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百合展開を加速させる秘訣は恐怖にあり! 『夜、灯す』でひと味違ったホラーアドベンチャーを堪能

百合展開を加速させる秘訣は恐怖にあり! 『夜、灯す』でひと味違ったホラーアドベンチャーを堪能

日本一ソフトウェアからリリースされたホラーゲームといえば、『流行り神』シリーズや『夜廻』シリーズ、『祝姫 -祀-』など多数あり、良質な作品が多いという印象だ。2018年には実写をビジュアルとしたシネマティックホラーアドベンチャー『クローズド・ナイトメア』をリリースするなど、意欲的な作品にも取り組んでいる。

一方で、2019年にはガールズアドベンチャー『じんるいのみなさまへ』をリリースするといった、百合ジャンルにも力を入れている。そんな日本一ソフトウェアが得意とするホラーと百合という二大ジャンルを組み合わせた結果、どのような作品が生まれることになったのか。本稿では、『夜、灯す』のレビューについてお届けしていく。

文 / 島中一郎


日本一ソフトウェアが打ち出した百合の定義とは

そもそも、百合とはどのようなコンテンツを指す名称なのだろうか。本作のプロデューサーを務める菅沼元氏は、日本一ソフトウェアの公式生放送「ゆるっと日本一 第50回 _『夜、灯す』特集!」にて、百合とは「女の子同士の関係性を第三者視点から楽しむコンテンツ」と定義づけしている。

つまり本作では、女の子同士の恋愛模様だけに限らず、純粋に絆を深め合い、時には敵対するなど、様々な関係性を包括して百合というジャンルとしているわけだ。そんな菅沼氏のコメント通り、本作では5人の女の子たちの物語が丁寧に描かれている。

舞台となるのは、かつてはお嬢様学校と呼ばれていた由緒正しき学校「神楽原女学園」。学園の箏曲部(そうきょくぶ)の部室では、十六夜 鈴、青柳真弥、舞原 累、田鎖麗子たち部員がコンクールに向けて夏休みの自主練習に励んでいた。

ある日をきっかけに、鈴は名も知らぬ黒髪の女性と、それを「お姉さま」と慕う女性の夢を見るようになる。「すっごくリアルで、現実みたいな夢だった」と不思議がる鈴だったが、そのお姉さまと見た目がそっくりの皇 有華が転校してきたのだから驚きだ。そして有華の転校をきっかけに、物語に暗い影が差し始めることになる。

最初に起こるのが、部員間の不和だ。筝曲の家元の娘であり一流の腕を持つ有華は、箏曲部の演奏について、「音楽への冒涜」だと頭ごなしに否定する。あまりにも無神経な言い方をする有華に対して、負けん気の強い累が反発。仲違いする形で、有華と部員たちは別々の場所での練習を続けることになる。

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▲鈴たちが所属する筝曲部は、箏を経験している人が少なかったため、「真剣に楽しく」をモットーとしている

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▲箏に対して幼い頃から真剣に取り組んできた有華は、部活の緩い雰囲気が気に入らない

大会での好成績を確実なものとするには、実力者である有華の協力は欠かせない。しかし、有華を部活動に参加させるには箏曲部の演奏を認めさせ、さらには部員たちとの関係を修復させなければならない。箏曲部のエースで次期部長である鈴は、部活内の問題に大いに頭を悩ませることになる……。

このような具合にギスギスとした空気の箏曲部だったが、そんな中、唐突にホラー展開が始まるから驚きだ。箏曲部の部長が血まみれの姿で見つかるといった衝撃的なシーンを始まりに、5人の少女たちにも次々と怪異現象が襲い掛かるようになっていく。死への恐怖は少女たちをとことんまで極限状態に追い込み、命の危険に晒された友人を助けるか否かという場面では、友情や絆、もしくは正義感が試されることに。危機一髪の状況を乗り越えていく過程で、女の子同士の関係性は発展、絆はより深いものへと変化していく。そういった意味で、ホラーと百合というジャンルは非常に相性が良い組み合わせのように感じられた。

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▲部長に起こった事故をきっかけに、5人のもとへ様々な怪異が起こるようになる

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▲箏について少し詳しくなれるトリビアもある。また、BGMやSEにも箏の音色を使用するなど、センスを感じさせる作りだ

深く丁寧に描かれる少女たちの関係性

シリアスやホラーなシーンばかりではなく、女の子同士のほのぼのとした日常シーンもふんだんに用意されているので、そういった場面を期待されている方も安心してほしい。学校にまつわる怪談話で盛り上がったり、和気あいあいと食事をしている場面はにぎやかで楽しく、プレイしていて思わず頬が緩んでしまうはずだ。

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▲物語の冒頭では累の怪談話に怯えた真弥が、鈴のスカートに頭を突っ込むといったおバカシーンもある

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▲少女たちそれぞれの個性がしっかりと表現されている食事シーン

筝曲部5人のメンバーたちの物語が進むにつれて、前述した鈴の夢の中に現れる「お姉さま」と呼ばれる存在である小夜子についてのエピソードも、明らかになっていく。小夜子が鈴の夢に現れる理由や、小夜子をお姉さまと慕う人物は誰なのかといった謎が物語のスパイスとなっており、最後まで飽きさせないつくりとなっている。

また、少女たちの関係性だけでなく、少女自身の成長についても丁寧に描かれていることを強調しておきたい。はじめは部員たちに失礼な態度をとり続けた有華だったが、鈴の温かさに触れ考えを改めるようになり、少しずつ周りに心を開くようになっていく。

一方で、鈴の幼馴染である真弥は、鈴との距離感を縮めていく有華の存在が気に入らない。鈴を失いたくない一心から、引っ込み思案という殻を自ら破り、有華に箏の腕前を競う勝負を持ちかける。勝負の結果、真弥はプレイヤーの予想の斜め上を行くようなキャラクターに変貌を遂げることになるのだが……。詳細については、ぜひご自身の目で確かめてみてほしい。

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▲明るく優しい鈴に、有華は少しずつ心を開くようになる

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▲真弥と有華が対立するシーン。この後、真弥に衝撃的な展開が……!?

筆者が個人的に気に入っているシーンは、怪異の原因を調査するため、5人でミーティングを行う場面だ。怪異に対してパニックに陥ったり無策のまま立ち向かうのではなく、しっかりと話し合いができるところに仲間たちの大切さや頼もしさが感じさせてくれる。怪異を解決できるかもしれないという希望をプレイヤーに持たせてくれるシーンでもあり、女の子同士の固い結束も感じさせてくれるシーンだ。

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▲ミーティングでは、都市伝説について言及されるシーンもある。『流行り神』シリーズをプレイした方であれば、思わずニヤリとしてしまう場面だろう

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▲本作では物語の序盤早々に退場してしまうが、筝曲部の部長も大変魅力的なキャラクターだ。鈴のワガママに対して心底困り果てた様子を見せるシーンが最高に可愛い

キャラクターに感情移入してしまうぶん、ホラー表現が深く心に突き刺さる

ゲーム画面ではキャラクターの立ち絵とメッセージウィンドウが表示され、テキストを読み進めていくことでストーリーが進行していく。イラストレーターのカオミン氏が描くキャラクターはいずれも繊細で美しく、ふとすれば瞳に吸い込まれそうな感覚を抱いてしまうほど魅力的だ。

キャラクターの表情差分は豊富に用意されており、声優陣の熱のある演技も相まって物語へとグイグイと引き込まれて行ってしまう。また、少女たちの学生服姿のほかに、私服姿も用意されていることも嬉しいポイントだろう。

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▲鈴の部屋でやりとりを行うシーン。秘密の花園を覗き見してしまっているような背徳感があり、思わずドキドキしてしまった

一方、主人公たちの生死に関わるシーンでは、どのような行動をとるかをプレイヤーに選択が委ねられる場面もある。誤った選択をすると、屋上からの転落や電車にひかれるなどの惨事が起こり、少女たちは即死亡してしまう。日常パートではにこやかに話していた少女たちの姿を知っているだけに、彼女たちが無残にも殺されてしまう衝撃はあまりにも大きい。

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▲誤った選択をしてしまうと即バッドエンドを迎えてしまうが、一度選んだ選択肢が分かるようになっているなど、親切な設計。選択肢を選ぶ場面ではオートセーブ機能が働くため、いちいちセーブを分けておく必要もない

なお、バッドエンドを迎えてもオートセーブ機能があるため即リトライできるほか、スキップ機能が用意されているなどシステム面も快適。少女たちが息絶えているような過激な描写もほとんど用意されていないが、テキストから悲惨な結末は嫌でも想像してしまう。キャラクターに感情移入しているプレイヤーほど、バッドエンドのシーンは心に突き刺さるだろう。

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▲踏切の緊急停止ボタンを押したにも関わらず、電車が止まらなかった理由とは……? 絶望を絶望で上塗りするような展開には鳥肌が立ってしまった

ホラーと百合のジャンルが上手く融合しており、しっかりと引き込まれるストーリーが魅力な『夜、灯す』。プレイ時間もアドベンチャーゲームとしては短めの部類なので、さっくり楽しみたい方にもピッタリな一本となっている。暑い夏を涼しく、かつ百合成分たっぷりに過ごしたい方に、ぜひとも手に取っていただきたい。

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■タイトル:夜、灯す
■ジャンル:ホラーアドベンチャー
■対応ハード:PlayStation®4/Nintendo Switch™
■発売日:発売中(2020年7月30日)
■価格:パッケージ版/ダウンロード版 6,980円+税
■プロデューサー:菅沼 元
■ディレクター:山本 義紀
■キャラクターデザイン:カオミン
■対象年齢:15歳以上

『夜、灯す』オフィシャルサイト
https://nippon1.jp/consumer/yorutomosu/
『夜、灯す』オフィシャルTwitter
https://twitter.com/nis_yuri_games

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