世代じゃないけど観てみたい!名作アニメ“初見”レビュー  vol. 2

Review

この20年、ほぼTVアニメを観なかったオッサンが『宇宙よりも遠い場所』を大好きになるまでの話

この20年、ほぼTVアニメを観なかったオッサンが『宇宙よりも遠い場所』を大好きになるまでの話

「世代じゃないアニメ」観てみない? 往年の名作&最新の名作を、これまで触れる機会のなかった“若者世代&おじさん世代”がそれぞれ観た初見の感想をご紹介。今回のお題は、2018年TV放送のオリジナルTVアニメーション『宇宙(そら)よりも遠い場所』(全13話)!

本作は4人の女子高生がそれぞれの思いを胸に“南極行き”を目指す青春ストーリーで、2010年代のアニメでは定番になったといえる「新しいことにチャレンジする女子高生」モノの傑作。海外での評価も高く、ニューヨーク・タイムズが選ぶ「2018年 最も優れたテレビ番組・海外部門」のひとつに選出されたという記録もあります。

幅広い層から支持を受けた本作ゆえに、今回はあえて「ここ20年以上、TVアニメをほぼ観ていない」という人に観てもらうことに。書き手は、俳優、映画監督からミュージシャンにアイドル、サッカー選手まで年間250本以上のインタビューを手がけているベテランライターの平田真人さんです。

構成 / WHAT’s IN? tokyo編集部


最近のアニメ(女子)キャラが大の苦手。観るだけでもひと苦労か!? しかし……

幼少期からさまざまなカルチャーを浴びて育ってきた中でも、アニメはその原体験に位置づけられるジャンルだと、自分では思っている。物心ついた頃には『マジンガーZ』などの巨大ロボットものに魅せられ、小学校に上がると、平日の夕方に再放送されていた『あしたのジョー』、『ルパン三世(緑ジャケットの1stシリーズ)』や『巨人の星』など、名作の数々を観ることが習慣に。最初の”ガンプラブーム”の直撃を受けた世代なので、今もなお『機動戦士ガンダム』はバイブルだ。『風の谷のナウシカ』も、リアルタイムの劇場公開時に友達と連れだって観に行ったし、大友克洋の『AKIRA』は原作ふくめて大好きだし──。

と、そこそこ大人になってもアニメを楽しんでいた、と自認していたのだが、『新世紀エヴァンゲリオン』にハマったあたりを最後に、いつからかすっかり遠ざかっていた。最近はアニメを観るにしても、役者やタレントが声で出演した長編映画を取材用に鑑賞というパターンにほぼ限られ、この数年で観た総数は10本にも満たないはず……。そんな現状を包み隠さず、当コラム担当編集のY氏に話したところ、「ぜひ!」とオススメされたのが、『宇宙よりも遠い場所』という作品だった。

白状する。実を言うと、最近のアニメのキャラクターデザインにはちょっとしたアレルギーがあった。特に、“萌え”な絵柄の女子たちには、惹かれないどころか抵抗さえ感じていた。単純に自分がオッサンになって感性が変わったのかもしれないが、そのキャラクターたちに声を吹き込む声優さんたちの話し方や発声にも、アニメファンを萌えさせるための“テンプレート”的なイメージを勝手に抱いていて、どうにも受け付けない、というのが本音だった。

“よりもい”(=『宇宙よりも遠い場所』の略称。この、タイトルからひらがなだけを抜き出す呼び方も当初はどうかと思ったぐらいだ)の絵柄を初めて目にした時も、「こりゃあ、13話見るのも一苦労かもしれないな」と、身構えたのが正直なところ。Amazonプライム・ビデオで本作を見始めた時点では、「だいたい、女子高生たちが南極に行く必要とかあるのかよ? ご都合主義的に物語が進むんじゃねえの?」と、半ばやさぐれながら……というスタンスだった。

事実、キマリこと玉木マリが惰性で日常を過ごす自分に嘆く第1話冒頭のシークエンスを見つつ、「はいはい、出てきた。主人公は前髪パッツン女子ね。主体性のなさと没個性にそこそこ悩んで、自分探しするパターンね」などと心の中で毒づいていたわけだが……第2の主人公たる小淵沢報瀬(こぶちざわ・しらせ)と出会うあたりから、グイッと前のめりになっている自分に気づく──。

結果、イッキ見で涙を流した全13話。そのエピソードの重ね方に膝を打つ

なぜ南極なのか? その確たる理由づけを担う報瀬のバックグラウンドは、スッと腑に落ちるものだった。名前の「しらせ」から察しはついたのだが(日本初の南極探検隊を率いた白瀬矗にちなんでいる)、彼女の母親はかの地に魅せられて観測隊員となるも、不測の事態からブリザードの中で消息を絶ったことが明かされる。その母が最期に見たであろう景色を報瀬自身も目にすることで思いを理解し、ある種の同化を果たそうという心理に基づく設定は、同じ親を亡くして喪失感を味わった者として素直に受け入れることができた(極めて個人的な話ではあるが)。

加えて、思春期だからこそ後先を考えずに突っ走ることができる思いきりの良さと、愚直さ。その分、人付き合いに不器用な報瀬と、毎日を流されるままに生きてきたキマリが出会うことで転がり出す物語は、はたして青春モノとしても群像劇としても、はたまた地続きのアドベンチャーとしても実に完成度も満足度も高い、上質な一篇であった。まずは1話から9話まで夜通しで視て、その後数日のインターバルを置いてからラスト4話分をイッキ見。後半は、ことあるごとにハラハラと涙を流すことしきりだったと、素直に白状しておこう。

メインのキャラクターである女子高生は4人。先述のキマリと報瀬に加えて、わけあって高校を中退するもすでに17歳で大検の資格を持っている三宅日向、3人の1歳下で芸能活動をしている(子役出身の)美少女・白石結月からなる。彼女たちが出会い、互いをかけがえのない存在として認め合っていく過程が1つの幹となっているのだが、エピソードの重ね方がこれまた絶妙なのだ。

また、主体性のないキマリには、めぐっちゃん(高橋めぐみ)という世話好きな幼なじみがいて、悩んだり迷ったりした時はだいたい彼女が導いてくれていたのだが、報瀬と出会って以降、自分の足で立ち自らの考えと意志で行動していくようになる。キマリに頼られる存在であることがアイデンティティーだっためぐっちゃんからすると、自分の存在価値を否定されかねない事案なわけで、嫉妬と羨望からいじけた行動に走ってしまう──。しかし、誰しも多かれ少なかれ感じたことがあろう、”自分が必要とされなくなる寂しさや危機感”を苦悩の末に受け入れて、キマリを南極へと送り出す第5話のラストは、まさしく秀逸だったというほかない。

頑なだった発想と視野を広げてくれた作品に

メインの4人の関係値も妙なベタつきを感じさせず、それでいて胸と目頭を熱くさせるエピソードを適宜ブッ込んでくるものだから、いやはや参ってしまった。日向が高校を辞めることになった遠因に対して、報瀬がエモーショナルにとった行動だったり(第11話)、物心ついた時からずっと仕事をしてきたため、気の置けない友達がいなかった結月が、キマリたちとの友情を立証したいがため、誓約書を書かせて可視化しようとする→その無粋さをも愛しく思い、結月の心を氷解させていく3人の温かみ(第10話)などなど……泣けるポイントを挙げれば枚挙に暇がない。また、南極観測隊の大人たちもクセが強いぶん魅力的で、4人をけっして子ども扱いせず、真摯に向き合う姿勢には学ぶ点が多かったことも付記しておく。

しかし何と言っても、ハイライトは最終話のクライマックスに尽きる。キマリたちが絶景を目の当たりにするさなか、宇宙(そら)の向こう側にいるはずの報瀬の母・貴子から届くメールとその内容には、涙腺の決壊が止まらなかった。なぜ、メールが届くのかって? 気になった人は騙されたと思って第1話から観てみてください(笑)。『宇宙よりも遠い場所』というタイトルの持つ意味も、より深く味わえるはずなので。

結論としては、誰もが夢想と思う「女子高生、南極へ」というファンタジックな設定を、緻密なストーリー構成でドキュメンタリー感に満ちた冒険譚へと昇華させた、いしづかあつこ監督をはじめとするスタッフ陣、そしてキマリたちに生き生きと命を吹き込んだ水瀬いのりら声優陣の素晴らしいパフォーマンスに、心のスタンディングオベーションを捧げたい気持ちでいっぱいだ。

以前であれば、「これをアニメで描く意味ってあるの?」と思っていただろう。が、今は違う。「アニメだからこそ描けたのだな」と、いつしか頑なになっていた自分の発想と視野を、『よりもい』は広げてくれた。そう断言できる。そんなわけで今は、同じ制作チームが手がけているというアニメ『ノーゲーム・ノーライフ』から手始めに観てみようかな、なんて目論んでいる。すっかり“手の平クルー”な自分に、俺自身が一番驚いていたりするのだが──。

(文 / 平田真人)

TVアニメ『宇宙よりも遠い場所』

動画配信サービス各社にて配信中

Blu-ray & DVD 全4巻 好評発売中
BD各巻:9,000円(+税) DVD各巻:8,000円(+税)
【第1巻】第1~3話収録
【第2巻】第4~6話収録
【第3巻】第7~9話収録
【第4巻】第10~13話収録

【スタッフ】
原作:よりもい
監督:いしづかあつこ
シリーズ構成・脚本:花田十輝
キャラクターデザイン・総作画監督:吉松孝博
美術設定:平澤晃弘
美術監督:山根左帆
色彩設計:大野春恵
撮影監督:川下裕樹
3D監督:日下大輔
編集:木村佳史子
音響監督:明田川 仁
音響効果:上野 励
音楽:藤澤慶昌
音楽制作:KADOKAWA
アニメーション制作:MADHOUSE
協力:文部科学省、国立極地研究所、海上自衛隊、SHIRASE5002(一財)WNI気象文化創造センター
製作:「宇宙よりも遠い場所」製作委員会

【キャスト】
玉木マリ:水瀬いのり
小淵沢報瀬:花澤香菜
三宅日向:井口裕香
白石結月:早見沙織
藤堂 吟:能登麻美子
前川かなえ:日笠陽子
鮫島弓子:Lynn
高橋めぐみ:金元寿子
玉木リン:本渡 楓

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