今、知っておくべき注目声優を解説します!  vol. 8

Column

『ガンダム00』から『おそ松さん』まで、どれもが代表作!? の芸達者ぶり…声優「中村悠一」が必要とされる理由

『ガンダム00』から『おそ松さん』まで、どれもが代表作!? の芸達者ぶり…声優「中村悠一」が必要とされる理由

この人の声を知っておけばアニメがもっと楽しくなる(はず)! 今、旬を迎えている声優の魅力をクローズアップする連載コラム。今回は、『機動戦士ガンダム00』(ダブルオー)グラハム・エーカー役、『おそ松さん』カラ松役、『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』ブローノ・ブチャラティ役など、ヒット作のメインキャラを数多く演じてきた中村悠一さんをクローズアップ。洋画の吹き替えやナレーションなど、アニメ作品以外の活躍ぶりにも要注目です。


正統派の青年主人公として求められる声質

低音が魅力の男性声優はこの連載でも何人か紹介してきたが、中村悠一ほど、“正統派の青年主人公”がよく似合う声優はいないのでは? と思う。

中村の声は、声域としては王道の低音域だが、低音域の中でも高音寄りのキャラクターも、グッと低めのクールな低音キャラも、ケレンなくナチュラルに演じ分けていく。しかも台詞回しも非常にクリアで滑らか。人気声優の中にはその人自身の話し方や発語の仕方、息の抜き方などに自然な特徴が出て、それが個性や魅力となっている人も多いが、中村の発語にはブレがなく1音1音がクッキリと粒だっている。

さらに声質もじつにクリーン。1本キリッと芯が通った雑味のない、落ち着いた低音ながらも、オペラの男性声域でいえば高いバリトン的な香りを漂わせるクリーンなボイスは、台詞回し同様にクセがなく、スッキリと耳に流れ込んでくる。中村はもともとナレーター志望だったというエピソードを耳にしたが、それにも納得だ。クリーンでクリア、クセがなく耳心地のいい落ち着いた彼の声は、ナレーションにとても向いている。確認したい人は、所属事務所のプロフィールページにあるボイスサンプルを聴いてみて欲しい。

……と同時に、そのクリーン&クリアな声と演技こそが、中村に“正統派の青年主人公”がよく似合う大きな理由にもなっている。とくに若者向けのアニメ作品の主人公は、万人に愛されることが望ましい。愛すべきキャラクターとしての個性はあるべきだが、個性の域を超えたクセの強さは、主人公らしさを殺してしまうことになりかねない。その意味でも、クセがなく中音域から低音域までを幅広くカバーする、青年役においては万能型といえる中村の声と、上品かつスマートでカッチリとした演技は、少年の熱さを抜け、落ち着きを持ち始める青年主人公役にはぴったりだ。

中村悠一の代表作を振り返ると、とにもかくにも主人公か、主人公に匹敵する重要な役柄を演じた作品が多い。最近のアニメ作品では、己の信念への執着が男気となって表出する『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』のブローノ・ブチャラティ、冷静そうに見えるが内に熱いものを秘めた『PSYCHO-PASS サイコパス 3』の炯・ミハイル・イグナトフなど、中村がナチュラルに持っている声質によりキャラクターの魅力を倍増させていた。洋画においても、“正義”を擬人化したような根っからのリーダー、『アベンジャーズ』(マーベル・シネマティック・ユニバース)のキャプテン・アメリカもハマリ役。洋画ファンにも人気が高い。

代表作を挙げだしたら止まりません

筆者が最初に中村悠一の名前を知ったのは、アニメ『おおきく振りかぶって』で主人公・三橋廉(CV:代永翼)と唯一無二のバッテリーを組む阿部隆也役だった。『おお振り』の三橋は、人見知りで弱気でネガティブというスポーツ漫画としてはかなり異色の主人公。むしろ、そんな三橋をクールに鼓舞し、戦況を冷静に分析する優秀さを見せつける“阿部くん”は三橋を上回る主人公らしい活躍を見せるシーンも多かった。

そして『おお振り』が放映された2007年から翌2008年にかけて、中村が人気作の主役クラスを一気に射止めていった時期のことも印象的だ。演じたキャラクターもじつにバラエティに富んでおり、中村の演技者としての器用さを実感させられた。先ほど、中村の声質を青年主人公における万能型だと言わせてもらったが、演技においても万能型であることが、良く分かった。

『CLANNAD-クラナド-』の岡崎朋也は、さまざまな悩みを抱えながら、一見クールでSっ気のある毒舌を放つが、内に熱い想いを秘めた等身大の青年だ。ところが、『機動戦士ガンダム00』のグラハム・エーカー/ミスター・ブシドーは、主人公・刹那・F・セイエイ(CV:宮野真守)に肉薄する存在の凄腕パイロットでありながらも、ガンダムへの異常な執着が変態的な言動となって表れた超個性的で破天荒なキャラクターがファンの度肝を抜いた。気障ったらしい台詞を連呼する、コミカルでエキセントリックな演技は、中村のクールで明晰な声質と、彼の声とクリアな芝居が内包する軽やかさをもって、グラハム・エーカーを愛すべき男へと導いた。

いっぽう『しゅごキャラ!』の月詠イクト役では、包容力のある優しい青年をセクシーなウィスパーボイスで演じきった。また『マクロスF』の早乙女アルト役では、見目麗しいルックスで男前イケボを決めるギャップを武器に、クールだがロボットアニメらしい熱量の高さを秘めた王道主人公を、ふたりの魅力的な歌姫に翻弄される思春期の初々しさと共に演じていった。短い期間で、タイプの違う主役級キャラを、それぞれに違ったアプローチから演じ分けていくには、かなりの演技力が要求されたはずであるし、クセのない明晰・明瞭な演技ができるからこそ、さまざまな役柄にも高いレベルで対応できているのだと思う。

淡々としながらも、妹のことになると感情的になる『魔法科高校の劣等生』の司波達也、普段の脱力系男子っぷりから事件を推理するときには態度が変わる『氷菓』の折木奉太郎、飄々としながらも試合では主将としての熱さを見せる『ハイキュー!!』の黒尾鉄朗といった、ギャップが魅力のキャラクターが人気を博しているのも、彼の演技力の確かさがあってこそだろう。『ゴブリンスレイヤー』の鉱人道士では老人役を堂々とこなし、『うたの☆プリンスさまっ♪』の月宮林檎役では、見目麗しくもはっちゃけた女性を軽快に演じるなど、意外性のあるキャラクターも見逃せない。

待望の『おそ松さん』3期、そして現在注目の一本が……

主人公キャラクターを演じることの多い中村は、シリアスな演技も見どころではあるが、コメディリリーフとしてのセンスの良さもポイントだ。一番馴染み深いのは『おそ松さん』のカラ松役。中二病をこじらせたまま、過剰なナルシストぶりを発揮するカラ松の面白さは、中村の圧倒的にイケボな主役声があるからこそ、光り輝くハマリ役だ。『おそ松さん』は2020年10月より第3期が放送開始となるが、6兄弟それぞれがぶっ飛んだ個性を発揮する本作で、次はどんな“イタい”いじられキャラとしてカラ松が活躍するか、とても楽しみだ。

『しろくまカフェ』のグリズリーさんも、ワイルドで男前なのに、シロクマさん(CV:櫻井孝宏)に飄々と振り回されてしまうからこそ、面白い。爆笑キャラではないが、天然で鈍感ゆえの生真面目さが笑いを誘う『月刊少女野崎くん』の野崎梅太郎も、中村がラジオや動画バラエティ番組のプライベートトークなどでも発揮しているユーモアのセンスが主役声とのギャップから滲み出る、彼ならではの役どころだと思う。クリアな声質だからこそ漂う、彼の声の軽やかさはコメディにも向いている。

そんな中、筆者が注目している中村悠一ワークスのひとつが、現在放送中の特撮ドラマ『魔進戦隊キラメイジャー』のガルザの声。ガルザは、キラメイジャーと敵対するヨドン軍の鬼将軍だ。残忍な悪役らしさを発揮しているガルザが、“正義”側を演じることが多い中村によって演じられているというギャップも魅力的。さらに本作では、ガルザから裏切られた兄・オラディンの声を、中村悠一の朋友である杉田智和が演じていることも声優ファンとしての注目ポイントだ(これまで共演作は多数あるが、正義と悪で対立するキャラクターというのは珍しい共演かも知れない)。悪の権化であるガルザを中村が今後どう演じていくか、キラメイジャーとの戦いの中でガルザ自身がどう変化していくかも楽しみにしている。

文 / 阿部美香

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