声優・楠木ともりが待望のソロデビュー。1st EP「ハミダシモノ」をリリースする。
TVアニメ『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン』で主役のレン役、『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』では優木せつ菜役をつとめるなど、若手声優のトップランナーとして注目されている楠木ともり。メジャーデビュー作となる「ハミダシモノ」には、彼女がミーシャ・ネクロン役として出演しているTVアニメ『魔王学院の不適合者〜史上最強の魔王の始祖、転生し子孫たちの学校へ通う〜』のエンディングテーマ「ハミダシモノ」のほか、彼女自身が作詞・作曲した楽曲を収録。アーティスト/シンガーとしての才能を感じさせる作品に仕上がっている。
初登場となる彼女に、音楽的なルーツ、1st EP「ハミダシモノ」の制作についてじっくりと語ってもらった。
取材・文 / 森朋之
いつ音楽が好きになったか自覚がないんですよね(笑)。気が付いたら身近にあった
このインタビューの前は、1st EP「ハミダシモノ」の発売を記念したインターネットサイン会。いよいよCDリリースという実感も出てきたのでは?
日に日に増していますね。私も好きなアーティストの方のCDはよく買うし、手元に残しておきたいという気持ちもあって。歌詞カードも好きなんですよ。歌詞自体はネットでも調べられますけど、フォントとかデザインのこだわりも知りたくて。「ハミダシモノ」の歌詞カードもレイアウトが凝っているので、ぜひ手に取ってもらいたいなって。セルフライナーノーツも併せて読んでいただきたいです。
「ハミダシモノ」のリリースをきっかけに、アーティスト活動もさらに本格化しそうですね。まず、ともりさんの音楽のルーツから聞かせてください。ともりさんのラジオ番組(『楠木ともり The Music Reverie』/文化放送)からも、音楽ラバーぶりが伝わってきて。
ありがとうございます(笑)。
ロック、アニソンを中心にいろんな音楽に興味があると思いますが、もともとはどんなジャンルが好きなんですか?
物心がつく前は、車の中で聴いてた音楽ですね。主に父の趣味なんですが、BONNIE PINKさんやスピッツさんがよくかかっていて。父は洋楽も好きだから、それも自然と聴いていました。あと、3歳の頃からピアノを習っていたので、いつ音楽が好きになったか自覚がないんですよね。気が付いたら身近にあったというか。
私、好きになった曲に飽きることがなくて。シフトチェンジというより、好きなものがどんどん増えていく感じですね
これまでのインタビューなどで、ハルカトミユキ、さユりなどが好きだと話してますが、自分から音楽を探し始めたのはいつ頃ですか?
小学校高学年から中学校に入った頃ですかね。ネットでいろんな音楽を聴くようになって、ハルカトミユキさんに辿り着いて。同時期に、友達の影響でアニソンも掘り下げるようになりました。私、好きになった曲に飽きることがなくて。シフトチェンジというより、好きなものがどんどん増えていく感じですね。
ボーカロイド系はどうですか?
聴いていました! 私の家族はネット系の音楽に触れていなかったんですけど、それこそ友達の影響で聴くようになって。高校生のとき、軽音部でボカロとアニソンのカバーバンドもやっていました。主にボーカルで、たまにキーボード・ボーカルもやって。アニソンもボカロも難しい曲が多いので、歌いながら弾く余裕はなかったですけど(笑)。
演奏難易度が高い曲が多いですからね。
そうなんですよ。私たちは「上手くなって、大会に出よう」ではなく、エンジョイしていたというか。やりたい曲を軽音部のなかで披露して、「楽しかったね」という感じでしたね。
高校生の頃、オリジナル曲は作ってなかったんですか?
作ろうとしたことはあったんですが、結局ライブでは他のメンバーが作った曲を披露しました。しっかりと曲を作ったのは、声優としてデビューしてからなんです。私のボイストレーニングの先生でもある多田三洋さんが主催しているアコースティック・ライブに出させていただいて、最初はカバーがメインだったんですが、「自分の曲も歌ってみたい」と思って。「ノウハウはわからないんですけど、作ってみていいですか?」って多田さんにお聞きしたら、「どんどんやってみてください」と言ってくださって。初めて作ったのが、今回のEPに収録されている「眺めの空」なんです。
力強くて、儚さや優しさも感じられて。いろんな表情が見えるところにも惹かれて、「できればこの曲で!」とお願いしました
なるほど。「眺めの空」の話は後ほど聞かせてもらうとして、まずはEPのタイトル曲「ハミダシモノ」のことから。ともりさんがヒロインのミーシャ・ネクロン役を演じているTVアニメ『魔王学院の不適合者 ~史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う~』エンディングテーマで、作曲は重永亮介さん(藍井エイル、ASCA、AKB48などの楽曲を手がけるクリエイター)。デモ音源を聴いたときは、どんな印象を持ちましたか?
じつは候補として何曲かデモ曲をご用意いただいたんですが、その中でも一番自分の音楽性に馴染んで、アニメにも合っているなと思ったのがこの曲だったんです。力強くて、儚さや優しさも感じられて。いろんな表情が見えるところにも惹かれて、どの曲も素敵だったのですが「できればこの曲で!」とお願いしました。ただ、歌詞を書くのはすごく大変でした。いままでは自分の考えや、自分が持っている世界を歌詞に起こしていたんですが、「ハミダシモノ」はアニメや、作者の方の世界観にも合わせたくて。“メジャーデビュー曲”“タイアップ曲”というプレッシャーもあったので、いままでで一番時間がかかってしまって。難産でしたが、最終的にすごくいいものになったので良かったです。
この曲でも、いろんなキャラクターの強さを表現したくて。あとは聴いてくれた方によって、聴こえ方が変わるような曲にしたいという意識もありました
歌詞の中心のテーマはどんなものだったんですか?
そこが悩んだところでした。このアニメにはいろんな要素が盛り込まれているから、何をテーマにすればみなさんに楽しんでもらえるか、“今日の放送も良かったな”と思ってもらえるかをずっと考えて……。主人公のアノスだけじゃなくて、すべてのキャラクターが強いんですよ、端的に言うと。しかも(フィジカルの)力強さだけではなくて、気持ち的な強さや、理想像を強く持っているんです。なのでこの曲でも、いろんなキャラクターの強さを表現したくて。あとは聴いてくれた方によって、聴こえ方が変わるような曲にしたいという意識もありました。
ともりさん自身の気持ちも乗せている?
それはもちろんあります。特に2コーラス目以降は、アニメのことを意識しつつ、自分が思っていることをさらに濃く書いていて。アニメの曲というだけではなく、聴いてくれた方自身に刺さる歌詞になればいいなと思います。
特に<弱さ悔しさも全て力にして/またやり直せばいい>はすごくフックがありますね。
ありがとうございます。私自身、失敗しちゃうと捉われすぎるというか、かなりヘコんじゃうんです。いま言っていただいた歌詞は、自分にも刺さります。
よく「打たれ弱いけど、負けず嫌いなんです」って言ってるんですよ、私
仕事を続けていくなかで、失敗を引きずってはいられない状況もあると思うんですが、どうやって気持ちを切り替えているんですか?
まず、自分をとことん沈ませます(笑)。よく「変わってるね」って言われるんですけど、イヤなことや辛いことがあると、その気持ちをとことん膨らませるんです。心残りがなくなるまで落ち込むと、ポジティブな感情を奮い立たせて、乗り越えられるんですよね。よく「打たれ弱いけど、負けず嫌いなんです」って言ってるんですよ、私。へこみ切ったあとは、必ず“悔しい”ってなるのがわかっているから、安心して落ち込めるというか。20年間生きてきてそれは自覚しました。
落ち込むときって、音楽は聴くんですか?
聴きますね。一緒に落ち込める曲をずっと聴いています。
素晴らしい(笑)。「ハミダシモノ」がアニメのエンディングテーマとして流れたときの印象は?
めちゃくちゃカッコ良かったです。特に4話では、最後の戦闘シーンのところで挿入歌として使っていただいて。作品が進んでいくにつれて、曲の聴こえ方が変わっていくようにしたかったので、すごく嬉しかったです。
その他の収録曲はすべて、ともりさん自身が作詞・作曲した楽曲。まずは先ほども話に出ていた「眺めの空」。初めて作った曲とは思えないクオリティだなと。
わ、嬉しい(笑)。コードのことがわからないので、編曲は多田さんにお任せしたんです。メロと歌詞をお渡しして、「ここはマイナーコード、ここはメジャーコードがいいです」という話をしながらアレンジして。せっかくピアノを習っていたのに、コードのことがわからないのは両親に申し訳ないなと思いつつ(笑)、音感だけは培われたみたいで、鼻歌で歌ったものをメロディとして起こすことはできるんです。
ずっとスマホを握りしめながら作っています(笑)
メロディを作るとき、楽器は使わない?
使わないです。歌詞をスマホにメモして、浮かんできたメロディをボイスで録って。ずっとスマホを握りしめながら作っています(笑)。
(笑)ガレージバンドでアレンジしてみたことは?
一度試したことがあるんですが、“やっぱりコードやアレンジはプロの方にお任せしたほうがいいな”という結論に達して。歌詞とメロディで自分の気持ちはしっかり伝えられるし、あとはお願いしたいなと。でもいつか、自分でアレンジまでできたら楽しそうだなと思います。
歌詞を書いたのも、「眺めの空」が初めてだったんですか?
そうですね。辛いことやムシャクシャすることがあったとき、自分が思っていることを書き出すことはよくあったんですが、歌詞にしたのは「眺めの空」がほぼ初めてで。ただ、この曲は自分の気持ちや、経験したことを赤裸々に描いてるわけではないんです。それを書くのは恥ずかしかったから、完全にフィクションというか、空想上の物語を小説みたいに楽しんでもらえたらなって。
歌い終わってから「じつは自分で作りました」って言ったら、すごく驚かれて
なるほど。この曲は既に多くの方に聴かれていて。自分で作った曲が広まっていくのは、どんな感じですか?
感慨深いです。初めて「眺めの空」をライブで披露したとき、歌い終わってから「じつは自分で作りました」って言ったら、すごく驚かれて。インディーズ時代にアコースティック・バージョンでCDを出して、今回、新たにアレンジしていただいて、1st EPに収録して。一つずつ夢を叶えてきた楽曲なので、それを受け入れてもらえてるのは嬉しいです。
続く「ロマンロン」はどんな作り方だったんですか?
サビのメロディが浮かんで、“これを使って曲を作りたい”と思ったのが最初ですね。変拍子を取り入れたキャッチーな曲にしたくて。メロディ自体もちょっと不安定な感じだったので、歌詞もそういう題材を選んで完成させました。
夢を追いかけているときの不安や希望が混ざった気持ちが感じられて。
仲のいい友達にずっと夢を追いかけている子がいるんです。すごく難しい夢で、がんばっている姿をずっと見てきて。“このまま夢を追いかけ続けていいのかな”って悩むこともあると思うんですが、私としては、夢を追いかけている姿勢そのものがカッコいいし、素敵だなと思っているんです。結果だけではなくて、がんばっている姿を肯定したいなって思っているし、それがこの曲のテーマになっています。
ともりさん自身はどうですか? まだ夢が叶ったとはいえない?
やりたいと思っていたことが一つ一つ叶っていて、幸せだなと思います。私は声優を目指す前、グッズをデザインする人になりかったんですよ。大人にも刺さるようなデザインのガチャガチャのグッズとか。
“歌いたい”という夢も叶っているし、もちろん声優としても成長を感じられる日々を送っていて。濃い毎日だなと思います
そうなんですね!
はい(笑)。なので美大を目指していたんですが、仕事が忙しくなってきて、その目標は諦めて。でも、“歌いたい”という夢も叶っているし、もちろん声優としても成長を感じられる日々を送っていて。濃い毎日だなと思います。
CD盤面のイラストデザインを手がけたり、デザインのセンスも活かされてますよね。
そうなんです。ライブのグッズ制作にも関わらせていただいて、やりたいことをやらせていただいています。
そして4曲目の「僕の見る世界、君の見る世界」は、作詞がともりさん、作曲はともりさんと重永さんの共作です。
これも少し変わった作り方なんです。重永さんと一緒に曲を作ることになり、まず、私が歌詞を書いて。それをもとにして、「こういう雰囲気の曲にしたいんですよね」と相談しながら――爽やかで、疾走感があって、ロックな感じで――コードをつけてもらったんです。それを繰り返し聴きながら、メロディが浮かんできたらパッと録って、聴いてみて。それを繰り返しながら曲にしていったんです。
歌詞とコードをもとにして、メロディを作るという順番なんですね。
そうです。最初は“どうしよう? できるのかな?”って思っていたんですけど、意外と浮かんできました。ふだんは歌詞を先に書いて、そこにメロディを付けることが多いから、作業としてはそれほど変わらなかったのかも。コードが導いてくれたところもあったし、新しい発見がたくさんあって楽しかったです。メジャーコードが多いんですけど、ずっと明るいだけではなくて、絶妙なバランスでマイナーコードも出てきて。歌いやすかったです。
ともりさんがこの曲のセルフライナーノーツで書いていた「“憧れの存在”というのは、時に呪いのように付き纏う気がします」という言葉も印象的でした。
私自身、そういうことがあって。影響されやすいというか、憧れの人がいると、その人になろうとしちゃう部分があるんです。その結果、自分をおざなりにして、いいところを捨てそうになることもあるんですよね。そうじゃなくて、自分自身を認めて大切にしてあげたほうがいいし、そういう人がふえたらいいなと思います。
この曲を聴くと自分を見つめ直せるし、書いてよかったなと思います
なるほど。いまは自分自身を肯定できてる?
そうですね。「僕の見る世界、君の見る世界」は、もちろん聴いてくださる方に届けたいんですけど、自分自身のことを立ち止まらせてくれる曲でもあって。この曲を聴くと自分を見つめ直せるし、書いてよかったなと思います。
このEPがリリースされることで、ともりさんのボーカルの魅力がさらに広く伝わると思います。歌声、すごく個性的ですよね。繊細さと激しさ、ポップなところが共存しているというか。
嬉しいです。私はずっとこの歌い方なので、個性的かどうかはわからないんですけど(笑)。両親には「歌い方が変わってきた」って言われるんですが、それも自分ではわからなくて。成長している部分はあると思うんですが、基盤はあまり変わっていないんじゃないかな。
歌詞には一貫したテーマがあるんです。応援より、肯定したくて
いろんなタイプの曲が似合いそうですが、今後はどんな曲を作っていきたいですか?
ロックが好きなんですけど、ジャズロックや、最近はアンビエントにも興味があって。アンビエントはボーカルを楽器的に使っていることが多くて、声優としてもチャレンジしてみたいんですよね。歌詞には一貫したテーマがあるんです。応援より、肯定したくて。
“がんばれ”ではなくて、“それでいい”と。最近も曲を作ってるんですか?
はい。気分転換で曲を作っているので、仕事という感じではないんですけど。いろんな曲があるので、ぜひ楽しみにしていただきたいです。
その他の楠木ともりの作品はこちらへ。
ライブ情報
1stEP「ハミダシモノ」発売記念オンラインライブリリースイベント
詳細はオフィシャルサイトにて
楠木ともり
1999年生まれの現在20歳。2016年に開催されたソニー・ミュージックアーティスツ主催の声優オーディション「第5回アニストテレス」で特別賞を受賞し、2017年に声優デビューすると、2018年には TVアニメ『メルヘン・メドヘン』にて初主演を果たし、TVアニメ『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン』や『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』など、次々と人気作のメインヒロインに抜擢。若干19歳にして第十三回声優アワードにて新人女優賞を受賞。今最も勢いのある若手女性声優の一人。
オフィシャルサイト
https://www.kusunokitomori.com