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高橋由美子、鈴木拡樹らが“舞台”の面白さを改めて教えてくれた。『時子さんのトキ』上演中!

高橋由美子、鈴木拡樹らが“舞台”の面白さを改めて教えてくれた。『時子さんのトキ』上演中!

9月11日(金)に東京・よみうり大手町ホールにて初日を迎えた舞台『時子さんのトキ』が好評上演中だ。

脚本・演出を手掛けるONEOR8の田村孝裕が“今”を作中に取り込み、そこに生きる人々を「おかしみ」や「寂しさ」を込めてリアルに描き出した。

主演は今年で歌手デビュー30周年を迎えた高橋由美子。高橋が演じる時子が多額の金を貸す路上ミュージシャンの男・翔真と、時子の息子・登喜(トキ)の二役に鈴木拡樹。「時子を取り巻く様々な人物」を矢部太郎、伊藤修子、山口森広、豊原江理佳が個性豊かに演じており、6人の役者があらためて「舞台」の面白さを届けてくれる。

ゲネプロでも堪えきれない笑い声が上がっていたステージの模様を、オフィシャル写真とあわせてお伝えしたい。

取材・文 / 片桐ユウ


物語をグッと身近にさせる演劇手法。リアルで魅力的な登場人物たち。

舞台の左右後方には、パルテノン神殿風の柱が6本そびえ立つ。手前にはベンチが置かれ、中央の奥には小便小僧の噴水が見える。立派な石造りの公園だ。
さらに舞台の上部には大きな大きな時計が設置されている。金の縁取り、針にも装飾が施されており、アンティーク調の豪華な作りに見える。

芝居が始まる瞬間を待っている舞台上のセットを、静かに眺めるひとときが久々の感覚だ。
舞台上演は徐々に息を吹き返しているが、まだまだマスクは外せないし気を付けねばならないことは山ほどある。劇場スタッフ、舞台のキャスト・スタッフたち作り手と共に、受け取り手である観客も慎重を要した上での観劇。

だが、そんな重苦しさを『時子さんのトキ』は軽やかに飛び越え、時に皮肉に鋭く、時に慈しむような温かさで、リアルにユーモアを混ぜ込みながら芝居を届けてくれた。

以下、内容を含めたゲネプロのレポートである。


開演時間。ステージ上空を飾っていた大きな時計の針がぐるぐると回りだし、舞台は2012年の“時”から始まる。

主人公・時子(高橋由美子)は仕事帰りに、公園の広場で歌っているひとりの青年を見つける。時子が呟く路上ミュージシャンの翔真(鈴木拡樹)の描写はどこか痛々しく、まさに「見ているコッチが恥ずかしい」感じだ。

この掴みからすでに、高橋が作り上げた“時子”という人物に感情移入してしまう。季節は真冬。寒そうにコートを寄せる仕草から、立ち寄るスーパーマーケットの実名に加えて、路上ミュージシャンと目が合ってしまった時の気まずさ。
そのリアリティによって、性別や年代、境遇の一致に限らない“共感”がすんなりとコチラ側に芽生えていく。

翔真とささやかなやり取りを交わした時子が、帰宅後その出会いに何かを見出す表情で舞台の“時”は流れ、次の場面へと移る。

©舞台「時子さんのトキ」/岩田えり

昼営業のスナックに場所の設定を変えたステージで、マスクを着けてアルコールで店内を消毒して回る時子がいる。ここは観客が生きる現在と“時”を同じくする2020年9月だ。

スナックのママ(伊藤修子)と時子が交わす会話は、この状況下で誰しも一度は触れたのではないかと思うような言葉ばかり。やりきれなさと開き直りの間で生きる人々の現実を切り取っている。

しかし世界の状況がこうなる前から、実は翔真に多額の金を貸すようになっていた時子。諦めて過ごしている部分と、諦めきれないところ。そのふたつのバランスを崩さないように抱えて、どうにか日々を続けていくかに見えた時子の“今”は、突然訪れたNPO団体のメンバーを名乗る男・柏木(矢部太郎)が「翔真という男に騙されているんじゃありませんか?」と尋ねてきたことによって揺らぎ始める。

以降、物語は“今”と“過去”を行きつ戻りつしながら、時子の境遇と翔真との関係性を詳らかにしていき、時子の本心に迫っていく……。

©舞台「時子さんのトキ」/岩田えり

時間が交差する中、「マスク」「フェイスシールド」「検温」などのアイテムが登場すると「ああ、場面が現在に戻ったのだな」と判別できる辺り、皮肉めいているが分かりやすい。

作・演出の田村孝裕は、開幕コメントにて「自粛中、廃人になった私。人に触れていないと律せない自分や人に必要とされることへの有り難みを改めて感じ『時子さんのトキ』を書きました。人は人がいないとダメになる。でも人をダメにするのも人である。そんなお芝居になりました。そして今……より多くのお客さまに演劇を感じていただきたいと思い私が思う演劇的な手法をふんだんに取り入れています。映画にもテレビにもYouTubeにも小説にもない演劇独自の空間を劇場や配信で体感していただけたら幸いです」と述べており、事実、そのリアルタイムの手触りが、この物語をグッと身近にさせている。

時子役の高橋由美子、翔真と息子・登喜(トキ)の二役を演じる鈴木拡樹以外の4人は、様々な役を演じ分ける。その登場する誰もがリアルで、クスリとさせられる人物ばかり。
矢部太郎と伊藤修子が持つ独特の雰囲気はホッとする笑いに、しかし場面によっては毒としてジワリと効くものになる。山口森広の安定感と人間味、豊原江理佳の七変化ぶりがとても魅力的だ。4人の持ち味が絶妙に合致して、芝居の緩急を担っていた。

鈴木拡樹も浮世離れしているようでいて、世知辛さを感じさせる生身の青年役を好演している。意外(?)な登場の仕方もオイシイ。
通行人に手渡したチラシを捨てられた時に見せる、一旦感情を自分の中に飲み込んでから微笑む表情に「翔真という役は、鈴木拡樹と似た性格なのだろうか」などと勝手なイメージで思い込んで油断していたので、次の場面で目を剥くことになった。

“ダメ男あるある”を繰り広げながら、どこか憎みきれない物腰を持つ翔真と、母親に素直になれない思春期から、成長後までの変化を自然体で見せる登喜(トキ)の二役。見事な演じ分けにも注目だ。

©舞台「時子さんのトキ」/岩田えり

その翔真に全てを注ぎ込み、彼の人生に縋り付くようでいて、実際のところは己を保つべくゴリゴリと物事を推し進める時子を演じる高橋が眩しい。
シュンと落ち込んだかと思えば自虐で笑い飛ばし、遠い目をして虚ろの世界に惹きつけた次の瞬間には、明るい笑顔を浮かべてコチラを安心させてしまう。

女性が自分の名前を呼ばれる機会を失っていく、というテーマを扱う物語の多さには、それが未だ解決していない社会問題の証明のようにも思うのだが、そこからさらに一歩踏み込み、「人は誰かの何かにならずには居られない」という“寂しさ”を主人公に乗せた本作には、もっと人間の根源的な、人が本能として求めるものは何であるのかを問いかけるようなテーマ性を感じた。

離婚した時子が、「妻」と同時に「母」の立場も失ったような心地になった後、翔真の夢を生きがいとして金と愛情を費やしていく姿には、人のどうしようもない愚かしさと愛おしさが映し出されているように思える。

公演概要として事前に公開されていた舞台のあらすじには、「心の隙間、寂しさを全部、翔真が埋めてくれている」という時子の独白が綴られていたが、高橋の演じる時子は、あらすじから受け取る印象よりずっと冷静で大胆で強くて、愛らしかった。

高橋由美子は開幕コメントにて「コロナウイルスが世界中で猛威をふるう情勢の中、こうしてお芝居の幕を開けさせて頂ける事に心から感謝を申し上げます。このような時に演劇を行う事へのご意見もあるかと思いますが、今私にできる事は駆け抜ける事だけ。皆様に楽しみにお運び頂き精一杯お迎え出来るよう精進いたします」と配慮の意気込み。

収束が見えない今、劇場空間で「とある人間の起点と葛藤、そこから再び動き出す瞬間を見届ける」という生の演劇を味わうことは、嗜まない人には“贅沢”と呼ばれるものかもしれない。 だが元々、誰かの人生と感情を目の当たりにできる舞台は最高の贅沢だったじゃないかとも思う。その上で、“贅沢”という言葉が持つ「必要以上の」というニュアンスを跳ねのけて「これは人生の必需品である」と多くの人が当たり前に受け取れていた、観劇が日常に存在できていた世界の有り難みも痛感する。

思うところは人それぞれだろうが、非日常になってしまった現在で起こる時子さんの“トキ”から、感じ取れるものはきっとたくさんあるはずだ。

©舞台「時子さんのトキ」/岩田えり

舞台『時子さんのトキ』は、東京公演が9月21日(月・祝)まで上演。9月26日(土)~27日(日)は大阪のサンケイホールブリーゼで上演予定。

鈴木拡樹が「ご来場の皆様と特別な時間を過ごせる事を嬉しく思います。また今作はアフタートークショーがある公演回もございます。お時間よろしければアフタートークショーも楽しんでください」と開幕コメントで呼び掛けた通り、出演者によるアフタートークショーのある回も。さらに本作は映像配信も予定されている。

翔真/登喜役・鈴木拡樹さんのインタビューはこちら
鈴木拡樹が舞台『時子さんのトキ』で改めて感じた演劇の楽しさ。「演劇の灯を絶やさぬように続けていきたい」

鈴木拡樹が舞台『時子さんのトキ』で改めて感じた演劇の楽しさ。「演劇の灯を絶やさぬように続けていきたい」

2020.09.08

舞台『時子さんのトキ』

<東京・よみうり大手町ホール>
2020年9月11日(金)~ 9月21日(月・祝)

<大阪・サンケイホールブリーゼ>
2020年9月26日(土)~ 9月27日(日)

出演:高橋由美子/鈴木拡樹/矢部太郎 伊藤修子 山口森広 豊原江理佳
作・演出:田村孝裕
企画・製作:エイベックス・エンタテインメント

<東京公演・アフタートーク>
9月13日(日)13:00 登壇:矢部太郎、伊藤修子、山口森広
9月15日(火)14:30 登壇:鈴木拡樹、伊藤修子、豊原江理佳
9月16日(水)18:30 登壇:高橋由美子、鈴木拡樹、田村孝裕(作・演出)
9月17日(木)14:30 登壇:矢部太郎、山口森広、豊原江理佳
9月18日(金)18:30 登壇:高橋由美子、鈴木拡樹、山口森広

<大阪公演・アフタートーク>
9月26日(土)17:00 登壇:高橋由美子、鈴木拡樹、山口森広

<チケット>
全席指定(動画配信視聴券付):11,500円(税込)
全席指定:9,500円(税込)
動画配信視聴券①:2,500円(税込)
※販売期間:8月16日(日)10:00~9月28日(月)23:59
動画配信視聴券②:3,300円(税込)
※販売期間:9月29日(火)10:00~10月3日(土)23:59

※動画配信視聴期間:10月2日(金)10:00~10月4日(日)22:00
※動画配信視聴券で視聴できる映像は、東京公演期間中に収録した本編映像。

オフィシャルサイト
https://tokikosan.com

オフィシャルTwitter
@tokiko_stage