マンスリーWebマンガ時評  vol. 9

Review

アニメ放送中の『Re:ゼロ』も! 「仕掛け」に注意しながら読みたい、「なろう発」ミステリー作品の楽しみ

アニメ放送中の『Re:ゼロ』も! 「仕掛け」に注意しながら読みたい、「なろう発」ミステリー作品の楽しみ

数多くのヒット作を生んできたウェブ小説プラットフォーム「小説家になろう」。連載形式で作品を発表できることも相まって、先の展開が気になるミステリー要素との相性は抜群だ。
張り巡らされた仕掛けに唸らされること必至の「なろう発」作品、そのコミカライズ版をご紹介。

文 / 飯田一史


薬に目がない探偵役!? 中華風ミステリー『薬屋のひとりごと』

©2020 Natsu Hyuuga/Shufunotomo Infos Co.,Ltd.
©Nekokurage/SQUARE ENIX
©Itsuki Nanao/SQUARE ENIX

「小説家になろう」発の人気ミステリー……と言っても、ファンタジーと比べるとたくさん思いつく人は少ないかもしれない。
しかしミステリー的な楽しみ方ができる「なろう発」の作品もある。

その代表的な作品が日向 夏『薬屋のひとりごと』だ。
本作はコミカライズ版が2種類あり、今回はスクウェア・エニックスから刊行されているもの(作画:ねこクラゲ、構成:七緒一綺)を紹介しよう。

主人公は17歳の後宮下女の猫猫(マオマオ)。彼女はもともとは薬師として色街で働いていたが、薬草採取に出掛けた森で人さらいに誘拐され、後宮で勤めることになる。
後宮で生まれるお世継ぎの連続死事件の真相を密かに妃に文を通じて伝えたことを皮切りに侍女に出世した彼女は、権力闘争に基づく陰謀が渦巻き、影があり裏の読めない人物が跋扈する後宮での事件を、薬学の知識と持ち前の好奇心をもとに解決していく。

「夜な夜な城壁の上で踊る女の霊」のような奇怪な謎、後宮内でのコミカルなやりとりを挟みながらどんな病状なのか、その原因なのかを推定していく中段のサスペンス、そして意外な結末。
さらには薬屋が主人公なので事件の真相(原因)が判明したあとに「どうやって病を治すのか?」というもう一歩踏み込んだ展開をするのが特徴だ。

ミステリーといえば探偵役のキャラクターのおもしろさも重要なポイントだが、猫猫は薬マニアで珍しい薬物やその素材を手に入れたり、調合したり、毒を体験したりすることにめっぽう目がないという変わった人物だ(かのシャーロック・ホームズも、別の意味で薬物に目がなかったが……)。
下女にもかかわらず字が読めることがバレて宦官長の壬氏(ジンシ)に目をつけられた猫猫は、壬氏がぶら下げる薬関連の物を目当てに、物欲と知識欲に駆動されて行動する。

そして日々宮中で起こる事件を解決していくだけでなく、ただの宦官と考えるにはあまりに謎めいた振る舞いの多い壬氏が本当は何者なのか、若いのに人並外れた医学知識に長けた猫猫とその家族のバックグラウンドにも徐々に迫っていく。

謎解きに限らず、媚薬造りに励んだり、薬の知識を活用して男性に化粧を施し変装させての潜入ミッションなどコミカルな展開も多く、気軽に楽しめる一級のエンタメ作品だ。

『薬屋のひとりごと』(ビッグガンガンコミックス)試し読みはこちら
https://magazine.jp.square-enix.com/biggangan/introduction/kusuriya/

事件の謎、世界の謎、そして内面の謎に迫るループミステリー『Re:ゼロから始める異世界生活』

長月達平が「小説家になろう」で連載中の小説『Re:ゼロから始める異世界生活』。同作を原作とするアニメ第2期が2020年7月から放映中だが、この『Re:ゼロ』もミステリー要素のある「なろう発」作品である。

現代日本から異世界に転移した少年ナツキ・スバルは、唯一手に入れた「死に戻り」の力を使って何度も選択をやり直し、複雑に絡む謎を解き明かしながら、ヒロインたちを救うために奮闘する。

第一章では「死に戻り」の基本設定の説明とメインヒロイン・エミリアとの出会いが描かれた。
第二章では、スバルがエミリアとともに滞在することになったロズワール邸で起きる惨劇を避けるために何度も死に戻りして行動するなかで、ラム、レム、ベアトリス、エミリアといった主要キャラクターたちの片鱗が垣間見えていく。
第三章では、王を選出する「王選」に出馬したエミリアを襲う魔女教大罪司教ベデルギウスと、人々から記憶を奪う怪物・白鯨との戦いを描く。
アニメ第2期は、第三章の終わりで別の魔女教からレムが襲撃を受け、存在を忘れられた眠り人となってしまったことに始まり、第四章に突入。レムを取り戻すべく魔女教「暴食」を倒すことをスバルが決意し、エミリアが向かった「聖域」へと足を運び、そこで行われる「試練」に挑んでいくことが描かれる。

『Re:ゼロ』は第三章までは死に戻りをしながら「事件の謎」を解き、「世界の謎」に迫っていく物語だったが、第四章から始まる「試練」ではスバルやエミリアたちが自らの過去に向き合うことが課され、彼らの「内面の謎」に迫っていく。
ミステリー小説の用語で言い換えれば、第三章まではスバルがフーダニット(誰がやったのか?)、ハウダニット(いかにやったのか?)にチャレンジしていく物語だったが、第四章はそれに加えてある意味でホワイダニット(なぜやったのか?)の物語になっていく。スバルも含めて「このキャラクターはなぜこんなことをする(人間になった)のか」「過去にどんな人間だったのか」を掘り下げ、それぞれのキャラクターの心理の謎を解いていく、内面のミステリーになる。

「事件」「世界」「内面」の謎が絡み合い、明かされていく真実の驚きを存分に味わってもらいたい。

『Re:ゼロから始める異世界生活 第四章 聖域と強欲の魔女』(MFコミックス アライブシリーズ)試し読みはこちら
https://comic-walker.com/contents/detail/KDCW_MF02201266010000_68/

湊 かなえや乙一の影響がうかがえる、どんでん返しと叙述トリック『君の膵臓をたべたい』

『君の膵臓をたべたい』原作:住野よる 作画:桐原いづみ/双葉社

住野よる『君の膵臓をたべたい』は、もともとは「小説家になろう」に投稿された作品である。

病院で「共病文庫」と書かれた文庫本を拾った主人公の高校生男子は、クラスメイトの咲良が膵臓の病気で死期が近いことを知る。ところが、そのことをなんでもないように接したことを面白がった咲良に引っぱられるように、その事実を周囲に伏せたまま2人で出かけたり旅行に行ったりするようになる……というのがあらすじだ。

『キミスイ』って「泣ける青春恋愛小説」じゃないの? と思うかもしれない。それは間違っていない。しかし住野よるは実は湊 かなえや乙一によるミステリー作品を愛読してきたと公言しており(両作家と対談したこともある)、実際、作品にはその影響が見られる。

たとえば『キミスイ』では主人公の名前(固有名詞)が語られず、呼ばれるときの表記は【地味なクラスメイト】【仲良し】といった奇妙なものだ。終盤になってこの叙述の仕掛けが明かされるが、これはミステリーやサスペンス小説でよく用いられる叙述トリックからの影響だろう(実写映画化される『青くて痛くて脆い』や、『また、同じ夢を見ていた』でも名前を利用した叙述トリック的な仕掛けがある)。

さらに住野よるは「人それぞれに視点や感覚が異なり、その視点の違いゆえに見えている世界が違う」ということを描き、そのズレを使って作中の人物と読者に驚きを用意する。これは湊 かなえのミステリー作品と同様だ。湊作品では章ごとに視点人物を切り替えることで少しずつ見える世界を変えていく。これと同じ手法を使って「仲の良い人間同士でもお互いをどう捉えているのか、自他認識にズレがある」という内容の青春小説を書いたのが住野の『か「」く「」し「」ご「」と「 』だ。
『キミスイ』は基本的に主人公男子視点で進むものの、ヒロイン・咲良が記す日記「共病文庫」を使った「世界が違って見える体験」が最後に待っている。

つまり『キミスイ』はミステリーの手法を用いた青春恋愛小説なのだ。

『君の膵臓をたべたい』(アクションコミックス)試し読みはこちら
https://www.futabasha.co.jp/booksdb/book/bookview/978-4-575-84925-7.html

今回紹介した3作は「仕掛け」に注意しながら再読すると発見が多い。「もう知っている」という人もまた触れてみてもらえればと思う。

また、「なろう発」に限らなければ「エブリスタ」発の『櫻子さんの足下には死体が埋まっている』や『京都寺町三条のホームズ』など、ウェブ小説発のミステリー作品はまだまだある。夏休みを利用して新規作品もぜひ掘っていきたいところだ。

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