ジャンプ作品「ダークファンタジー」の系譜  vol. 1

Column

車田正美・『ジョジョ』・『BASTARD!!』……青年誌的な攻めの姿勢も見られた、80年代のジャンプ「ダークファンタジー」作品

車田正美・『ジョジョ』・『BASTARD!!』……青年誌的な攻めの姿勢も見られた、80年代のジャンプ「ダークファンタジー」作品

『鬼滅の刃』が国民的な人気を獲得しながら駆け抜けるように終了した後も、「週刊少年ジャンプ」では『チェンソーマン』、『呪術廻戦』、『アンデッドアンラック』などいわゆるダークファンタジー、あるいはそれに準ずるジャンルの作品が人気を博しています。2020年41号より新連載として始まった『ぼくらの血盟』のキャッチコピーは、正に「幕開く闇と血に染む 兄弟ダークアクション――!」というものでした。

また、「少年ジャンプ+」の『地獄楽』や、「週刊ヤングジャンプ」の『東京喰種』など姉妹誌でも看板となる作品にダークファンタジーはよく見られます。

『幽☆遊☆白書』、『封神演義』、『シャーマンキング』、『BLEACH』、『D.Gray-man』、『暗殺教室』etc……。ジャンプ作品を語る上で、ダークファンタジーは欠かすことのできないジャンルです。

この連載では、1968年に「少年ジャンプ」として刊行が開始され、1969年より現在の週刊スタイルとなった「週刊少年ジャンプ」におけるダークファンタジー作品の歴史を追っていきます。

文 / 兎来栄寿


「ダークファンタジー」前史――ジャンプバトルマンガの歴史をおさらい

ジャンプ作品におけるダークファンタジーに共通の特徴として、そのほとんどがバトルマンガとしての性質も兼ね揃えていることが挙げられます。連載第1回となる今回は、ダークファンタジー要素と共にバトルマンガの歴史も辿っていきたいと思います。

ジャンプにおけるバトルマンガのルーツは、1968年の「少年ジャンプ」時代から掲載された本宮ひろ志の『男一匹ガキ大将』です。同時代には『柔道一直線』、『あしたのジョー』、『タイガーマスク』などスポーツで戦うマンガはありましたが、スポーツ・格闘技でない領域で肉弾戦を繰り広げるマンガとしては元祖です。この作品が、車田正美や原 哲夫らにも大きな影響を与えました。

その車田正美が1977年から連載を開始した『リングにかけろ』は、ボクシングマンガではありますが「ゴッドイリュージョン」「制極界」といった必殺技を使うゼウスやハーデスらギリシャ十二神という敵キャラクターが登場する辺り、半分はファンタジーマンガと言っても差し支えないでしょう。技名を叫びながら大ゴマのど派手な演出で必殺技を繰り出すというバトルマンガの様式美は、車田正美が確立しました(スポーツマンガの領域では1972年連載開始の『アストロ球団』でも「人間ナイアガラ」などの必殺技を見開きで描くといった表現はあり、その影響もあったと思います)。

その後、『キン肉マン』、『北斗の拳』、『ドラゴンボール』、『魁!!男塾』などの大ヒットによりバトルマンガは確固たる地位を獲得していきます。

他方、『デビルマン』が完結した1973年に読み切り版が掲載された永井豪の『真夜中の戦士』は、ジャンルこそSFですが西洋剣を携えて戦う主人公のヴィジュアルにはファンタジー的要素を感じさせるものがありました。

1974年開始の諸星大二郎『妖怪ハンター』シリーズは70年代のオカルトブームの時流にも乗った作品で、バトル要素こそ薄いものの純粋なダークファンタジーの萌芽を見られる作品です。

こうした流れの中で次第にダークファンタジーとバトルマンガが溶け合って、源流が誕生します。

それでは本題に入りましょう。今回は、80年代に誕生して熱狂を生んだ『風魔の小次郎』、『ジョジョの奇妙な冒険』、『ゴッドサイダー』、『BASTARD!!』について語っていきます。

ジャンプファンタジーバトルのパイオニア『風魔の小次郎』

『風魔の小次郎』は車田正美による『リングにかけろ』の次の連載作品で、1982年に始まりました。ダークファンタジーに分類できるかどうかは議論の余地がありますが、少なくとも原初のファンタジーバトルマンガとしては間違いなく挙げられるでしょう。

『バクマン。』において、ジャンプ作品のヒット作の法則として「刀で戦う」という要素が挙げられましたが、正にその先駆けとなる存在です。『リングにかけろ』で開花させたバトル演出を更に洗練させ、その後の『聖闘士星矢』にも繋がる車田節が全開となっている作品です。

十本の聖剣を賭けて秩序(コスモ)の戦士5人と華悪崇(カオス)の戦士5人が月で戦う聖剣戦争篇は特に手に汗握ります。40年近く前の作品でありながら、風林火山、黄金剣、征嵐剣、紅蓮剣、白朧剣、紫煌剣、十字剣、幻夢氷翔剣、雷光剣、鳳凰天舞という「十聖剣」のネーミングは現代の作品に登場していても違和感はありません。

車田正美作品の特徴としては『男坂』や『実録!神輪会』に顕著なように昭和の男臭さがまずあるのですが、それとは裏腹にファンタジックな格好よさを生み出すセンスもあり、女性読者が見惚れる美形キャラを描く才能もあり、更に科学的な知見や故事成語を作品に取り入れる知的な部分もあります。それら異なる要素が足し算されて不思議な魅力を形成しています。

私自身は「かめはめ波」(『ドラゴンボール』)や「牙突」(『るろうに剣心』)、「ブラッディースクライド」(『ダイの大冒険』)を真似していた世代ですが、少し上の世代で『風魔の小次郎』をリアルタイムで読んでいた方に話を伺うと子供たちは箒や木の枝を持って「風魔烈風」や「飛龍覇皇剣」を繰り出していたといい、いつの時代も変わらずジャンプは少年の心を燃え滾らせているのだなと感じました。

ちょうど昨年末から「究極最終版」という完全版が発売になったので、往年のファンの方も未読の方もこの機会に手に取ってみてはいかがでしょうか。

バトルマンガの一大革命『ジョジョの奇妙な冒険』

1986年に『バオー来訪者』の次の連載として荒木飛呂彦が連載を始めたのが『ジョジョの奇妙な冒険』です。「ロマンホラー! 深紅の秘伝説」と銘打たれた、アステカ文明のオーパーツによって人間が吸血鬼化していく第一部から物語は幕を開け、長い時を越えてジョースター家とディオの因縁が壮大に描かれていきます。2010年にはシリーズ累計100巻に到達し、先日にはちょうど第8部の『ジョジョリオン』が100話目を迎えました。

『ジョジョの奇妙な冒険』の特徴といえば「ジョジョ立ち」とも呼ばれる独特のポージングです。これらは、同時代のジャンプ作家たちの絵が「100m先から見ても判る」ほどにそれぞれ独自の魅力がある中で、自分の魅力とは何かと葛藤した末に辿り着いた境地だそうです。著名な絵画や彫刻の影響を受けた写実的で大胆の構図の絵に、センスが溢れるセリフ回し、そして綿密に作られたキャラクター造形が組み合わさって唯一無二の世界を生み出しています。

また、第3部以降で登場する幽波紋(スタンド)、超能力を具象化するという概念は大いなる発明で、マンガ界に多大なる影響を与えました。今でも大人気の能力バトルマンガ、とりわけ頭脳戦が描かれる作品の元祖は『ジョジョの奇妙な冒険』です。

従来のバトルマンガが根性や精神論でパワーアップして勝つような大味の展開が多かったのに対して、能力者による緻密な駆け引きを伴う戦いは圧倒的に異質で極上の面白さがあります。どんどん強さがインフレしていく展開は、それはそれで面白さもありますがマンネリ化しますし、序盤の敵の格が落ちてしまうという問題もあります。『ジョジョの奇妙な冒険』はそれらの欠点を綺麗に克服して見せたのです。

主要人物の死も珍しくない過酷な戦いの中で、信念を貫いて死力を尽くすキャラクターたちの生き様は勇気を貰える人間讃歌です。名言も数多ある『ジョジョの奇妙な冒険』ですが、

“「覚悟」とは!! 暗闇の荒野に!! 進むべき道を切り開く事だッ!”

という第5部主人公・ジョルノのセリフなどは人生で困難に直面した際に魂を賦活してくれます。

今やマンガを読まない人でも名前を知る超名作ですが、90年代にはまだその絵柄の独特さから「読めない」という人も多く、コアなファンの人気を博している作品というイメージでした。大衆的な人気を獲得したのは2000年以降で、特に2012年からシリーズ全体が第1部から極めてハイクオリティにアニメ化されたことが大きかったように思います。ルーブル美術館に展示もされた、正に日本の宝です。

極彩色の神魔バトル『ゴッドサイダー』

巻来功士は、当時のジャンプでも異彩を放ち、カルト的な人気を誇った作家です。1983年の最初の連載作『機械戦士ギルファー』、その次の連載作『メタルK』はいずれも10週で連載を終了してしまいますが、『メタルK』の時には既に一部の読者から熱烈な支持を受けていました。そして満を持して1987年に連載を開始したのが『ゴッドサイダー』です。

『ゴッドサイダー』は、人類誕生以前より神と争い封じられていた大魔王サタンが蘇り、「悪魔の側の人間(デビルサイダー)」を出現させ「神の側の人間(ゴッドサイダー)」との戦いを繰り広げるという物語です。主人公は大天使だった頃の魔王ルシファーから生まれた一族の子供で、いわば神と悪魔両方の血を引いているという今ではクラシックな設定ですが、発表当時はまだ少年マンガで「ルシファー」という単語を見ることも稀だったので斬新でした。

それに加えてゴッドサイダーにはそれぞれ守護神がついているのですが、神と悪魔の子である主人公については大日如来を守護神として戦うという神話と神話のダイナミックな掛け合わせが行われており、今見ても面白い設定です。

巻来功士作品の特徴は、サイケデリックなヴィジュアルで繰り広げられるエログロです。間違いなく読者を選ぶのですが、それだけに選ばれた一握りの読者からの支持は熱狂的です。迫力ある画風で描かれるスケールの大きな物語は、非常に強いインパクトを残しました。「昔ジャンプですごいマンガがあったなぁ」という方の話を紐解くと、『ゴッドサイダー』や『メタルK』のことであったということは幾度もあります。

明らかに青年誌向けの作風なのですが、それがジャンプに載っていたということ、心に爪痕を残されるような読書体験をするということもまた意義のあったことだと感じます。

2010年からは続編の『ゴッドサイダーサーガ 神魔三国志』が「月刊ヤングチャンピオン烈」で連載された他、2016年に発売された自伝エッセイマンガ『連載終了! 少年ジャンプ黄金期の舞台裏』には連載当時の貴重な裏話が満載です。荒木飛呂彦と作風が被っていたことが連載終了の大きな要因となったそうで、ジャンプで連載を勝ち取り続けることの難しさ・厳しさを感じさせられます。ただ、1週間の内の4日で仕事を終わらせてしまい、3日は映画を観るなどしてリフレッシュしていたという驚異的なエピソードには驚かされました。

作者は近年でもコミケやコミティアに出展しており、『メタルK』の新作や画集が発刊されているので、当時ファンだった方はチェックしてみてはいかがでしょうか。

ジャンプダークファンタジーの金字塔『BASTARD!! -暗黒の破壊神-』

「週刊少年ジャンプ」ではダークファンタジー自体は多いものの、剣と魔法の王道西洋ファンタジーは非常に少ないのも特徴です。それだけに、ジャンプダークファンタジーといえばまず思い浮かべるのが萩原一至の『BASTARD!!』という方も多いのではないでしょうか。累計発行部数3,000万部という数字はジャンプダークファンタジーとしても最上位です。

伝統的に剣と魔法のファンタジーでは主人公は剣士であることが多いですが、『BASTARD!!』の主人公ダーク・シュナイダーは魔法使いです。性格は傍若無人で悪辣で好色ですが、美形で大胆不敵でとにかく強い魅力的な主人公として描かれています。

「カイザード アルザード キ・スク・ハンセ グロス・シルク! 灰燼と化せ 冥界の賢者 七つの鍵を持て 開け地獄の門!」といった魔法の詠唱は、神坂一のライトノベル『スレイヤーズ』の「竜破斬」と並んで暗記した人が多いのではないでしょうか。

『BASTRAD!!』の特筆すべき美点は、壮大な世界観です。私たちが暮らす現代の文明=旧世界が滅びた後の世界とされるSF的設定、そしてキリスト教的神話体系における天使と悪魔などの要素も融合しており、用語集や設定資料を読んでいるだけでもワクワクします。この作品が切っ掛けで神学やオカルトに目覚めた人も多いでしょう。

また80年代の作品としては飛び抜けていた作画のクオリティで、冨樫義博が萩原の原稿を見て「絵で勝負するのはやめよう」と思わされたという逸話は有名です。週刊連載でありながらあまりに緻密で美しい『BASTARD!!』は、数多くのクリエイターに大きな影響を与えました。特に中盤以降の描き込みは凄まじく、「週刊少年ジャンプ」史上で最も美麗な作画の作品は何かと問われたらその筆頭候補として挙げられるでしょう。

また、脇役も敵も魅力溢れるキャラが揃っています。ジャンプラブコメの元祖である『きまぐれオレンジロード』のまつもと 泉の下でのアシスタント経験も影響してか、女性キャラクターのかわいさ・エロティックさという点でも抜群です。ある種、ジャンプ史上で最も限界まで挑戦していた作品でもあります。

ただ、残念なことに2012年に27巻が出てからまだ続刊が出ていません。しかしながら、2019年には新たに画集が発売され、2020年にもダーク・シュナイダーたちのサインを多数描き下ろしているので、続きが描かれることを切に祈っています。

(次回につづく)

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