Interview

「映画クレヨンしんちゃん」を面白くし続ける原動力とは何か?『激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』京極尚彦監督、シリーズ初挑戦の感慨語る

「映画クレヨンしんちゃん」を面白くし続ける原動力とは何か?『激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』京極尚彦監督、シリーズ初挑戦の感慨語る

国民的アニメ『クレヨンしんちゃん』の映画シリーズ第28弾となる、『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』が2020年9月11日より公開となった。本作では、臼井儀人による原作漫画の1エピソードを原案とした「クレヨン」がモチーフの物語に、直感に刺さる独特な色彩世界が融合。子どもはもちろん「大人になった子ども」も大いに楽しめる大作に仕上がっている。

監督には『ラブライブ!』、『プリティーリズム』シリーズ、『宝石の国』といった数々の人気作を手がける京極尚彦が初めて抜擢され、このことから興味を持ったアニメファンも多いだろう。今回はそんな京極監督へのインタビューから「映画クレヨンしんちゃん」初挑戦の軌跡をたどるとともに、世界観の設定から“ほぼ四人の勇者”まで本作ならではのディテールを詳しく聞いた。

取材・文 / とみたまい 構成 / 柳 雄大


子どもが主役だけど、子ども騙しではない“志の高さ”を受け継いで

これまで多くの名立たる監督たちが手がけ、評価されてきた「映画クレヨンしんちゃん」。オファーがあったときにはどのように思いましたか?

京極監督 「すごい人たちが作っている」という印象だったので、とても驚きました。僕は普段、作品にとりかかるときってあんまり緊張することはないんですが、こればっかりは……シリーズを手がけてこられた監督を全員知っていますからね。最初はかなり緊張していました。

「映画クレヨンしんちゃん」シリーズをすべて見直してから臨んだとのことですが、見直してみて感じたことは?

京極 僕が子どものときに見ていた『クレヨンしんちゃん』そのものだなと思う作品もあれば、まったく新しい映画になっているなと思う作品もあって。「じゃあ、今回はどんなものにしようか」と考えた結果、一周して最初の『アクション仮面VSハイグレ魔王』(1993年/本郷みつる監督作品)みたいなテイストを少し出せたらいいなと……シンプルなところに落ち着きました。それに、「どう頑張ってもこれまでの監督さんたちにはきっと敵わないから、自分ができることをやろう」みたいな(笑)、シンプルな気持ちにもなれましたね。いい意味で力が抜けて、緊張がほぐれたかもしれません。

なかでも特に好きな作品は?

京極 大学生のときに評判になっていたのを聞いて、実際に観たのが『嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』(2001年/原恵一監督作品)や『嵐を呼ぶ アッパレ! 戦国合戦』(2002年/原恵一監督作品)だったので、いま観てもやっぱり印象に残りますね。

どんなところが印象に残りましたか?

京極 『クレヨンしんちゃん』という作品からは大きくはみ出していないのに、なにか違う大きなものを描こうとしているような印象を受けました。「子ども向けのアニメだから、このくらいでいいんだよ」みたいな考え方を持たない“志の高さ”を感じて、それがとても好きなんです。そういった志というのが、いまのシリーズまでずっと続いているんだと思います。

今回も、その志を受け継ぐ姿勢で臨まれた?

京極 そうですね。「子どもが主役なんだけど、子ども騙しにはしない」という意識はありました。それに、自分が親世代になってみて改めて感じたのは……「結局、親も子どもじゃん」って(笑)。僕もまだ子どものときの記憶があるし、「自分は大人なんだ」みたいな意識があんまりないので……。そう考えたら、「子どもに向けて作ったら、おのずと“大人になっている子ども”も見るんじゃないかな?」と思えて、どんどんシンプルになっていきましたね。

大冒険のその前に…「実はアニメとして結構大変だった」日常シーンへのこだわり

最新作『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』のテーマは「ラクガキ」ですが、なぜそのようなテーマにしたのでしょうか?

京極 映画のお話をいただいたときに、「『クレヨンしんちゃん』に、クレヨンそのものってあんまり出てきてないんじゃないかな?」と思って、モチーフに使ってみたかったというのがあります。それと同時に、“絵に描いたものが現実になる”とか“絵のなかにキャラクターが入っちゃう”みたいなことをやってみたいと、僕はずっと思っていたんです。「それらを合わせて、なにか新しい冒険活劇を作れないかな?」と思ったのがきっかけですね。

原作の第23巻にある『ミラクル・マーカーしんのすけ』の要素が盛り込まれている理由は?

京極 いまお話ししたようなことを、プロデューサーの近藤(慶一)さんに言ったら「原作に『ミラクル・マーカーしんのすけ』というお話がありますよ」と教えていただいて、「それはいいな」と。というのも、絵のなかのものが出てくると結構ファンタジーな世界観になるので、それだけだと原作が好きな方たちに「え!?」って思われるんじゃないかと悩んでいたんですね。原作にそういった話があるんだったら、その力をお借りして、数ページの原作を100分の映画にするのもいいんじゃないかな? と思ったんです。

今作への参加にあたり、「映画の前にTVシリーズにも参加させてほしい」と京極監督から提案されたそうですが、実際にTVシリーズで絵コンテや演出を手がけてみて、どのように感じましたか?

京極 僕が子どものときに見ていた『クレヨンしんちゃん』は、感動的なものを描くというよりは、お母さんがやってほしくないことを全部やるような(笑)型破りな子が主人公で……かといって悪い子というわけじゃなくて、「こういう子っているよね」みたいな、これまで誰も描いていなかったところにフォーカスをあてた素敵な作品だったと思うんです。

いまの『クレヨンしんちゃん』を見てもそれは同じなんですが、しんちゃんの周りにいる人たちとの関係性が完全に構築されていて、“お馴染みのキャラクターたちがドラマを作っている”という印象がありました。僕が知っている『クレヨンしんちゃん』は新キャラが出てくるエピソードもあったりもしていたので、今回の映画にもそういった要素を少し入れることができないかな? と考えていて。そういう意味でも、原作に“ニセななこ”とかが出てくるのは、ちょうど自分の求めていた“新キャラ”とぴったりハマった感じがしましたね。

いまおっしゃったように、TVシリーズのしんのすけは“型破りな行動でお母さんを困らせる子”という印象がありますが、劇場版では勇者やヒーロー的な役割を担うことが多いため、“いい子”に映ることも多いかと思います。今作では、そういった部分のバランスをどのようにとっていったのでしょうか?

京極 『クレヨンしんちゃん』の面白さって、どこにでもある家庭がベースになっているところだと思うんです。でも、今作では冒頭で上空から城が落ちてきてしまうので、序盤に出てくる日常的な食卓でのシーンでは「今日もしんちゃん、やってるなあ」と思っていただけるような、安心感を与えたいと考えていました。細かく描いているので、実はアニメとしては結構大変だったんですけど(笑)……カセットコンロの火をきってから走るとか、濡れた手をエプロンで拭くとか。そういう描写をちゃんとやることで「ああ、普段の朝だなあ」と感じていただけるんじゃないかと思うし、それがあるから“空に浮かぶ王国「ラクガキングダム」”に飛躍できたんじゃないかと思っています。

とても絶妙なバランスで日常ものからファンタジーに広がっていったような印象でした。“日常もの”から飛び出た物語を劇場版で描くうえで、そのギャップはどのように意識されたのでしょうか?

京極 あんまり意識はしていなかったと思いますが、ただ、TVシリーズだと「幼稚園に行って帰ってきて、お風呂に入って寝る」みたいな暮らしのなかで起こることを1話を使って描いたりするんですが、映画だと大きなウソが生まれると思うんですね。

「大きなウソ」とは?

京極 今作で言うと、「ラクガキの世界が上空にあって、落ちてきちゃう」っていうのは、普段ではあり得ないことですから。それ以上に派手なものを取り入れなくても、おのずと事件は起きているので、「じゃあそれを、しんちゃんがどうやって解決するんだ」というところをしっかり描く。つまり、「しんちゃんが持っているクレヨンが活躍する」という、とてもシンプルな構図にしているだけなんです。

ただ、その周りにある要素……例えば城にいる人たちとかって、ちゃんと説明せずにわざとほったらかしている部分もあるんですよね。話はシンプルなんだけど、全体的ににぎやかで、いろんなトッピングがされているような映画に感じられるようにはできているかなと思います。

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