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大平峻也が初めての一人芝居でコメディアンとしての才能を開花させる。演劇配信プロジェクト「ひとりしばい」第6弾

大平峻也が初めての一人芝居でコメディアンとしての才能を開花させる。演劇配信プロジェクト「ひとりしばい」第6弾

講談社とOffice ENDLESSが共同プロジェクトとして立ち上げた配信舞台「ひとりしばい」。早くも第6弾を迎え、今冬にアーティストデビューも決まったばかりの大平峻也が出演。
これまでに、荒牧慶彦、小澤 廉、北村 諒、橋本祥平、糸川耀士郎らフレッシュな若手俳優が、それぞれ演出家とタッグを組んで、己の俳優魂に向き合いながら一人芝居に挑戦し、新たな演劇のスタイルを示してきた。
今作のタイトルは、「夏休みダヨ!『地球さんショー』」。大平は地球というスケールの大きな役を演じる。作・演出は第2弾の「好きな場所」を手がけた川本 成。すでに「ひとりしばい」で刺激的な演劇を見せてくれている川本と俳優・大平がどんな化学反応を舞台に起こすのか。その模様をレポートしよう。

取材・文 / 竹下力


観客の数だけ答えがあり、それは決して間違いにならない

作・演出の川本 成の情熱的な思想が胸を打つ舞台だ。“地球とはお笑い芸人である。地球はエンターテイナーであり、だからこそ、あらゆる生物の歴史を司り、宇宙、環境、そして人間の歴史を、生命の繋がりの大切さを雄弁に物語る語り部になる”という深い示唆に溢れている。コメディアンと地球を等価に扱い、演劇ならではの見立てを使いつつ、配信演劇でしかありえない、見たことのない景色を観客に見せてくれる感動的なショーだった。

「vol.6」で主人公を演じる大平峻也は、2009年にTVドラマ『本日も晴れ。異状なし』で俳優デビュー。その後、ミュージカル『刀剣乱舞』シリーズ(今剣 役)、「ミュージカル封神演義-目覚めの刻-」(申公豹 役)、SCHOOL STAGE『ここはグリーン・ウッド』(如月 瞬 役)、舞台『サザエさん』(タラオ 役)をはじめ幅の広い役を演じ、確かな演技力で話題をさらっている若手俳優だ。

そんな彼とタッグを組む作・演出の川本 成は、お笑い芸人、声優、俳優、歌手、劇作家、演出家とマルチな活動で耳目を集めている。萩本欽一主宰の「欽ちゃん劇団」を経て、1994年に堀口文宏と「あさりど」としてコンビを組み、お笑い芸人として出発。2007年には劇団「時速246」を主宰し、精力的に舞台の作・演出も手がけ、出演もする、最も勢いのある演劇人のひとりだろう。

舞台は、楽屋裏でタキシードを着て息を整える人物が劇場へのドアを開け、歓声が鳴り響いたところから始まる。地球を模した被り物を被った大平峻也だ。ステージ中央に置かれていたマイクスタンドからマイクを取ると、自らを「地球」と名乗り、スタンダップコメディを始める。ウィットとシニカルに溢れた言葉で語られるのは、時事ネタ、環境破壊ネタを織り交ぜた、地球の現実を下敷きにしたギャグのオンパレード。そして、懐かしの夏の定番曲を歌い踊り始める。「地球さんショー」開幕の合図だ。

その後、「地球さん」は白衣をまとい「地球は一つの生命体?」という講義を始めたかと思えば、和太鼓を叩きながら、「宇宙にはダイヤでできた星がある」など宇宙にまつわる箴言を叫び、ナンセンスなシチュエーションで笑いをとりにくる。
やがて視聴者からのお手紙コーナになり、質問に笑いを交えて地球さんらしく答え、バラエティーショーあるあるの、シリアスなエピソード再現ドラマ「こんな地球の片隅で」に突入する。「振り続ける雨の中で」というタイトルのそのドラマは、順風満帆な人生を送っているサラリーマンの男が、仕事に失敗して自暴自棄の果てに失踪してしまうという、人生の機微を描いた“人情話”。バラバラに見えたコントが物語性を帯びて一気に「地球さんショー」の大円団へ加速していく。

シーンのつなぎ目には、タイトルコールの映像をカットバックとして挿入したり、配信演劇ならではの仕掛けを使いながら、シュールでナンセンスなコントの応酬、歌、カットバック、シリアスなメッセージを込めた再現ドラマなど、何気ないコントの羅列がやがて収束し、今作のテーマである生命の尊さを訴える構成は、往年の良質なバラエティー番組のようで目を見張る。

地球を演じた大平峻也は、哲学的なテーマを誰でも理解できる日常のあるあるネタに落とし込んで笑いをとりながら、膨大な台詞を、抑揚をつけて淀みなく喋り切った。笑いに必要な台詞のスピードの緩急を自在に操っている印象だ。アフタートークでは、今作に挑戦することの不安を口にしていたが、初めての一人芝居とは思えない芸の極みを垣間見せてくれた。

また「僕という地球を通して皆様にこの物語を感じていただき、アース(明日)への希望を持っていただけたらと思います」とジョークを交えて開幕前にコメントしていたが、その段階から芝居の位相が笑いに振り切れていたと思う。コミカルに歩いて登場する出落ちのシーンから、高価なタキシードに安っぽい地球の被り物の造詣との取り合わせも相まって、観客がクスクスと笑ってしまう脱力系の笑いを見せてくれる。彼は地球というお笑い芸人を生きていた。
「振り続ける雨の中で」の自失したサラリーマンが再生をはかろうとする演技も、人間らしいリアリティーがあって思わず泣いてしまったし、脱力系からシリアスまで振れ幅の広い芝居には感嘆してしまうほど。

演劇の計り知れないパワーを信じて、芝居の意味を理解し、地球というあり得ない役を演じているのに、どこにでもいる、みんなの知っている誰かになってしまうというマジックを生んだ大平のコミカルでシリアスな芝居からは、次第に奥深いテーゼが浮かび上がり、見えないものが見えてくる、舞台を観劇する愉悦を味わうことができる。今作を経て、大平はさらにスケールの大きな俳優になっていくのだろう。

作・演出の川本 成は、笑いを通奏低音にしながら、地球の未来、そして生命の神秘を問いかける大きな飛躍を遂げるダイナミックな脚本を書いた。優れたコントを繋ぎ合わせたコンセプチュアルな短編連作集だと思う。こういった芸当はお笑い芸人である川本の面目躍如と言えるだろう。

能や狂言、歌舞伎、文楽、落語、浅草オペラやエノケン(榎本健一)を筆頭とする軽演劇、クレージーキャッツ、テレビ『シャボン玉ホリデー』、演芸ブーム、漫才ブーム、萩本欽一、ザ・ドリフターズ……笑いの歴史をディグしながら、コメディも人情話も盛り込んだバラエティー番組の良質な展開を演劇として披露する手腕が素晴らしい。

川本流のお笑いに対するオマージュと、自由な発想で作り上げたコントは風通しが良く、笑えるところは笑えるし、泣けるところは泣けるメリハリのついた演出も見事だった。なにより、川本自身が楽しんで作っているように見えるから、観ている我々も楽しくなる。演劇の原初的な楽しさを教えてくれるはずだ。

思索に満ちた芝居だけれど、川本が「タイトルから様々な想像や思いを巡らせていただけるととても嬉しい」と事前のコメントで語っていたように、誰もが知っているパロディーは、ノスタルジーと親近感を覚えさせ、肩の力を抜いて笑いながら画面を見つめていれば、自分なりの答えを見つけることができる。観客の数だけ答えがあり、それは決して間違いにならないと肯定してくれるポジティブなバイブスに満ちているのが今作の最大の魅力だ。

夏の終わりの寂寥感を感じさせながら、新たな季節の到来を予感させてくれる心躍る傑作を残してくれた大平峻也と川本 成とスタッフに拍手を送りたい。

どんなときでもひとりぼっちではないと思って

「ひとりしばい Vol.6 大平峻也」が配信されたのち、大平峻也と川本 成が登壇し、アフタートークが行われたので少しだけ触れておきたい。

「地球という重大な役を演じさせていただき楽しかったです」と言う大平と、「とにかく、楽しかったですね」と笑顔の川本とふたりで、企画立ち上げ時のZoom会議のことなど本作の制作裏話が語られる。

川本は「みんなと一緒にひとつの大きな作品を作ることができたのは幸せでした。またみんなで舞台を作りましょう」とコメントすると、大平は「人生で初めての一人芝居で、切羽詰まった稽古期間のなか、責任は重大でしたが、周りを見渡したら、たくさんのスタッフと一緒に作ることができて、ひとりぼっちではないことを実感しました。いろいろなことがある世の中ですが、皆さんもどんなときでもひとりぼっちではないと思っていただければ嬉しいです」と最後に締め括った。

本公演「ひとりしばい Vol.6 大平峻也」は、9月1日(火)〜9月8日(火)までアーカイブ配信されるので、見逃してしまった場合にはぜひ観劇して欲しい。

舞台「ひとりしばい」

「ひとりしばい Vol.6 大平峻也」

2020年8月30日(日)18:00〜 生配信実施

<アーカイブ配信>
2020年9月1日(火)12:00〜9月8日(火)23:59

※アーカイブ配信チケットは販売中
チケットはこちらから

作・演出:川本 成
出演:大平峻也

企画・制作:講談社/Office ENDLESS
主催:舞台「ひとりしばい」製作委員会

©舞台「ひとりしばい」製作委員会

オフィシャルサイト
オフィシャルTwitter(@hitoshiba2020)


「ひとりしばい」vol.1~vol.3 Blu-ray
発売日:2020年10月16日(金)
価格:7,500円(税込)
収録内容:
「ひとりしばいvol.1 荒牧慶彦」本編+アフタートーク
「ひとりしばいvol.2 小澤 廉」本編+アフタートーク
「ひとりしばいvol.3 北村 諒」本編+アフタートーク
予約はこちらから

「ひとりしばい」(vol.1~vol.3)Blu-ray発売記念配信イベント
開催日:2020年10月20日(火)19:00開演
会場:Zoom(配信)
出演:荒牧慶彦/小澤 廉/北村 諒
※「ひとりしばいvol.1~vol.3 Blu-ray」ご購入者対象イベント。
※Blu-rayの購入とは別に配信イベント参加券(有料)をご購入いただく必要がございます。
詳細はこちらでご確認ください


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