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“波瀾万丈の戦いだった”─アニメ『PSYCHO-PASS サイコパス 3』完結編を終えて語る核心。塩谷直義監督インタビュー

“波瀾万丈の戦いだった”─アニメ『PSYCHO-PASS サイコパス 3』完結編を終えて語る核心。塩谷直義監督インタビュー

人間の心理状態を数値化し管理する「シビュラシステム」が導入された近未来の日本を舞台に、公安局刑事課の刑事たちが追う事件を通して、人々の正義の在りかや葛藤を描く人気アニメシリーズ『PSYCHO-PASS サイコパス』。その最新シリーズとして昨年10月からTVアニメ第三期として放送されたのが『PSYCHO-PASS サイコパス 3』。本作では慎導灼(しんどうあらた)、炯(けい)・ミハイル・イグナトフら新たな主人公たちが登場し、シリーズ屈指の壮大な物語を展開した。

そして、TVシリーズでは描かれなかった真相に迫る完結編となったのが『PSYCHO-PASS サイコパス 3 FIRST INSPECTOR』。こちらは2020年3月の劇場公開(&Amazon Prime Videoにて編集版が日本・海外独占配信中)を経て、このたびBlu-ray&DVDの発売を迎えることとなった。

個性的な主人公バディの起用。東京都を舞台にした経済、政治、宗教問題が複雑に絡み合う世界観。これまでのシリーズとは全く異なる敵対者の存在。ミステリアスな伏線とその結末──。『PSYCHO-PASS サイコパス 3』、そして『FIRST INSPECTOR』を終えた今だから語れるアニメーションとしての狙いを、シリーズを第1作より手がける塩谷直義監督に直撃した。

取材・文 / 阿部美香 構成 / 柳 雄大


『PSYCHO-PASS サイコパス 3』で描かれた3つのテーマ、その意図とは?

『PSYCHO-PASS サイコパス 3』と『FIRST INSPECTOR』が完結し、いよいよパッケージ盤の発売を迎えました。こうしてシリーズ最新作を作り終えてのご感想はいかがですか?

塩谷監督 うーん……腹を割ってお話しすると、波瀾万丈の厳しい戦いでした(苦笑)。脚本チームのおひとり、深見(真)さんが何かのインタビューでもおっしゃっていましたが、『PSYCHO-PASS サイコパス 3』はもともとTVシリーズ1本として完結させる想定でした。でも、結果的には最終章となる『FIRST INSPECTOR』を劇場作品として公開することになりました。

急遽変更したことで、制作に関わる全員にすごく負担をかけてしまいました……ただ僕個人としては、今作で描きたかった新しい世界観、1期、2期、劇場版の先を描く新しい時間軸での物語については、今のタイミングで描くべきものがちゃんと描けたんじゃないかと思います。

『PSYCHO-PASS サイコパス 3』より

塩谷監督はオフィシャルインタビューで、『PSYCHO-PASS サイコパス 3』全体を “経済編、政治編、宗教編”の三部構成にしたと語られていました。たしかにTVシリーズ『PSYCHO-PASS サイコパス 3』では、日本の移民受け入れや、サブプライムローンをめぐる経済編、東京都知事選における脅迫事件をめぐる政治編、シビュラ公認の宗教団体<ヘブンズリープ>をめぐる宗教編とそれに伴って発生した事件の情報が複雑に絡み合って展開していましたが、三部構成にした意図はどこにあったのでしょうか。

塩谷 まず『PSYCHO-PASS サイコパス 3』を作るにあたって、慎導灼と炯・ミハイル・イグナトフという新しい主人公バディを登場させて描くことを決めた上で、具体的に今作のテーマを詰めていきました。1期は『PSYCHO-PASSサイコパス』という世界観の特徴である、シビュラシステムに疑問を問う槙島聖護(まきしましょうご)を敵として主人公たちの成長を描きました。2期は、シビュラという社会の器が揺るぎないものであるかどうかを問い、それをさらに世界視点から描いたものが劇場版でした。

そこから劇中の時を経ての『PSYCHO-PASS サイコパス 3』は、洗練されつつあるシビュラ社会や、ある意味では完成されて見えるこのシステムにも、時代や状況によっては変わらざるを得ないものである話をやりたかった。

現実世界と同じように、ですね。

塩谷 そうですね。それをストーリーに落とし込む際、何が人間社会において必要不可欠な題材なのかを洗い出し、各章ごとに分けて構成しました。真っ先に思いついたのは……やはり経済でした。さらに人とコミュニケーションの最たるものである政治。そして旧来から人々が精神的な拠り所にするであろう宗教。その3つのどれが欠けても、現代社会は成立しないのではないか?と、脚本チームと話し合ったのが取っ掛かりでした。

『PSYCHO-PASS サイコパス 3』より

個人的には、政治問題の具体例として、国家の中枢ではなく東京都の知事選が選ばれ、女性都知事の再選問題がテーマになっていたのが、なんともリアルというか……。

塩谷 女性都知事の再選を絡めた事件にしたのは、脚本チームとのブレストで出てきた案だったと思います。冲方丁さんにシリーズ構成はまとめていただいたんですが、AIと女性アイドルを絡めた都知事選のアイディアはすんなり出てきましたね。今となっては現実を意識したように思えるかもしれないですが、構成をまとめた時期はかなり前だったので、小池都知事が誕生した当時は偶然って怖いですねって本読みで話していましたね(笑)。

そもそも現在より一極集中が大きくなった東京都、そのパワーバランスが政府にかなり近しいというのは、本シリーズ開始当初から通底する考えです。権力の中心である都政の発言権も経済問題も大きくなっていきますからね。ですが、そこを具体的にドラマ化してきたかというと、漠然としていた。であれば、今回はそこをやろうというのが、東京の問題を主軸にした理由です。

視聴者が推理する余地を作りたかった。「各話1時間」に挑戦したTVシリーズ

『PSYCHO-PASS サイコパス 3』より

そういう東京を巡る諸問題を背景として、テロリズムや殺人といった個別の事件が起こり、それを裏で操る人物と真相に、公安局刑事課一係の面々が迫っていきました。大きな構造としては従来の『PSYCHO-PASS サイコパス』シリーズの展開を踏襲していますが、とくにTVシリーズ『PSYCHO-PASS サイコパス 3』では、かなり分断された情報が視聴者に与えられたことで、目に見える敵が誰なのか分からない状況が続いた。逆に、話の中でそれがどんどん紐解かれていくワクワク感は、これまで以上に感じました。

塩谷 そう言っていただけると嬉しいですね。たしかに、今までの『PSYCHO-PASS サイコパス』は早い段階でテーマ性を押し出して、どんどん深く掘っていく形式だったので、どちらかというと分かりやすい構成でした。でも、そのやり方を踏襲してしまうと、今回は登場人物たちも一新し、新しい視点から世界観を見せる『PSYCHO-PASS サイコパス 3』だったので、果たしてそれで良いのか?という疑問が出てきたんです。であれば、今までの作り方を覆すところから挑戦したい。なので、情報量をかなり詰め込んだという意図があります。

とくに今回は、TVシリーズの本編尺を30分ではなく、1時間のドラマにすると初めに決めていました。これは何度も協議した上で、スタッフみんなが「やりましょう」と言っても「本当にやるんですか?」と聞き直すぐらいちゃんと確認して(笑)。その上で、1時間にする場合、普通のTVシリーズのような30分のシナリオをただ引き伸ばしただけでは間延びしてしまう。そこで、青と赤を混ぜると紫になるように、ひとつの色のテーマを入り組ませて提示していこうと考えました。

あえて構成を複雑にしたんですね。

塩谷 そうですね。最初から、かなりの量のキーワードを入れて点を打ち、なんとなく相互関係、位置関係が分かるように配置する演出をつけながら、話数が進むにつれて点が繋がって線になる状況を後半にあえて持っていった。ここは実際うまくいくかどうかは勝負どころでしたが、皆さんがいろいろ推理していただけるように……というのは、かなり意識しましたね。

『PSYCHO-PASS サイコパス 3 FIRST INSPECTOR』より

たしかに、すべてのピースがハマり、綿密な計画を立てて一係を追い込んでいった梓澤廣一(あずさわこういち)という人物との一騎打ちが展開する『FIRST INSPECTOR』は、まさに完結編といえる内容でした。TVシリーズを観ている間は、ずっと頭の中が「?」マークだらけでしたから(苦笑)。

塩谷 僕個人の感覚としても、そこはわざとやっていました。じつは脚本上の文字情報は、もっと丁寧だったんです。例えば、今回の新しい設定であるコングレスマンが集うビフロストのシーンなども、当初はけっこうなセリフ量がありました。ビフロストやコングレスマンたちが目論みに対してどういう動きをするかを、もっと読み解けるセリフがあったんですけど、あえて歯抜けにしました。ストーリー後半で真実を開示することを決めていたので、途中で説明を多くすると、逆に情報が錯綜して分かりにくくなるんじゃないかと思ったんですね。さらに、あえて答えに直結するキーワードを抜くことで、観る人が推理する余地を作りたかったんです。

『PSYCHO-PASS サイコパス』は、謎を紐解いていく面白さも醍醐味ですからね。監督が例に挙げたビフロストのシーンも、「ベット」という単語が出てきてやっと、一係が対峙している事件や行動にコングレスマンたちが「賭け」をしているんだと分かりましたし。

塩谷 他のキーワードもあらゆるところで暗示的に散りばめましたし、オープニングも含めて映像でしか知覚できないキーワードも、たくさん入れ込みました。そこに気付かなくても、まったく大丈夫なんですけど、いろいろなセリフとつなげて照合すると、深い意味が浮かび上がってくる。キャラクターのちょっとしたリアクションや表情のひとつにも、何かの暗示になるような演出の仕方を細かく注意してやっていきました。

炯・ミハイル・イグナトフはTVシリーズの後半で、ある人物から一係の捜査とは別の裏ミッションを請け負いますが、スマートフォンでの文字通信を観てつぶやくセリフが、後から「なるほどそういう意味か!」と理解できたりする。そういう場面がたくさんありました。

塩谷 そういう部分は、今まで以上に、より深く掘ってから画面に出していきましたね。細かい仕掛けを作るのが個人的に好きなんですね。

『PSYCHO-PASS サイコパス 3 FIRST INSPECTOR』より

『PSYCHO-PASS サイコパス 3』は情報を分断することで、様々なミスリードも誘っていますが、正しい情報は形としてちゃんと映像に残されていると。

塩谷 そうですね。今回作っている最中に、一番熱がこもったことのひとつは、様々な事件の犯人ないしそれに関連した容疑者たちのプロフィールが、分析室で(唐之杜)志恩によって調査されるところですね。画面にポンとプロフィール的なものが表示されるんですが、その内容はチームの文芸担当者と相当練り込んでいて、それぞれの人物同士の関係や経歴によるドラマを落とし込んでいます。事件を起こす前提として、彼らが動いてきた生き方や職歴を細かく洗い出し、一度ドラマとして作り込んだ上で、プロフィールの経歴に落とし込んでいます。

そこを注視すると、語られずとも見えてくるものがある。

塩谷 それは新しい主人公の二人の過去も同じです。慎導灼も炯・ミハイル・イグナトフも家族が亡くなっている過去の事件を紐解くことが、彼らが監視官になったモチベーションになっている。そこから付随して、いろいろな設定なりドラマを細かく作っていったんです。

慎導灼の父と炯・ミハイル・イグナトフの兄は、何かの事件と関係して亡くなっているということは、『PSYCHO-PASS サイコパス 3』と『FIRST INSPECTOR』で断片的に理解はできました。

塩谷 そこもじつは少しヒントを見せていて、2話で灼が家でノートPCを開いて自分が収集したWEBの新聞記事を観るシーンがあります。その記事には、父の死にまつわる当時のことをちゃんと文章化していて。その上で、視聴者に見えて欲しい文字の位置、記事の配置を指定して、映像にしました。

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