LIVE SHUTTLE  vol. 411

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東京事変 “見えない観客”が見えてくる瞬間とは? TOKYO 2020開会式が行われるはずだった日に収録された、無観客配信ライブをレポートする。

東京事変 “見えない観客”が見えてくる瞬間とは? TOKYO 2020開会式が行われるはずだった日に収録された、無観客配信ライブをレポートする。

今回のコロナ禍で最初に自粛に踏み切ったのは、ライブ業界だった。しかし政府が緊急事態宣言を出す前から自主的にライブを中止したにも拘らず、音楽は不要不急のジャンルとして扱われ、救済策はなかなか実行されなかった。

8年ぶりの“再生”を果たした東京事変もこの厄災の影響で、今春のツアー「Live Tour 2O2O ニュースフラッシュ」の大半を断念。日本のライブシーンにおいて、音楽はもちろん、音響、照明、映像など最高水準の内容を誇る東京事変の最新ツアーを観る事ができないとがっかりしていたら、「東京事変2O2O.7.24閏vision特番ニュースフラッシュ」が配信されることが発表された。さらには全国各地の映画館でも上映されるという。この朗報にわくわくしながら、配信当日を待った。

東京事変 WHAT's IN? tokyoレポート

オープニング映像が始まる。数字やグラフなどがモニター画面に同時に複数映し出され、情報の洪水が起こる。東京事変らしいやり口だ。するといきなり椎名林檎が、トラメガに向かって「新しい文明開化」を歌い出した。

カメラはまず引きのカットでNHKホールに観客のいないことを伝える。ガランとした会場を最初に見せてしまうという大胆な演出だ。カメラが寄ると、刄田綴色、亀田誠治、浮雲、伊澤一葉、椎名の5人は、お揃いの真っ白なエリザベスカラーを付けている。羽織った打ち掛けは、一葉がグリーン、浮雲がブルー、亀田がブラウン、刄田がイエロー、そして椎名がレッドで、まるでオリンピックの五輪マークのようにそれぞれの役割を暗示する。大聖堂の壁面から降り立った聖人たちが、ステージに勢揃いしているようにも見える。荘厳なビジュアルに対して、椎名の軽快なボーカルがいいバランスでオープニングの妙な緊張感を和らげる。

終わると間髪入れず、刄田がハイハットでカウントを出し、「群青日和」へ。椎名も一葉もギターを弾いているので、浮雲と合わせて3本のギターがサウンドを明るく彩る。椎名がギターの弦をスクラッチする手元のアップがカッコいい。人気のライブアンセムだけに、もしオーディエンスがいたら大騒ぎ必至の2曲目になったことだろう。トリッキーな浮雲のギター・ソロで、刄田以外の4人がステージ最前に揃って並び、このバンドの再生を高らかに告げたのだった。

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メンバーはエリザベスカラーを外し、錫色のガウンをまとってファンキーな「某都民」へ。浮雲、一葉、椎名がボーカル・チェンジしながら歌う。続くニューEP『ニュース』からのナンバー「選ばれざる国民」のクールなビートが、見ている者をリラックスさせてくれる。頭上にはミラーボールが回り、亀田の弾くスタンディング・ベースがしなやかにうねり、新しい東京事変が本領を発揮する。刄田のドラムの音が生々しく、これがライブであることを強調する。演奏の完成度と聴こえてくるバンド・サウンドのクオリティの高さには、うなるばかりだ。

椎名が今度は鉛色のケープをまとい、赤いハットを手に「永遠の不在証明」を歌い出す。これも『ニュース』の収録曲だ。哀愁を帯びたメロディと、それにマッチしたライティングがいい雰囲気を醸し出す。と思っていたら、ベースから始まったソロがギター、シンセとリレーされると、演奏陣が爆発。バンドのアバンギャルドな側面がステージを覆い尽くす。すごい迫力だ。

8年ぶりのライブ・パフォーマンスということを、まったく感じさせない。むしろ若返っている感さえある。グルーヴも含めて、東京事変は完全にアップデートされている。そして、無観客だということをすっかり忘れてライブに見入っている自分に気が付いた。

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無観客配信ライブをレポートするとき、いくつかのパターンがある。配信されているライブを、リアルタイムで画面を通して見ながら書くケース。事前に映像をもらって、それを見て書くケース。珍しいのは、無観客の会場にスタッフとして入れてもらって、映像ではなく、リアルなライブを見て書くケースもあったりする。この場合は映像で見ている人と違う立場で見ることになるので、その差異を強調して書いたりする。

いろんなケースがあるが、共通しているのは、ライブを行なっているアーティストが“見えない観客”をどう意識しているのかをできるだけ想像して書くことだ。たいていのアーティストはライブの前半は観客が見えなくて、緊張し過ぎてぎこちなくなる場合が多い。だが、何かの拍子に“見えない観客”が見えてくる瞬間がある。ここを境に無観客ライブに“ライブ感”が生まれることになる。 

では、東京事変はどうなのか。彼らはこのライブで、最初から自然に振る舞っていた。考えてみればほとんどMCをせず、コンピュータとシンクロした大掛かりな演出を加えて“ショー”を繰り広げてきたこのバンドは、ライブが始まるとノンストップで突っ走るスタイルが常だった。バンドは時間軸を正確にたどって演奏することになる。そうしたやり方は、ある意味、無観客的だったのかもしれない。それでも要所要所でオーディエンスとの交歓が始まると、ライブのテンションが一気に跳ね上がる。この絶妙なバランスが東京事変の魅力であり、今回もそれは少しも削がれていなかった。

彼らにはオーディエンスが見えている。そう思わせる瞬間が何度もあった。たとえばカメラが空の客席を通り過ぎるときに、メンバーの目線が2階席に向いていたりした。いるはずのないオーディエンスを見る眼差しは、いかにもファンタジックだ。

強烈だったのは「能動的三分間」だった。背後のモニターでは、曲が始まった瞬間から“三分間”のカウントダウンが始まる。そのタイミングで椎名はガウンを脱ぎ捨て、黄色いフラッグを左手に取る。すべてが計算された三分間だとわかっていても、この洗練された展開にドキドキしてしまう。もしこのライブを観客として現場で見ていたとしても、ドキドキは同じだったことだろう。こうした“時間の縛り”を逆手にとって、東京事変はこの配信ライブをスリル満点に仕上げていく。ライブがちょうど真ん中に差し掛かる頃、主導権は完全にバンドに握られていた。

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後半は照明をはじめ、職人肌のツアー・クルーが大活躍。「電波通信」でのレーザーが描く幾何学模様など、エンターテインメントとアートの境界線が次々に破られていく。メンバーもいよいよライブに没入し始める。一葉は「スーパースター」でオルガンを弾きながら、虚空を見つめる。「乗り気」では再び刄田以外の4人がステージ前に並び、椎名はフラッグを振って演奏陣を鼓舞する。静も動も含めて、バンド感がどんどん増していく。

ところでこの配信ライブは、事前にセットリストが公開されていた。これはよほど自信がないとできないことだ。オーディエンスは「次はどの曲だろう」と予想しつつライブを見る。それが大きな楽しみであるのだが、この日は次が何の曲かわかっていても、驚きや歓びがあった。それほど曲のツナギが絶妙だったのだ。

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終盤、「閃光少女」と「キラーチューン」でライブはいよいよ熱を帯び、「今夜はから騒ぎ」で椎名が白衣を脱いでボディコンシャスなブラックドレス姿になると、大団円に向かってステージから大きなエネルギーが放出される。男性陣のバックコーラスを従えて、椎名はタンバリンを鳴らしながら思い切り歌う。椎名がトラメガで歌った「FOUL」はパンキッシュで、このバンドの高度な演奏テクニックと破壊衝動が混ざり合って、この上なくエキサイティングだった。

このあたりからアイコンタクトを取り合うメンバーの笑顔が増えていく。特に「透明人間」では浮雲のギターの速いパッセージに対して一葉が微笑みを贈ると、椎名も笑顔になる。曲の終わりでは刄田が思わず声を上げたのが印象的だった。

ラストの「空が鳴っている」の照明は、横から当てられてライトのみ。衣装も含めてモノトーンのステージが、最高にクールだ。♪神さまお願いです、あきらめさせて♪と歌う、情感のこもった椎名のロングトーンがNHKホールに響き渡る。まさに予想をはるかに超えた配信ライブとなった。

エンディングではこのライブに関わったスタッフたちのクレジットが、画面に延々と映し出される。そのおびただしい数の“職人たち”にも大きな拍手を贈りたくなった。もちろん東京事変の5人のメンバーにも。

このところ、毎週末、配信ライブが行なわれるようになった。その中でも、このライブは本当に特別だった。そしてこのライブを、映画館の大スクリーンで見たいと強く思ったのだった。

文 / 平山雄一 撮影 / 太田好治

東京事変2O2O.7.24閏vision特番ニュースフラッシュ
2020年7月24日(金) /NHKホール

〈セットリスト〉

1. 新しい文明開化
2. 群青日和
3. 某都民
4. 選ばれざる国⺠
5. 復讐
6. 永遠の不在証明
7. 絶体絶命
8. 修羅場
9. 能動的三分間
10. 電波通信
11. スーパースター
12. 乗り気
13. 閃光少女
14. キラーチューン
15. 今夜はから騒ぎ
16. OSCA
17. FOUL
18. 勝ち戦
19. 透明人間
20. 空が鳴っている

その他の東京事変の作品はこちらへ。

東京事変

椎名林檎(vox)、亀田誠治(b)、刄田綴色(ds)、浮雲(g)、伊澤一葉(key)。
2004年、椎名林檎が東京事変の活動を表明。フジロックフェスティバルに初参戦、ホワイトステージのヘッドライナーを務め、入場規制がかかるほどの衆目を集める。
デビューシングル「群青日和」、1stアルバム『教育』をリリース。 05年、伊澤一葉(Key)と浮雲(g)が参加、現メンバーが揃い制作した2ndアルバム『大人(アダルト)』がチャート第一位を獲得。 06年、08年には複数のアーティストを招いてイベント「SOCIETY OF THE CITIZENS」を主宰した。 07年3rdアルバム『娯楽(バラエティ)』、10年4thアルバム『スポーツ』、11年5thアルバム『大発見』とテレビのチャンネル名を冠したオリジナルアルバムをリリース。
2012年1月解散を発表。メンバー全員が其々作詞作曲した5曲を収録した『color bars』リリース。 2月29日「東京事変live tour 2012 Domestique Bon Voyage」の日本武道館公演をもって活動を終了。
2020年元旦0時、新曲「選ばれざる国民」の配信と共に「再生」を表明。全国ツアー「Live Tour 2O2O ニュースフラッシュ」の開催も発表。初日2月29日、3月1日の東京国際フォーラム公演開催後、新型コロナウイルス感染拡大を受けツアーの続行を断念。4月、メンバー全員が其々作曲した5曲を収録したEP『ニュース』、8月、日本テレビ系水曜ドラマ「私たちはどうかしている」主題歌を収録したマキシシングル『赤の同盟』リリース。9月5日無観客ライブ(7月24日NHKホールにて収録)の映像を配信。

オフィシャルサイト
https://tokyojihen.com
https://www.kronekodow.com

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