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極上ミステリーと独自の世界観の結晶『Root Film(ルートフィルム)』ゲームだからこその良質な体験

極上ミステリーと独自の世界観の結晶『Root Film(ルートフィルム)』ゲームだからこその良質な体験

角川ゲームスのなかでも本格的な謎解き、練られたシナリオを読ませるアドベンチャーゲームを制作することに特化したブランド、角川ゲームミステリーからPlayStation®4/Nintendo Switch™で発売された『Root Film(ルートフィルム)』。本作は同ブランドのデビュー作として発売されスマッシュヒットを記録した『√Letter ルートレター』、『√Letter ルートレターLast Answer』と同じく島根県を舞台にしながらも、まったく異なるテイストのミステリードラマが展開。数々の日本神話や民間伝承が伝わる島根県というロケーションやミステリードラマの“あるある”を活用したシナリオ、魅力的なキャラクターたちによるかけあい、そしてシナリオやキャラクターをより引き立てる世界観作りなど評価すべき要素に溢れた本作の魅力を伝えていきたい。

文 / マンモス丸谷


魅力的な登場人物の謎解きを視聴者として“見守る“アドベンチャー

『Root Film(ルートフィルム)』は、島根県を拠点に活動する映像作家の八雲凛太朗・通称八雲MAXを主役に据えた八雲編をメインに、若手女優のリホの視点で描かれるリホ編がときおりインサートされるような形で進行していくアドベンチャーゲーム(八雲編の序盤とリホ編をプレイする順番はある程度プレイヤーが選択できる)。八雲編、リホ編ともに作中で起こるひとつひとつの事件はテレビドラマのようにパート分けされているのが特徴で、プロローグ、事件解決のために必要なヒントを集めるチャプター(1~4つ程度)、犯人を特定、真相を明らかにする解決編、そしてエピローグという流れで構成されている。

Root Film WHAT's IN? tokyoレビュー

▲個人事務所“八雲映像”を構える貧乏映像作家、八雲MAX(本名の凛太朗で呼ばれる場面は皆無/CV.駒田 航)が主人公。彼がパイロット版の撮影から10年ものあいだ中断されていたという、島根県を舞台にしたTVドラマ制作のプロジェクトに関わるところから物語はスタートする

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▲八雲編では八雲映像のアシスタントである曲 愛音(写真右/CV.芹澤 優)、ドラマの主演女優である天方一葉(写真中央/CV.久保田未夢)らとシナハン(シナリオハンティング。ドラマの構想を練るための下見・取材)で島根県の名所を巡っていると、そこで事件に巻き込まれる……という展開で謎を解き明かしていく

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▲もうひとりの主人公のリホ(写真左/CV.茜屋日海夏)とマネージャーの真鍋祥子(写真右/CV.日髙のり子)。彼女たちが活躍するリホ編もドラマ撮影やロケハンで島根県の各地を巡っていると、不可解な殺人事件が発生。真相究明のために行動する

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▲各エピソードはテレビドラマのようなパート分けがされている。チャプターの合間にはアイキャッチが入り、解決編をクリアすると毎回主題歌+エンドロールが流れ、次のエピソードへ移行していく

八雲編、リホ編ともにゲームは移動可能な場所に赴き、その場にいるキャラクターと会話をし、気になるポイントを調べて事件解決のヒントを集めていく……という、アドベンチャーゲームとしてはオーソドックスな形式で進行していく。仕組み自体はクラシックとも言える仕様ではあるものの、その見せかたに関してはいまの時代に合わせた工夫が施されている。会話のシチュエーションに応じたイラストがふんだんに用意されているのはもちろんのこと、画面内に調べるべきポイントが出現した際のレイアウト、八雲やリホが事件解決に必要なヒントを認識すると発生する“共感覚”の演出などはスタイリッシュにまとめられている。さらに解決編に入ると共感覚で得た情報をぶつけて事件の犯人を(精神的に)KOする“MAXモード”という見せ場もある。こういった気の利いた演出に加えて、なにより純粋に話が面白くて先が気になる(基本的に殺人事件そのものの謎は1話のなかですごくキレイに解決されるが、10年まえに封印されたプロジェクトの謎が深まっていく点はドラマとして秀逸)。個人的にはゲームプレイ中にテキストを“読まされている“と感じることはなく、本作の世界に入り込むことができた。

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▲会話可能なキャラクター、調べることのできるポイントは上記のように強調され、見逃すことはまずない

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▲事件に関連する情報を八雲やリホが認識すると、共感覚が発動。共感覚ワードとして記憶され、解決編で犯人を追いつめるための手札として利用可能になる

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▲各エピソードのクライマックスとなる解決編パートでは、犯人と思われる論戦相手の矛盾を突く共感覚ワードを提示。画面上部のゲージを完全に真相解明のほうへ傾けることで、事件解決となる

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▲ヒント探しや共感覚の発動、MAXモードといったゲーム的な見せ場だけでなく、会話シーンの“カット割り”(イラストが豊富)にバリエーションがあるのも本作の特徴のひとつ

ミステリーへの愛と真摯さが伝わるゲームデザイン

共感覚ワードやMAXモードという謎解きを盛り上げるゲーム的なギミックは、実際にプレイしてみるとプレイヤー主体で謎を解明するための助けとなる“システム“というより、あくまで八雲やリホの個性を際立たせ話そのものを面白く見せるための”演出効果“として用意されている側面が強いように感じた。基本的にふつうにゲームを進めていれば必要な共感覚ワードは確実に手に入り(必要な手札が揃うまではストーリーが進行しない)、MAXモードでミスを複数回犯しても正解となる共感覚ワードを選べばリカバリーが可能。要はゲームオーバーになることが困難なぐらいの難易度設定になっているのだ。

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▲必要な共感覚ワードを取りこぼす恐れがなくオートセーブ機能も搭載されているため、プレイしていて“詰み”に陥るケースは極めて少ない。MAXモードでのミスも1、2回であれば許容範囲だ

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▲プレイしていて見落とす可能性があるのはゲーム本編に深く関わる共感覚ワードのようなものではなく、島根県由来のゲストキャラクター(?)と出会うおまけ要素。ご当地マスコットのしまねっこや同県出身のお笑い芸人ネゴシックスと会うためには、事件解決に直接関係のない場所に行ったり調べたりする必要がある

この難易度設定というかゲームデザインは、間違いなく作り手の意図的なもの。謎を解くのはあくまでゲーム内の八雲たち登場人物の手で行なわれるべきで、プレイヤーは観客だ。それこそテレビドラマを見ている一視聴者として、ストーリーや登場人物の会話を楽しんでほしい……という想いで作られたと個人的には確信している。実際にストーリーの完成度は高く、すべてのエピソードを体験し終わると一見関係がなさそうに見えた(見せていた)八雲編とリホ編が非常に深いレベルでつながっていたことが明らかになるのは当然のことながら、ゲームを進めていくうえで浮かんだ疑問に対する解答を力技(シナリオの勢いやキャラクターの特殊能力で解決、みたいなノリ)ではなくスマートな形で提示してくれる。この作中の謎に真摯に応えてくれるというスタンスは、各エピソードの解決編の展開にも通底しており、殺害トリックや八雲とリホがMAXモードで犯人を追いつめる話運びに違和感を覚えることはなく、満足感を持ってストーリーを追うことができた。

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▲ミステリーの肝であるトリック、真相、犯人の特定、殺害に使われた凶器といった事件を構成する要素のいくつかは、共感覚ワードを集めている途中で気づくことも少なくない。しかし、ミステリーの定番要素を組み合わせて破綻なく見せる手際が秀逸。プレイヤーにある程度謎がわかったという優越感を与えつつ、その想像の少し上をいくのがうまい

本作が真摯かつ丁寧に作り込まれているといえば、ゲームの舞台に選んだ島根県の(テキスト)描写と、統一感のあるビジュアルも魅力として挙げないわけにはいかない。八雲たちがシナハンで訪れる町や島は例外なく地元の観光協会が制作協力として名を連ねているうえ、登場する神社や旅館、食事処といった観光スポット、はては警察署や病院、公民館といった場所までロケ地として協力。実際のロケーションをほぼ完璧に把握したうえで、テキストが持つ雰囲気にベストマッチした上品な背景美術としてゲーム内に落とし込まれている。

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▲近年エンタメとして定着した、聖地巡礼ものとしても高い完成度を誇る。観光スポットにはなり得ない警察署や病院まで丹念にロケーションを行なった背景美術はもちろん、島根県の歴史や神話に精通した“濃い“テキスト情報も見どころ

ビジュアル、ストーリー展開、キャラクター描写など、ゲームを構成するあらゆる要素に作り手の意図が行き渡っている『Root Film(ルートフィルム)』。プレイヤーが主体になって謎を解くアドベンチャーゲームと思いこんでプレイすると序盤は肩すかしを感じる部分はあるが、共感覚ワード、MAXモードといった要素を活用した事件解決の見せかたは、やはりゲームならではの演出方法なのはまちがいない。話運びの丁寧さやまとまりの良さに関しても、本作がオマージュを捧げるテレビドラマや映画に存在する放映時間や撮影技術といった制約がないゲームだからこそできたのではないかと思う。さらに付け足せば、近年の映像作品にありがちな続編を匂わせるようなシーンが挟まれることもない。各エピソードで起こる個々の殺人事件の動機、物語の縦軸である10年まえのプロジェクト凍結の謎や関わった人物の背景などすべてに納得のいくアンサーが用意されているので、質の高い読み物を求めている人、ゲームというジャンルを活かしたミステリーを体験したい人はぜひ手に取ってもらいたい。

フォトギャラリー 

■タイトル:Root Film(ルートフィルム)
■発売元:角川ゲームス
■対応ハード:PlayStation®4、Nintendo Switch™
■ジャンル:ミステリーアドベンチャー
■対象年齢:17歳以上
■発売日:発売中(2020年7月30日)
■価格:パッケージ版・ダウンロード版 各6,800円+税


『Root Film(ルートフィルム)』オフィシャルサイト

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