発掘!インディーゲーム総研  vol. 21

Review

終わりのない悪夢の体験『ネバーエンディングナイトメア』残酷で不条理な世界の解釈は……

終わりのない悪夢の体験『ネバーエンディングナイトメア』残酷で不条理な世界の解釈は……

強迫性障害と鬱病で苦しんだ経験を持つMatt Gilgenbach氏が、自身の体験を元にして制作したというホラーアドベンチャーゲーム『ネバーエンディングナイトメア』。2014年9月にSteam®、Ouyaで配信が始まりました。その後PlayStation®4、PlayStation®Vitaに移植され、2020年7月にNintendo Switch™版が配信開始。センセーショナルな開発理由が話題となった本作ですが、独特のタッチで描かれた美術も他のホラーゲームには見られない際立った特徴があります。それらは実際にどんな体験をプレイヤーにもたらすのでしょうか。本稿ではその内容に迫ります。まずはトレーラームービーを見て、延々と続く悪夢の恐ろしさを味わってみてください。そうそう、精神的な恐怖を増幅させて楽しむためにもヘッドフォンをつけてのプレイがおすすめです。

文 / 内藤ハサミ


延々と繰り返される悪夢のなかをさまよう

小さい女の子をナイフで刺し殺す悪夢を見て、飛び起きる主人公のトーマス。ベッドから降り、裸足にパジャマという姿で歩き出します。アメリカの絵本作家エドワード・ゴーリーに影響を受けているという画風は、鉛筆やボールペンでガリガリと描いたようなモノトーンの画面を見せます。おどろおどろしさはないものの、執拗に暗闇を塗りつぶしたようなタッチは見る者の不安を掻き立てます。

ネバーエンディングナイトメア WHAT's IN? tokyoレビュー

▲飛び起きるトーマス。部屋の隅がよく見えなくて怖い……

トーマスを操作して部屋を出ます。延々と続く廊下、どことなく不気味な壁掛けの絵画。ここはかなり大きな屋敷なのかもしれません。外に出ると、大きな花輪が添えられた墓にたどり着きます。そこは妹のガビィの墓です。「もしかして、冒頭で殺してしまったのは実の妹だったのか!?」……と戦慄した次の瞬間、ガビィに起こされるトーマス。今までのことはすべて夢だったと、妹の言葉で気づきます。

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▲妹の墓前で泣き崩れるトーマスでしたが……

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▲全部が夢? 妹は生きていて、一緒に朝食を摂る約束をしていた……?

ところが、実はこれらもすべて終わらない悪夢のなかの出来事だったのです。トーマスは、悪夢から覚めたとしても別の悪夢のなかに囚われ続けています。プレイヤーはトーマスを操作し、何度も別の悪夢のなかで目覚め続ける体験をすることになるのです。操作は、歩いて移動する、ダッシュする、オブジェクトを調べる、この3つのみです。調べられるオブジェクト、血、注目すべきものにだけ色がついているので調べるべき場所を見落とすことはないでしょう。非常にシンプルな操作ですが、トーマスは喘息を患っており長い時間走り続けることはできません。何かから逃げる場合などは、ダッシュを使うタイミングにだけ気を遣う必要があります。

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▲ダッシュし続けているとすぐに息切れし、それでも走り続けるとしばらく動けなくなってしまいます。敵から逃げているときに息切れしてしまうと……

妹として登場した黒髪の女性ガビィは、妻や精神科の医者などに立場を変えて何度もトーマスの目のまえに現れます。トーマス自身の立場もガビィの兄だったり、夫だったり、患者だったりと悪夢のなかで変化します。ゲームの舞台も自宅や閉鎖病棟など足を進めるたびに変わるので、本当の居場所はあいまいです。このつかみどころのない展開はリアルな夢っぽさを感じますが、実際のガビィは現実世界のトーマスとどういう関係にある人物なのでしょうか。そもそも実在するのでしょうか。ストーリーで語られることに一貫性はありませんが、ガビィはずっと登場し続けるのでキーパーソンであることは間違いなさそうです。

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▲この夢では精神科医のガビィ。悪夢から覚めるにはどうすれば……

数は少ないもののトーマスを攻撃してくる敵が存在します。敵につかまって殺されてしまうと、寝室で目が覚めてリトライとなります。無防備なトーマスは対抗手段をまったく持たないので、逃げるしかありません。足音を消す、どこかに隠れる、走り去るなど敵の種類によって対処法はさまざまです。しかし、思ったほどこれらの敵に怖さを感じることはありませんでした。本作で最も恐ろしいのは、悪夢から目覚めるたびにディテールこそ目まぐるしく変わるものの、実はまったく動かない状況なのです。

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▲敵との遭遇。この女の子もガビィなのでしょうか……

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▲トーマスを追う巨大な赤ん坊のような敵

全編を通して謎解きなどの要素は存在しません。ゲーム内での動作は次々と構造を変える屋敷のなかを移動し、調べられるオブジェクトにインタラクトすることのみです。どこに進んでいいかもはっきり提示されることはありませんし、マップもないので現在地もわかりません。どうにもならない状況を受動的に体験することはやはり悪夢の状況に近く、リアルな怖さを感じられるでしょう。BGMが特にいい出来で、みぞおちが痛くなるような不安を感じることができます。冒頭でもおすすめしましたが、ぜひヘッドフォンやイヤフォンをつけて楽しんでください。

悪夢の行く先は何を表している?

ゲームを進めていると、たびたび出会う言葉があります。“神よ、どうして私を見捨てられたのですか?(why have you forsaken me?)”という、新約聖書・マルコによる福音書に出てくるイエスの言葉です。それは、ある悪夢でベッドの部屋を抜けた先にある閉鎖病棟の壁に書かれていたり、別の悪夢では自身が死に際に書いた文字だったりします。

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▲自身の死体を見つけるトーマス。深い絶望を感じる死にざまです

ずっと罪の意識にさいなまれ、神に見捨てられたと絶望しているトーマス。その罪とはゲーム内でたびたびほのめかされる、ガビィとの不健全な関係なのかもしれません。それとも妹の存在は何かのメタファーで、病気によって引き起こされた焦燥感がガビィという存在となって表れたということなのかもしれません。わが身に起きた辛い現実を受け止められず、このような悪夢を見ているのでしょうか。終わらない悪夢から覚めるため、ヒントもないままに屋敷をさまようトーマスが辿りつくことのできるエンディングは3種類です。そのすべてを見届ければ何かしらの答えにたどり着くかと3周しましたが、ますます現実と夢との境界があいまいに感じられました。そもそも夢の内容は、現実とリンクしたものなのかということさえもはっきりしないのです。答えのありかは暴かれないまま、強い焦り、絶望、大きな謎がプレイヤーの心に残されます。この割り切れない感情こそ、作者が一番伝えたかったことなのだと感じました。

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▲何かの肉をミンチにした跡があります。何の肉なのか。衝撃の答えは後半で明らかになりますが……

本作は強迫性障害と鬱に苦しんでいた開発者自身の感覚が反映された作品ではありますが、体験したそのままをゲーム内に再現したというわけではなさそうです。おそらくストーリー自体は創作で、終わりの見えない迷路に迷い込んでしまった苦しみをリアルに表したものなのだと筆者は解釈しました。この物語の結末をどう理解するかは、プレイヤーによってかなり違ってくると思います。インターネットにはプレイヤーたちの興味深い考察が多数アップされていて、自分の気づかなかった点を深く掘り下げている意見を読むのが非常に面白かったですね。
残念に思った点は、延々と続く悪夢の苦しみが表現されているなかでインタラクトできるものは少なく、それによって起こるイベントもほとんどないため中盤以降のプレイを単調に感じてしまうということです。いきなり画面に何かが写りこんできてビックリさせるような演出もありますが、プレイ後の印象としては「不気味な廊下を延々と歩いていた」となりがちです。リアルさを追求した表現との兼ね合いは難しいと思うのですが、もう少し印象的な出来事があれば引き締まったのかなと思います。

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▲ひとつのエンディングにたどり着きましたが、ほかにもルートが……

分岐したシナリオをすべて見るには、いくつかあるチェックポイントからリトライするのが近道です。重要な分岐は後半にあり、いつでも戻ってプレイできるのでエンディングをコンプリートするのに苦労はないでしょう。すべてのシナリオを見ても、おそらく5時間はかかりません。
本作はおどろおどろしいクリーチャーと戦ったり、息もつかせぬ展開の逃亡劇があったりという派手な演出はなく、“終わらない悪夢の体験”のみに主軸を置いています。独特の閉塞感は味わう価値のあるものですが、いわゆるホラーゲームとしてはかなり風変わり。残酷で不条理な絵本を静かに読んでいるようなプレイフィールが味わえる一作です。

フォトギャラリー

■タイトル:ネバーエンディングナイトメア
■発売元:PLAYISM
■対応ハード:Nintendo Switch™
■ジャンル:2Dホラーゲーム
■対象年齢:17歳以上
■発売日:発売中(2020年7月30日)
■価格:ダウンロード版 1,480円(税込)


『ネバーエンディングナイトメア』オフィシャルサイト

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