オトナに響くストーリーマンガ  vol. 7

Review

最新恋愛マンガは「陰キャラ」に注目!? 人と人との様々な向き合いかたを描く注目の作品たち

最新恋愛マンガは「陰キャラ」に注目!? 人と人との様々な向き合いかたを描く注目の作品たち

「ラブコメ」というジャンルが確立されているほど、恋愛はマンガにおいても鉄板のテーマ。恋愛至上主義的な価値観が絶対ではなくなってきている現代こそ、このテーマを扱った作品を読むのはかえって面白い。

そんな最新恋愛マンガを読むポイントは、教室の「陰」にいる、人には言えない秘密を抱えるようなキャラクター? 注目の作品をご紹介。

文 / 永田 希


二人のもどかしさが愛おしい『僕の心のヤバイやつ』(著:桜井のりお)

猟奇的な妄想を抱えている男子中学生の市川京太郎と、雑誌のモデルもしているクラスメートの山田杏奈は、毎日図書室で会うのが日課になっていた。自意識過剰めの京太郎と、クラスの人気者の杏奈は、微妙に噛み合わないながら距離を縮めていく。互いを意識しているのに、踏み込み方がわからない中学生2人の、もどかしさがたまらなく魅力的な作品。ちょっとした一言、なにげない一瞥、一挙手一投足にドキドキする感じが生々しい。厨二病の京太郎と天然な杏奈のオーバーリアクションも楽しい。

中学校を舞台にした主人公2人を中心に描くラブコメとしては最近では『からかい上手の高木さん』(著:山本崇一朗)のヒットが記憶に新しい。『高木さん』は、教室で席が隣同士の中学生男女の日常を描く作品。恋愛のことを意識していない男子中学生の西片と、西片の負けず嫌いをからかう高木さんのやりとりに、恋愛未満のドギマギする気持ちの動きが描かれていく。

『高木さん』と比較すると『僕ヤバ』はどちらか片方からのアプローチとそのリアクションというより、もっと双方向的な関係になっている点が特徴だろう。双方向的と言っても、京太郎も杏奈もどちらかといえば奥手なので、互いに弱めのジャブを打つか打たないかで尻込みして、読者はその「ためらい」に共感しているという側面がある。ためらいの末にちょっと相手にアプローチしてみて、リアクションにまた動揺する、という微妙な描写をコメディタッチで描くところが本作の魅力なのだ。

内向的で排他的な妄想をしている京太郎と、あっけらかんとした杏奈と、共通点がなさそうな2人の組み合わせが面白い。お互いが、相手の特徴を好きになったり、何かを認め合ったり許しあったりする、ある意味でわかりやすい「深さ」や「困難」ではなく、もっと漠然と気になって、なんとなく近づいていくという奥ゆかしさが醍醐味と言える作品だ。

『僕の心のヤバイやつ』試し読みはこちら(マンガクロス)
https://mangacross.jp/comics/yabai

特殊な性向とどう向き合うか『可愛そうにね、元気くん』(著:古宮 海)

©古宮海/集英社

好きな相手が怪我をしたり辱められている姿を「可哀想」と「可愛い」のあいまった「可愛そう」という感覚で捉えてしまう男子高校生の廣田元気。クラスメートの八千緑七子の悲痛な姿を妄想し、その妄想をマンガに描いてインターネットや同人誌即売会で発表している元気だが、その活動をもうひとりのクラスメート鷺沢 守に知られてしまう。才色兼備の完璧な美少女としてクラスの内外から人気の守は、実は他人を痛めつけ、支配する嗜好をもっている。元気の「弱み」を握って脅迫し、元気を「飼う」と宣言する守。守の暗躍によって、恋人関係になった元気と七子だが、守と元気の関係はどうなるのか。

『僕ヤバ』の京太郎のそれをもっと強烈かつ具体的にしたような元気の妄想、杏奈の天然成分と社交性をそれぞれ別のキャラクターに結実させたような七子と守。中学生と高校生という年齢の違いを超えて、両作を対比して読むと色々と興味深い。

奥手な元気と七子、積極的だがおもてだった関係は求めない守という重層的な三角関係は『僕ヤバ』にはないもので、作品に独特の奥行きをもたらしている。また元気の特徴としては七子をモデルにした同人誌を描いているという側面があり、この側面が作品にさらに重層性を与えている。同人誌活動を続けるのか続けないのか、またその同人誌活動を七子と守がどう受け止め、どう反応するのか。その反応を元気がどう受け止めていくのか。

ラブロマンスとして読んでももちろん面白い作品なのだが、特殊な性向を持つ若い作家の葛藤を描く作品としても興味深い。また最新刊では、七子との関係、守との関係がそれぞれ「一線」を超えていき、三角関係ものとしても新境地が開拓されつつあり目が離せない。

『可愛そうにね、元気くん』試し読みはこちら(となりのヤングジャンプ)
https://tonarinoyj.jp/episode/10834108156646927840

仲間意識と恋愛の境界『その着せ替え人形は恋をする』(著:福田晋一)

©Shinichi Fukuda/SQUARE ENIX

雛人形作家の家に育ち、自分も雛人形作家になろうと授業中の男子高校生、五条新菜(ごじょう・わかな)と、新菜の同級生でギャルの喜多川海夢(きたがわ・まりん)。海夢は実はアダルトゲームやマンガ、アニメのコスプレをしたいという願望があり、雛人形の衣装をつくる技術を持つ新菜にコスプレ衣装を作って欲しいと依頼する。雛人形という男子高校生としてはマイナーな世界に人生を捧げていることでクラスに馴染めなかった新菜は、海夢に必要とされることで自分のことを肯定できるようになり、海夢はコスプレをしたいという願望を叶えるための協力者という以上の恋愛感情を新菜に対して抱くようになっていく。

『元気くん』で主人公がしていることと比較するとだいぶ穏やかではあるものの、年頃の男子高校生としてはあまり胸を張りたくない「雛人形作家」という夢を持つ新菜。もちろん立派な職人の伝統芸であり、どんな年齢でも堂々と胸を張ればいいと言えなくはないのだが、新菜は極端に自己評価が低く、学校でも自分は人気者の海夢とは対極的な位置づけにあると認識している。海夢はオタク趣味を隠してはいないものの、友人たちにオタク仲間がいない。衣装制作のために真剣に作品研究をして理解してくれる新菜にはまず仲間意識が芽生える。『元気くん』の守や七子が海夢のようにまっすぐ仲間意識を持ってくれていたら、元気くんも「可愛そう」にはならないんだろうなあと思わずにはいられない。

とはいえ、ともにコスプレを楽しむ新菜と海夢は、恋愛への移行に障壁がある。仲間意識がある分、近づき過ぎてしまうと、それまでの楽しい関係が崩れてしまうかもしれないのだ。仲間意識と恋愛関係との間の境界を乗り越えるかどうか、というのはラブコメではよくある設定だ。なぜなら恋愛が成就してしまうと、ラブコメとしてはいったんは完成してしまい作品が終わってしまうし(その後をどう描くかという展開も楽しみにはなるのだが)、それまでの仲間意識がラブコメ展開のために奉仕するだけだったのかということになりかねないからだ。仲間意識には仲間意識の良さがあり、恋愛関係はその味付け、スパイス、もっといえば恋愛関係の成就を先送りにするためのノイズでしかないのかもしれない。

いまのところ新菜の方は海夢のことを憎からず思っている程度だが、海夢の方ははっきりと新菜を恋愛対象として見ている。しかしいわゆる恋人関係になりたいのかというとそうでもなさそうなところは、『高木さん』に似ていると言える。

『その着せ替え人形は恋をする』試し読みはこちら
https://magazine.jp.square-enix.com/yg/introduction/sonobisque/

地味な道具だてでじっくり読ませる、初々しい大人の恋愛『モブ子の恋』(著:田村 茜)

地味な見た目で引っ込み思案の田中信子と、信子のバイト仲間で同じ年齢の入江博基。別々の大学に通う大学生どうしの恋愛を描く作品。大学生といっても、信子も博基も奥手キャラで互いに初めての恋愛であり、初々しい。

年齢こそ『僕ヤバ』や『高木さん』と比べて大人だが、その分、こじらせというか、恋愛に対する距離感が大きい。またリアクションの派手な『僕ヤバ』と比べると、信子たちが見せるとまどいや感動は地味なのだが、それだけじんわりと響いてくるものがある。また『着せ替え人形』や『元気くん』のような共通の話題が『モブ子』ではスーパーのバイトというきわめて地味なものなのだが、その方がかえって共感できるという読者もいるだろう。

成人した登場人物による恋愛に対する葛藤という点では会社員たちの性や恋愛への葛藤を描いた『来世ではちゃんとします』(著:いつまちゃん)や『明日、世界が滅びるかもなので、本日は帰りません』(著:ふせでぃ)と比較しても面白い。『来世では~』では信子たちとは打って変わって性に積極的なのに報われないキャラクターや、性に奥手どころかリアルな恋愛や性的な満足を求めないことを自覚してアセクシャルの道を進む人物も描かれる。『明日、世界が滅びるかもなので~』では、恋愛で幸せになりたいが、積極的になりたくない主人公が登場する。信子よりは前向きだが、『来世では~』ほどアクティブではない低温具合のリアリティがある。

今回紹介した作品全てに共通することだが、恋愛至上主義が相対化されつつある現代、それでも恋愛には恋愛の魅力があり、その魅力にどうアプローチしていくかを様々な作品に読み取っていこうとすると、それぞれの作家や編集部、読者がなにを求めているのかが浮かび上がるようで楽しい。

『モブ子の恋』試し読みはこちら(コミックぜにょん)
https://comic-zenon.com/episode/10834108156688953433

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