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新作『かつて天才だった俺たちへ』でブレイクポイントを迎えたCreepy Nuts。その足跡と唯一無二の個性を探る。

新作『かつて天才だった俺たちへ』でブレイクポイントを迎えたCreepy Nuts。その足跡と唯一無二の個性を探る。

飛ぶ鳥落とす勢い、と言ってもいいだろう。8月26日にニューアルバム『かつて天才だった俺たちへ』をリリースしたCreepy Nuts。俳優・歌手の菅田将暉とのコラボレート曲も含めた話題のアルバムは、ヒップホップ・フリークのみならず、幅広いリスナーの支持を獲得。まさに勢いに乗りまくっているラッパーR-指定とターンテーブリスト/トラックメイカーDJ松永=Creepy Nutsの魅力をここでは彼らの歩みを辿りながら探ってみたい。

文 / 佐野郷子 ライブ写真 /Photo [email protected]  Retouched [email protected]


強者同士、されど、”たりないふたり”の必然的な出会い。

ラッパーのR-指定は、大阪府堺市出身。中1で日本語ラップと出会い、高2でバトルやライブ活動を開始した生粋のヒップホップ育ち。日本最高峰のMCバトル「ULTIMATE MC BATTLE大阪大会」にて5連覇、2012年〜2014年は全国大会「UMB GRANDCHAMPIONSHIP」で優勝し、連覇を成し遂げるという強者。トラックメイカーのDJ松永は新潟県出身。ターンテーブリストとして、「DMC JAPAN FINAL」に出場し、2019年には「世界一のDJ」の称号を獲得。サイプレス上野とロベルト吉野、KEN THE 390などのプロデュース・ワークも手がけるこちらも凄腕DJだ。そんな二人がそれぞれの技量が如実に問われる1DJ1MCというスタイルを採ったのは、運命の必然だったのかもしれない。

二人の出会いはR-指定が18歳の頃、全国の同世代のラッパーやDJが集うイベントだったそうだが、イカつい輩が多い当時のヒップホップ・シーンにおいて異なる匂いを発する青年、DJ松永に遭遇。“童貞同士”のヴァイブスに惹かれ合い、友人としての関係がしばらく続いた後、2013年にCreepy Nutsを結成。

2016年にはデビューEP『たりないふたり』をリリース。収録曲の「合法的トビ方ノススメ」は、YouTubeで400万を超える再生回数を稼ぎ、自分たちの自己紹介的な楽曲「たりないふたり」で注目を集める。TV番組『たりないふたり-山里亮太と若林正恭-』からインスパイヤーされたこの曲は、社交性・恋愛・社会性の”たりない” 山里と若林が、そのコンプレックスを笑いに昇華した手法を同類であると感じた彼らは音楽で表現。<女の子が怖い><苦手なアウトドア お家でぼーっとしたい><友達 超少ない>と自虐的に歌い、今ではすっかり知られるところとなった彼らのキャラクターを自己申告している。キャッチーではあるがどこか怪しげなメロディー、ヒネリとユーモアと毒を効かせた言葉遊びや独自のテーマ性もすでにこの時期に確立されつつあった。

自虐と野心が渦巻く『助演男優賞』と『フリースタイルダンジョン』。

2017年2月にはミニアルバム『助演男優賞』をリリース。タイトルチューンは<どうあがいてもしゃあない 俺ら主役の玉じゃない…>と自虐ネタ満載だが、<虎視眈々と狙っている 準備はいつでも出来ている>と現状を突破していこうとする野心は満々。コミカルで風刺の効いたMVも好評を博し、歌詞にもあるようにロックやアイドルのイベントにも果敢に乗り込み、<時として主役を喰っちまう>状況は生まれつつあった。「未来予想図」の頭のフレーズ<ダンジョンが終わり 世間の熱は下がり>の「ダンジョン」とは、周知のとおり2015年から始まったフリースタイルのラップバトルTV番組『フリースタイルダンジョン』。R-指定は番組初回から3rd seasonまで初代モンスターとして出演し、その存在と圧倒的なスキルをお茶の間にも浸透させることになった。しかし、フリースタイルブーム以前の“ヒップホップ冬の時代”を経験してきた世代である彼らは、ブームになろうがなかろうが、変わらぬ姿勢で続けていく意思をエモーショナルに表現。自分たちの譲れない個性とスタイルを明確に示した。

メジャーデビューを果たし、過去の黒歴史を吐露&肯定。

満を持してのメジャーデビューは2017年。デビューシングル「高校デビュー、大学デビュー、全部失敗したけどメジャーデビュー。」は当初、8月に発売される予定だったが、リリース直前に権利処理に一部不備があることが判明し、11月に延期に。“メジャーデビューにも失敗?”といういわく付きのシングルだが、シングルにも関わらず2人が生配信したWebラジオ番組をそのまま収録した異色の作品になったのは怪我の功名とも言える。R-指定が1人2役で地元の友だちと会話劇を繰り広げる「メジャーデビュー指南」、70分にも及ぶ二人が喋りまくるラジオパート「“悩む”相談室メジャーデビュー特別編」、過去の黒歴史をすべて肯定する「だがそれでいい」というコンセプトは、Creepy Nutsの特異な存在をアピールすると同時に、何かとこじらせがちな世代の共感を呼んでゆく。

初のフルアルバムとライト層にも訴求した『Creepy Nutsのオールナイトニッポン0』

メジャーで新しいフェーズに入った彼らの2018年のメジャー初のフルアルバム『クリープ・ショー』は、Creepy Nutsの過去と現在と刻み、なおかつ未来を予感させる作品となった。リード曲「スポットライト」をはじめ、盟友SPARK!!SOUND!!SHOW!!とタッグを組んだ新曲「ぬえの鳴く夜は」、「合法的トビ方ノススメ」の新バージョン、2014年に「DJ松永 feat. R-指定」名義で発表した「トレンチコートマフィア」に既発曲を含む12曲は彼ら流儀のヒップホップを満載。アッパーチューンからロックや歌謡曲など既存の枠に捕われないビートとトラック、スキルフルなラップは、まさに“手練手管”の域。<I’m a No.1 player 元ベンチウォーマー>というパンチラインが印象に残る「スポットライト」では矢面に立ち、最前線へ突き進む覚悟を感じさせた。

また、2018年4月からはスタートした『Creepy Nutsのオールナイトニッポン0(ZERO)』も彼らのキャラクターの面白さをヒップホップに馴染みの薄い層に広く伝える役割をはたした。元々ラジオのヘビーリスナーであった二人は、水を得た魚のようにヒップホップ仕込みの機敏な反射神経と柔軟性で、笑いの絶えないトークを繰り広げ、世代を超えた人気を獲得。数々のフェスへの出演も急増し、R-指定は「フリースタイルダンジョン」の2代目ラスボスに、DJ松永は昼のラジオ番組『ACTION』のパーソナリティを務めるなど活躍の場を拡げ、Creepy Nutsは、次世代の日本のヒップホップ・シーンを背負う若手の筆頭に上げられるようになる。

上昇気流の乗って『よふかしのうた』をリリース。DJ松永は「世界一のDJ」へ。

2019年には『クリープ・ショー』から1年4カ月振りにミニアルバム『よふかしのうた』を発表。配信シングルとしてリリースされた「よふかしのうた」は、『オードリーのオールナイトニッポン 10周年全国ツアー』の公式テーマソング。オードリーの春日俊彰の自宅「むつみ荘」で撮影されたMVも話題を呼ぶ。TVドラマ『べしゃり暮らし』のために書き下ろした「板の上の魔物」、コント番組『犬も食わない』のテーマソングなどタイアップが一気に増える。トラップの要素を彼らなりに取り入れ、ライブで全国を駆け回る日々を綴った「グレートジャーニー」、自分を誇示するヒップホップならではのボースティングを披露した「生業」など、「ヒップホップで大事なのは、リアルであること、自分の立ち位置を明確にすること」というR-指定の言葉を裏付ける6曲を収録。また、初回限定盤は「ライブDVD盤」、通常盤を「ラジオ盤」の2形態でリリース。この形態は、新作『かつて天才だった俺たちへ』にも引き継がれていく。

8月にはDJ松永が東京で行われた「DMC JAPANDJCHAMPIONSHIPS 2019 FINAL」のバトル部門で優勝。9月にロンドンで開催された「DMC WORLD DJ CHAMPIONSHIPS 2019」に日本代表としてバトル部門に出場し、ディフェンディングチャンピオンのK-Swizzに勝利し、優勝。栄えある「世界一のDJ」の称号を獲得した。9月から全国19会場で開催された『Creepy Nuts ワンマンツアー2019「よふかしのうた」』も各地で大盛況となり、上昇気流に乗って2020年を迎えることになる。

1年がかりで実現した菅田将暉とのコラボレート。渾身の作『かつて天才だった俺たちへ』。

2020年2月には、TVドラマ『コタキ兄弟と四苦八苦』のオープニングテーマ「オトナ」が配信リリースされ、今春以降は新型コロナウイルス感染拡大の影響により予定されていたライブが次々中止となったものの、Creepy Nutsの追い風は止まることはなく、地上波バラエティ番組へのゲスト出演などメディアへの露出は倍増。7月にはお互いにレギュラーを務める『オールナイトニッポン0(ZERO)』が縁で菅田将暉とのコラボレートが実現した「サントラ」を配信。一気にメジャーの舞台に躍り出たタイミングで、それら2曲が収録されたニューアルバム『かつて天才だった俺たちへ』を8月26日にリリースした。

1DJ1MCに拘り、今まで客演を迎えることはなかった彼らが、ここで菅田将暉という誰もが知る人気俳優・歌手をヴォーカルに迎えたことの意味と意義は大きい。ラジオで1年がかりで育んできた両者の関係は、アルバムでは「サントラ」と、THE HIGH-LOWSの名曲をカバーした「日曜日よりの使者」の2曲に結実。“セルアウト”と呼ばれかねない周囲の雑音を跳ね飛ばす熱量の高い渾身の作品となったのは、誰と組んでもCreepy Nutsのヒップホップの芯は不変であるという自負心とこれまで培って来た技量による自信の成せるものだろう。互いの生き方を交差させながら自分たちの物語を声を張り上げ、生々しく刻んで行く「サントラ」には希望の匂いがある。ロックに大きく舵を切ったトラックも新鮮で、「日曜日よりの使者」は、ロックフェス「VIVA LA ROCK 2018」のスペシャルセッションから生まれたバンド編成で聴かせる。演奏にはフェスと同じく、亀田誠治(B)、ピエール中野(Dr/凛として時雨)、加藤隆史(G/東京スカパラダイスオーケストラ)、津野米咲(G&Key/赤い公園)が参加。これはデビュー時からアウェイを承知で多くのロックフェスに挑戦してきた彼らの面目躍如に違いない。

独自の個性に磨きをかけ、ライブで培ったスキルで初の武道館に挑む。

リリースを重ねるたびに、自己肯定感、ポジティブなメッセージが増えつつあったが、本作では「かつて天才だった俺たちへ」で<悩めるだけ悩め 時が来たらかませ>と歌っているようにリスナーに向けて放たれたリリックが目立つ。とはいえ、お下劣な歌詞の「ヘルレイザー」、奇々怪々の不穏なトラックが「耳無し芳一Style」のようなCreepy Nutsにしか醸せない濃厚な曲もあり、7曲とはいえ「ミニアルバムではなく思想的にもカロリー的にもフルアルバム」に近い。今回もCD+DVDの「ライブDVD盤」と「ラジオ盤」の2形態でのリリースだが、「安い方(通常盤)がマニア向け」というのも、大きなブレイクポイントにいる彼ら独自の”思想”なのかもしれない。

8月26日には、配信ライブ「Creepy Nuts『かつて天才だった俺たちへ』リリースライブ」を実施し、360°のカメラワークの中、ニューアルバムの全収録曲を披露。二人の圧倒的なスキルとエネルギーは配信からも十分伝わって来た。MCでは「私事が誰かの心の隙間にフィットする瞬間がある。それがヒップホップの面白いところ」とあらためて語っていたが、11月には初の武道館での生ライブがアナウンスされている。「かつて天才だった俺たち」Creepy Nutsの快進撃はまだまだ続いてゆく……

その他のCreepy Nutsの作品はこちらへ。

ライブ情報

9月6日(日)無観客生配信LIVE「Creepy NutsとOKAMOTO’S オンラインショー」
https://thumva.com/events/cSxgft3nOlhIEca

10月3日(土)「Mt.FUJIMAKI 2020」・山梨県・山中湖交流プラザ きらら
【出演】 藤巻亮太、奥田民生、岸谷 香、Creepy Nuts、SCANDAL ほか

10月10日(土)11日(日) 「長岡 米百俵フェス ~花火と食と音楽と~ 2020」・新潟県長岡市 東山ファミリーランド
10月16日(金) 「吉田劇場2020」・有楽町朝日ホール
【出演】 吉田兄弟/Creepy Nuts

11月12日(木)「One Man Tour 2020-2021(仮)」東京・日本武道館

Creepy Nuts

MCバトル日本一のラッパー、R-指定と、DJバトル世界一のDJ、DJ 松永によるヒップホップユニット。業界屈指のスキルを持つ二人による唯一無二のライブパフォーマンスが人気を集め、ミニアルバム『たりないふたり』、『助演男優賞』はスマッシュヒットを記録。2017年11月に「高校デビュー、大学デビュー、全部失敗したけどメジャーデビュー」でメジャーデビュー。2018年には初のフルアルバム『クリープ・ショー』を発表。同年4月からスタートした『Creepy Nutsのオールナイトニッポン0(ZERO)』も大きな評判を呼び、テレビや雑誌など数多くのメディアに取り上げられる。2019年にはミニアルバム『よふかしのうた』をリリース。ライブではクラブやライブハウスからロックフェスまで、シーンを問わず数多くの観客を魅了。2020年8月にアルバム『かつて天才だった俺たちへ』とDVD『Creepy Nutsのオールナイトニッポン0 『THE LIVE 2020』 ~改編突破 行くぜ HIP HOPPER~』を同時リリース。11月12日には自身初となる東京・日本武道館公演が予定されている。

オフィシャルサイト
http://creepynuts.com/