、“いま、ここ”でしかできない演劇を模索した新しい舞台だ。
シス・カンパニーが今作を託すべく声をかけたのは、新進脚本家として注目を集め、「劇団た組。」を主宰する加藤拓也。そこに集うのは彼の作品に出演し、加藤のことをよく知る、橋本 淳と豊田エリーのふたり。
短編小説のような“二人芝居”という本作だが、作品は謎に満ちたまま。
そこで、様々な作品に出演し、百戦錬磨の橋本 淳にインタビュー。『たむらさん』の全容に迫った。

取材・文 / 竹下力 撮影 / 増田慶


演劇本来の魅力が成立する作品

コロナの影響で劇場に空きが生まれてしまった状況を逆手にとったシス・カンパニーの挑戦的な作品『たむらさん』。とてもユニークな試みだと思いますが、今作に出演が決まったときのお気持ちを聞かせてください。

これまで舞台に立ち続けて、ずっと憧れだったシス・カンパニーさんの初めてのオファーということもあったし、作・演出は友人の加藤(拓也)くんと聞いて、「ぜひ出演させてください」とお答えしました。実験的な試みで楽しみであるのと同時に、内容は奥深いし、今作をこの時期に上演することの意味を考えると、僕にとっても挑戦だと思います。

たむらさん 橋本 淳 WHAT's IN? tokyoインタビュー

ふたりのキャストだけで3日間だけの上演期間というのもなかなか見られない形態の舞台だと思います。

面白い企画ですよね。演劇の魅力のエッセンスを抽出した試みというか。舞台にしかない楽しさが、3日間の上演に凝縮されているわけですから、どうしても観られずに後悔される方がいらっしゃるかもしれません。ただ、そういった方がいるのと同時に、僕たちと同じ空間を共有して幸せを噛みしめるお客様がいることで、演劇本来の魅力が成立すると思うんです。

先ほど、シス・カンパニーの作品は憧れとお聞きしましたが、シス・カンパニーのどういったところに惹かれましたか。

僕が演劇を本格的に勉強しようと思ったきっかけは、シス・カンパニーさんの舞台なんです。20代の頃からシス・カンパニーさんの作品に触れていますが、やっぱり、どの作品もクオリティーが高いですよね。恐れることなく宗教の問題や人種問題に切り込んでいくし、俳優なら誰でも出演してみたいと思う作品を上演されている。観劇するたびにいつか出たいという想いが募った矢先のオファーで、身が引き締まるし、ここまできたら思いきり楽しんじゃおうと(笑)。

たむらさん 橋本 淳 WHAT's IN? tokyoインタビュー

(笑)。では、『たむらさん』とはいったいどんな作品でしょう。

とある男性の半生の物語です。ある人にとってはとてつもなく大きな出来事かもしれないけれど、第三者の目から見ると残酷なほど興味がないものに見えてしまう。興味があることには簡単にSNSに誹謗中傷のコメントを書いてしまうのに、本来は見過ごしてはいけないことでも、思い入れがなければすぐに無視をしてしまう、今の社会状況を的確に捉えていて、加藤くんなりの社会への鋭利なメッセージが込められていると思います。

橋本さんの中で感じる今作のポイントはありますか。

静かなトーンの中にヒリついたシーンがあるので、こういう時節ではありますが、劇場にいらして空気を直接肌で感じていただくことが重要だと思います。きっと新しい感覚を持ち帰ることができますよ。劇場からの帰りの電車で、携帯電話で見直すニュースにこれまで考えたことのなかった自分の視点を発見して驚きを覚えるというか。誰しもが事件の加害者だけでなく、被害者にもなるというメッセージが込められているので、まずは劇場で今作を体験していただくことがポイントだと思います。

完成形に向けて方向性を決めていく作業をしている段階

すでに台本の読み合わせを進めているそうですね。

3回ほど本読みを終えたところなのですが、台詞は頭に入って、台本から目を離して演じています。台本の第一印象は掴んだ気がしますが、加藤くんの場合はそこからの色付けが大変で、完成形に向けて方向性を決めていく作業をしています。ひとまず、最初のフェーズは終わったのでホッとしていますが、ここから20段階ぐらい完成度を上げないといけない(笑)。まだ稽古場で毎日稽古できるという状況ではないし、今作はそういった現場でもないので、読み合わせを終え、3時間ほど加藤くんからサジェスチョンを受けて、家に課題を持ち帰ってどうやって仕上げていくのか思案しています。それでも、シス・カンパニーさんとコミュニケーションを取りつつ、加藤くんや共演者の(豊田)エリーちゃんと話し合いながらみんなで作っているので、俳優として至福の時間を過ごしています。

たむらさん 橋本 淳 WHAT's IN? tokyoインタビュー

お話を伺っていると、こういった状況だからこそ成立する作品でもある。

そうだと思います。加藤くんの台本は特殊で、台詞は現代の言葉だからリアルっぽく演じるのは簡単です。ただ、翻訳物みたいにサブテキストを理解しないと舞台に立てない。テキストの本質を見抜かないで演じるとすぐに加藤くんにバレますし(笑)、自分の人生を役に投影しながら作品のイメージを強めていく作業が必要になると思います。

ちなみに、橋本さんは普段、台本を読むときに心がけていることはありますか。

役のバックボーンを勉強しながら、台本が擦り切れるぐらい読むのを前提にしていますが、あまり決めつけずに、皆さんと直接お会いしてクリエイションする時間を大事にしています。5割ぐらいは自分で役を作って、残りは現場で作っていく感覚ですね。

たむらさん 橋本 淳 WHAT's IN? tokyoインタビュー

今回、二人芝居になりますが、気をつけていらっしゃることはありますか。

二人芝居の場合は、いかに共演者を頼って、僕のお芝居を相手に委ねるか。舞台にはふたりしかいないわけですから、このシーンでは演じすぎず、相手のお芝居を引き立たせるといったことを意識し、共演者としっかりした関係性を築いて、最終的に誰に向けて言葉を語りかけるのかを念頭に置いてお芝居をします。

共演する豊田エリーさんの印象はいかがですか。

エリーちゃんは、加藤くんの手がけた舞台『在庫に限りはありますが』(2019)でご一緒して以来2度目になりますが、お芝居のミスリードがいっさいない俳優さんです。演技のアウトプットの仕方も素直ですし、バランス感覚が優れていてシーンの解釈が的確なので、思わず「お芝居がうまいな」と唸ってしまう。お話すると明るいし、器の広い方で、今回もすべて頼ってしまおうかな(笑)。

考えると寝られないぐらい難しいメッセージ

(笑)。お話に出たように、演劇界で話題の「劇団た組。」を主宰する加藤さんの印象を伺わせてください。

加藤くんは興味深い人物です。僕より年下ですが、同志のような気もすれば、知り合って2年経つのに、いまだに実態がよくわからないところもあって(笑)。素直な好青年ですが、自身の心の闇に触れさせないように一歩引いているところが彼の魅力で、その部分を演劇として吐き出しているんだと思います。お互いにわかりすぎてしまうのもつまらないので、付かず離れずの距離感を保ちながら、お芝居で会話をしてコミュニケーションをとっているので、心地よい関係だと思います。

たむらさん 橋本 淳 WHAT's IN? tokyoインタビュー

加藤さんの作劇も独特な印象を受けます。

台詞が素晴らしいですよね。いつも彼の恥ずかしがり屋な部分が出ているというか。彼は自分の伝えたい主題から、2、3個ずらした話題に振って、本題に戻る手法を使います。本当に語りたいことに辿り着くために10行ぐらい喋ったりするんですよ(笑)。一見すると柔らかいしゃべり言葉だけで成立していると思いきや、そこに込められたメッセージは、考えると寝られないぐらい難しい。「20代の青年が書いたのかな?」というぐらい複雑なギミックの物語の構造が、彼の脚本の魅力だと思います。

演出家としての加藤さんはいかがですか。

役者のコントロールが上手です。俳優のお芝居の出来上がりを見つつ、役者に合わせたスピードでディレクションをして、どんな俳優も萎縮しないで気持ちよく演じさせてくれる。結局、僕らは加藤くんの掌の上で踊っているという(笑)。加藤くんの手法を見ていると、日本的な演出ではなくて、海外の舞台のディレクションに近いと思います。僕のシーンに対する考えが甘いと「橋本さん、ここ何を考えて演じていますか?」とグサリと言葉を突き刺してきて(笑)、言い淀んでいると、「まだ理解されてないですよね。僕はこう思いますけど、橋本さんはいかがですか?」と討論をしていく。加藤くんの指摘を、あくまで僕の言葉に変換させてお芝居を理解させていくスタイルが斬新だと思います。

たむらさん 橋本 淳 WHAT's IN? tokyoインタビュー

転機になったハロルド・ピンターの『温室』

なるほど。橋本さんは、2004年に俳優デビュー以降、映画に限らず、舞台、テレビに数多く出演されていますが、転機になった作品というのはありますか。

いまだに、舞台写真を携帯の待ち受けにしているのですが、イギリスの劇作家のハロルド・ピンターの『温室』(2012)という舞台です。あの作品を通して、周りの方も僕がきちんとお芝居をしていることを認識してくれるようになって、いろいろな作品につながりました。今作と同じく新国立劇場で上演されたし、劇場には恩義も感じていて。ピンターだけでなく、イギリス戯曲という存在は、僕の中で大きな位置を占めています。実は、シス・カンパニーの北村明子プロデューサーとはその作品でお会いしたんですよ。終演後、楽屋にいらしたので、緊張しながらご挨拶したら、「よろしくね」と気軽に言われて嬉しくて。

映像や舞台、橋本さんが考えるそれぞれの面白さはありますか。

舞台は、その日の僕や共演者、お客様の身体や心の状態が素直に出るライブ感がたまらない(笑)。目指すゴールは一緒ですが、毎日、過程が違うことに面白さが生まれます。映像は、観客に届く前にいろいろな人の手が加わって作品が出来上がるので、俳優が現場でできることは限られていて。お芝居を凝縮させないと嘘がバレてしまう緊張感が心地よいです。映像と舞台の作り方は、短距離走と長距離走ぐらい違いますが、それぞれ楽しい部分があるので、舞台で演じると映像作品に出演したくなるし、映像で演じると舞台に挑戦したくなって、相互に作用を及ぼし合いながら俳優を続けています。

たむらさん 橋本 淳 WHAT's IN? tokyoインタビュー

私の印象だと橋本さんは、宮田慶子さん、栗山民也さん、ピンターの『温室』でご一緒だった深津篤史さん、ケラリーノ・サンドロヴィッチさんなど、錚々たる演劇人に愛されている気がするのですが、ご自身の俳優としての強みを感じられたりしますか。

ごますりが上手なだけなんです(笑)。

あはは。

それは冗談ですが、劇団に所属せず、一定の演出家さんとタッグを組むことがないので、僕の俳優のキャリアは、様々なタイプの方とご一緒しながら現場を踏んで積み上げてきました。昔はそれが俳優として個性がない短所だと思っていたのですが、最近は長所だと思うようになって。どの現場でも臨機応変に対応できるのが僕の強みだと思います。

たむらさん 橋本 淳 WHAT's IN? tokyoインタビュー

俳優を続ける原動力はありますか。

10代の頃は、よく監督や演出家さんに怒られていたから、いつか見返して認めてもらおうという想いがバイタリティーになりました。それでも最近はいろいろな経験を経たおかげで、作品をもっと楽しくしたい、お客様に味わったことのない感動を届けたい、という想いに変わってきて。

より深く俳優の面白さを感じることができるようになった。

たしかにそうかもしれませんね。観客にとって俳優は、自分の人生とは違う体験をさせてくれるものだし、感じたことのない感情を引き出してもらえる、貴重な存在だと思います。俳優であれば、他人の人生を生きたり、性格を妄想することも可能で、それ自体が苦しいこともあるけど、いつしか興奮する瞬間に変わって、演じることを止められなくなる。サボったらサボった分だけお芝居に出てしまうし、つらいこともあるから逃げ出したくなることもありますが、それでも続けてしまいたくなる魅力が俳優という職業にはあると思います。

たむらさん 橋本 淳 WHAT's IN? tokyoインタビュー

今作はコロナの影響がなければ成立しなかった作品ですし、あらためて演劇の魅力を感じたりしますか。

歴史を眺めてみれば、こういった状況において演劇は、打たれ弱いものなのかもしれません。でも、舞台を愛している人間としては、映画やドラマ、音楽にもできない、演劇にしかできないことがあると信じたい。時代を映しながら、メッセージを伝えていくツールとして表現できることは無限大にあると思います。コロナの状況で僕も舞台を観に行けずに寂しくて、自粛期間が明けて久しぶりに観劇したときは、演劇の素晴らしさをあらためて感じましたし、舞台が上演できることは奇跡だと思うようになりました。今作も、初日から無事に楽日を迎えられるように、3日間を大事に過ごしたいです。

このチャンスを無駄にせず、素晴らしい舞台を

それでは、最後に意気込みをお願いいたします。

理想的なタイミングで理想的なお仕事はなかなかこないので、最初で最後のシス・カンパニーの作品だと思って(笑)、このチャンスを無駄にせず、素晴らしい舞台をお届けしますので、劇場に来ていただければ嬉しいです。


【募集終了】抽選で1名様に橋本 淳さんの直筆サイン入りチェキをプレゼント!

橋本 淳さん直筆サイン入りチェキ
応募期間

※募集期間は終了致しました。

9月24日(木)~10月1日(木)23:59


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シス・カンパニー公演
舞台『たむらさん』

2020年10月9日(金)~10月11日(日)新国立劇場 小劇場

<チケット一般発売>
2020年9月26日(土)AM10:00〜

作・演出:加藤拓也

出演:
橋本 淳
豊田エリー

公式サイト
オフィシャルTwitter(@sis_japan)
オフィシャルInstagram(@siscompany_stage)
オフィシャルYouTubeチャンネル

橋本淳(はしもと・あつし)

1987年1月14日生まれ、東京都出身。2004年、テレビドラマ『WATER BOYS2』でデビュー。近年の主な出演作品には、舞台『泣くロミオと怒るジュリエット』(ベンヴォーリオ 役)、舞台『カリギュラ』(ケレア 役)、舞台『キネマと恋人』をはじめ、【舞台】『在庫に限りはありますが』、『クレシダ』、『書く女』、『ヒストリーボーイズ』、『耳なし芳一』、【映画】『まく子』、『月極オトコトモダチ』、『At the terrace テラスにて』、『携帯彼氏』【テレビドラマ】『これは経費で落ちません!』、『警視庁さがし物係』、『刑事ゆがみ』、『ちりとてちん』、『スーパー戦隊シリーズ』などがある。出演待機作には、舞台『No.9 -不滅の旋律-』(2020年12月上演)がある。

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